サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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 「世界の寿命は、静岡県が延ばします」―。こんなキャッチコピーとともに新聞紙上に発表された静岡県「ファルマバレー構想(正式名称・富士山麓先端健康産業集積構想)」。昨年9月の県立静岡がんセンター開院を契機に、富士の裾野から伊豆一帯を視野に入れ、世界レベルの高度医療を実現するとともに、先端的な技術開発を促進し、医療産業からウエルネス産業(※1)まで広がる健康関連産業の振興・集積を図る壮大な構想だ。
 今年度の「風は東から」は、東部活性化の切り札ともいえるファルマバレー構想に焦点を当て、幅広い分野への波及が見込まれる構想の可能性を検証していく。土居弘幸静岡県健康福祉部技監、山口建県立静岡がんセンター総長、井上謙吾ファルマバレーセンター所長をお迎えし、サンフロント21懇話会のシンクタンクTESSの西島昭男委員長が県東部発、世界基準のファルマバレー構想の可能性やその中核を担うファルマバレーセンター(PVC)への期待などをうかがった。その模様を4月、5月の2回にわたって紹介する。
風は東から
[ファルマバレー構想特集]
シリーズ1
バックナンバー


未来を拓くファルマバレー構想 県東部発、世界レベルの地域づくりへ
静岡県大村義政生活・文化部理事
土居弘幸
静岡県理事兼健康福祉部技監
厚生省健康政策局指導課救急医療専門官、同省健康危機管理調整会議幹事を経て、平成12年より現職。健康の秘けつは「家庭円満」。


静岡県大村義政生活・文化部理事
山口 建
静岡県理事
兼県立静岡がんセンター総長
国立がんセンター研究所細胞増殖因子研究部長、同副所長を経て平成14年より現職。宮内庁御用掛。健康の秘けつは「睡眠時間の確保」。
ファルマバレー構想の枠組みと基本理念
 西島 日本はいま、大きな時代の転換期にあります。経済不況や少子高齢社会の到来などが盛んに取り沙汰されていますが、あと何年かすると日本の人口が減り始める。有史以来、ずっと人口増加を前提にしてきた日本社会が、人口減を前提とした社会に転換していくことが求められているわけです。私の専門の一つにショッピングセンターの開発がありますが、今までは物をたくさん売ることが大きな使命でした。ところが、これからの社会を考えると必ずしもそうではない。むしろ、ブランド戦略のように付加価値の高いものをいかに少なく売るかが大切で、消費者に最も近い商業という分野ではすでに大きなうねりとなって現れています。ファルマバレー構想もこうした時代の変化の中で、いかにこの地域が付加価値の高い地域に変わっていくか、また変わっていけるか、その大きなチャンスのような気がします。
土居 ファルマバレー構想では具体的に五つの戦略を掲げています。中核となるのは、産学官連携による先端的研究開発と新産業の創生・既存産業の活性化。と同時にこの二つの戦略の血脈となる医療・研究開発ネットワークの形成です。さらに基盤となって構想を支える人材の育成と都市基盤整備の促進です。これらの戦略を通じて県民の健康、人類の健康に貢献する世界レベルの研究開発と、医療からウエルネス産業まで幅広い分野を対象にした健康関連産業の集積と振興を図ることが目標です。
西島 がんセンターのホームページには、がんセンターの理念(※2)が明確に掲げられています。ファルマバレー構想でも「ファルマバレー宣言(※3)」という非常にわかりやすく、また力強いメッセージが掲げられていますね。強い意志と言いましょうか、極めて大きな熱意がこの構想を支えているように感じますが。
土居 ファルマバレー構想全体はがんセンターをプロトタイプとしています。構想の理念が患者とその家族の視点に立っています。これはがんセンターの基本ポリシーであり、ファルマバレー構想の理念もそこからすべての戦略展開を図っています。理念を明確に据えるのは簡単ですが、実践が難しい。がんセンターでそれを実践する中でこの戦略を推進するという、ある意味では県民にとって分かりやすいプロジェクトの進行だと思っています。
山口 がんセンター設立のプロセスで一番大事にしてきたのが、患者さんの視点の重視です。対話を重視し、患者さんや家族のニーズをしっかりと聞く。治療の中での対話はもちろんのこと、よろず相談、電話相談、患者図書館といった対話を援助するためのシステムを複数用意してあります。ニーズにこたえることが患者さんの視点を重視するということですから、しっかりとしたニーズの把握とそれを構想の中に生かしていくことが大切です。こういった取り組みは、静岡がんセンターではすでにさまざまな成果として現れつつあります。


