サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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 タイ、韓国などのアジア諸国にも遅れをとるわが国への外国人旅行者数。スペインやフランス、アメリカなど他の先進諸国が軒並み上位に並ぶ中、世界第33位(2002年)に留まっている。
 その大きな理由の一つが、日本の宿泊施設の予約インフラの未整備だ。海外旅行代理店の90%が世界標準の宿泊予約システムとして利用する※GDS端末に登録されている日本の宿泊施設はおよそ150軒。誘客の基盤となる国内宿泊施設の情報提供は著しく遅れている。
 サンフロント21懇話会は、この予約インフラ整備の遅れにいち早く着目し、「静岡県グローバル観光戦略」を取りまとめ、昨年10月石川嘉延知事に提言した。
 特集テーマ「国際観光」第2回は、訪日外国人旅行者受け入れのカギとなる予約インフラ整備の現状と課題を中心に、海外誘客促進のために必要な取り組みについて検証する。
風は東から
[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ2
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カギ握る受け入れ体制の充実伊豆を国際観光の先進地域に
国土交通省「ビジット・ジャパン・キャンペーン」ホームページ
「ビジット・ジャパン・キャンペーン」
ビジットジャパンキャンペーンは21世紀のリーディング産業としての観光産業を伸ばし、国際交流を通じて国際平和に貢献していくための、国、民間企業、国民が一体となって推進する事業。訪日促進重点地域である米国、中国、香港、台湾、韓国の各市場への働きかけや国内PRを通じて、2010年に1000万人の訪日観光客数達成を目指している。

国土交通省「ビジット・ジャパン・キャンペーン」ホームページ

拡大続く国際観光市場。成長著しいアジアマーケット
 今世紀最大の成長産業と目される観光産業。全世界の国際観光客到着数は1960年の6932万人に対して、2002年に7億人の大台を突破。WTO(世界旅行機関)は2020年までに年平均3.4%増の約16億人まで増えると予想する。産業規模としては1997年に3兆4610億米ドル(直接・間接含む)に達し、全世界のGDP(国内総生産)の11.6%を占める。2010年にはGDPの12.5%、雇用人口は10.9%まで上昇するとWTTC(世界旅行産業会議)は予測する。
 特筆すべきは日本を含む東アジア・太平洋地域の成長だ。国際観光客到着数で95年から2000年までの間、世界平均を大幅に上回る年平均6%の伸びを示し、2010年にかけては年平均7.7%という高い水準で増加する(WTO推計)。経済成長著しい中国を筆頭に東南アジア諸国の高い成長率が見込まれている。


低迷するわが国の国際観光市場。狙いはアジアの個人旅行客
 一方、日本人の海外渡航者数は1652万人。それに対し、訪日外国人旅行者数は521万人と著しく少ない。受け入れ旅行者数は世界33位と低迷、国際旅行収支も約230億ドルの赤字(2002年)となっている。
 こうした不均衡を是正し、国際観光旅行市場の獲得に向けた国際競争力を高めようと、国は2010年に1000万人の訪日観光客数達成を目指す「ビジット・ジャパン・キャンペーン」を開始した。石原伸晃観光立国担当大臣自ら中国語や韓国語のCMに出演、アジアからの誘客に力を注ぐ。
 実際、日本への観光客の約60%を占めるのは東アジア諸国。その中心となるのがワールドカップ共催で日本ブームが続く韓国や台湾、香港に加え、経済成長著しい中国だ。中でも韓国、台湾、香港は団体旅行から個人化・高級化の段階に入り、依然として団体旅行主流の印象が強い中国でも、経済成長著しい上海、深せんなどの地域は、すでに観光旅行の個人化・高級化が進んでいる。こうしたアジアの個人・高級客が新しいマーケットの担い手として、今、世界の注目を集めている。


予約インフラ未整備が盲点。不足する日本の観光情報
 このような高い成長率が見込まれる国際観光市場にわが国の観光産業が積極的に食い込んでいくためには何が必要か。そのカギを握るのが予約インフラの整備と情報発信の強化だ。
 いわゆる旅行代理店の企画商品が充実し、その中から選ぶだけの日本と異なり、海外では旅行代理店が客の要望に沿ってその都度、旅程を組み立てて販売することが主流。その際に利用するのがGDSと呼ばれる世界標準の旅行予約システムだ。
 GDSとは、もともと航空券の予約発券のために航空会社が共同で制作したオンラインシステム。現在は航空券のみならず、列車やレンタカー、ホテルなど旅行に関する予約業務を一括して行い、実に世界の90%の海外旅行代理店が利用する。まさに国際観光のグローバルスタンダードとして機能する。
 ところがこのGDSに登録された国内宿泊施設は150軒未満。国内ホテル7700軒、旅館65000軒のうち、わずか1%にも満たない。このような日本の状況を象徴するエピソードがある。かつて日本政府がカリフォルニアで観光キャンペーンのテレビCMを流したところ、それを見た人が興味を持ち、紹介されていた地方の温泉地への旅行の手配を旅行代理店に依頼した。ところが帰ってきた返事は「そこにはホテルはありません」。結局その人はそれ以上の情報を得られず、旅行をあきらめてしまったというのである。
 世界最大のホテル予約サービス会社、ペガサスソリューションズ(本社米国ダラス)を経て現在、国際観光コンサルティングの第一線で活躍するロドニー・森田氏は「海外の観光情報があふれる日本では考えられないが、日本の観光情報は海外では気軽に入手できない。旅行代理店に問い合わせても宿泊施設の情報は大都市の大規模ホテルに限られる。地方の温泉地などはその存在すら認識されていない」と国際観光市場における圧倒的な日本の情報提供不足を指摘する。


