サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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 静岡県東部の活性化を考える「サンフロント21懇話会」は本年度で15周年を迎えた。これを記念して「風は東から」では4回にわたり、さまざまな角度から東部の振興策をキーパーソンに聞く。第1回は、伊豆の観光振興について県の出野勉文化・観光部長に聞いた。聞き手は同懇話会シンクタンクTESS研究員の青山茂シード副社長。 風は東から

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ1

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伊豆を地質史からひも解く、観光の原点学ぶ旅育(たびいく)に期待
22年も同じ課題を抱える伊豆観光。旅行形態は滞在型と個人型に
 青山 伊豆の観光交流客数は昭和63年のピーク時の5割強にまで落ち込みました。61年ごろから熱海や伊東など、集客力の大きな観光地の業績が落ち始めています。当時、言われていた伊豆の課題は、(1)伊豆半島の各地域が自らの資源を生かした個性ある観光地をつくり、総体として伊豆らしさを発揮すること(2)広域性と周遊性、伊豆が持つ多様な魅力をできるだけ長く滞在し、味わってもらえる方法を考えること(3)自然保護。伊豆の自然破壊は自殺行為である―の三つでした。

 出野 今と全く同じ課題です。22年も前から同様の議論がなされていたのですね。

 青山 こうした認識があって、2000年の伊豆新世紀創造祭や、観光カリスマ育成講座などが生まれたのでしょう。九州の黒川温泉や長野県の小布施、滋賀県の長浜などは、同じころにしっかりとしたまちづくりを始めています。結局20年から30年のスパンで地道にやってきたところが今、人気のある観光地になっています。

 出野 即効性のある方法はありません。成功している観光地はどこも地道な努力の積み重ねの結果です。
 今の旅行の世界的な傾向は、何かを見に行くことに加え、ゆっくりしたい、癒やされたい、というニーズが高まっています。また、団体旅行でなく、家族や小グループなどの個人型旅行にシフトしています。ニーズが多様になったことで、今まで観光資源と見られなかったものが立派な旅行商品になっています。地域の魅力をどう発掘し、どう発信し、来てもらうかが以前にも増して問われる時代になりました。

 青山 加えてデフレの影響もあり、今は使うべきところにしかお金を使いません。丸の内のサラリーマンの昼食代が平均750円、女性が600円という調査結果もあります。
 旅行で言えば、通行料や駐車料などは極力抑えて、本当に楽しみたいことにお金を使える仕組みを作らないといけませんね。

 出野 例えば、かかりつけ湯なら熱海養生法や天城流湯治法など、伊豆ならではのユニークな健康法がありますね。かかりつけ湯に泊まったらこうした付加価値がある、素泊まり8000円でも、オプションでこういう体験ができるというのを積極的に発信してほしい。そういう意味でかかりつけ湯は非常に先進的な取り組みです。また、宿で宿泊客を囲い込まず、できるだけオープンでいてほしいですね。
多彩な魅力を持つ伊豆半島。楽しみ方は無限大(写真はイメージです)
■多彩な魅力を持つ伊豆半島。楽しみ方は無限大(写真はイメージです)





連泊向けの楽しみ方も提案。伊豆観光圏のオリジナリティーを追求
出野勉  県文化・観光部長
■ 出野勉 県文化・観光部長
新潟大学人文学部卒業後、昭和50年に静岡県入庁。平成16年企画部知事公室長、18年健康福祉部参事、19年厚生部理事、20年産業部観光局長を経て、22年4月に文化・観光部長に就任

 出野 旅行形態の変化を考えると、多目的型で滞在型の地域を作ることが時代のニーズです。伊豆であれば、一つの温泉場には1泊しかできないが、それを二つ三つ重ねて滞在型、周遊型の観光地を作る。まさに今、国が進めている観光圏の考え方です。
 伊豆東海岸の2市3町で立ち上げた伊豆観光圏は、テーマを「海から山へ、そして温泉〜海洋温泉ストーリー」とし、夜遊びシステムの構築や、らくらくレンタサイクル、パークアンドライドなど、滞在して楽しめる数多くの仕掛けを予定しています。一番注目しているのが「湯路(ユーロ)」と呼ばれる地域通貨。購入金額の1割を上乗せし、圏内のどの店でも使えるものです。単に10%割引でなく、湯路と名付けることで遊び感覚を取り入れています。

 青山 伊豆新世紀創造祭や観光カリスマ養成講座などを通じて観光に携わる人材の層は厚くなっています。彼らを生かすためにも、観光圏では、国の認可が下り、補助金がついたからそれで良し、とするのではなく、観光圏の取り組みをきっかけに専従の事務局長を置き、参加する市町や団体が資金と職員を出して、その人たちが圏内の連携を含め、きちんとした実績を生み出せるような行動できる体制を作ってほしいですね。

 出野 人材は確実に育っています。また、観光圏は観光業者だけでなく、商工会議所、交通事業者、行政などが入って協議会を作り盛り上げていますから、システムとして非常に面白いと思います。次は、地域の魅力を商品化して、これは結構売れたよね、という成功事例が出てくると活動にも弾みがつくのではないでしょうか。
 先行する浜名湖観光圏では、サイクリングで浜名湖一周ができる仕組みを作りました。今までは温泉に入って、うなぎを食べて終わっていましたが、自転車で回ることで新たな発見がある。途中、疲れたら連絡所で乗り捨てもできます。こうした取り組みは全国で始まっていて、それを勉強しながら伊豆ならではのオリジナリティーをどう出していくか。地域通貨もどこでもやっている。それを伊豆なりに工夫して湯路という名前をつけた。そうしたことが魅力になるんです。


