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認定に向け13市町が協議会設立 |
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ジオパークは地殻変動や火山噴火などの地球活動によって生まれた大地の遺産(ジオサイト)とそれにまつわるストーリーを楽しむ自然公園をいう。2004年、ユネスコ(国連教育科学文化機関)の支援で世界ジオパークネットワークが設立され、日本からは室戸岬や洞爺湖有珠山を含む5つの地域が認定されている。
今年3月、伊豆地域の7市6町(沼津・熱海・三島・伊東・下田・伊豆・伊豆の国市、東伊豆・河津・南伊豆・松崎・西伊豆・函南町)と県、観光協会、地元大学、NPO法人などが「伊豆半島ジオパーク推進協議会(会長・佃弘巳伊東市長)」を設立。伊東市役所内に事務局を置き、専任研究員を含め5人体制で認定に向けたさまざまな活動を行っている。
世界ジオパークネットワークに認定されるには、日本ジオパークネットワークに加盟し、2年間の実績を積む必要がある。養成したガイドの数やビジターセンターの設置数といった明確な基準はないが、訪れる人にジオパークの魅力をきちんと伝えることができるかが最も重視される。そのため、ジオサイトを案内するガイドの養成やガイドマップ、表示看板などの整備が求められる。
■下田市白浜で講師の説明に熱心に耳を傾ける受講者 |
ガイドには、伊豆半島全体の成り立ちを理解した上で、個々のジオサイトの魅力を自分の言葉で伝えられる力量が求められる。先進地の糸魚川ジオパークでは独自のガイド認定制度を設けているほどだ。
協議会は6月から3ヵ月間、ガイド養成講座を開いた。協議会に加盟する市町の推薦を受けた51人が参加、伊豆半島の成り立ちや地形・地質・岩石学の基礎、地図の読み方、伊豆の植生や動植物などの講義をはじめ、ジオサイトの実地研修など本格的な内容だ。
今月11日には修善寺総合会館で修了式が行われた。受講生を代表し伊豆市の伊藤博さんが「学んだ内容をもとに、地元に残る言い伝えなども参考にしながらジオの物語をつくり、地域の皆さんと楽しみたい」とあいさつ。修了者は今後、実地訓練を積むとともに、各地のガイドのリーダー役を担う。 |
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地域住民への理解促進 |
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ガイドの養成と同じく、協議会が力を入れるのが地域に住む人や企業、団体に向けた出張講座やジオツアーだ。協議会の堀野順章事務局長は「ジオパーク推進には地域住民と行政や民間団体が協働することが大前提。協議会が主催するもの以外にも各地の商工会議所やロータリークラブ、インターネットを通じた集まりなど、話を聞きたいという申し出には積極的に対応している」と語る。松崎町観光協会は、町議や町職員、教育関係者ら約40人が船に乗って波勝崎などを見学するツアーを開催、地元の景勝地の成り立ちに理解を深めた。
講演依頼が増える一方で、地質学や火山学をベースにしているだけに専門用語が多く一般の人にはとっつきにくい。協議会は難しそうなイメージを身近なものに置き換えて、楽しく理解してもらえるよう知恵を絞る。
8月には幼稚園、小学生の親子を対象に小室山火山学習を行った。子どもたちはスコリア(火山灰)の標本を作り観察。協議会の鈴木雄介専任研究員が、マグマがガスで泡立つ様子をカルメ焼き作りの映像を見せて説明した。
ペットボトルに入ったコーラをマグマに見立てた噴火実験や、パン(甘食)の上からチョコレートを流して川奈付近の地形ができる様子を再現するなど、さまざまな工夫を凝らす。鈴木研究員は「単に見学しても面白いが、実験を加えるとまた楽しみが増える。難しい話を面白く解説することで、親子で興味を持ってもらえれば」と語る。
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ジオパークで観光振興 |
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■噴火の秘密をさぐる。マグマは泡立つと噴火することをコーラを使って実験した |
観光が基幹産業の伊豆半島。集客数が年々下降線をたどる中、ジオパークを観光振興にどうつなげるかは観光関係者にとっても大きな関心事。西伊豆・堂ヶ島アクーユ三四郎の山本敦己社長は「今まで景色の一部として捉えていた三四郎島のトンボロ現象が、ジオの知識を持つことでお客さまとのコミュニケーションツールになる。散策に適したジオサイトも多いので、高齢の方にも受け入れられやすい。ジオにちなんだ食が提供できればなお面白い」と活用のアイデアを巡らせる。
いとう漁協は漁船を使い、城ヶ崎海岸で海から見るジオツアーを計画している。漁船は小回りがきく上、海を知り尽くした漁師が案内するので、ダイナミックな景観がすぐそばで楽しめる。
ジオパーク活動を応援しようと、伊東のシンボル大室山をパンにしたのが市内の観光企画会社「オフィスS・S・S」(菊地勉代表)。伊東マリンタウンなどで販売している。下田市観光協会は下田の魅力をカラフルなパンフレットにまとめた「30カラーズプロジェクト」の中に、ジオパークを取り入れている。現在、南伊豆では石丁場と地元の文化を巡るツアーを企画中だ。
協議会事務局の高橋誠主査は「ジオパークをよく知れば知るほど、土や石だけでないさまざまな産業に応用できる。いとう漁協などはいち早く目をつけてくれた。狩野川のカヤック体験もジオの物語を追加して魅力を高めている。たとえばケーキ屋さんなら、地層をミルフィーユに見立てた新商品を開発するなど、イメージをふくらませてほしい」と語る。こうしたアイデアの提供も協議会で行う予定だ。
「決してメーンにはならないが、伊豆の付加価値を上げるにはいいテーマ」と話すのはJTB中部の萩原仁沼津支店長。世界遺産や大河ドラマほどの集客力はないが、認定後はジオ関係のサミットや、伊豆高原、西伊豆、南伊豆の一部で受け入れている修学旅行の体験メニューとして需要が増えるのでは、と話す。
先行する糸魚川や洞爺湖有珠山ジオパークなどは大手旅行会社が旅行商品を販売、山陰海岸ジオパークにはJRが「ジオライナー」と名付けた特別列車を走らせ、鉄道マニアが全国から押し寄せている。 |
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地道な活動が道を開く |
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ジオパークは伊豆にとって一番古い魅力でありながら、一番新しいテーマといえる。地質や地形のイメージが強いため、一般に浸透するにも時間がかかるが、「知る喜び」は人間に備わった本能だ。温泉に入って、おいしいものを食べ、景色を見て満足するという、今までの過ごし方に、伊豆半島の成り立ちの「うんちく」が一言加わるだけで訪れる人の満足度は上がる。
地魚の刺身を天城産のワサビで食べるとき、白浜海岸に打ち寄せる波がつくりだす砂
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■公募により決まった「伊豆半島ジオパーク構想」のロゴマーク。今後はパンフレットやホームページなど、広報活動に広く使われる |
の模様を見るとき、数千万年前に南の海で生まれた伊豆半島がはるばる海を渡って本州に衝突した大地の歴史に思いをはせれば、訪れる人の心により強い印象を残すだろう。それが伊豆に行ったという満足感につながれば素晴らしい。「見て知って面白いね、というのを自然に伝えられるのがジオパーク。それを目指したい」と鈴木研究員。
伊豆半島が世界ジオパークの仲間入りをするまで、地道で実りある活動が求められる。
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