サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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 全国各地でスポーツを切り口に交流人口の拡大を目指す活動が活発化している。新潟県は「スポーツ合宿のメッカづくり事業」を県が主導、市町村に働き掛け、個別の取り組みを県全体の広がりをもった地域戦略へと発展させている。9月の「風は東から」は、「スポーツを活用した地域振興」を取り上げる。県東部地域支援局が行った調査や伊豆市の事例を見ながら、スポーツイベント、合宿誘致などを地域活性化に結び付ける方法を考える。 風は東から

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ6

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スポーツで交流人口促進 必要な観光の視点と連携強化
「沼津・戸田を全国にPRしたい」と語る栗原市長
■「沼津・戸田を全国にPRしたい」と語る栗原市長

人気が高い市民マラソン

 多くの人が楽しむスポーツ。ワールドカップのような大きな大会だけでなく、学生の合宿や高齢者に人気のグラウンドゴルフなど、今やスポーツは地域ににぎわいをもたらす大きな原動力となっている。
 中でもマラソンは手軽に始められるスポーツとして人気が高い。2007年から始まった東京マラソンが新たなブームの火付け役となり、健康志向の高まりを背景に、大阪、京都など大都市型のマラソン大会が次々と立ちあがっている。
 静岡県東部でも伊豆箱根鉄道修善寺駅から三嶋大社までの約21キロを走る「伊豆マラソン」をはじめ、「富士裾野高原マラソン」や「伊東オレンジビーチマラソン」、「ふじかわキウイマラソン」など数多くの大会が開かれ、県内外から多くの参加者を集めている。11月20日には、来年開通する新東名高速道路を記念して県、静岡陸上競技協会などが「ふじのくに新東名マラソン」を開催する。最初で最後の大会とあって、全国から定員1万人を大幅に上回るエントリーがあった。
 沼津市は今年から、東京大学運動会・東京大学が主催し、毎年開催されてきた伊豆・戸田マラソンに連携・協力し、新たな取り組みを始める。栗原裕康沼津市長は「今まではフルマラソンとハーフマラソンがあり、一部の市民が参加していたが、マラソンブームや『東大ブランド』をまちおこしに利用できないかと考え、高校生などが参加できるチャレンジランを企画した」と語る。
 今年は10月23日に開催。新たに設けるのは、高校生・大学受験生を対象にハードな上り坂を一気に駆け上がる11キロのコースで、市内外から挑戦意欲にあふれた高校生・受験生を呼び込みたい考えだ。関係者は戸田地区に前泊し、レース後は地元との交流会も予定されている。

  夏場は大勢の合宿でにぎわう伊豆市内のグラウンド
■夏場は大勢の合宿でにぎわう伊豆市内のグラウンド


効果は36億円

 昨年度、県東部地域支援局は東部・伊豆20市町を対象にスポーツイベントや合宿の受け入れに関する実態調査に乗り出した。東部で盛んな「サッカー」「バレーボール」「ソフトボール・野球」「マラソン・駅伝」「自転車」の5種目について、市町のスポーツ担当部署、体育協会、観光協会や旅館組合、民間企業・団体などに受け入れに関するアンケートを行った。
 調査を企画した同支援局の太田直樹主幹は「観光入込客数が落ち込んでいる中で、新たに交流人口を生み出す方法を模索している。スポーツ合宿の受け入れが意外に多いという話を各方面から聞くが、どこも具体的に把握していなかった。現状を調査し、上手にPRすることで誘客につながれば」と狙いを語る。
 調査の結果、東部では「マラソン・駅伝」の大会が活発に行われていることが分かった。これは市町や体協の主催が多く、地域内のさまざまな団体が情報を共有しやすいことが理由。また、「ソフトボール」は数こそ少ないが、実業団リーグの試合あるいは全国大会が多く、レベルの高いスポーツイベントが展開されているのが特徴だ。
 経済効果を見ると、2008〜10年に東部地域で実施され、今回の調査で把握できた大型イベントによる消費額は36億1200万円。また、合宿での推計はもっとも規模の小さいケースで年間3億3800万円、もっとも大規模なケースで20億4600万円と試算された(注)。

●事例紹介
第35回全日本少年サッカー大会
8月1〜6日にかけ、御殿場高原時之栖裾野グラウンド(裾野市)と愛鷹広域公園多目的競技場(沼津市)で開催された。全国から48チームが参加し、選手、関係者、応援の家族なども含めると約3000人が訪れた。支援局の試算ではこのイベントの経済効果は約2億4000万円に上る。

