サンフロント21懇話会は昨年より3回にわたり、「富士山静岡空港開港カウントダウンシンポジウム」を開催した。地域における空港の利活用促進と、東部への二次アクセス整備への理解を深めるのが目的。4月の「風は東から」は3回目となる同シンポ富士地区分科会でのパネルディスカッションの模様を紹介する。パネリストに宮崎善旦富士宮市観光協会長、石川眞丸石製作所社長、佐野武男丸富製紙社長、林田充JTB中部沼津支店長を迎え、空港を生かした富士地区の活性化戦略を聞いた。コーディネーターは影山武司静岡総合研究機構研究部長。
[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ1
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■宮崎善旦 富士宮市観光協会長
富士山頂上富士館経営、宮崎ふとん店社長。平成8年富士宮市観光協会副会長、18年より同協会長
■ 石川眞 丸石製作所社長
昭和49年丸石製作所入社、60年より代表取締役。そのほか富士商工会議所常議員、岳南法人会理事など
観光旅行から交流文化へ。人が交流するモノやコトを開発
影山
空港が富士地区に与えるインパクトをどのようにお考えですか。
佐野
空港から遠いこともあり、市民の反応は今ひとつですが、新幹線の新富士駅を見てもあれほど活用されているインフラはありません。空港が開港すれば利用もさらに増えると思います。
ビジネス面では、私どもの会社はトイレットロールやティッシュを作っています。消費者に直接渡る商品ですし、どこの国でも使われていますから、空港を通して見えてくる企業の姿があると思います。
石川
ヨーロッパやアジアに行く機会の多いビジネスマンにとって利便性のいい飛行場は欠かせません。昼間打ち合わせをし、夕方移動と、1週間で数カ所を回る渡り鳥のようなスケジュールをこなします。成田やほかの空港のように延々と歩かされることもなく、駐車場も無料というのは大変うれしく思います。
影山
ビジネス面では好感触の空港ですが、観光面では中西部に比べ動きが鈍いと感じます。
宮崎
浜松、静岡方面は空港からの二次交通が決定しています。ところが、富士地区をはじめ東部・伊豆はなかなか手が上がってきません。これは空港にあまり期待していないことの裏返しだと思います。首都圏に近く、逆に空港からの交通アクセスが悪いことがあるでしょう。しかし、一番の問題は富士山を見にやって来る人への対応を富士地区の方々、観光関係者が真剣に話し合っていないことだと思います。
富士山という大きな資源がありながら観光のまちづくりができていないのが富士宮の現状です。富士市はそれ以上に、もともと工業都市ですから観光に対する根本的な概念から変える必要がある。つまり単なる観光客ではなく、スポーツ観光や産業観光などの目的をもった交流人口の拡大を目指すべきだと思います。
林田
2005年を境に日本の総人口は減少に転じ、われわれ旅行会社もこれからは交流人口を増やすことを考えないと、単なる観光旅行だけでは生き残れない時代となりました。出張や会議、ショッピング、スポーツ観戦、美術鑑賞、ウオーキング、ハイキングなど人が活動するすべてを交流文化ととらえ、交流の元となるモノやコトを研究開発することで、人々の交流を活発にしようと模索しています。
もともと観光とは「国の光を見る」という意味です。この地域の魅力が何かを考え、それを磨き上げ発信することが、この地域に多くの人々が訪れるきっかけになると思います。
富士山の魅力を最大限活用。周辺市町の地域連携を
■ 佐野武男 丸富製紙社長
昭和60年丸富製紙沼津工場取締役工場長、平成16年より現職。そのほか富士市教育委員会教育委員長など
■ 林田充 JTB中部沼津支店長
昭和58年日本交通公社入社。中部営業本部営業開発部長、交流文化事業部長を経て平成20年より現職
影山
最大の魅力である富士山を生かしきれていない面もあるのではないでしょうか。
石川
東名高速富士川サービスエリアを越えた瞬間、まさしくこれが富士山の景観だと思っています。スイスなどではロープウェーの技術が発達していて雄大な景色を間近で見ることができますが、例えばこの地域にロープウェーを作り、富士山と駿河湾のパノラマを見ていただく。きっと一生忘れられない風景になると思います。
また、ハワイにホノルルライドという世界的なサイクリングロードがありますが、これをまねて、富士川の河口から沼津港まで、すばらしい景色を眺めながらのサイクリング大会を行ったらどうでしょうか。熱気球や自転車の世界大会など趣味の世界を盛り込んで、富士山を中心としたイベントを考えると良いと思います。
佐野
