サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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風は東から アニメ「ラブライブ!サンシャイン!!」で盛り上がる沼津市。多くのファンが訪れるようになり、ラッピングバスやタクシーが走り、夏まつりのポスターや広報ぬまづの表紙を飾るなど、同作品を目にする機会が増えるにつれ、特定の人だけを対象としたブームではないことが次第に認知されてきた。9月の「風は東から」はアニメを起爆剤にした地域振興を取り上げる。オタク文化にとどまらない、地域活性化の本流につなげる方法について、関係者に聞いた。

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ6

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ファンが楽しむ仕掛け通じ 一過性にならぬ絆づくりを
■ 聖地巡礼で大にぎわい

■10月からTVアニメ2期が始まる「ラブライブ!サンシャイン!!」

 「ラブライブ!サンシャイン!!」の聖地巡礼の起点として一躍有名になった沼津市三浦(さんうら)地区。静浦、内浦、西浦を総称するこの地に、土日は言うに及ばず、平日もファンが訪れる。10〜30代の男性を中心に層は幅広い。
 同作品は廃校の危機から学校を救おうと立ち上がった女子高生9人が、夢と目標に向かって成長していく物語。美しい沼津の自然や街並みが綿密に再現され、まるで彼女たちが本当に生活しているような錯覚さえ起こす。こうした登場場面を巡る「聖地巡礼」がファンの間の楽しみ方の一つだ。
 昨年夏にテレビ放映されると、作中に描かれた場所を訪れるファンが増え始めた。地元企業とコラボレーションした限定商品やサービスも増え、今年に入ってから地元にも一気に認知されるようになった。
 7月の沼津夏まつりには、声優が出演する盆踊りステージを開催した。1回15分のステージを2日間で計4回行い、広場は熱気に包まれた。
 沼津市観光戦略課の山岸宏充シティプロモーション係長は「昨年の夏まつりの来場者数32万5千人が、今年は34万5千人になった。全てが作品の効果とは言えないが、大きな影響があった」と振り返る。

■作品とコラボレーションしたラッピング電車(上)とのっぽパン(左下)。右下は「広報ぬまづ7月1日号」の表紙

 広報ぬまづ7月1日号は、同作品による地域のにぎわいづくりをテーマに特集を組んだ。同課の益田紀仁主事は「広報紙は市民の皆さんと市のコミュニケーションツール。広報ぬまづをきっかけに、作品に興味を持ち、ファンを温かく迎え入れる気持ちになってもらえれば」と語る。また、市役所のホームページでアニメに登場するメンバーの誕生日をお祝いするなど、市民挙げての盛り上げを図っている。
 効果は交流人口の拡大にとどまらない。県外から毎週訪れるファンが市内に転居してきた例もある。市の移住定住窓口に相談があったり、SNSで沼津に住みたいという発信があったりする。
 本年度、市は作品が沼津市内に与えた影響について、調査を予定している。「県内にある大学のゼミが興味を持ってくれた。訪れたファンへの聞き取りアンケートなども予定しており、年齢的にも感覚的にもファンに近い学生にやってもらうことで、また違った目線での意見が聞けるのではないか」(山岸係長)と期待する。