具体化が進む構想。推進の原動力となるPVCの役割
大仁町観光協会内田隆久会長伊豆洋らんパーク社長
井上謙吾
(財)しずおか産業創造機構
ファルマバレーセンター所長
協和発酵工業(株)研究開発部長、同社創薬研究本部理事を経て、平成15年より現職。健康の秘けつは「歩く事」。


大仁町観光協会内田隆久会長伊豆洋らんパーク社長
西島昭男
サンフロント21懇話会
シンクタンクTESS委員長
昭和61年(株)シード設立。郊外型ショッピングセンター「サントムーン柿田川」、「ウェルディ長泉」プロデュース。健康の秘けつは「休日の海釣り」。
 西島 先ほどファルマバレー構想の五つの戦略をお話しいただきましたが、具体的にはどの程度まで進んでいるのでしょうか。
土居 まずは産学官連携による先端的研究開発ですが、これについては組織的な医工連携を立ち上げようと、東京大、東工大、早稲田大との交流を進めつつあります。平成17年に開設予定の「がんセンター研究所」を核に進めていきます。医療研究開発ネットワークについては、臨床試験ネットワークという形で今年度は七つの病院がネットワークに入って稼動を始め、順次拡大してまいります。臨床試験を一つのツールにいかにして自分の病院の質を上げるか、それをメーンの課題と捉え直して、それぞれの病院から参画いただいています。これは近い将来、静岡県全体の医療の質の向上という形で目の前に現れます。情報開示も含めて患者さんが、自分が病気になった時に適切で最良な医療を受けるにはどうしたらいいかが分かるメカニズムを、がんセンターを具体的なモデルに始められると思っています。
西島 ファルマバレー構想を推進する中で、やはりがんセンターが極めて重要なポジションを担うと思われます。がんセンターとしての役割はどうお考えですか。
山口 確かに医療の分野に限れば、がんセンターの役割は非常に大きい。しかし、構想全体の中では決して中心でなく、ワンオブゼムだと考えています。それだけ大きな広がりと深さをこの構想は持っていると感じています。ただ、中心とは言わないまでも動き出して、スピードに乗るまでは、やはり牽引車的な役割を担うのであろうし、特に医療分野におけるニーズを構想の中で生かしていく、その接着役が私たちの仕事だろうと思っています。
西島 その接着役として、健康産業という非常に広い分野を対象に中心的な役割を期待されているのがこの四月に開設したPVC(ファルマバレーセンター)となるわけですね。民間から抜擢され、井上所長の手腕には非常に大きな期待が寄せられるところですが、まずはPVCの役割についてお話しください。
井上 ファルマバレー構想そのものが長い時間をかけてしっかり練られて作られており、その対象も非常に幅が広く、深い。PVCはこれを実行していく舞台そのものだと考えていますが、どう実行していくかはこれからしっかり考えないといけないと思っています。
西島 PVCの大きな役割の一つに産学官の交流がありますが、この点についてはいかがですか。
井上 例えば医療については、ニーズは先生方が持っていますが、それが製薬会社や医療機器メーカーに十分伝わっていない。逆に医療機器メーカーや医薬品メーカーはさまざまな技術をはじめ多くのシーズを持っているんです。それが今の日本ではうまくマッチしていない。ですからPVCはその交流の場を作ってお互い必要としているニーズとシーズ(※4)をマッチさせ、新しい医療や健康産業を作っていくような形を生み出していく、それがわれわれの仕事ではないかと考えています。
山口 今後はPVCが主体となって取り組んでいくことですが、一部先行して具体化しつつあるものもあります。手術後に使うT字帯という下着があります。障害を持った方がその改良型を作ろうと言い出されまして、それにがんセンターの看護師が一生懸命現場の声を提供した結果、実用新案として認められるまでになりました。また陽子線治療には300万円近い費用が必要になるのですが、治療への融資をある金融機関で検討していただいています。通常、病気の人に銀行がお金を貸すということは考えられない。しかし今回は病気になったから貸してくださいということで、多分、今までなかったことでしょう。こういったことは金融機関が自分で思いつくかというとそうではないんですね。がんセンターが一生懸命患者のニーズを聞いている中で実現に近づいたことです。こういったことが既にファルマバレー構想の成果として現れつつあります。


