サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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 東駿河湾環状道路、圏央道の相次ぐ開通で伊豆半島が関東や静岡方面と高規格道路で結ばれた。ビジネス、観光面で大きな効果が期待される一方、医療、防災面から伊豆縦貫道の全線開通は地域の長年の課題だ。8月の「風は東から」は、伊豆地区分科会のパネル討論を取り上げる。パネリストに、田中豊下田商工会議所会頭、菊地豊伊豆市長、友広郁洋・長崎県松浦市長、野坂周子国土交通省沼津河川国道事務所長を迎え、伊豆縦貫道全線開通に向けて地域が何をすべきか討論した。コーディネーターはサンフロント21懇話会シンクタンクTESSの青山茂研究員(シード副社長)。

伊豆地区分科会パネル討論
風は東から

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ5

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未来をつなぐ伊豆縦貫道 地元の熱意で全線開通へ
■東駿河湾環状道路 渋滞解消の効果も

 青山 2月11日に東駿河湾環状道路が開通しました。
 野坂 三島塚原から函南塚本までが開通し、関東方面、静岡方面から伊豆地域への高速道路ネットワークが広がりました。開通式には伊豆半島の首長さんがみな出席され、河津桜で会場を飾っていただきました。
 開通区間の交通量は休日で1日約3万台です。東名沼津インターから天城北道路の大平インターまで、56分が30分に短縮されました。
 河津桜まつりの時期は伊豆各地で渋滞が顕著になりますが、三島市南二日町交差点では夕方の2キロの渋滞が87%も減少しました。このような効果は伊豆の観光産業にも徐々に影響を与えていると考えています。6月28日に伊豆市におけるほたるサミットで取ったアンケートは「道路の開通が伊豆を訪れるきっかけになった」と答えた方が85%でした。
 また、医療面においても、御殿場消防署のヒアリングでは、「搬送と帰りの時間が短縮され、次の出動に向け十分な準備ができるようになった」と回答があり、開通の効果があらわれています。
 田中 伊豆縦貫道の期成同盟会の会長をしています。東駿河湾環状道路が2月に開通して初めての夏を迎えます。圏央道が開通し、北関東から伊豆に入りやすくなりましたので車のナンバーを期待をもって見ています。伊豆、特に下田は夏の間は混むから行きたくない、という声をよく聞きますので、このイメージを払しょくできるのではと考えています。
 菊地 先日、修善寺〜新宿間の高速バスを使ってみました。以前は池尻大橋まで3時間半かかっていましたが、開通後2時間20分になり、定時性が増しました。シニア向けの観光誘客には定時性の確保は極めて大きい。また、スポーツツーリズムに力を入れていますが、天城ドームや野球場がある「天城ふるさと広場」までのアクセスが良くありません。しかし、伊豆縦貫道が月ヶ瀬まで通れば、そこから10分ほどですので、合宿誘致などに今以上の効果を発揮すると思います。

 あと4年で天城北道路が開通します。それまでにまちづくりを進めたい。土肥地区には世界一大きな花時計と世界一の金塊を有する土肥金山がありますが、お客さまが2〜3時間滞在できるような仕掛けをどうつくるか。湯ヶ島地区の「東京ラスク工場」にも大勢の方が立ち寄ります。すぐ近くにある残土置き場をどう活用するかも課題の一つです。
■パネリスト
友広 郁洋
長崎県松浦市長

