サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
トップ 最新情報 政策提言 活動内容 サンフロント21懇話会とは 飛躍 風は東から

 昨年7月、東駿河湾環状道路が一部開通した。主に伊豆方面への車の流れが大きく変わり、沿線では新しい観光施設の出店も予定されている。3年後には伊豆中央道と結ばれ、利便性がさらに高まる。12月の「風は東から」は、東駿河湾環状道路の全線開通をにらみ、恵まれた交通条件を生かしてにぎわいや活力のあるまちづくりを進める函南町の取り組みを中心に、道路整備がもたらす波及効果について考える。 風は東から

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ9

バックナンバー


道路網が生む新たな地域連携 市町が役割分担し東部を活性化
東駿河湾環状道路がもたらす効果
 東駿河湾環状道路は高規格幹線道路「伊豆縦貫道」の一部をいう。昨年7月27日に沼津岡宮インター―三島塚原インター間約10キロメートルが開通した。混雑する沼津や三島の市街を通らずに国道1号とその先の136号につながるため、伊豆方面のアクセスが向上した。渋滞緩和に加え、国道1号と交差する三島市塚原に大規模観光施設の出店が予定されるなど、徐々に効果が出始めている。
 今年9月に国土交通省沼津河川国道事務所は、開通後1年の状況を発表した。それによると、沼津・三島市街地エリア(※1)内の混雑が緩和。渋滞による損失時間が減ったことで、金額にして年間およそ15億円の効果(※2)があったと試算されている。
 開通前は東名沼津インターから136号まで31分かかっていたが、開通後は、東駿河湾環状道路を通るルートで約20分、国道1号を通るルートで約15分と、10分以上短縮された。
 主要幹線道路の交通量も、国道1号と136号が交差する南二日町付近で増加したものの、ほかはおおむね減っている。
 今後の整備計画では2013年度までに残りの区間(三島塚原インター―函南塚本インター)が開通し、東名沼津インターと伊豆中央道が14分ほどで結ばれる。
 これにより国土交通省の試算では、沼津・三島市街地エリアで渋滞ポイントが12ヵ所緩和され、渋滞損失時間も6割減るという。同じく、交通事故件数も年間789件から2割減るなど、さまざまな効果が見込まれている。
 同事務所の粂野真一郎調査第二課長は「三島塚原インター開通の効果が実感できたことで、地元からは早く全線開通してほしいという声が前にも増して大きくなった。社会状況は不透明だが、地域の要望に沿えるよう、計画通りに進めていきたい」と語る。
※1 東駿河湾環状道路、国道1号、沼津インター線に囲まれたエリアをいう
※2 自動車の走行時間が短縮されたことによるその時間の価値を貨幣評価して算出した額
■沼津・三島市街を通る国道の渋滞損失時間は県平均の約5倍。それだけ渋滞も事故も多い。東駿河湾環状道路はこうした状況の解消につながる
■沼津・三島市街を通る国道の渋滞損失時間は県平均の約5倍。それだけ渋滞も事故も多い。東駿河湾環状道路はこうした状況の解消につながる
橋脚が並ぶ函南塚本インター付近(写真左)。町は県沼津土木事務所と共催で、住民や小中学生向けのイベントを開催している。写真は大きな杭に将来の夢を書く町内の小学生
■橋脚が並ぶ函南塚本インター付近(写真左)。町は県沼津土木事務所と共催で、住民や小中学生向けのイベントを開催している。写真は大きな杭に将来の夢を書く町内の小学生


全線開通をにらんだ函南町の動き
 3年後の東駿河湾環状道路の全線開通にあわせて、まちづくりに力を入れているのが函南町だ。森延彦町長は道路開通を「千載一遇のチャンス」ととらえ、県東部で同町の“存在感”をどのように高めていくかに知恵を絞る。
 道路が通る中心市街地は今年、社会基盤整備総合交付金(5ヵ年、全体事業28億円)の事業採択を受けた。工事の進ちょくにあわせ周辺道路や下水道の整備などを進めている。図書館や子育て支援センターも整備する予定。
 中心市街地の整備とともに今後力を入れるのが、ファルマバレープロジェクトによる産業振興と、観光振興だ。
 全線開通後は、静岡がんセンターなどへのアクセスがよくなることから、森町長は「酪農、農業などの地場産業や豊かな自然環境を生かした、医療・健康・食の分野で新たな産業を興したい」と語る。すでに特産品のヤーコンを同センター研究所で分析するなど、連携を深めている。また、医療産業に参画する企業の掘り起こしを進めたい考えだ。
 観光振興は、物見遊山的な従来型の観光ではなく、心の豊かさや癒やしといったテーマ性のある「観光文化」を目指す。
 目玉となるのが同町桑原地区に建設する「かんなみ仏の里美術館」だ。来年秋の完成予定で、重要文化財の阿弥陀三尊像など24体の仏像群を展示する。桑原地区の活性化だけでなく、町が誇る観光の拠点として国内外にPRする。
 また、月光天文台をはじめ原生の森、十国峠、玄岳や丹那断層などの自然景観、体験型酪農施設「オラッチェ」や立ち寄り湯の「湯〜トピアかんなみ」など、町内の観光資源をつなぐ「周遊の仕掛け」づくりも行う。伊豆の国市の願成就院、伊豆市の修禅寺、下田市の上原仏像美術館など、伊豆に点在する仏教美術の拠点を結んだ、周遊ルートも考えている。



