三島市で平成3年度から始まった「街中がせせらぎ事業」は、実施計画づくりから市民との検討を重ねるなど、まちづくりへの市民の自主的参加を成功させている数少ない事例。5年間に8億円の費用をかけ、市街地を流れる川を中心に回遊コースを整備する。中心市街地の空洞化に歯止めをかけようと三島TMO(タウン・マネジメント・オーガナイゼイション)も発足した。
今回はこうした官民挙げての街への取り組みについて小池市長、峰田商工会議所会頭、鈴木街中がせせらぎ委員長、大澤街中がせせらぎデザイン会議座長の4氏にうかがった。
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小池政臣 三島市長
昭和42年三島市議に初当選。昭和58年より静岡県議を3期務め、平成10年三島市長に当選
峰田武 三島商工会議所会頭
昭和38年三島信用金庫入行。58年常勤理事、平成元年常務理事を経て、4年に理事長,13年会長に就任。平成6年より三島商工会議所会頭。
官民挙げての「協働」作業
まちづくりの新しい形がここから始まる
―― 三島市が取り組んでいる「街中がせせらぎ」事業。市中心街の水辺や歴史・文化遺産を中心に回遊ルートや景観整備などを行うものですが、これは商工会議所の提案を行政が受け、それに住民をも巻き込んだ非常にユニークなまちづくりですね。
峰田
三島は富士山からの湧水が豊富な、歴史と文化の街です。これを今後のまちづくりに活かしたい。そこで、商工会議所50周年事業として地域振興ビジョンを立てました。住みたい街、歩きたい街、観光の街、産業の街と4つのテーマを定め、これを統括する「街中がせせらぎ」を合言葉に2世紀の三島の将来像を描きました。民間が発案し行政がスキームをつくるというまちづくりの新しい流れを先取りした取り組みだと思います。
鈴木
取り組みそのものは平成8年から始まっています。しかし、その4、5年前からすでに三島の落ち込みを懸念する思いはあったのです。有名な三嶋大社はあるが、観光客や参拝客はバスや車で大社に乗り付けてそのまま帰ってしまう。なんとか街中に人が流れるようにしたい。三島は駅を降りてすぐのところに清流が4本も流れているという日本、いや世界でも類を見ない街です。これを活かせないだろうか。そういう思いがあったところへ、商工会議所の呼びかけでまちづくりビジョンを作ることになった。これは渡りに船でした。
―― そうして出てきた事業案に市もすばやい対応をしましたね。
小池
私が市長になった際、「環境先進都市宣言」をしました。「街中がせせらぎ」事業はこれにぴったりだったんです。早速、まちづくり部を作り、せせらぎ事業推進室と電線類地中化推進室を作りました。行政、商工会議所、市民、事業者が一体となった「協働」の精神で頑張ろうということの現れです。これは今後のまちづくりの理想形ではないでしょうか。県の快適空間創造事業の第一号にも認定されています。具体的には、市民推進会議で立ち上げた事業を5年間かけて推進していきます。3年度は三島の玄関であるJR三島駅南口と鎌倉古道の修景、白滝公園から桜川にかけての水上プロムナードの対岸整備を行い、最終的にはそれらを結ぶ回遊ルートに発展させていきます。
―― 駅には水琴窟ができるそうですね。非常に「和」を意識した整備計画のようですが。
小池
三島はもともと宿場町として発展してきました。大社を例にしても和が似合う。洋風な整備計画が多い中、「和」の演出を基調とすることで三島ならではの豊かな表情が街並みに生まれてくると思います。
峰田 大正から昭和の看板建築も数多く残っています。これら歴史的建造物を生かすにも和風の整備は必要なのです。
テーマは「水」。情報開示ときめ細かな対応が
コンセンサス形成のカギを握る
鈴木菊三郎 街中がせせらぎ委員会委員長
昭和33年鈴木工務店創業。34年に代表取締役、平成11年会長に就任。平成10年より街中がせせらぎ委員会委員長。
―― グランドデザインを担当されているお立場から三島の魅力をどう見ていますか。
大澤
随所に歴史的建造物や史跡が残り、それらが街なかを流れる何本もの川とあいまって独特の雰囲気をかもし出している。水源が富士山からの湧水というのもいいですね。そういった素晴らしい財産をもっている。せせらぎ事業の目指すところは「せせらぎと緑あふれる庭園のような街」です。こういった明確なビジョンがあることが一番の強みですね。ただ、いくらビジョンや哲学を持っていても、それを遂行していくには様々な技術や制度を知る必要がある。ここではこの役割を行政がきちんと担っています。商工会議所のプランを行政が受け止め、住民に周知しながらコンセンサスを形成していく。実際、多くの市民が積極的に街をよくしようと活動しています。 ―― 市民とのコラボレーションがきちんと出来ている。
