サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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 県東部地域の活性化を考えるサンフロント21懇話会伊豆分科会が今月6日、伊豆市内のホテルで行われた。大交流時代を迎え、世界の観光マーケットで伊豆地域が生き残る方策とは何か。200人を超える観衆が集まる中、「国際観光時代、伊豆の課題」をテーマに熱心な討論が行われた。
 7月の「風は東から」は、当日行われたパネルディスカッションを取り上げる。国土交通省の惟村正弘首席運輸審理官、静岡県生活・文化部の大村義政理事、ERYOKANサービスの平原英夫会長、白壁荘の宇田倭玖子専務取締役をパネリストに、具体的事例を挙げながら伊豆の国際観光化に向けた方策を探った。コーディネーターはサンフロント21懇話会シンクタンクTESSの青山茂研究員。
風は東から
[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ4
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静岡空港活用しアジアから誘客促進 おもてなしの心で伊豆の魅力を発信
静岡県内の現状と課題
大村義政 生活・文化部理
静岡県/大村義政 生活・文化部理事
青山 平成15年度の施政方針演説で、小泉首相は2010年の訪日外国人旅行客を現在の倍の1千万人に増やすことを目標に掲げました。「国の光を見る」という観光の原点に立ち返り、「住んでよし、訪れてよしの国づくり」を目指した総合的な戦略展開を図るというものです。日本のインバウンド(外国人の訪日旅行)政策はやっと緒についたところ。静岡県、そして伊豆も含めて日本全国スタートラインは一緒と言えると思います。まず、県に目を向けてみましょう。大村さん、静岡県の観光の現状と課題についてお願いします。
大村 本県の観光交流客数は、昭和63年の1億4千万人をピークに、近年は1億3千万人前後で推移しています。全国では概ね第5位に位置する観光県ですが、旅行ニーズの多様化や観光地間競争の激化などにより厳しい状況に置かれています。
 一方、国際観光ですが、訪日外国人が静岡県に立ち寄る率は全体の3・9%、約20万人で、国内では第12位に留まっています。全国有数の観光県静岡としては、この数字はあまりにも小さいと言わざるを得ません。
 こうした現状から、今後交流人口を増やしていくには何が一番必要か。私は、静岡空港だと考えています。平成19年春の開港を目指して整備を進めていますが、空港完成時には国際観光も含めた静岡県の観光地図が大幅に変わるのではないか、つまり本県の新しい観光市場が国内外に拡大していくと期待しています。これをチャンスとして生かし、2010年には、国内観光は63年の1億4千万人の水準に回復させること、国際観光は全国5位に相当する120万人を目指して取り組みを進めていきたいと考えています。
青山 2010年までに静岡県に立ち寄る訪日外国人数を6倍にするということですね。一方、その受け皿となるのが旅館をはじめとする地域の皆さんです。小説「しろばんば」の井上靖の定宿として有名な天城・白壁荘の宇田さんは、県旅連の女性部「あけぼの会」で受け皿整備に取り組んでいらっしゃいます。昨年は国内在住の外国人を対象にモデルツアーを行い、外国人から見た日本の宿、温泉観光地での課題を調査されましたね。
白壁荘/宇田倭玖子 専務取締役
白壁荘/宇田倭玖子 専務取締役
宇田 国際観光という大きなテーマに対して、女性なりに、また接客の最前線である女将として何ができるのか、まず海外のお客さまの声をしっかり受けとめようと考えました。いくつかご紹介しますと、交通機関が不便であること、英語のパンフレット、ホームページの不足。県のホームページはあるのですが、活用されていない。旅館内の案内、注意事項など英語の説明がほしい。また、インバウンドに限らず、伊豆地区全体が外からお客さまを迎えるにあたっての情報発信が一律でないといったご指摘を受けました。
青山 外国人受け入れの大きな問題として「言葉の壁」が挙げられますが、実際はいかがですか。
宇田 静岡県のアンケート調査を見ると、受け入れが進まない理由の1つに外国人対応ができないという意見が目立ちます。しかし、外国人に合わせるのではなく、私たちの文化に誇りを持って、温泉の入り方でも日本の流儀を説明すればいいのではないでしょうか。片言の英語でもおもてなしの誠意があれば7割はクリアできると感じています。そうは言っても言葉が通じないとどうにもならない時もあります。24時間体制で外国語に堪能な方が応対してくれるコールセンター的なものがあれば、多くの観光事業者の皆さんも自信を持って海外のお客さまをお出迎えできるようになると思います。


