サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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 JR沼津駅北口に整備が予定されている東部コンベンションセンター。国際会議場や展示場、ホテルなどで構成され、交流人口の拡大やそれに伴う経済波及効果が期待されている。8月の「風は東から」は、先月27日に開かれた東部地区分科会のパネルディスカッションを取り上げる。パネリストに日大短期大学部の宮川幸司教授、県東部地域コンベンションビューロー会長で沼津商工会議所の後藤全弘会頭、日本実務出版の森口巳都留社長、近畿日本ツーリストの福田昌明沼津支店長を迎え、コンベンションセンター整備を機に、地域でいかにコンベンション機能を促進するかのヒントを聞いた。聞き手はシードの青山茂副社長。 風は東から

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ5

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コンベンションを都市戦略に、地域の理解と連携で「ならでは感」醸成
コンベンションで交流人口拡大。大切な都市の顔づくり
コンベンション機能促進について議論が交わされたパネルディスカッション
■コンベンション機能促進について議論が交わされたパネルディスカッション

 青山 本日は、数年後に開設する東部コンベンションセンターの影響やメリット、また、選ばれる施設になるための課題についてうかがいます。
 コンベンションセンターより一足早く、東部では一昨年の11月にコンベンションの誘致・支援を行うコンベンションビューローが設立されました。

 後藤 東部地域コンベンションビューローは、東部6市4町の行政と観光協会、商工会議所、商工会からなる広域の組織です。目的は東部地域の連携促進、そして活性化のための交流人口の拡大、コンベンションの誘致と支援活動です。
 昨年は新規のコンベンションを9件誘致しました。500〜1200人規模の学会などが中心です。これにより延べ7000人の宿泊客を呼び込めたと考えています。

 宮川 以前のように定住人口の拡大が見込めない現在、全国で交流人口を拡大し地域を活性化しようという動きが活発です。主な交流人口は観光客ですが、コンベンションで訪れる人もまた大きなボリュームを占めています。
 交流人口の拡大がもたらす一番大きな効果は雇用や産業などの経済効果でしょう。もう一つは交流効果。人と人、企業と企業、組織と組織の交流が進むことで相互理解が図られ、交流もより活発になります。
 こうしたコンベンションの効果をいかにこの地にもたらすか。コンベンションにかかわる人だけでなく、地域の皆さんで考えるべき課題でしょう。

 森口 コンベンションというのは都市づくりです。都市の政策の中にコンベンション機能をどう落とし込むかが、都市がコンベンション施設を持つ意味だと思います。東部にコンベンションセンターができるということは、都市の未来を切り開く可能性を手に入れたということです。それを皆さんが認識してほしいですね。
 コンベンションで成功している都市は顔や個性があります。本来なら東京でやれば便利だし、アメリカならニューヨークやシカゴでやれば効率がいい。それを、この場所でコンベンションをやるなら参加したい、行ってみたいと思わせるのが「ならでは感」。これをどう作っていくかが肝心で、まずは自分たちの強み、あるいは弱みをよく知ることから始まると思います。その上で、持っている資源をどうコンベンションの中に落とし込み、活用していくか、というのが次のステップになります。


キーワードはファルマバレー。差別化と的を絞った誘致を
宮川幸司 日大短期大学部教授
■ 宮川幸司 日大短期大学部教授
高崎経済大学大学院卒。七尾短期大学などを経て、2004年日大短期大学部商経学科准教授、08年教授。観光ビジネス論を担当。NPO法人伊豆地域振興研究所理事

後藤全弘 沼津商工会議所会頭
■ 後藤全弘 沼津商工会議所会頭
中央大学商学部卒。1956年ゴトー洋服店入社。ゴトー社長、会長を歴任し、2005年より相談役。07年11月より沼津商工会議所会頭、県東部地域コンベンションビューロー会長
 青山 今や大型コンベンション施設は全国津々浦々に存在します。その中からここを選んでもらうにはどうすればいいでしょう。

