サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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 200年の歴史を刻む修善寺温泉。ことしも修善寺芸能処「桂座」の幕が開く。大正から昭和初期にかけてにぎわった幻の芝居小屋・桂座を再現し行われる5日間だけのイベントだ。運営はすべて町民のボランティア。50人も入ればいっぱいになる仮設の野外会場で当世一流のミュージシャンや語り部が真夏の夜の修善寺を華麗に彩る…。今回はそんなユニークなまちづくりに取り組む大城伸彦修善寺町長、野田治久ノスタルジックロマン修善寺推進委員会会長、世界的な二胡奏者・姜建華(ジャン ジェンホワ)氏を迎え、桂座への取り組みやそこから広がるまちの将来像についてうかがった。
風は東から
 
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悠久の歴史に響く人と芸術 十年見据えたまちづくり模索
大城伸彦 修善寺町長
大城伸彦 修善寺町長
昭和14年修善寺町生まれ。37年東京電気(現東芝テック)に入社し、三島工場長などを歴任。平成11年退職後は町振興公社理事などを務め、13年9月30日から現職。




桂座
狩野川薪能(2002.8.17) お問い合わせ/狩野川薪能実行委員会 TEL0558-76-1630

虫の音ざわめく修善寺の夜。竹林の小径をそぞろに歩くその先に、ぼわんと浮かぶは「桂座」の提灯ひとつ。引き戸の向こうに待っているのは未知なる世界、甘美な調べ―。
 手を伸ばせば触れられるほどの距離で向かい合う演者と観客。一瞬の静寂の後、溢れるように湧き出す音色。千二百年の文化と歴史が凝縮された空間に、卓越した「芸」が舞い降りる瞬間だ。
―― ことしも「修善寺・桂座」の季節がやってきました。八月五日から九日まで計五日間の開催ですね。
野田 お蔭様で三年目を迎えることができました。伊豆新世紀創造祭を契機に復活させた修善寺ならではの芸能イベントです。中国伝統音楽、ジャズ、クラシック、語りなどさまざまなジャンルから国内外のトップレベルの演者が集います。「桂座」というのはもとは大正時代に温泉場にあった芝居小屋でした。先の伊豆新世紀創造祭で、町おこしのネタとして「修善寺らしいもの」を考えたときに桂座を復興しようという多くの声が寄せられました。ならば長い歴史を持つ修善寺にふさわしい最高の芸能を提供する場として再現しようと始めました。
大城 ご存知の通り、修善寺には弘法大師以来千百年の歴史があり、北条家による頼家暗殺という血なまぐさい事件も起こりました。明治以降は漱石をはじめ文人墨客をひきつけてやまない文化の香り高い湯治場として、その歴史を連綿と受け継ぎ今日に至っています。そんな修善寺が目指すのが「ノスタルジックロマン修善寺」。文化的・歴史的な薫りに満ち、懐かしくもあり新しくもあるロマンあふれるまちづくりです。そのシンボル的なイベントがこの桂座です。

―― 国際的な二胡の演奏家として活躍されている姜さんも開催当初から今回で三度目の出演ですね。桂座、修善寺の魅力をどのようにお考えですか。
 温泉が好きで、日本各地の温泉に足を運んでいますが、修善寺で演奏して一番強く感じたのは、この町の持っている文化の重さ、懐の深さです。悠久の歴史に裏打ちされた感性の高さといいますか、ステージに上がる前から、観客の皆さんの期待感がひしひしと伝わってくる。それが最初の音を出した瞬間に二胡の音色と共鳴するんです。過去二回ともとても心地よく、熱のこもった演奏ができました。それは集まっていただいたお客さん、そして修善寺という土地が与えてくれたパワーのお陰だと感じています。
 



地元の若手経営者、サラリーマン、主婦、あるいは学生が額に汗しながら木材を運び込み、御簾を吊るし、照明を調整する。桂座を舞台に繰り広げられる人々の熱意とそれに共鳴する最高の芸能、この二つが出会うとき、そこには「桂座なるもの」としか言いようのない世界が生まれる。
 千二百年の歴史が培う文化への希求。それが桂座を支えるエネルギーだ。

中国二胡奏者・姜建華(ジャン ジェンホワ)氏
中国二胡奏者・姜建華(ジャン ジェンホワ)氏
中国・上海生まれ。13歳からヨーロッパ、東南アジアを中心に演奏活動を行う。小澤征爾指揮のベルリンフィルをはじめ世界の有名オーケストラと競演する他、日本でも活躍。高崎芸術短期大学客員教授。


