青山 世界文化遺産としての富士山を真の観光地にするためにどうすればよいか伺います。まず、工藤さんから富士山の麓に住むきっかけについてお話しください。
工藤 29歳の時に、健康診断で引っかかり、それまでの生活や食事を徹底的に見直しました。それを機に富士宮市に移住し、自然農法による野菜栽培やレストラン経営をしています。
家から見る富士山が本当にきれいで、富士山を見ながら死にたいと思うほどです。ところが静岡県で育った主人は富士山に感動しません。富士山とともに育った人はあることが当たり前なのです。
山田 富士山が自分たちの心の支えや思想の基になっていないのでしょう。スイス・ヴァレー州の人たちは、マッターホルンが見える場所に住む人も住まない人も自分たちの州をマッターホルンステイツと呼ぶほど、山に価値を置いています。富士山の位置付けも見直した方がいいですね。
工藤 私たちは日本の良さや富士山の良さを学校では教わりません。しかし、海外の方は自分の国に誇りを持っていますね。その人たちに私は何で対抗できるのか、と考えるとやはり富士山です。
山田 富士山の良いところを知らないので、生かし方がわからない。食材を扱う料理人と一緒です。教育の話だけにまとめたくないですが、ヨーロッパはアイデンティティー教育が基本です。日本では歴史を古い順に習いますが、海外は今の生活からさかのぼって教えます。日本は教養教育が弱いと言われますが、こういう部分とリンクしないと難しいと思いますね。
工藤 私は毎朝、富士山を見ながら飲む一杯のコーヒーにすごく価値を感じていますが、自分の価値観で生活を楽しんでいる家庭がどれだけあるでしょうか。
海外の方は自分の生活をとても楽しみます。日本でも生活を楽しむことが普通になれば、富士山の良さ、自慢をしたくなる感覚が湧き上がってくると思います。しかし、そうした生活が日本では難しい。自宅に友人を招いてホームパーティーをする、ガーデニングに精を出すという感覚が、町を自慢したい気持ちにつながり、そこに人が魅力を感じて訪ねて来てくれるようになる。そうした住民の感性の底上げがまだ足りないと思います。
|