ウエルネス産業育成に不可欠な地域の意識改革
西島 地域への波及効果、特に健康産業という観点からの活性化については、やはりPVCの役割が非常に大きい。この点については次回により詳しく議論いただきたいと考えておりますが、一方視点を変えて実際に県東部で生活する住民の視点に立ったときこの構想はどんな意味を持つとお考えですか。
山口 宣言にもある患者、家族の視点の重視がこの構想の最大の特徴です。言い換えれば、住民の住民による住民のための構想であり、あくまで住民主導の構想と考えています。ここでいう「住民」には二つあって、まずは物作り集団をはじめとするさまざまな形での事業参画者としての住民で、雇用も含め大きなチャンスが目の前にあります。次に住んでいる人。この方々がこのプロジェクトからどういう恩恵を受けられるのか。ひとつはこの地域の医療水準が間違いなくどんどん上がっていきますので、それを受けていただく。あるいは臨床試験等々を通じて新薬の恩恵を受けることが多分できるでしょう。と同時にウエルネス産業の面からは、「癒し」の環境を享受できます。ただし、この点については住民の意識の問題がかかわってくると思います。例えば、観光地の方々はまず東京圏をマーケットとして捉えているのだろうと思います。同時に、この地域の住民が癒しを求めて温泉に行っているかというと、そうではなく、地元の観光地をどこか冷めた目で眺めているような気がします。それでは本当の意味でのウエルネス産業は育たないのではないでしょうか。住民に東部全体を自分たちの持ち物と思ってもらい、少しでも良くなるよう努力をしていく。まずはそれが大切だと思います。
土居 住民の方々に夢と希望を持ってもらいたい。われわれはがんセンターをはじめ、東工大、早稲田、東大といった世界トップレベルのものとの意義ある交流を目指します。しかもそれが地場産業との関連の中で具体的な事業にまで展開するというメカニズムまでの用意を考えています。さらに差別化という点においてもプロである医者が自分が患者だったらこんな治療をしてもらいたい、こうしてもらったらいいだろう、というのを患者の視点で企画しています。他のプロジェクトの多くは、医者が開発側の視点でやっているものです。ここが決定的に違う。われわれの研究開発は患者の視点に立った、住民本位の開発です。しかもそれが世界トップレベルにあります。そういった情報を皆さんに提供していきますので、どうか地域の方々には個々人の夢を育んでいただきたい。可能性を追求していただきたい。そういう思いがファルマバレー構想を全体的に押し上げていくと考えています。
西島 ありがとうございました。改めてこの構想の奥行きの深さを実感した思いがします。
(次回へ続く)



※1 「ウエルネス産業」
ウエルネス(wellness)とは病気(illness)の反対語で心身ともに健康なことを意味する造語。生活習慣病など疾病を予防し、健康増進に役立つような食品、運動、温泉、リゾート等のサービスやそれらを組み合わせた新しいビジネスのことをウエルネス産業と呼ぶ。高齢化社会の進展などから、最も期待される産業分野である。

※2 「がんセンターの理念」
がんセンターが目指すもの
患者さんと家族を徹底支援する。
患者さんや家族との心ある対話を心がけます。
がんを上手に治療する。
迅速に、苦痛を少なく、身体機能を損なわずに治療することを心がけます。
「成長と進化」を継続する。
常に、成長と進化を続け、レベルの向上を目指します。

静岡がんセンター ホームページ http://www.scchr.jp/

※3 ファルマバレー宣言
私たちは、
患者・家族の視点に立ち、
叡智を育み、結集し、
共に病と闘い、支えあい
健康社会の実現に貢献することを
宣言します。

※4 ニーズとシーズ
シーズとは企業が消費者に新しく提供する新技術・材料・サービスなど。ニーズは必要とされるもの、サービスなど。つまり、医療現場等で必要とされるさまざまなニーズにこたえる新しいシーズの発掘や、技術や手法を工夫したり組み合わせたりすることで新たに生まれるシーズの開発支援がファルマバレーセンターの主な役割となる。

■ファルマバレーよろず相談窓口/TEL:055-980-6333

PVCでは先端健康産業の育成に向けたさまざまなニーズやシーズを募集しています。
健康関連の技術開発、共同研究、臨床試験、人材交流など、幅広い分野における皆様のご相談やご提案をお待ちしています。
●FAX:055-980-6320
●URL:www.scchr.jp/pvc/
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