サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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風は東から 新素材・セルロースナノファイバー(CNF)は、木材などから取り出された直径数十ナノメートル以下の繊維状物質。鋼鉄の5分の1の軽さで5倍以上の強度、熱による膨張・収縮が微小などの優れた特性を持つことから、多様な用途での製品開発が進められている。4月の「風は東から」は、先月行われたサンフロント21懇話会富士山地区分科会のパネル討論を取り上げる。パネリストに、静岡大学農学部の青木憲治特任教授、県産業振興財団の望月誠副理事長、小出宗昭富士市産業支援センター長を迎え、CNFの可能性について議論した。コーディネーターは静岡経済研究所の大石人士常務理事(サンフロント21懇話会TESS研究員)。

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ1

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富士地区でCNF開発を企業のチャレンジ推進
■関心高い展示会
大石 次世代新素材CNFの活用法についてディスカッションを進めます。
青木 私の専門は高分子化学、CNF科学、安全工学などです。企業経験が16年あり、前職ではガラス繊維やカーボンファイバーなどのフィラー(充てん剤)とポリプロピレンとの複合化の際に必須添加剤となる薬剤を研究開発していました。
この薬剤はフィラーとの界面接着性を向上させ、フィラーを樹脂中に均一分散させる機能を持ち、複合材料の機械的物性を向上させる役割を果たします。企業の研究者でしたから、既存市場向けに製品設計を行い、他社より安くて優れたものを開発することが職務でした。マーケティングを行っている際、CNFという素材に出合い、これまでの経験と知識がこの分野で生かせると感じていました。
今回、静岡県が静大に寄付講座を開設するということで、お声掛けいただきました。CNFを社会実装するためにはプラスチックと上手に混ぜることが必要で、その橋渡しができればと思っています。
望月 CNFとの接点は、県の産業成長戦略を進めている頃でした。非常に面白いと思い、三つのクラスター(ファルマバレー、フーズ・サイエンスヒルズ、フォトンバレー)にプラス1をできないかと考えました。CNF研究の第一人者である磯貝明先生(東大大学院教授)が静岡出身ということもあり「ふじのくにCNFフォーラム」を立ち上げました。
富士地域は製紙関係の企業が多く、将来展開としてCNFの振興に取り組んできました。サンプル企業展示会や総合展示会などを開催し、2017年は1000人近くが集まる大々的なものになりました。本県をCNFの開発におけるメッカにしたいと思っています。
小出 中小企業を支援する組織「f-Biz(エフビズ)」を立ち上げました。結果にこだわる中小企業から月に380件の相談があり、うち8割を地元企業が占めています。最も多い相談が「今までの流れを変えたい」というものです。エフビズは国のよろず相談のモデルにもなりました。CNFは県の工業技術支援センターの活用支援依頼で、県の成長戦略の評価委員をやる中、研究をどのようにビジネス化するかという話をしたのがきっかけです

青木 憲治 氏
静岡大学農学部特任教授

1999年3月東大大学院工学系研究科博士課程を修了、博士(工学)取得。2001年日本化薬に入社後、12年東京理科大大学院技術経営専攻(社会人大学院)を修了、技術経営学修士取得。17年9月同社退職、同年10月より現職