必要なターゲット戦略
eRyokanサービス/平原英夫 会長
ERYOKANサービス/平原英夫 会長
青山 平原さんは、インバウンドを振興する上での大きな仕組みが日本には欠落している、ということに気づかれ、「イーリョカン」(ERYOKAN)という予約システムを立ち上げられました。
平原 ターゲットを明確にし、その人たちに的確に商品情報を提供し、予約につなげていく。これにシステム面から着目したのが「イーリョカン」です。ここに加盟するホテルや旅館の空室情報を一元管理し、世界の旅行代理店の9割が利用する旅行予約システムGDS(Global Distribution System)につなごうと試みました。海外、特に欧米の1泊2万―5万円の宿に泊まるような個人旅行客は、自分で宿の予約はせず、懇意の旅行代理店を利用するのが一般的です。代理店では客の要望に合わせた旅程を組み、航空券から宿の手配までのすべてをGDS上で行います。ですから、GDSに施設の情報が登録されない限りこうした”良い“お客さんを獲得することはほぼ不可能なのです。ところが現在、GDS上で予約できる国内の宿はわずか30軒程度です。
 今後のマーケットとして有望視されている中国では、国外旅行を扱えるのは5つの旅行代理店のみです。ですから中国に的を絞るなら、日本への送客実績の多い代理店にアプローチすることが極めて重要です。いずれにせよ、海外からの誘客促進には、こういった外国人客や外国の事情に合った的確な情報発信や誘客活動を行っていく必要があります。
青山 惟村さん、全国でインバウンドの取り組みを積極的にしている事例を挙げていただけますか。
国土交通省/惟村正弘 首席運輸審理官
国土交通省/惟村正弘 首席運輸審理官
惟村 官主体で頑張っているのは別府市と大分県だと思います。別府温泉はバブル崩壊後、非常に落ち込みました。これを何とかしようと別府市と大分県は韓国のお客さまの誘致に力を入れました。大分県がソウルに営業専門の職員を置き、大分空港への韓国の旅客線誘致も懸命に行いました。民間もこの動きに呼応して、別府のホテル、旅館は韓国産のビールとキムチをすべての部屋の冷蔵庫に入れたんです。
 海外に行き、冷蔵庫を開けたら外国の銘柄に交じって自国のビールが入っていたら、ホッとされると同時に非常に親近感を持たれるでしょう。朝食でもキムチをずらっと並べたコーナーを作った。このビールとキムチが決め手になったと、後にいろんな方がおっしゃっています。これをベースに最近はまた国内観光客にも力を入れだしています。
 もう1つは石川県の和倉温泉です。ここは台湾にターゲットを絞りました。特筆すべきはその取り組み方です。皆さんも海外に誘客宣伝に行かれたことがあると思いますが、大概は国際観光振興会や地元領事館、日本航空、JTBの支店にあいさつして終わり。少し熱心なところは地元の主な代理店を回る。石川県の場合は台湾の旅行会社を訪問し、大口顧客である企業を紹介してもらい、そこにまであいさつに行っている。そういうことに何年も集中して取り組んでいます。新聞やテレビ広告も若干打ったと聞きますが、それよりもピンポイントで深掘りをする。インセンティブツアー(報奨旅行)が盛んな台湾ならではの特徴をよくつかんだやり方ですね。


ルートづくりと地域連携
サンフロント21懇話会シンクタンクTESS/青山茂 研究員
サンフロント21懇話会シンクタンクTESS/青山茂 研究員
青山 県単位、地域単位でターゲットに向けての商品投入が第一歩だというお話がありましたが、静岡県もアジア地域で独自のプロモーション活動を行っていますね。
大村 静岡空港の就航路線から言ってもやはり中国、台湾、韓国、香港などの東アジアがターゲットと考えています。これらの国を対象に、県は海外プロモーションを平成8年から行っていますが、認知度が高いのはやはり富士山と伊豆の温泉です。
 ですから、この2つを組み込んだ静岡空港からのルートを設定するとともに、空港から伊豆までの2次交通を整備することが非常に大事だと思います。また、伊豆のネックの1つに道路の渋滞がありますが、陸上交通にこだわらず、海上ルートのネットワーク化が空港や首都圏からのアクセスにとって大変有効です。幸い伊豆半島は8つの港湾があります。現に、清水と土肥を結ぶフェリーは乗船客数が増加していますし、台湾からの団体客でにぎわいを見せています。
青山 「商品づくり」という視点ではいかがでしょうか。
平原 まずは伊豆地域で、あるいは個々の旅館さんが独自の商品を作ること。この商品をこのお客さまに売りたいんだということが第一歩です。当然その中には、そこまでの交通手段や周辺の観光情報も含まれます。例えば、ここではワサビが食べられます。あるいは新幹線三島駅から白壁荘まではこういう交通機関が用意されています。成田空港到着時に連絡していただければこうしたお迎えがまいります。空港から直接来られる場合はこういうルートがあり、ここに連絡していただければ有料手配をします―。そういった付帯情報が連動している必要があります。海外から来るお客さまにとっては自分の家から出て、飛行機に乗って帰ってくるまでが商品。自分たちは何を提供するのか、その足りない部分は誰が埋めてくれるのか、そことどう連携するのか、これをはっきりさせることが必要ですね。 
青山 ターゲットはアジア。韓国のビールの話もありましたが、ターゲットを決めてそこに対して何ができるかをしっかり考えて実行する。それからやはり静岡空港からのルートづくり。また、商談につながるしたたかな営業活動やプロモーション、サイン、案内看板などを含めた地域の環境整備。世界標準の予約インフラをしっかりつなぎ込む必要がある。そして何よりもホスピタリティーが7割、あとは笑顔があればOKと、力強い言葉もいただきました。ぜひ、日本の旅館に自信をもって世界のマーケットに挑んでいきたいと思います。本日はありがとうございました。



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