サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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 製紙のまち、富士市。製造業の盛んな地域として県内の産業界をリードしてきた同市では、近年、工業出荷額の減少や大型店の郊外出店が相次ぐ中、中心市街地の吸引力が低下するなど、地元商工業の衰退が懸念されている。そこで、富士商工会議所が中心となり、商工業が活性化し、地域経済が元気になる「富士ブランド」事業への取り組みを3年前に開始した。2月の「風は東から」は、地域おこしと特産品の振興、富士市のイメージアップを図る同事業にスポットを当てる。 風は東から
[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ11
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「富士ブランド」で地域が結束、産業・観光・環境に活力を
159品目を認定。即売会や展示会で販路拡大
展示会などで限定販売される「富士ブランド詰め合わせ」。これらを含め、食料品や工業製品、サービスなど159品目が認定を受けている。左上は認定マーク
■展示会などで限定販売される「富士ブランド詰め合わせ」。これらを含め、食料品や工業製品、サービスなど159品目が認定を受けている。左上は認定マーク
 富士山のすそ野に位置するこの地域には、その恵みを生かした多くの特産品がある。これら市内で生産される工業製品や農林水産品、特徴あるサービスなどを「富士ブランド」と位置づけ、全国に発信することで、地域振興と産業の活性化を目指すのが同事業の狙いだ。
 平成17年度から検討を始め、同年9月には商議所を中心に、行政、各種団体、学識経験者からなる「富士ブランド推進会議」を組織化。中小企業基盤整備機構の地域ブランドアドバイザーを中心に、富士ブランド醸成に向けた三つのプロジェクトを立ち上げた。
 プロジェクトの一つ目は「パワーUP特産品事業」。富士市の資源や名勝、歴史を生かした独自性のある産品や製品、サービスなどを富士ブランドに認定し、高付加価値化と情報発信を図る。
 富士ブランド推進会議委員長を務める牧田一郎商議所副会頭(田子の月社長)は「がんばる会社を広く応援する意味で、会員事業所から申請され、条件を満たしたものは認定していく方針だ。いわゆるブランド化とは違うが、これが富士ブランドのやり方であって、認定を機にさらに上のステップを目指してもらえれば」と語る。
台湾で行われた展示会では500以上のアンケートが集まった。茶娘は日本語を話せる現地アルバイトに依頼
■台湾で行われた展示会では500以上のアンケートが集まった。 茶娘は日本語を話せる現地アルバイトに依頼



 これまでに工業製品、農林水産品、サービスを含む110社、159品目が認定されている。認定品には認定シールを貼り、情報誌への掲載や、Tシャツ、ハッピ、のぼりなどのPRグッズを作成した。
 1月には台湾で富士ブランドの展示会を開催。県と共同で静岡県の観光紹介・富士山静岡空港の開港・富士山の世界文化遺産登録に向けPRを実施した。現地の有名百貨店前で商品の展示や、やぶ北茶の試飲、和菓子の試食を行い、同時にアンケートや企業訪問などで市場調査も行った。
 同商議所の佐野征二専務理事は「今回は貿易ルートの開拓ではなく、富士山静岡空港が開港し海外の方がいらしたときに、富士ブランドがどの程度通用するかを見たかった」と語る。アンケート結果も上々と自信を見せる。
 このほか、市内外で開かれる物産展や展示会だけでなく、東京ギフトショーや、スーパーマーケット・トレードショーなど首都圏の大規模展示会でもブース出展し、認定品の販路拡大に力を入れている。
 また、認定品を販売する場所として、昨年秋、吉原商店街にオープンした「東海道表富士」での直売も始まった。JR新富士駅の近くにも直売場を開設する予定だ。


花エコ活動で地域PR。紙の新ブランドも立ち上げ
 二つ目は「イメージアップ戦略」。地域ブランドづくりには地域イメージが大切であることから、地域資源である富士山をテーマに事業を展開している。
 その中で、ひまわりの花を使った景観整備や、種を油に、茎を紙に加工する活動に取り組んでいる。同商議所が用意したシンボル栽培地でのひまわり栽培には、会員企業20社がボランティアで集まったという。また、富士山検定や、会員事業所が所有する、写真や絵などの「とっておきの富士山」を登録してもらい、富士山のまち富士市のPRを行っている。
 三つ目が「新商品開発事業」。食による新たなアプローチとして、地域素材を生かしたストーリー性のある名物づくりに着手し、第1弾として「富士いなり」を発表した。
 さらに、地場産業である紙を素材にデザイン性を高めた新商品の開発を目指した。
 同市は製紙のまちと言われながら、一般消費者に直接届く商品が少なく、PR力に欠けていた。そこで19年度は、インダストリアルデザイナーの島村卓実氏の協力で新ブランド「cuiorA(キオラ)」を立ち上げた。段ボールや紙管、紙バンドを利用したバッグや収納ケース、一輪挿しなどを東京の展示会で発表。国内外のデザイナーやバイヤーから高い評価を受けた。新商品の開発に先立ち、紙バンドを製造する植田産業は、新たな素材の改良に着手し、より柔軟性や強度の高い素材の開発に成功している。


