サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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風は東から   静岡がんセンターの開設を契機にファルマバレープロジェクトが始まって14年。医療健康産業では日本屈指の集積地(クラスター)に成長した。第3次戦略計画では、医薬品・医療機器の目標合計生産額を2014年度の1兆円から20年度には2兆円に倍増させる計画で、その実現のため「県医療健康産業研究開発センター」を始動させる。7月の「風は東から」は、ファルマバレープロジェクトの現状と将来性について、本県出身で同プロジェクト第3次戦略計画検討委員を務めるで東京工業大学環境・社会理工学院の橋本正洋教授に聞いた。(聞き手・編集部)。

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ4

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産業クラスター形成に弾み 新拠点が技術革新を加速
■クラスターを高評価

― 橋本先生と同プロジェクトのかかわりをお話しください。
橋本 経済産業省商務情報政策局サービス産業課長のころ、大学や研究機関を核に地域にコンソーシアムをつくり、新しいサービス産業を育てる政策を進めていました。シリコンバレーやボストン、ノースカロライナなど米国発祥のバイオやIT産業クラスターがうまくいっていて、日本でも2000年代になって地域クラスターの重要性が認識されていた頃です。
ファルマバレーについては、医療を産業として見なす事がはばかられる時代から、医療をテーマにした産業振興に大きく舵を切ったプロジェクトとして注目していました。東部には、医療産業クラスターの核になれる大学がありません。代わりに、静岡がんセンターや同研究所がクラスターの中核となるのは発想として正しい。ただ、やはり大学ではないので東工大や東京農工大などと連携する意味があると思います。また、「かかりつけ湯」のような観光と健康を結び付ける考え方も非常に先進的でした。
私も産学連携や観光、健康などのサービス産業を担当していたこと、県内出身者であることから、県からファルマバレーの評価委員にお声掛けいただきました。

― ファルマバレーは国内外から高い評価を受けていますね。
橋本 ここ数年は、製品にとどまらず特許も含めて成果が出ています。企業のネットワークも広がってきました。
また、9月に新産業を創成するインキュベーション(孵卵器)機能を持った「県医療健康産業研究開発センター」が開設されますが、この存在は大きいと思います。
私は、大学が“器”となって、さまざまな「知」「人材育成」「インキュベーション」が「融合・反応・濃縮」して新産業が生まれる「メルティングポット理論」を提唱しています。ファルマバレーは病院が核ですから大学に比べてプレーヤーは限定的ですが、代わりに県やファルマバレーセンター(PVC)の職員がいて、周りにいろいろな企業も進出してきています。
 そこへ今回、研究開発センターというインキュベーションができ、地域の産業(企業)がこの中に入り込んできました。通常の形とは違いますが、「るつぼ」、あるいは「プラットフォーム」が形成されるという意味でイノベーション(技術革新)を生み出す可能性が一段も二段も上がったと言っていいでしょう。

■県医療健康産業研究開発センター外観


■産業化の仕組みをつくる

― 研究開発センターでは入居する企業ががんセンターなどの関係者と連携、交流し、オープンイノベーション(自社技術だけでなく他社の技術やアイデアを組み合わせて、革新的な商品やビジネスモデルを生み出す)を実現することが期待されています。
橋本 オープンイノベーションは医療産業では当たり前の手法で、製薬企業が自ら医薬品の候補となる化合物を一から開発することはもはやありません。
創薬探索はベンチャー企業や大学の役割です。その中でうまくいきそうなものを製薬メーカーが採用する。それが世界のビジネスモデルです。iPS細胞などは分かりやすい事例ですね。
医薬品だけでなく、医療機器も同様です。研究開発センターをきっかけにオープンイノベーションがまた一段階進むのではないでしょうか。
 大学が持っているようなギャップファンド(開発研究促進助成金)が県にあれば、それを活用して小さく生んで、あとはオールジャパンや世界から集めればいいでしょう。
ベンチャーを生み出す仕掛けはできたので、人材育成にも一層力を入れていただきたい。がんセンターでは高度な技術を持つ「認定看護師」の養成、また、技術経営と呼ばれるMOT講座をPVCが熱心に行っていますね。MOTでは知財の勉強もしますが、知財というのは中小企業の手が回りにくい部分ですから、ここを支援するのは非常に良いと思います。

