サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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県東部の活性化策を提言する「サンフロント21懇話会」は、これまでの富士地区分科会の名称を富士山地区分科会と改め、今月2日、御殿場市で初開催した。11月の「風は東から」は、「世界遺産富士山を真の観光地とするために」と題したスペシャルトークの模様を取り上げる。日本政府から「観光カリスマ」に認定されているスイス在住の山田桂一郎さんと、富士宮市で自然農法やレストラン経営を続ける女優の工藤夕貴さんが、富士山独自の価値を発信する方法について話した。聞き手はシードの青山茂副社長(懇話会シンクタンクTESS研究員)。

富士山地区分科会パネル討論
風は東から

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ7

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富士山の本質見極め 健康長寿の価値発信
■まだ足りない感性の底上げ

 青山 世界文化遺産としての富士山を真の観光地にするためにどうすればよいか伺います。まず、工藤さんから富士山の麓に住むきっかけについてお話しください。
 工藤 29歳の時に、健康診断で引っかかり、それまでの生活や食事を徹底的に見直しました。それを機に富士宮市に移住し、自然農法による野菜栽培やレストラン経営をしています。
 家から見る富士山が本当にきれいで、富士山を見ながら死にたいと思うほどです。ところが静岡県で育った主人は富士山に感動しません。富士山とともに育った人はあることが当たり前なのです。
 山田 富士山が自分たちの心の支えや思想の基になっていないのでしょう。スイス・ヴァレー州の人たちは、マッターホルンが見える場所に住む人も住まない人も自分たちの州をマッターホルンステイツと呼ぶほど、山に価値を置いています。富士山の位置付けも見直した方がいいですね。
 工藤 私たちは日本の良さや富士山の良さを学校では教わりません。しかし、海外の方は自分の国に誇りを持っていますね。その人たちに私は何で対抗できるのか、と考えるとやはり富士山です。
 山田 富士山の良いところを知らないので、生かし方がわからない。食材を扱う料理人と一緒です。教育の話だけにまとめたくないですが、ヨーロッパはアイデンティティー教育が基本です。日本では歴史を古い順に習いますが、海外は今の生活からさかのぼって教えます。日本は教養教育が弱いと言われますが、こういう部分とリンクしないと難しいと思いますね。
 工藤 私は毎朝、富士山を見ながら飲む一杯のコーヒーにすごく価値を感じていますが、自分の価値観で生活を楽しんでいる家庭がどれだけあるでしょうか。

 海外の方は自分の生活をとても楽しみます。日本でも生活を楽しむことが普通になれば、富士山の良さ、自慢をしたくなる感覚が湧き上がってくると思います。しかし、そうした生活が日本では難しい。自宅に友人を招いてホームパーティーをする、ガーデニングに精を出すという感覚が、町を自慢したい気持ちにつながり、そこに人が魅力を感じて訪ねて来てくれるようになる。そうした住民の感性の底上げがまだ足りないと思います。

山田 桂一郎 氏
JTIC.SWISS代表
内閣府・国土交通省・農林水産省認定「観光カリスマ」
1987年スイス・ツェルマット観光局で日本人向けインフォメーション、セールスプロモーションの担当となる。1992年に「JTIC.SWISS」を設立。現在、観光や地域振興・活性化のプロデューサーなどとして、全国から招聘されている



■環境とツーリズム地域発展の両輪に

 青山 地域ができることとして何がありますか。
 工藤 まずは自分の家をきれいにすることでしょう。住む場所をきれいにすることで、美しいものが集まってくる。農業もそうですが、病害虫対策で農薬をまいてしまうと、もう農薬を使わないと成り立たない畑になってしまう。同様に観光も浄化していくこと。地域が美しくなれば、戻りたいと思う若者も増えるのではないでしょうか。
 山田 きれいにしようという意識が個々の家から波及して、地域に広がる。スイスなどはべランダの花を住民が競って咲かせていますが、日本の場合は補助金で整備してしまう。
 ここが大きな違いで、地域住民に必要とされていることが先で、かつ観光という仕組みでお客さまを幸せにすることが重要です。私がツェルマットに住み着いたきっかけは、観光のために車の乗り入れをやめさせたのでなく、地元の人のためだったことを知ったからです。
 青山 観光か保全か、と対立概念でとらえがちですが、地域をそのまま伝えていくことが大前提ですね。
 山田 単に富士山を見て帰るだけではお金が落ちないので、どのようにお金を使ってもらうかを考えないとなりません。その時にエコロジー(環境保全)とサスティナブル(持続可能)は外せないキーワードです。つまり、保全と利活用のバランスをどう取るかで、観光リゾート地は自然も含めた環境とツーリズムが発展の両輪です。
 人が地域に住み着いてから自然環境とのかかわりで培った中に本質的な価値があります。もちろん、変えてはいけない部分と、ビジネスとして変革が求められる部分があって、そのどこに線を引くのか。また、ビジネスにする際、本質的な価値を理解しないとおかしなものが出来てしまいます。