1962年松浦市役所入り。企画振興課長兼ダム・火電対策室長を経て旧松浦市助役。2006年松浦市長初当選、現在3期目。
■パネリスト
菊地 豊
伊豆市長

1981年防衛大卒業後、陸上自衛隊入隊。防衛大教官、国連モザンビーク平和維持活動に携わる。2008年伊豆市長初当選、現在2期目。




■災害面で欠かせぬ 伊豆縦貫道

 青山 松浦市は長崎県北松浦半島の北西部にあり、人口、世帯数ともほぼ下田市と同等です。半島ならではの脆(ぜい)弱性も持っています。全長150キロの西九州自動車道路で唯一未事業化だった「松浦佐々道路」が本年度、新事業採択されました。その経緯をうかがいます。
 友広 西九道は1987年に高規格の幹線道路に決定され、2007年に計画策定、その後まったく動きませんでした。06年に市長に就任してからは、松浦市の将来はこの道路開通にかかっているとの強い思いから、積極的に働きかけをし、通常3年かかる環境アセスメントなどを1年半で完了しました。
 西九道への期待は何といっても主要都市とのネットワークです。移動時間の短縮は物流効果を生み出し、全国有数の漁獲高を誇る魚はブランド化され、関東、関西方面に出荷されています。医療面では医師数が少なく、周産期医療などを佐世保市に依存していますが、道路が完成すれば時短だけでなく、搬送時の患者さんへの負担も少なくなります。
 また、松浦市の全域、佐世保市、平地市は玄海原発の30キロ圏です。あってはならないことですが、万が一の時の避難路としても位置付けています。
 田中 伊豆縦貫道も当然観光、経済に対する影響は大きく、開通すればやっとほかの地域と競争できるという思いです。東京近辺から大体2時間あれば日光、軽井沢に行けますが、同じ距離でも今は下田まで3時間半。国道135、136号は降雨量200ミリなど規定値を超えると通行止めになりますし、最近はゲリラ豪雨でがけ崩れなども懸念されます。
 ここ10年の観光客の伸び率は、伊豆半島北部の1・16に対し、南部は0・56。同じく人口の伸び率も北部の1・03に対し、南部は0・83と低い水準です。
 伊豆縦貫道が全線開通すれば、半島の南北間交流をはじめ経済、医療、防災、すべての面で下田が抱える問題解決の糸口になるでしょう。
 野坂 伊豆半島における救急医療を見ると、現在五つの市町が第3次救急医療施設の1時間圏域に入っていませんが、伊豆縦貫道が全面開通すれば全て入ります。
 当地域で大規模模地震が発生する確率は30年以内に88%と、大変高い。これが起こった時に現状の幹線道路は復旧に1週間程度かかるという想定が静岡県から出されています。救命・救援ルートを確保するための「伊豆版くしの歯作戦」を成功させるためにも伊豆縦貫道をはじめとする災害に強い道路網の整備は欠かせません。災害が起こってから動くのでは遅いのです。

 菊地 実は災害が大きくなればなるほど、自衛隊の大規模な救援は望めません。伊豆市に来る自衛隊はおそらく70人、実働50人程度でしょう。「伊豆版くしの歯作戦」が機能する体制を平時からとらなければなりません。

■パネリスト
田中 豊
下田商工会議所会頭

大成道路(現大成ロテック)を経て1980年丸三工業(下田市)入社。94年代表取締役社長。2010年下田商工会議所会頭。

■パネリスト
野坂周子
国土交通省沼津河川国道事務所長

1998年建設省入り。大臣官房技術調査課課長補佐、道路局企画課企画専門官などを経て、今年7月から沼津河川国道事務所所長。


■縦貫道全線開通へ 理解と協力不可欠

 青山 伊豆縦貫道は唯一伊豆市―河津町(天城峠区間)の事業化決定がなされていませんね。
 野坂 全国規模で伊豆縦貫道整備の重要性、必要性を訴えていくことが大切です。そのためには地域の皆さんのご理解、ご協力が不可欠です。ぜひサイレントマジョリティから脱却し協働していく、このステップを一緒に踏んでいくことが必要です。
 道路がつながると、新たな地域間競争を発生させることにもなります。しかし、伊豆半島にはグランドデザインが策定されています。この半島自体が宝であること、大切に思う皆さんの気持ちを一つにして、共に行動を起こしていくことができればと思います。
 友広 私たちは国や関係機関に対して積極的な要望活動をしました。議会にも参加をいただき、建設促進期成会など数多くの組織を設けて、間断なく陳情や要望を行いました。昨年は県知事を先頭に国会、国交省、財務省、九州地方整備局などに集中的に要望を行っています。松浦の将来の鍵を握るという信念のもと、すべてに参加しました。
 また、地元の熱意をアピールする市独自と周辺市町の決起大会をそれぞれ開きました。市の組織に西九道推進室を設置しています。国交省が用地交渉をする時は市の職員を常に派遣させる、市が先行取得をするなど、積極的な地元調整はもちろん、工事の苦情などの窓口も市にあります。
 菊地 今、伊豆縦貫道がわれわれの手に届くか届かないかのところにあります。あとは行動あるのみです。何としても来年度、天城峠区間の計画段階評価への格上げを目指すべきだと思います。
 田中 昨年もかなり要望活動をしましたが、残念ながら見送りになりました。今年は5月と6月に署名活動をし、区長会の組織にご協力いただきながら1カ月で約1万人の署名が集まりました。できましたら、ほかの町でもやっていただければ、非常にいい効果が得られるのではと思っています。

 友広 真に必要な道路は必ず成立されると確信しています。天城峠区間が全国のほかの路線に負けない必要性を具体的に示すことで、皆さんの熱意で国に(着工の)スイッチを押してもらうことだと思います。

■コーディネーター
青山 茂
シード取締役副社長

オリエンタルランドを経て、1986年シード入社。県内外の企業、自治体のプロジェクトをプロデュース。静岡県、沼津市などの委員を務める。



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