サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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風は東から「2020.06.25 静岡新聞掲載」

未来の素材として研究が進んでいる「セルロースナノファイバー(CNF)」。樹木の繊維などを百万分の1ミリまで細かくしたもので、軽くて丈夫で、自由な成形が可能なため、さまざまな産業への活用が期待されている。6月の「風は東から」はCNFを取り上げる。CNFの可能性、また、製紙で培った技術を生かした、富士市周辺の拠点化を見据えた動きなどを関係者に聞いた。

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ3

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製紙の技術を新素材に自動車分野への展開も
■CNFの特長生かす
■CNFを活用した軽量化自動車
植物繊維をナノレベル(百万分の一ミリ)に微細化すると、さまざまな特長が現れてくる。軽く、丈夫で、熱による寸法変化が小さく、ガスバリア性(気体の透過しにくさ)が高い―などだ。植物由来素材のため、環境負荷が少なく、リサイクル性にも優れている。
こうした特長から、自動車、家電、電子部品、包装材、化粧品、食品など、さまざまな産業への応用が期待されている。国は2030年に1兆円の市場が創造されることを目標とし、国主導のもと、京都や四国など全国各地で研究開発が進んでいる。
本県は全国に先駆けて15年に産学官による「ふじのくにCNFフォーラム」(会長・川勝平太知事)を立ち上げた。県経済産業部の櫻川智史技監は「本県の幅広い産業分野に応用できればと考えている。特に、軽くて強い特長を生かし、将来的には本県の基幹産業である自動車分野への展開を目指す」と語る。
県内でもCNFの製造は一部始まってはいるが、量産化には至っていない。「製造コストと安定化が課題」と櫻川技監は説明した。
原料となるパルプをナノサイズにまで細分化するには、化学処理解繊(かいせん)と圧力をかけて粉砕する機械処理解繊がある。現在は製造プラントの整備など、両者ともに大きなコストがかかる。
また、混ぜ込んだ物質の中にCNFが均等に存在していないと特長が発揮されない。例えば、自動車部品に必要なプラスチックにCNFを混ぜる場合、水と親和性が高いため、石油由来のプラスチックに混ざりにくい。まさに「水と油」の関係だ。
こうした課題の解決と普及を図るため、県は昨年5月に富士工業技術支援センター内に「ふじのくにCNF研究開発センター」を開所した。


■拠点整備へ産学官結集

■「産学官がしっかり組むことで新しい技術や製品を出していきたい」と語る佐野禎彦センター長

富士工業技術支援センターの佐野禎彦センター長は「地元が長年培ってきた製紙技術をベースに、富士地区をCNF関連産業の中心地にすることを目指す。ここに立地する機関として関係各所と強固な連携を図りたい」と語る。
拠点となる同研究開発センターには静岡大がサテライトオフィスを構える。それに先駆け県は17年秋から静岡大に寄附講座を開設。化学メーカー出身で、性質が異なる材料を混ぜ合わせやすくする相溶化剤の研究が専門の青木憲治氏を特任教授として招き、CNFとプラスチックを均一に混ぜる技術の確立を目指している。
また、365日24時間無料で利用できる「CNFラボ」を3室設置、地元企業が入居し、CNFをテーマにした共同研究を進めている。こうした研究を支えるのが、同センターに設置されている各種の機材だ。樹脂中に含まれる微小な植物繊維の特性評価などに活用されている。 さらに、3人のCNFコーディネーターが、企業の関心や期待など、さまざまな観点から話を聞き、サンプルを渡したり解決策を提示したりして、利用の裾野を広げている。
■富士工業技術支援センターで作られたCNF(左・化学処理、右・機械処理)


■つながる「場」が必要

■「企業が挑戦できる環境を整えるのが役割」と語る富士市産業政策課の平野貴章主査

地元・富士市は「CNF関連産業推進構想」を19年3月に策定。CNFという素材を通して、関連産業の創出・集積を図り、市内産業の活性化、ひいては持続可能なものづくりのまちに向けた将来像や方針を示している。
同市産業政策課の平野貴章主査は「本市は製紙だけでなく輸送産業、食料品、化学工業など多様な産業が集積している。CNFは利用範囲が幅広いため、波及効果が期待できる」と取り組みの理由を挙げた。
構想は30年までの長期計画だが、19年から3年間のアクションプランも定めている。積極的な広報・PRによる情報発信や普及啓発、用途開発を加速化するマッチング機会の創出、そしてこれらを下支えする「富士市CNFプラットフォーム」を昨年11月に立ち上げた。
県と同市は連携、補完の関係だ。セミナーや展示会、マッチングはそれぞれが得意な部分を行ったり、共同で行ったりしている。同プラットフォームの会員企業から技術的な相談が来た場合は、富士工業技術支援センターに速やかにつないでいる。企業がCNFに触れる場や作る場に研究機関を紹介するのも同市の役割だ。また、得意な分野や特化したい分野が市内や県内で完結しない場合は、他地域のCNFクラスターを紹介する。
同市ならではの動きとして、CNF普及推進員による活動がある。CNFは通常BtoBの素材だが、地元の産業として市民に知ってもらおうと、市民向けの啓発講座なども行っている。 「新しい素材のため、これに使うのが最適という正解はない。新たなサプライチェーンができる可能性もある。だからこそ知る機会や、つながる場が必要だ」と平野主査。3月にはCNFのサプライヤーと、活用したい企業とのマッチングを個別面談方式で行った。また、同市のプラットフォームを活用した実用化の研究や製品開発を進めるための委託事業として「CNF関連産業創出事業」を立ち上げ、5件が採択されている。
■「CNFに触れる」「CNFで作る」をテーマに、青木憲治特任教授を講師に、実習形式で学ぶセミナーを開催

広がる製品の可能性(製品紹介)
■コーヨー化成(静岡市清水区)
CNFを添加して塗り心地等を向上させた美容液を開発
■田子の月(富士市)
どら焼きにCNFを入れることで、食感と日持ちを向上
■東洋レヂン(富士市)
樹脂の流動性を改善し、成形性の良い3Dプリンター用フィラメントを開発
■丸富製紙(富士市)
芯なしトイレットペーパーの中心部にCNFを使用。強度を20%高める技術を開発



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