 合宿の開催を把握しているのは回答した団体の約3割にとどまった。中でも宿泊施設との関係がより深い商工会議所・商工会や観光協会・旅館組合などで「なし」の比率が高く、地域や業界団体は実態を把握できていない状況が浮き彫りになった。

注:もっとも規模の小さいケース【把握された合宿件数のみ、宿泊単価8000円、平均1泊】もっとも大規模なケース【合宿人数を東部全体で推計、宿泊単価12000〜15000円、平均2泊】



地域一丸で合宿誘致
合宿の合間に土肥金山で砂金採りを楽しむ生徒ら
■合宿の合間に土肥金山で砂金採りを楽しむ生徒ら
 伊豆市は2009年から「伊豆魅力(三力)プロジェクト」を立ち上げた。三力とは、「伊豆力」「交流力」「人間力」のこと。市内にあるスポーツ施設と温泉施設や海・山などの自然資源を生かし、多くのスポーツイベントや合宿を取り込んでいる。
 合宿や大会の依頼が入ると、運動施設の予約はもちろん、必要に応じて、宿泊施設、弁当、地域内の輸送予約や土産物店の紹介まで、事務局が一元的に行う。地元の子どもたちとの交流試合を企画するのも事務局の仕事だ。
 昨年度は27の大会や合宿を呼び込み、約3500万円の経済効果を生んだ。本年度は8月末までに32の誘致に成功している。8月の「高校男子ソフトボール・サマーキャンプin伊豆」には全国から34チームが参加。延べにして1300泊、宿泊費、弁当代、施設利用料など約1000万円が直接経費として地元に落ちた。
 受け入れ旅館の1つ、船原館(同市上船原)の女将・鈴木恵子さんは「今年初めて受け入れた団体が、来年の予約をしてくれた。一度来てもらえれば、宿や伊豆の良さを分かってもらえる。魅力プロジェクトはお客さまとの新たな『縁』をつないでくれる」と語る。
 新たな取り組みとして、地産地消を意識した食事の提供や地域交流にも力を入れる。湘南学園(神奈川県)の運動部約150人は、4泊5日の合宿のうち半日を観光にあて、土肥金山での砂金採りを楽しんだ。また、昼の弁当も地元の野菜をふんだんに使ったメニューを工夫。キンキンに冷やした朝採りトマトとキュウリは生徒たちに好評だったという。
 同プロジェクトを中心になって進める事務局の大路弘文さんは「合宿は春と夏、特に週末に集中するので、それ以外の需要をいかに生み出すかが課題。そのため、ゲートボールやグラウンドゴルフなど平日でも可能な高齢者のニーズを、県東部から神奈川周辺までの範囲で探っている」と語る。


自然、温泉、アクセスなど東部に優位性
 地域間交流や経済活性化など、さまざまな波及効果が見込まれるスポーツによる地域振興。栗原沼津市長も「ここには伊豆山稜線歩道がある。虹の郷から達磨山を通り、西伊豆を抜け、天城峠に至る素晴らしいコースだ。中高年に人気のトレイルとしてPRしたい」とスポーツによる誘客の可能性を指摘する。
 支援局の調査では、今後、大会や合宿を「誘致する予定・計画がある(15.4%)」、「将来的に誘致は必要(41.1%)」と、時期の差はあるが取り組む意思のある団体は約6割を占めた。一方で「分からない」という回答も30.8%あり、誘致に否定的な意見は少ないものの、取り組み方針を明確にできない団体が多いことがうかがえる。
 太田主幹は「東部は豊かな自然に恵まれ、さまざまなスポーツが実践できる。温泉もあり、首都圏に隣接するなど、スポーツ合宿や大会を受け入れる条件がそろっている」と東部の優位性を挙げる。今後は市町を対象に、時之栖や魅力プロジェクトなどの成功事例を紹介しながら、地域の機運を高めたいと考えている。
 大路さんは「大会や合宿の受け入れに周囲の自然環境の活用や食、そして地元の人々のホスピタリティは欠かせない。今までスポーツと観光はバラバラに行われてきたが、スポーツを軸に観光事業者や市民を巻き込んだ誘致を進めたい」と語る。第3種旅行業も今年中に取得するという。
 沖縄県は沖縄観光コンベンションビューロー内にスポーツ担当者を置き、スポーツ合宿や大会の誘致を手掛けている。東部でもJR沼津駅北のコンベンションセンター開設をにらみ、コンベンション誘致が活発化するだろう。地域の文化や自然資源を生かし、より多くの人々を引き付ける入り口として「スポーツ」は大きな可能性を秘めている。
東部で開催予定のマラソン大会



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