食の部門で新商品を。PRに必要な戦略性
「効果的な情報発信が地域ブランド成功の決め手」と語る中山部長
  ■「効果的な情報発信が地域ブランド成功の決め手」と語る中山部長



 現在、富士ブランド事業はさまざまな方面に活動の輪が広がっている。例えば、ポン酢と豆腐を製造する会社同士が、富士ブランド認定を機に共同で食べ方の提案をして、製袋会社がほかの認定企業から商品を集め、一つのパッケージにして展示会などで「富士ブランド詰め合わせ」として販売している。また、花エコ活動から生まれたひまわり油は、ドレッシングに加工したり、地元の工業高校で燃料化の研究が進んだりしている。
 今後は「農商工連携による新商品開発に力を入れたい」と同商議所富士ブランド推進スタッフの鈴木優彦課長補佐は話す。特に富士市は茶の生産量も多いが、市外に出荷され、別の産地とブレンドされて別の名前で売られている。そこで、茶関連の商品に農産品を加えた新たな商品開発に着手しようと準備を始めた。商工業と農業・林業・漁業は今まで別々に活動していたが、富士ブランド事業でその垣根を越えたい考えだ。
 一方、製造業が強い地域だけあって、認定品には一般消費者にはなじみの薄い工業製品なども多く、これらのPRも今後の課題。地域ブランドに詳しい企業経営研究所の中山勝産業経済部長は「認定品個々の市場がどこにあるのかをしっかり見極め、戦略をもったPRが必要」と指摘する。農産品などは一般向けに、物産展やPR誌でも十分伝わるが、産業機械などは一般へのアピールと並行して、富士ブランドに認定されたことを市場に情報発信すべきだという。今はインターネットで簡単に国内外に情報が発信でき、良い製品であれば海外からも引き合いが来る時代。佐野専務理事は「今後は、商議所主導でなく、参加企業自らがリーダーシップを取り、知恵を絞る中で富士ブランドとしての方向性を出してほしい」と語る。認定を機に、やる気のある企業には引き続き積極的な支援をする考えだ。
 地域の人々や団体を巻き込み、新たな展開を見せる富士ブランド事業。三つのプロジェクトがうまく効果を発揮し合い、地域のブランド化を推し進めている。



  Made in Fuji 「富士ブランドを支える元気企業」

山大園 渡辺栄一社長

 明治22年創業の老舗茶店の4代目。自ら日本茶インストラクターの資格を持つ。「地域そのもののイメージが見えてこないと地域ブランドも見えてこない」と、その土地にある文化・歴史を語り伝える場としての「茶の間」の復活を願う。「富士には、富士山、駿河湾、富士川の河口幅といった素晴らしい日本一がたくさんある。富士山の近くで、ここでしか味わえない味、体験が富士ブランドになるのでは」と語る。

山大園 渡辺栄一社長
認定品
「富士山缶入銘茶」。毎年著名な富士山写真家の作品をパッケージに採用。味もさることながら、コレクターに人気が高い
「富士山缶入銘茶」。毎年著名な富士山写真家の作品をパッケージに採用。味もさることながら、コレクターに人気が高い

林製紙 林浩之社長

 イラストや文字が印刷されているおもしろトイレットペーパーを作っている林社長。「富士ブランドのマークをもらえただけではだめ。ブランドを使いこなせるかどうかは、個々の企業がアイデアを出し、実践できるかにかかっている」と言う。それには、「富士宮焼きそばなど、各地の成功事例を調べ、いいところは積極的に取り入れるべき」と語る。柔軟な考え方が斬新なアイデアを生む源だ。

林製紙 林浩之社長
認定品
「富士山ロール」。包装紙もトイレに流せる。芯にはバクテリアを混ぜ込んだため、浄化槽をきれいに保ち消臭効果もある。売上金の一部は富士山基金に寄付される
「富士山ロール」。包装紙もトイレに流せる。芯にはバクテリアを混ぜ込んだため、浄化槽をきれいに保ち消臭効果もある。売上金の一部は富士山基金に寄付される
 




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