■ニッチな市場を開拓
大石 CNFを地域に波及させるためのヒントをお願いします。
望月 一つ目は情報提供です。展示相談会やコーディネーターの派遣をしています。二つ目は研究開発、販路開発の支援。工業技術研究所には、CNFを評価測定する機器を設置しています。三つ目が人材育成です。社会人の受け皿として静大に寄付講座を開設しました。四つ目がCNF関連企業の集積です。
県内事例が少しずつ出始めています。CNFの利用形態は主に(1)添加剤として使う(2)シート状にして使う(3)樹脂に混ぜて軽量、高強度を図る―の三つです。富士市を中心に進んでいます。製紙会社は紙パルプを製造していますが、CNFの抗菌、消臭機能を生かした紙おむつを製造販売しています。製紙会社以外にも、スピーカーの音響振動板や美容液などにもCNFは利用されています。
CNFの特性をどう利用するか、全国で知恵比べの様相を呈しています。例えば、うるしに混ぜて伝統産業に使うなどです。わが社ならどう使うか、まずチャレンジしてもらうのが大切ですね。また、富士地域だけでなく、家電や自動車部品に使えるようになれば全県に広がると思います。
小出 エフビズでは、今までの中小企業支援とは違うアプローチをしています。それは(1)セールスポイントを引き出す(2)ターゲットを絞る(3)連携する―などです。こうすることで1+1が3にも4にもなっていきます。
やり方としては、ニッチな部分を狙っています。R-1ヨーグルトは通常商品より割高ですが売れていますね。例えば同様に、CNFから薬品を使わずに紙ができるならば、シックハウスや化学物質過敏症のようなアレルギー体質の人向けに使えます。薬品レスのタオルペーパーの価格は通常の4〜5倍ですが、明確な課題を持っている方には分かりやすい商品です。
青木 静大でのメインテーマは、プラスチックに混ぜてきちんと強度が出る分散剤を作ることです。樹脂中にフィラーが高濃度で配合されたものをマスターバッチと言います。加工メーカーでは、これをさらに樹脂で希釈して、射出成型等によりさまざまな製品に成型しています。
マスターバッチは加工メーカーにとって非常に使いやすい形体です。私はCNF用の分散剤の開発と同時にCNFが20〜30%の濃度で配合されたマスターバッチ化を考えています。混ざらないと困っていらっしゃる皆さんに混ぜやすくて使いやすいものを作るのが任務です。環境省で採択いただいたテーマは、CNFの特徴の一つである三次元網目構造を利用したものです。CNFを添加した発泡ポリスチレンでは、気泡サイズの均一化により断熱性が向上し、消費電力削減に伴い、二酸化炭素排出量削減が可能となります。また、同省は近い将来、CNF複合材料が家電、自動車などさまざまな分野に使用されることを想定し、リユース、リサイクルのシステム構築も推進しています。CNF複合材料の実用化にはまだ課題も多く、時間がかかると思いますが、使いこなさないといけないイノベーション素材と考えてください。

望月 誠 氏
県産業振興財団副理事長

1970年東北大法学部卒業後、静岡県庁入庁。2012年県経済産業部商工業局長、14年県理事(産業成長戦略担当)、16年県公営企業管理者企業局長を歴任し、17年6月より現職



小出 宗昭 氏
富士市産業支援センター長

法政大経営学部卒業後、静岡銀行に入行。M&A担当を経て、2001年創業支援施設SOHOしずおかへ出向。08年銀行を退職し、イドム創業。富士市産業支援センターf-Bizの運営を受託、センター長に就任し、現在に至る



■領域超えた 組織化を
大石 この地域がCNFのメッカになることが期待されますね。
青木 地域のCNF技術者に言いたいのが「触ってみましょう」です。直面している技術課題に使ってみてほしいと思います。実はふじのくにCNF展示会やいろいろな展示会に伺いましたが、高分子をやっている企業さんがあまりいません。樹脂加工や分散剤、高分子を扱う企業が集まる必要があると思います。県内にはそれぞれの分野で高い技術をお持ちのメーカーがたくさんあるでしょう。手弁当で領域の垣根を取り払った組織ができればと思います。この組織づくりも私の一つの役目だと考えております。
望月 CNFに関するプラットフォームを富士工業技術支援センターに立ち上げる予定です。
CNFは水を抜くのが大変です。財団の事業で乾燥機メーカーがCNFの濃縮乾燥装置の開発をしています。プラスチックをCNFの樹脂に混ぜるのですが均等に混ぜることができるか、可視化する機器を富士工業技術支援センターに設置するので、利用してほしいですね。
CNF開発にトライする企業をもっと増やしたいので、試作品開発の支援も強化していきます。
小出 CNFタオルペーパーが試作まで進んだ背景は、富士工業技術支援センターの研究者のレベルが高かったこと、関わった企業にチャレンジ精神があったこと―です。
県の成長戦略の評価委員に就任して、トップレベルの研究者がたくさんいることに感心しました。一方でビジネス化が弱く、ビジネスチャンスがあるのに実践できていないと感じました。そこを補うのがわれわれ産業支援センターで、100点の技術でなくてもマーケティング次第で60点のレベルでも売れるのです。
ビジネス化に地域差は関係ありません。もっと県や富士市の制度を使うと良いですね。中小企業が生み出せるのは小さなイノベーションですが、それがたくさん集まればすごいことが起きると思います。

コーディネーター
大石 人士 氏
静岡経済研究所常務理事 (サンフロント21懇話会研究員)

静岡銀行入行後、1982年静岡経済研究所出向。2005年より研究部長、12年理事。専門分野は地域経済、企業経営、まちづくり、商店街活性化、行政改革など




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