■「二胡」とは…

中国の伝統的な弓奏楽器。錦蛇の皮を張った胴に棹(さお)を差し込み、二本 の弦を渡してその間を弓の毛が通ることで音を出す。独特の甘い音色が特徴。

野田 桂座は公募で集まった町内有志九十名の委員で企画運営しています。中学生も三人。最初の年に演者によるレクチャーを受け感激した子供たちです。ことしは高校生もスタッフに入れてほしいという依頼がきています。世代を超え地域を巻き込みながらどんどんいい形になってきていると実感しています。会場設営から照明・音響、司会まで全て実行委員が汗を流してやっている、その充実感が一番の魅力でしょう。たった百五十人足らずの会場でのイベントですが、観客だけでなく、裏方のみんなも心から楽しんでいます。
 楽しいという意味では私たち演者にも同じことが言えます。例えば二胡という楽器はもともと自分のために弾いたり、小人数で楽しむためのものです。ですからこのような観客の息遣いが感じられる程近いところでの演奏は二胡の原点を見るような気がします。二胡は自然の中から生まれた楽器。そういう点からも野外のこの環境で聴くのが本当なんだなと思いますし、聞いている方も違和感がないと思います。
野田 最初に姜さんがおっしゃったことを今でも良く覚えています。大ホールでは二胡の繊細な指使いや音色の本当の良さは伝わらない。ここで、この距離で見て、感じていただく、それがとってもうれしい、と。 ―― そんな桂座ですが、三年目を迎えて見えてきた課題とは何でしょう。
野田 一番の問題は資金です。創造祭の時はかなりの部分を県や町から補助して頂きました。昨年も町の補助を頂いています。しかし、徐々に自分たちで運営していかなければならない。また、実行委員の中にイベントのプロがいるわけでもありませんので、組織や運営面を見直し、今後どのように桂座を継続していくか検証と検討をする時期にきています。
大城 最初は創造祭のイベントとして行政と民が手を携えてやってきましたが、継続されるにつれ桂座の素晴らしさは住民の間にも広がってきています。行政主導ではなく地域のために自分たちが汗をかく、そういった団体を町がバックアップしていこうと考えています。


野田治久 ノスタルジックロマン修善寺推進委員会会長
野田治久 ノスタルジックロマン修善寺推進委員会会長
昭和32年修善寺生まれ。350年続く老舗旅館菊屋の第15代主人。修善寺旅館組合副理事長、修善寺小学校PTA会長。趣味は渓流釣り。


「ノスタルジックロマン修善寺」はまちづくり十年の計でもある。
 桂座開催に併せて、者を講師に、小中学生を対象にしたワークショップ、レクチャーなども行う。一流のものを実際に見て聞いて、触れ合うことを通じて十年後のまちづくりの担い手を育成する試みだ。
 ―― 桂座に代表される、どこか懐かしい、でも新しい修善寺の姿。まちづくりのテーマである「ノスタルジックロマン修善寺」は目標年度を二〇一〇年に定めていますね。
野田 二〇一〇年という目標は、単発で終わらせず人づくりやまちづくりを進めていくことの現れです。十年後には今の若いスタッフがリーダーになり、ワークショップやレクチャー等に参加した小学生が社会人になって戻ってくるころです。今のまちづくりの流れにそういった新しい血が入って事業を継続し、進化させていく、そういう節目の年として二〇一〇年を設定しました。
大城 古い温泉場ですから右肩あがりの経済成長期は海外旅行などに押されて大変苦しかった。時は移り、今一度心を取り戻そうという時代には、古い家並みの残る温泉場、桂川のせせらぎ、竹林のざわめき、こういったたたずまいのある場所に人は回帰したくなる。伊豆の中では歴史も古く、文化的なものも数多く残っています。新しい時代の観光地のあり方としては一カ所にとどまるのではなく、伊豆各地を回遊しながら、最後に修善寺でゆっくり心と体を癒していただきたいですね。
 ―― 姜さんはこの夏も出演されますね。楽しみにしています。
 最近忙しいのでことしは子供たちも連れてゆっくり過ごそうと思います。桂座は公演が終わった後の懇親会も楽しみなんです。スタッフと一緒に修善寺や音楽、家族などいろいろな話をしたり…。普段はそんなことはありませんから。修善寺だからこそ、そこまで心を開いていただける、私も話したいことを話せるし、美味しいものをたくさん食べ、温泉に入ってほっとすることができる。最高のひとときだなと思います。
野田 桂座に出演しながら、忙しい日常を忘れてゆっくり修善寺で過ごしていただく、演者の方々とそういったお付き合いができるといいですね。そこから新たな「桂座らしさ」が生まれると思います。

 

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