― 生み出した成果の販路開拓も大きな課題ですね。
橋本 先日、経産省のヘルスケア産業課長が「国は健康増進への取り組みをますます支援する方向にある」と指摘されていました。より良い治療のための機器開発だけでなく、入院期間を短縮させるような機器や健康増進のための機器でもいいのですが、そういうものに国が支援するのは当然ありうる考えです。
例えば、生活習慣病関連は本人の心掛け次第で重篤化が防げる場合があります。重篤化予防のさまざまな仕組みも機器も、ファルマバレーでできるのではないでしょうか。それをお医者さんも一緒に考えるという時代になってきています。
そういうものを開発したら、AMED(日本医療研究開発機構)と意見交換してほしい。AMEDの母体は薬事法の審査機関でしたが、医療産業の重要性を認識する安倍政権のもと改組され、自ら研究開発も行うようになりました。厚労省だけでなく、経産省・特許庁から人と予算を出しています。例えばAMEDの幹部と静岡がんセンターの山口建総長がお話しいただければ健康増進に関する良いアイデアが出るのではないかと思います。
 医療は規制の強い分野です。良いものを作ってもすぐに売れるとは限りません。そこは、AMEDだけでなく、政府や厚生労働省の幹部など、国の責任者と議論をしていくのが良いと思います。

■メルティングポット理論概念図


■人材確保へ 医療経営大学院を

― ファルマバレーの一番の課題は何でしょう。
橋本 やはり核となる医療系の大学が欲しいですね。大学の利点は優秀な人材が集められること。大学教育の一環で、教員と学生にこうしたクラスター形成を手伝っていただくというのは学生にとってもプラスです。
医学部の新設が難しければ医療経営大学院や医療系の大学でもいい。県立大学には薬学部がありますから、連携してつくるという形もありえます。
最近では、東京農工大と早稲田大のように国立大と私大が一緒に大学院をつくれるようになりました。がんセンターと遺伝学研究所、あるいは静大、県立大と遺伝研で医療・健康系の大学院をつくり、医療マネジメントも含めて、研究と経営の両方を教えられると良いですね。大学にはキャンパスがあってそこに人が集まる、それが副次的な価値を生むのです。

― 最後に研究開発センターへの期待をお聞かせください。

橋本 ここにはオリンパステルモバイオマテリアルやテルモ、サンスターといった研究開発に実績のある企業が入ります。こうした企業は国も応援したいと考えていますので、経産省にはどんどん情報を提供し、足を運んでもらうといいですね。
また、こうした企業とがんセンターが連携して次のプロジェクトを提案したり、場合によってはがんセンターを真ん中に、テルモとオリンパスが共同研究を始めたり、といった展開も期待できます。物理的な距離の近さもイノベーションを起こすための大きなプラス要素です。
 こうしたことを進めるために例えば、テルモとオリンパスの各トップと山口総長の座談会はいかがですか。静岡県の新産業や医療産業の進むべき方向性などを議論していただいたら面白いと思います。トップが集まって議論するというところに意義がありますし、私もぜひ同席したいと思います。次世代の研究開発と産業創成を担うファルマバレーにこれからも期待しています。

■橋本正洋 東京工業大学環境・社会理工学院教授

1980年東工大卒、82年同大学院修了。2008年東京大大学院工学系後期博士課程修了、博士(工学)。1982年通産省(現経済産業省)入省、97年大学等連携推進室長、2002年大学連携推進課長、04年サービス産業課長。09年特許庁審査業務部長。12年早大理工学術院教授、14年経産省を退官し現職。静岡市清水区出身


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