 工藤 うちの近くに人穴という洞窟があります。仙人が住んでいたとか、極楽浄土の入り口とか言われていたと聞きました。古くから富士山は多くの画家に描かれていますが、例えば、有名画家が富士山を描いたスポットをマップに落とし、実際にその場に行って富士山を眺められるツアーがあればぜひ参加したいですね。富士山芸術の源流を追う意味で面白いと思います。

工藤 夕貴 氏
女優

1983年芸能界入り。数々の日本映画をはじめ、「SAYURI」などのハリウッド映画へも多く出演している。アメリカから帰国後は富士宮市に移住し、自然農法での野菜栽培や、レストラン「カフェナチュレ」の経営をしている



■問題解決に必要な総括と理念

 青山 今は登山客数に目が行きがちですが、それだけでは経済効果に限界があります。
 山田 富士山のマーケティングは誰がするのでしょう。マーケティングの基礎になるような顧客データを持っているのでしょうか。個々のホテル、事業者はやっていますが、エリアで考えないと、自分たちの都合優先になって、地域がだめになると思います。
 問題を解決するには二つあります。まずは「総括」。今まで何をやってきたか、結果がどうだったか。もう一つは山梨・静岡に共通した「理念」。理念とは、将来像と価値を指します。世界に対する、地元に対する社会的使命は何か。ヨーロッパのまちは50年、100年後の将来像が明確です。世界的に非常に伸びている企業のHP(ホームページ)には将来像と市場に対する価値、社会的使命が明確に書かれています。お客さまを見ているだけではだめで、そのあたりがしっかりしないと、課題解決はできません。
 工藤 静岡県と山梨県の温度差も気になります。イコモスから出された宿題に対して、一丸となって問題点を解決していく姿勢を持ってほしいですが、今は富士山イコールお金もうけとなっている気がします。私たちがどんな富士山を見てもらいたいか、というものを持っていないといけませんね。
 山田 この地域は、健康や長寿という価値をもっと出していいと思います。というのも、海外からの評価で一番高いのは日本の健康長寿だからです。日本食がまさしく世界遺産になって、健康食として認められていますが、この地域が富士山を中核に置きながらここに来れば健康長寿になれる、ということをもっと世界に発信していただきたいですね。
 工藤 富士山は「不二」とも書きますね。富士山に登るのは、不死身の体を得られる感覚があったと聞きます。世界中で唯一神が多い中、日本人は八百万(やおよろず)の神を信じる国民性です。そういう神秘の国を体感してもらえるものがいいと思います。永福寺や京都、精進料理は外国人に人気ですね。
 山田 同じ健康長寿でも多様性の出し方は相手によって明確に変わります。中国ならより風水に近くなったり、ヨーロッパなら美容系や禅の要素を入れたりする。この地域は長寿という価値があり、世界中に対する社会的使命としての富士山の役割があると思います。富士山周辺に住んでいる人たちが健康長寿を体現していないと、リアリティーがない。将来的な伸び代からするとここは相当ポテンシャルが高い。ただ、どう生かすかのマーケティングも相当必要です。

 工藤 静岡県は健康長寿日本一です。90歳になっても100歳になっても働き続けられるような、世界一健康寿命の長い日本人を生み出す地域を目指していってほしいですね。

青山 茂 氏
シード取締役副社長
(懇話会シンクタンクTESS研究員)

オリエンタルランドを経て、シード取締役副社長。県内外の企業、自治体のプロジェクトのプロデュースを手掛ける。「ふじのくにしずおか観光振興アドバイザー」をはじめ、静岡県・静岡市・沼津市などで各種委員を務める




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