 森口 東部コンベンションセンターは施設の規模が決定しているので、誘致できるコンベンションの大きさもおのずと決まります。次は、都市の未来に役立ってくれるコンベンションを誘致してくることです。
 例えばファルマバレープロジェクトに焦点を当て、先進医療や健康関連産業に関するコンベンションを誘致する。すると、ファルマに必要な人や情報などがどんどん集まってきますし、そういった市には関連企業も出てくる気になる。すると今度は企業自体がイベントやコンベンションを開き、さらに人や情報やネットワークが集まってくるようになります。将来的に、このテーマに関しては東京ではなく、沼津地域で開催する方が都合がいい、となれば理想的です。それに向けて信念と覚悟をもって取り組んでいただきたいと思います。

 福田 コンベンションセンターができれば、静岡などで行われていた本来なら東部で開催すべきコンベンションをこちらに呼び込めると思います。また、伊豆には“リゾート”というイメージがありますので、アフターコンベンションや視察旅行についても、グランシップで行われた場合と、こことではお客さまに提供できる内容が大きく変わります。圧倒的に有利な部分だと思います。
 滞在型のコンベンションや、中規模のコンベンションを誘致するなどターゲットを絞った営業をしていけばいいのではないでしょうか。

 宮川 日本各地のコンベンションシティの中で、気軽に温泉を楽しめるところはあまりないと思います。2泊や3泊のコンベンションなら最初は沼津、三島地区のホテルを利用し、最終日は少し早めに会議を切り上げて、伊豆の旅館に泊まる。おいしい食事と温泉を楽しみ、参加者同士のコミュニケーションを図ってコンベンションを閉会する、というのも差別化につながりますね。



森口巳都留 日本実務出版社長
■ 森口巳都留 日本実務出版社長
同志社女子大学を卒業後、日本実務出版に入社。「展示会情報」(現:E&C)編集長を経て、2001年同社社長に就任。キラメッセぬまづ運営推進協議会委員



B級グルメにかかりつけ湯。地域ならではのおもてなし
 青山 コンベンションに行ってみたいと思わせる、地域の「ならでは感」の醸成についてはいかがですか。

 後藤 コンベンションビューローは昨年、静岡がんセンター関係で六つの学会、セミナーを支援させていただきました。その開催をきっかけに地域の企業の連携や新たな学会の誘致が進んでいます。
 また、一昨年、全国のがんセンターの総長、病院長が集まった大会では、静岡がんセンターの山口建総長の発案で、静岡のB級グルメの紹介をしました。静岡おでん、みしまコロッケ、すその水ギョーザなどを露店風にアレンジして、大変好評だったと聞いています。食をキーワードに、東部だけでなく静岡県全体をアピールできました。

 宮川 最近は夫婦、ファミリーでの参加も増えていますので、会議に出席する以外の方が楽しめるメニューの提供も必要でしょう。伊豆では、今まで観光資源だった温泉を健康の視点でとらえなおす「かかりつけ湯」という活動も行っていますし、自然の景観、食、ウオーキング、スポーツ、体験などのメニューもこの地域はたくさん用意できると思います。

 福田 器ができても選ぶのはお客さまですから、沼津に来るメリットはどこにあるのかを明確にしないといけません。国内、海外問わず圧倒的な人気を誇る富士山ですが、冬は見られる確率が高くても、春から秋にかけては見えない場合が多い。そうしたとき、代わりにシラスが食べられる、花見を楽しめるなどのきめ細かなインフォメーションが必要です。

 後藤 地域ならではの売りは何か、何をターゲットにしていくのか、まさにアイデアと連携が大切で、一つの町でなかなかできるものではないと思いますが、東部は市町の数が多く、魅力も多い半面、連携の難しさもあります。
 先ほど、会場で三島商工会議所の須田徳男会頭に「早速コンベンションについて話し合おう」と声をかけていただきました。行政の合併はなかなかまとまりませんので、そういう意味では観光面で広域連携していく、そして伊豆の一本化に向けた取り組みに大きな力となるのがこのコンベンションビューローではないかと思います。


コンベンションへの理解を深め、地元で支える組織作りを
福田昌明 近畿日本ツーリスト沼津支店長
■ 福田昌明 近畿日本ツーリスト沼津支店長
県立吉原工業高校卒業後、日本国有鉄道静岡鉄道管理局に。1987年近畿日本ツーリスト入社。沼津支店、川越支店を経て、2006年沼津支店次長、07年より現職
 青山 コンベンションは宿泊はもちろん、会場の設営は釘1本、電線1本引くところから始まります。地元の開催を支える民間事業者もコンベンションを引っ張っていく機動力となっていかなければならないと思います。地域の事例をご紹介ください。