青山茂 シード副社長
■ 青山茂 シード副社長
早稲田大学法学部卒。オリエンタルランドを経て、現在シード取締役副社長。サンフロント21懇話会のシンクタンクTESS研究員として、研究・提言活動をサポートしている
ディスイズ伊豆をどう作るか。ジオパークをベースに、イメージ構築
 青山 今の伊豆に必要なのは「共通の目標」と「育った人材と地域資源を生かしきる体制」。その意味で観光圏は強力なツールです。一方、共通の目標についてはどうでしょう。
 前年度の「風は東から」の鼎談で川勝平太知事が、伊豆半島を「世界で一番美しい半島」とおっしゃった。今、伊豆ではジオパーク構想が進んでいますが、静岡大学の小山真人教授によると、伊豆半島は地球の活動が凝縮された地域だそうです。
 伊豆が世界一美しい半島ならば、それは、地球の営みが最も美しく表現されたと言い換えることもできます。だから温泉も、食も、花もすばらしい。さらにその上に文学や多彩な文化が生まれました。
 「世界一美しい半島」のイメージを地球規模の歴史からひも解いていき、全体の構造をしっかり整理してあげることが今必要です。「世界一美しい半島」に対して誰も反論できないような構造を持った、歴史と文化の“伊豆の絵姿”を作る。それが「ディスイズ伊豆」という考え方です。

 出野 その絵姿は本年度ある意味、示していかなければならないと思っています。その際、伊東市長と伊豆市長、西伊豆観光協会長がそれぞれ違う夢を見たのではまとまらない。「あなた方はどう思いますか」と地域に投げかけをして、地域の人たちが考えを出しながら、同じ夢を見てもらわないと。そうすれば、その夢に向かってうちはこれができる、といった動きが出てきますね。

 青山 今まで「伊豆は一つ」という掛け声はありましたが、その絵姿がないために実際はみんなバラバラでした。しかし、一番底にジオパークという地球に足を下ろした構造的な話を置くことで、温泉もある、花もある、食もある、文学も花開きました。だからこそ、そのてっぺんにかかりつけ湯も生まれた、という必然性が出てくる。そうすると伊豆に行く価値をもう一度、改めて皆さんが見直してくれるでしょう。きわめてユニークな、唯一の伊豆というように。ベースに地球規模のリアルな世界があるからこそ、単なるコピーワークにはならないのです。

 出野 総体としての構造の整理をすれば、あとは選択肢の問題。世界一美しい伊豆に来た。そのときに天城流湯治法を体験したい人もいれば、ワサビづくしを食べたい人もいるでしょう。2泊、3泊で伊豆を大いに楽しんで、とてもじゃないけど一度では無理だから、リピーターとなる。
 ニューツーリズムと呼ばれる体験型のグリーンツーリズム、エコツーリズム、ヘルスツーリズムなどもきちんと位置付けられますから、伊豆はニューツーリズムのテーマパークになるでしょう。


旅育(たびいく)は観光立県の使命。地域資源を洗い出し、楽しむ回廊作りを
 青山 最後に県文化・観光部にお願いしたいことがあります。食育というのはありますが、観光立県としてぜひ、旅育(たびいく)を推進してほしいと思います。以前、経済産業省のキャリア教育プロジェクトをお手伝いしました。修善寺の小学生が観光を勉強し、自分たちが開発した名産品を販売する、ということをやりました。とても反響のあった取り組みでしたが、事業期間の終了をもって途切れてしまいました。
 義務教育の9年間で静岡の子どもたちが観光を通じて地域を知り、人とのふれあい、交流そのものを知る。最終的にそれが観光振興、交流振興になるのではないでしょうか。

 出野 われわれも観光教育は非常に重要と考えていて、子どもたちが地域のよさを知り、訪れた人にそれを伝える、大きくなって故郷を自慢することができるようになってもらいたい。そこで、今作っている教育基本計画に地域の良さを見直すという項目を入れようと考えています。
 昨年、三島市で、第1回観光教育立国全国大会が開催されましたが、そのときの模擬授業では先生方の迫力と情熱を大変感じました。
 教育委員会も総合学習の中で地域のよさ、自然のよさを大切にできるようなプログラムを考えてくれているようです。

 青山 地域の人づくり事業に関わる中でよく聞くのは、「自分の住んでいるところがこんなにいいとは知らなかった」。人が何かをものにするのに10年かかるといわれます。でしたら、義務教育の9年間で地域の光を見る、観光をとらえなおしていくのは決して長い期間ではありませんね。

 出野 「観光」という言葉の由来は、昔の王様が国の光を見せる、つまり旅人にわが国を自慢することから始まりました。その原点に戻りたいですね。そこで、本年度は地域資源や文化の掘り起こしを考えています。県全体がものすごい資源を持っています。伝統芸能一つとっても、毎日どこかで地区のお祭りが開かれているでしょう。食もある意味、文化です。それらを全部洗い出して、おらが国の誇れる祭りだ、食だというリストを作る予定です。
 伊豆半島はきわめて特殊な地形から生じてきたいろいろな魅力―伝統芸能、お祭り、花、食―を回廊式に巡ることができる。大変恵まれた地域ですし、それをいかに育て、成長させていくか。22年前から言われていた課題に対する答えが、地道な努力の積み重ねで今、花開きつつあります。さらにもっと違った掘り下げ方、もっと強烈な見せ方が出てくるでしょう。
 温泉も、食も、日本全国どこに行っても見られない、食べられないというオンリーワンの伊豆をとことん追求してもらいたいですね。



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