求められるマーケティング力強化。地域全体で受け皿整備を
 なぜこれほどまでに日本の観光情報は海外に発信されてこなかったのか。従来、国内の観光産業はもっぱら日本人客を対象にしてきた。特に地方の旅館やホテルなどは、高い経済成長を背景にした潤沢な国内マーケットを重視し、言葉や文化の違いなどを理由に海外誘客に積極的ではなかった。加えて、送客の大部分を大手旅行代理店に依存してきた日本の観光産業の体質も大きな原因。イーリョカンサービスの平原英夫社長はこうした日本の状況に着目、参加ホテル・旅館の空室情報を一元管理し、GDSに繋げる予約システムを立ち上げた。現在、国内のホテル・旅館500軒が加盟、県内でも河津町や熱海、伊東、舘山寺などの旅館、ホテル100軒程度が加盟している。
 ところが現時点ではこのシステムはGDSに接続していない。その理由を「GDSは世界の観光地がしのぎを削る巨大なマーケット。単に情報提供するだけで、送客が増えるわけではない。空き室状況に応じたきめ細かな情報発信に加え、シーズンオフの大胆なディスカウントや宿泊プラン開発、大型イベントに合わせた客室管理など、独自のマーケティングが展開できないと接続に見合った十分な成果は得られない」と平原社長は説明する。
 同時に世界の観光地と日本の決定的な違いは「地域全体としての受け入れ体制の充実度」と指摘する。現在の日本は、看板やサインの外国語標記一つ取っても外国人にとって利用しにくい。外国人のニーズに合った観光サービスの充実、移動しやすい環境づくりなど、旅行の安全に加えて安心を地域全体で提供できる体制づくりが求められている。そのためには旅館、ホテルだけでなく地域全体が連携することの重要性を強調する。


独自の視点で外国人受け入れを模索。
求められる官民の連携体制強化
独自の視点で外国人観光客をすすめる新井旅館
独自の視点で外国人観光客をすすめる新井旅館
 敬遠されがちな外国人観光客だが、修善寺温泉の新井旅館(相原郁子社長)は、独自の視点で外国人観光客の受け入れを進めている旅館のひとつ。接客の中心となるのは、航空機の客室乗務員や通訳の経験がある安保由躬子企画課長。多くの文人墨客が遺した作品や、国の登録文化財に指定された建物を通じ、日本の伝統文化を海外に発信しようと昨年3月に英語のホームページも立ち上げた。「ホームページ開設後、海外からの問い合わせや予約は増えている。英語での対応が可能な宿ということでお客様が安心感を持たれるようだ」と相原社長は語る。また、安保さんがいるおかげで旅館全体で自信をもって外国人の受け入れができるという。
 静岡県女将の会の伊豆支部では昨年末、在日外国人のモニターツアーを行い、外国人観光客がどういう所に不便を感じるのか、どう改善したらいいかを実際に回りながらチェックしていった。メンバーのひとり、新井旅館女将の森桂子さんは「まずは接客の第一線で働く私たち女将が動かないと始まらない。今後は交通関係の方や飲食店、地元の方に参加してもらい、伊豆全体で国際化を考えていきたい」と語る。
 こうした取り組みから、緊急時の対応窓口設置を森さんは強く訴える。「英語だけでなく、今後アジアをはじめ多様な国のお客様をお迎えするのであれば、対応しきれない部分は当然出てくる。例えば、大使館なり県なりに24時間対応可能なホットラインを設ける事が必要」と言う。


追い風となる静岡空港開港。急がれる地域一丸の取り組み
 国際観光が国策となったいま、世界に開かれた観光地を目指した日本の地域間競争は激化する。幸い、県内、特に伊豆地域は首都圏に近く、日本のノスタルジーを感じさせる伝統的な名所・旧跡、豊富な温泉、手つかずの自然が残る。都市化が進んだ大都市圏や観光地として作り込まれた京都、奈良などの国際観光先進地に比べ、「古き良き日本」が数多く見られる場所だ。実際、新井旅館では、伊豆の穏やかで優しい風土に感激する外国人観光客が少なくない。2007年に静岡空港が開港すれば、東アジアから伊豆地域はさらに身近な海外として注目を浴びるだろう。
 日本の国際観光への取り組みはまだ始まったばかり。新たな国際観光地として他の地域に先んずるためには、地域の個性を磨き、それを発信しながら、安心して訪れることのできる受け入れ体制が必要。まさに地域一丸となった取り組みが求められている。

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