■ 地域と交流 移住組も
■地元で開催した関連イベントの写真を見る大村文子さん(右)と長澤賢人さん
 同市内浦の「三の浦総合案内所」は今やファンの聖地だ。放送開始前は年間6千人程度だった利用者が、放送のあった昨年は一気に5万6千人を超えた。今年8月は1ヵ月で1万人を突破。うち、海外からも中国、韓国を筆頭に670人を数えた。
 8月からラッピング自転車を3台導入したところ、今まで月100人に満たなかった利用者が322人になった。初めて訪れる外国人も、登場人物ゆかりの地である大瀬崎まで足を延ばすという。
 リピーターも多い。同案内所職員の大村文子さんは「何回も来ているうちに『お母さん大変だから』と手伝ってくれる人が増えた。地元もいるが、市外や県外の子もいる。お客さんの応対や自転車の貸し出し、グッズの販売までなんでも手伝ってくれる」と目を細める。
 もともとこの三浦地区には祭りや地域清掃を行う「燦燦(さんさん)会」という地域住民の会がある。聖地巡礼がきっかけでボランティアスタッフとして同会に入ったファンも10人は下らない。そんなスタッフの一人、長澤賢人さんは静浦地区からほぼ毎日案内所に通う。「多い時は1日500人、若い人が目に見えて増えた」という。
 熱心なリピーターになると、作品に登場する場所はだいたい行き尽くしてしまう。そこで、案内所を拠点に地元を楽しみ始める人も多い。釣りをしたり、農家と仲良くなってミカンの収穫を手伝ったり―。「富士に住む友人は地元農家の手伝いをしているうちに、猟師さんとも仲良くなり、先日罠(わな)猟免許の試験を受けた」と長澤さん。三津の夏祭りでは、300キロの神輿(みこし)の担ぎ手が案内所の呼び掛けですぐに集まった。「今まで年寄りばかりで困っていたが、テントを組み立てたり片づけたり、本当に助かっている」と大村さん。アニメをきっかけにした地元との交流の輪が広がっている。

■ アニメツーリズムの聖地に

 先日、「訪れてみたい日本のアニメ聖地88」の発表があり、昨年の大ヒット映画「君の名は。」のモデルとされる岐阜県飛騨市とともに沼津市も選定された。
 10月からはテレビアニメの2期の放映も始まる。市も、内浦地区のフリーワイファイの整備など、受け皿づくりに力を入れていく。


作品理解し、ファンと一緒に地元を盛り上げたい 土屋雄二郎 沼津観光協会長

■「次のシリーズで地元のどこが取り上げられるのか、今からとても楽しみ」と語る土屋雄二郎 会長

― 「ラブライブ!サンシャイン!!」人気をどう思いますか。
土屋 夏まつりに合わせ、香陵広場で声優さんを招いたイベントを開きました。地元の私たちは、どんな人たちが来るんだろう、と最初は不安もありましたが、実際にイベントなどで接するファンは、マナーも良く礼儀正しい。夏まつりではごみ拾いにも協力してくれました。中には沼津に移り住んでいる人もいます。そういうところが理解され始めてきていると思います。
― 夏まつりの人出は昨年より2万人増えましたね。
土屋 作品の一場面で、主人公たちがナイアガラの滝(花火)の下で歌うのですが、今年は実際に「未熟DREAMER」という歌を流したところ、「かけてくれてありがとう」というSNSの反響がすごかった。来てくれたファンに、一緒に盛り上げようという地元の気持ちが伝わったと思います。
― 「おもてなし」をどう向上させていきますか。
土屋 まずは作品を見ることですね。学園物語で、主役の女の子たちが廃校になりそうな学校を盛り上げるためにアイドルを目指す。女の子同士の気持ちの葛藤や変化など心理をうまく描写しているので、感動で泣けますよ。主人公一人一人に個性があるのでつい、感情移入してしまいます。
― アニメ聖地に選ばれたことをどう受け止めていますか。
土屋 リオの閉会式を見ても分かるように、アニメは自慢の文化です。今回こういう形で選ばれたことは大変うれしく思っています。
 特にこの作品は海外のファンも多い。今、ファンの皆さんに楽しみながら市内を巡っていただける「まちあるきスタンプ」という取り組みをやっているのですが、バスの乗り方などは複雑で外国の方への説明が難しい。そこで一目で分かるツールを中国語の繁体・簡体字で作りました。
― 10月からテレビアニメの2期が始まりますね。
土屋 沼津が選ばれたというのは大変なチャンスです。この作品をきっかけに、市内のさまざまな場所に足を運んでもらえる仕掛けをどう作るか。店の良さを知ってもらったり、SNSで話題になるような商品を提供したり、それは私たちが考えるべき部分です。基本はファンに喜んでもらうこと。二次的波及効果は大きいですが、それをどう活用できるかは地元の努力と考えています。



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