サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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風は東から「2020.04.23 静岡新聞掲載」

今年1月、トヨタ自動車が発表した「コネクティッド・シティ」プロジェクトは、人とものをIoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)でつなぐ今までにないまちづくりとして注目されている。同社はこの実証都市を「ウーブン・シティ」と命名した。4月は、プロジェクトの舞台となる裾野市で、同市が進めるデジタルによるまちづくり構想を取り上げる。世界中の耳目を集めるウーブン・シティの地元自治体として、どのような取り組みをしていくのか、陣頭指揮を執る高村謙二裾野市長に聞いた。(聞き手・編集部)

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ1

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規制緩和を呼び水にITがつくる未来都市
■まちづくりにデジタルを活用
■高村謙二氏 裾野市長
1987年名古屋大法学部卒業後、豊田通商入社。その後、スーパーたかむら、パワーラインツアーズ等を経て、2006年裾野市議会議員当選。14年より裾野市長、現在2期目。
 裾野市が進めるまちづくりについてうかがいます。
 「スソノ・デジタル・クリエイティブ・シティ」、略してSDCC構想です。
一昨年、トヨタ自動車東日本東富士工場の撤退発表があり、行政的な相談を受ける中で、今後、未来の技術が人を幸せにし、暮らしを支えるようなまちを同社は目指されるのだろう、ということが容易に想像できました。
そこで、この動きに合わせる形で、本市もデジタルによるまちづくりを進めようと「SDCC構想」を準備し始めました。この取り組みが、今まで法規制などで思うようにいかなかったまちづくりを進められるきっかけになるのではないか―。そんな期待を持っています。
 構想の内容についてお聞かせください。
 人口減少や超高齢社会、災害対策など本市も多くの課題を抱えています。一方で、インバウンドの推進や持続可能な社会への取り組みなど、地域が成長する機会もあります。今後は、全ての人やものがIoTでつながり、AIやロボット、自動運転などの技術によって地方の課題解決を図る「ソサエティ5.0」と呼ばれる社会に移行すると予想されています。
その中で、本市はどうまちづくりをしていくべきか。その答えの一つがこのSDCC構想です。キーワードは「デジタル」と「クリエイティブ」。人々の創造性とデジタル技術を活用し、地域の課題を解決していく―。そんな構想をつくりました。
■裾野市の「みらい都市推進本部」初会合
先行して、東京大学の関本義秀准教授を中心に「デジタル裾野研究会」を立ち上げました。これはデータによるまちづくりの研究をするもので、アプリをダウンロードしたスマートフォンを車に載せ、道路の破損個所を見つける実験などを実施しています。市役所ではLINEの機能を活用した市民サービスを行っていて、婚姻届はいつまでに出すのか、といった問いに対して、AIが答えています。このように、今後もデジタルの力での課題解決を加速させます。


■構想実現へ規制緩和を
 構想を進める上での課題をどう捉えていますか。
 一つは法規制をどう緩和するかです。農地に建物を造れないとか、宅地でないと家が建てられないなどが分かりやすい例ですが、こうした規制、それも多岐にわたる分野での緩和がなされると、地域の事情に即したまちづくりが今よりもっと進むでしょう。
 例えばどんなことですか。
 無人運転は現在、公道では当然できませんね。また、バスを運転するには大型二種免許が必要です。現行の法律ですと、バスの自動運転化を図る場合、運転しなくても二種免許を持った人が同乗しなければなりません。また、貨物と人を同じ車両に載せる「貨客混載」の実証事業を裾野―新宿間で行っていますが、法の規制があってそうそう自由にはできません。
今回、コロナ対策でだいぶ進みましたが、本来は学校のリモート授業や遠隔診療などもこうした規制がかかる分野です。もちろん許可を取ればできることもありますが、手続きがわずらわしかったり時間がかかったりします。これでは民間のビジネスのスピード感についていけません。
 こうした規制の緩和をどう進めていかれますか。
 大前提となる規制緩和は現在、法案の審議中ですが、国の「スーパーシティ特区」の認定を目指しています。ウーブン・シティには川勝平太知事も着目され、庁内横断のプロジェクトチームを立ち上げられました。ぜひSDCC構想とも連携を図っていきたいと思います。ウーブン・シティも含めた本市全域で「特区」を目指し、県に知恵をいただきながら、国と協議していきたいですね。
今までのまちづくりは、行政が税収の範囲内で進めるのが一般的でした。しかしこの構想では、積極的に研究機関や民間企業に参入いただき、投資を促したいと思っています。特区の活用による規制緩和が実現すると、企業も研究材料やビジネスの種を生み出しやすくなりますし、そこで生まれた成果やデータを市政運営に活用したり、農業振興に役立てたりと、双方向での良好な関係が築けるかもしれません。
そのために構想では、九つの重点分野(図1)を提案しています。市内外のNPOや企業、研究機関、大学など多くの方に見てもらい、それぞれの得意分野や参入したいテーマがあれば、積極的に参画していただきたいですね。
 推進体制をご説明ください。
 中心となるのは市役所のみらい都市推進本部です。私が本部長となり、全部長が入る庁内横断的な組織で、4月1日に立ち上げました。これを核にしながら、参画する皆さんを広く募り、7月に推進協議会を立ち上げます。


■市民の理解促進
■SDCC構想の中心となる裾野市役所

 お年寄りにこそデジタルサービスが必要と思いますが、市民への理解促進をどうお考えですか。
 トヨタさんは「人が中心」と言っています。まさに市の行政も同じで、足腰の弱くなった方が自動運転の乗り物で市内を自由に移動したり、高齢化が進む農家の収穫をロボットが行ったり、おそらく最大の恩恵を受けるのはお年寄りだと思います。
ただ、いきなり「デジタルが」と言ってもご理解いただけませんので、丁寧な説明は大切だと思います。一番は、実際に自動運転車に乗ってもらったり、介護サービスを受けてもらったり、健診データをあらかじめもらって病気を予防するなど、実際に見てもらい、やってもらうことだと考えています。
 これからの裾野市が楽しみですね。
 行政だけでは無理な話です。規制緩和を呼び水に、われわれは地域のニーズや課題を提示しますので、企業や大学、研究者の皆さんにぜひ参画していただきたいと思います。
ウーブン・シティの成功が前提ですが、同時にウーブン・シティの外側も市民の皆さんのご理解をいただきながら推進していきます。市民の皆さんの協力と、規制緩和、民間の参入、この三つをクリアしていった先に待っている未来の裾野市に向け、全庁挙げてまい進していきます。
住んでいる私たちが一番幸せになれることが重要と強く思っています。





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