小池
行政が政策を遂行していく上で市民の理解は必要です。ですから情報公開には重点を置いています。もともと三島はグラウンドワーク三島やゆうすい会といった市民団体の活動がさかんです。彼らの力を借りながら、ワークショップ、意見交換会、報告会などのきめ細かい活動を通して、市民自身がまちづくりに主体的に参加している意識と意欲を引き出しています。
鈴木
この事業の一番の推進力は「市民の自主参加」です。道路脇の植栽や河川の清掃など、自主的な活動ぶりには目を見張るものがあります。また市民に向けた「街中がせせらぎ事業状況報告会」というのを毎月一回夜7時から行っています。業務時間外にかかわらず市の職員も参加します。市民と行政、ともに大きな熱意で活動している。
―― 外部から眺めていて、三島が成功している大きな理由のつはテーマを市民の関心が高い「水、せせらぎ」に置いたことにあるように感じます。歴史的な背景もあるし、何よりも目に見えて、そこから環境、景観、ネットワークと広げていくこともできる。
峰田
この事業は「せせらぎ」の一語に集約されます。課題や問題点はその基本理念に照らし合わせて、整合性があるか無いかを判断しています。例えば市の鳥を決める場合にも、かわせみとセキレイなら基本計画に照らし合わせて、より清流をイメージさせるかわせみに決定するといった具合です。
大澤
デザイン会議というのも行っています。これもせせらぎ事業が判断基準になっています。例えば、看板を作る際に今までは担当部局がそれぞれの判断でデザインをしていた。今はせせらぎのコンセプトにふさわしいか一つひとつ吟味しながら作っています。
大澤 稔 街中がせせらぎデザイン会議座長
日本建築士会連合会まちづくり委員、県建築士会副会長、県快適空間創造事業幹事会専門委員。平成2年7月より街中がせせらぎ事業デザイン会議座長。
源兵衛川の親水遊歩道
商店街再生と連動。
相乗効果で新しい都市空間を創造
―― この事業が中心商店街の活性化にどう結びついていくか注目されます。
小池
電線類地中化も来年度から始まります。まずは大社の駐車場横交番から大通りを西へ50mの範囲で整備します。最終的には大通り全域が電線のない通りになります。さらにアーケードの撤廃やストリートファニチャーの設置、歩道の緑化なども並行して行い、商店街のグレードアップにつなげていく予定です。
峰田
昨年4月に商工会議所が主体となって三島TMOというまちづくりの管理、運営機関を発足しました。「にぎわいと回遊性のある中心商店街の創出」をみんなで目指して行こうというものです。商店街の空き店舗が問題になっていますが、街は生きものですからある程度はやむを得ないですし、時代に合わせてどんどん変わっていかなければなりません。去年から「感謝祭」と銘打った正月三が日営業などソフト面の取り組みも始めました。商店主の意識改革を通じて商店街が元気になることで、三島の街に新たな魅力が創出できればと思います。せせらぎ事業との相乗効果も加わり、近い将来にはハード・ソフト両面で素晴らしい中心街が誕生すると考えています。
鈴木
鎌倉は古い寺や史跡など拠点拠点を結び、そのルートをしっかり整備することで観光都市として成功しました。三島もせせらぎの回遊ルートが完成すれば素晴らしい水の観光都市になると思います。個性的な専門店街がある一方で、憩いと潤いのあるせせらぎの回遊ルートも楽しめる。脇に伸びる小道には喫茶店やおしゃれな雑貨店なども出来ることでしょう。三島ならではの新しい都市空間が生まれるのではないでしょうか。
大澤 中心市街地にこれ程豊かな水のルートがあるところはまずありません。今は、歴史と文化がビジネスになる時代です。三島は水が豊富なだけでなく、その水が名水なんです。名水を利用した料理、名水で淹れたお茶など、「名水」をキーワードにした広がりも期待できるのではないですか。
小池
先ごろ、三島名水研究会を発足させました。新幹線の駅から徒歩5分以内に蛍が乱舞する、そんな場所はここ三島だけです。「協働」の精神と三島の「水」を大事にし、その二つをまちづくりの基盤に置きながら今後も努力していきたいと思います。三島にゆかりの各界の著名人4人に「せせらぎ天使」もお願いしています。外に向かっても積極的にPRしていきたい。大いに期待していてください。
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