道路網の整備でつながる東部・伊豆
  「東部・伊豆を構成する市町が連携し、それぞれの役割を果たすことで全体が活性すれば」と語る森町長
  ■「東部・伊豆を構成する市町が連携し、それぞれの役割を果たすことで全体が活性すれば」と語る森町長
 先月、函南町の住民、専門家、行政関係者でつくる「まちづくりワークショップ」が中心市街地の整備について提言書をまとめた。その中に、函南塚本インター付近に「道の駅」をつくる構想が盛り込まれている。森町長は「大変いい提案をいただいた。函南の物産を並べるだけでなく、伊豆全体のインフォメーションができる、あるいは伊豆の土産物はすべて買えるなど、『伊豆の玄関』機能を持った拠点施設を整備したい」と語る。
 また、隣の熱海市へも東名沼津インターから30分程度でアクセスできるようになり、渋滞する海沿いのアクセスルートとは別な選択肢が生まれる。「函南に少ない宿泊施設は熱海で賄えるようになる」(森町長)と、連携を視野に、国などに同市と足並みをそろえた道路整備の要望をしている。
 粂野課長は「規模の大小はあるが、道路整備は人の生活を大きく変える場合が多い。東駿河湾環状道路ができて伊豆へ行く人の流れが変わったことや、三島塚原にフルーツパークが進出したり、函南町でまちづくりが進んだりというのはその一例だ。全線開通後は同じような動きが沿線で期待されるだろう。また、裾野市周辺では第2東名の供用を見越して企業進出が活発化しているとも聞く」と道路整備が地域にもたらす効果を語る。
 数年後には沼津駅北に大型コンベンション施設ができ、第2東名や伊豆縦貫道整備がさらに進む。県中部、西部のような一極集中型ではなく、複数の都市が経済や教育、文化・スポーツなどの機能を分担し、連携しながら地域全体の発展を図る「分担型の地域構造」がより鮮明になってくる。
 伊豆縦貫道が全線開通すると、東名沼津インターから下田までが60分で結ばれる。今の社会状況を考えると実現にはさらに多くの時間がかかりそうだが、重症の救急患者を24時間受け入れ可能な順天堂大学静岡病院まで、下田市から陸路で1時間20分もかかることを考えると、縦貫道は東部と伊豆を結ぶ生命線だ。
 地域の発展に欠かせない道路網の整備。東駿河湾環状道路の開通は、東部・伊豆全体のグランドデザインをもう一度考える大きなきっかけになるだろう。



  住民の「本音」引き出すまちづくり― [まち創り函]の活動
  「まちづくりに成功のカギはない」と話す小川座長。行政と事業者・住民が一緒に取り組み、事業を推進したいと話す
  ■「まちづくりに成功のカギはない」と話す小川座長。行政と事業者・住民が一緒に取り組み、事業を推進したいと話す
 函南町のまちづくりで重要な役割を担うのが、商工会メンバーでつくる[まち創り函]。「これからのまちづくりには住民の発意が欠かせない」との森町長の提案で2008年に設立された。
 以来、商業や観光、安全・安心など5つの部会に分かれ、特産の牛乳を使ったスイーツコンテストや「かんなみ猫おどり」の活性化、地場産品の商品化などで実績を積んでいる。
 東駿河湾環状道路開通にあわせた中心市街地の活性化は、 [まち創り函]を中心に住民と専門家、行政が加わり、3度の議論を経て提言書にまとめられた。提言書づくりの中心となった[まち創り函]の小川洋輔座長は「地域を盛り上げていくためには、住民が“本音”で語り合い、意見をぶつける方法が一番」と力を込める。
 提言書では、キミサワやルピア函南など既存の商業集積を生かしたにぎわいづくりや、街中の住環境の向上、歩行者でにぎわう市街地づくりなどを提案。高架沿いの幅10メートルの歩道をゆっくり散策や買い物などが楽しめる空間として描いている。
 伊豆中央道と合流する函南塚本インター付近には「道の駅」を提案した。「よそのまねでない、オリジナリティーをどのように出していくか。それには、商工農が連携し、農業を活(い)かした商品やサービスを生み出すことが大切」と小川座長。また、伊豆全体の情報発信拠点の役割も担わせたい考えという。
 今後は道の駅の実施計画づくりに向け、行政と二人三脚で取り組んでいく。



■企画・制作/静岡新聞社営業局

▲ページトップ
入会案内お問い合わせ事務局案内リンク Copyright(c) SUNFRONT21.�ALL RIGHTS RESERVED.