 森口 NPO法人コンベンション札幌ネットワークは、札幌コンベンションセンターの開設を機に事業者が作った団体です。政府に働きかけを行うなど熱心に活動されています。国際観光コンベンションフォーラムを主催しており、今年は会場を札幌から島根県松江市に移し、一般市民も巻き込んだコンベンションに仕立てました。
 もう一つは「明日のMICE(マイス)を考える沖縄の会」。MICEとは会議、イベント、視察旅行などの頭文字を取った造語で、それらをどのように沖縄に落とし込んでいけばいいかを民間事業者が勉強する会です。例えば、ホテルの宴会場を沖縄ムードいっぱいにしつらえ、それをパッケージ化し販売しています。このように、参加企業のノウハウを出し合って新たな価値を生み出すことも大切だと思います。

 青山 地域のまとまりが作れるところ、作れないところの違いは何でしょうか。

 森口 やはりコンベンションやMICEに対する理解があるかどうかでしょう。コンベンションはすそ野が広く、どんな事業の方も参画できます。自分の儲け口をコンベンションに見いだせるかどうか。また、それが地域の「ならでは感」を醸成させる大きなパワーになると思います。まちづくりに自分たちも参画しよう、コンベンションを使ってビジネスをしようという、大きな情熱と覚悟をもってすればいいと思います。中心となるリーダーの存在も大切ですね。


青山茂 シード副社長
■ 青山茂 シード副社長
早稲田大学法学部卒。オリエンタルランドを経て、現在シード取締役副社長。サンフロント21懇話会のシンクタンクTESS研究員として、研究・提言活動をサポートしている

地域が連携し、役割を分担。欠かせない積極的な情報発信
 福田 今の問題は周知不足。沼津にこういう施設ができることが認識されておらず、どういった波及効果があるのかも理解されていない。一つの地方都市でいくら発信しても限界があるので、コンベンションを扱う旅行代理店や広告代理店にセールスに行くのが大切だと思います。
 また、マスコミを大いに利用してください。建物ができれば自然に集客できると錯覚しがちですが、そんなに甘くありません。建物ができる前の情報発信はもちろん、コンベンションが開催されればその都度、マスコミを通じて記事にしてもらうことが、イベントコンベンションを考える人たちには非常に有効です。どこから来てもわかるような施設の名前も大事ですね。

 森口 一番大切なのは、快適な開催環境です。それはおもてなしの部分でもありますが、キラメッセぬまづは日本一親切な施設、使いやすい施設をポリシーにしました。これは東京のお客さまからも高く評価されていて、平均稼働率は7割を超え、リピーター率も約7割です。その実績をぜひ分析し、継承していただきたいと思います。

 後藤 東部の恵まれた景観と観光資源、首都圏からの優位性、ファルマなどを十分生かしたコンベンションの誘致を進めていくべきです。これらを生かすには行政の枠を超えた連携や広域PRが必要で、一つの市町で完結するものではありません。会議、宿泊、観光などそれぞれの町が強みを生かし、役割を分担し東部地域の振興・発展を図ることがビューローはもちろん、センターの存在感を大きくするのではないでしょうか。
 いずれにせよ数年後にはコンベンションセンターがオープンします。コンベンションセンターの活用、また、それを利用したまちづくりを皆さんと考えていきたいと思います。

  サンフロント21懇話会とは…
 サンフロント21懇話会は、県東部の活性化に向けてさまざまな提言を行うことを主旨として、平成7年に産業各界、市町村をはじめ国・県関係機関など県東部地域のリーダーを中心に発足しました。
 懇話会が提言した「東部の賑わい拠点形成のための大型展示施設の設置」は、平成10年、沼津駅北の「キラメッセぬまづ」開設につながりました。また、伊豆の観光活性化をにらんだ取り組みは、伊豆地域観光活性化協議会の情報サイト「ゆうゆうネット伊豆」として具体化し、人気を集めています。
 ことし15年目を迎えた懇話会は、今後も東部活性化に向けた取り組みを行っていく予定です。
 

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