昨今のランニングブームで、田子の浦マラソンに1400人が集まりました。このような、富士山のふもとで行うスポーツイベントなどもいいですね。また、なんといっても富士山の恩恵は水。水の恵みがあるからこそ製紙業も発達してきました。こうしたことをもっと業界全体でPRしていきたいと思います。
宮崎
富士山だけだとお客さんは来てくれません。富士宮も富士山と焼きそばを目当てにいらっしゃいます。となると一つの地域だけで空港を活用するのは難しい。例えば、富士宮で焼きそばを食べて富士で産業を見る、御殿場で買い物をして山梨側に泊まるというように、空港の活用は富士山の周辺地域全体で考えていかなければならないと思います。
林田
観光業の基本は宿泊です。愛知万博が開かれた時、名古屋市内のホテルはどこも満室でしたので、周辺の長良川、蒲郡などの温泉地が大変にぎわいました。富士地区も地域の優れたものを見てもらい、伊豆も山梨側の河口湖、山中湖も利用してしまえばいいのではないでしょうか。
そのためにもアクセス網の整備が欠かせません。この地域を通り、山梨側に抜けるバス路線はできましたが、大票田である伊豆方面へのアクセスがお手上げ状態です。バスで動く団体旅行は別ですが、東部地区のせめて新空港から沼津、三島まで直通バスがないと、例えば修善寺の旅館に泊まりたいと思っても、空港―新幹線―在来線と乗り換えが多くてはお客さまの選択肢からはずれてしまいます。
影山
交通アクセスは旅行商品を作る上での基本的な問題です。地元の観光、あるいは関連の皆さんが協力してバスを運行し、東部への足を作ることにぜひ取り組んでいただきたいと思います。
■ 影山武司 静岡総合研究機構研究部長
昭和54年静岡県庁入庁、平成5年静岡総合研究機構に出向。その後県庁企画部政策企画室などを経て、18年から現職。サンフロント21懇話会TESS研究員
地域の産業を生かし、日本版ティッシュワールドの開催を
影山
さて、富士地区は製紙の街であり、ものづくりが盛んな街です。産業観光といった面はいかがでしょうか。
石川
製紙業は紙をすく技術だけでなく、それを作る機械やそのメンテナンス、使用する薬品など限りなく裾野が広い産業で、一つの街にこれだけの数、種類、技術が集積しているところは世界的にも珍しいと思います。それだけに優秀な人材も多く、素晴らしい技術を持ったままリタイアされた方も大勢いらっしゃる。そういう方が国内外の技術者を円滑に、しかも安心して指導、育成できるとなれば大変いいと思います。これは紙パックだけでなくほかの産業にも言えることだと思います。
佐野
全国のトイレットペーパーの3分の1は富士市から出荷されています。それだけ大きな産地です。しかも100%再生紙。これだけ再生紙の占める割合が高い製品はここしかありません。大変ユニークな分野だと思います。ティッシュワールドという家庭紙の見本市がフランス、アメリカ、中国でほぼ毎年開催されていますが、その日本版がここで開けたらおもしろいのではないでしょうか。家庭紙で使う機械はイタリア製など輸入品が多いので見本市などもできると思います。
影山
そうしたコンベンション開催も交流人口拡大の有効な手段ですね。富士市には富士山メッセができ、富士山観光交流ビューローも活動を開始しました。
宮崎
コンベンションビューローは1市だけでは成り立ちません。あくまで地域連携が基本です。もう一度富士、富士宮がいい意味で友達になる、いろいろ話し合っていくべきだと思います。焼きそば一つとっても、デザートは富士産のナシやイチゴにしようとか、また、店出しばかりでなく、トレーや紙のパッケージ作りも必要です。富士と連携する方法はたくさんあると思います。
また、富士宮はお金がなかったおかげで自然が残っています。製紙も水が命ですから、豊富に湧き出す水をキーワードにした連携ができるのではないでしょうか。新たな地域連携がビューローを通じて、コンベンションを利用してできればいい。それが空港利用につながり、地域振興にもなると思います。
林田
戦略的には二つです。一つは国の光の再発見と磨き上げです。二つ目は広域連携。伊豆、山梨と連携しつつうまく利用する。戦術的には三つ。ティッシュワールドはぜひ官民一体で誘致に動くべきだと思います。またスポーツイベントの充実に地域ぐるみで力を注いでほしい。最後に、教育旅行のディスティネーション(目的地)としてもすばらしい地域です。工場見学だけでなく酪農体験もあります。すでに地元の小学生はたくさんいらっしゃっていますが、学校側は産業体験をするための新しい修学旅行、教育旅行を常に求めています。行きは静岡空港から入って産業体験、酪農体験をし、帰りはディズニーランドに寄って帰るというようなルートも作れるのではないでしょうか。
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