サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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風は東から「2020.07.23 静岡新聞掲載」

新型コロナウイルスでステイホームが日常化し、人とペットとの関係も変化している。家族の一員としてのペットの存在がますます大きくなっていく中、動物愛護法の規制強化や愛玩動物看護師の国家資格化が進む。7月の「風は東から」は、サンフロント21懇話会が活動方針の一つに挙げる「人と動物の共生社会の実現」を取り上げる。今後、動物と共存共生する社会をどのようにつくっていけば良いのかを関係者に聞いた。

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ4

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絆深まる人と動物 愛護から共生へ変化
■愛玩動物看護師が獣医師の負担軽減
犬や猫などの愛玩動物は、今日、多くの家庭で飼育されている。欧米では「コンパニオンアニマル」と呼ばれ、人の営みに寄り添う存在としての地位が確立されている。
近年では、人と動物の関係が人に与える影響の重要性が認識され、介護や福祉、医療、教育などさまざまな分野に動物、特に犬が介在している。県立こども病院では、10年前から動物介在療法として「ファシリティドッグ」を導入。検査や注射が嫌いな子どもたちに寄り添い、手術前の子を励ますなど、スムーズな治療の一助となっている。介護施設ではセラピードッグがお年寄りの笑顔を引き出し、会話を増やす光景が見られるようになった。
このように、単なる愛玩動物にとどまらない、社会的な意義の重要性が増している。
家族の一員である愛玩動物の健康を考える飼い主が増え、飼育環境やペットフードの質が向上、獣医療の高度化や多様化が進んでいる。
これらを背景に、ますます重要性が増していく愛玩動物を対象とした動物看護師の資質の向上、業務の適正を図るため、国は昨年6月に「愛玩動物看護師法」を制定、国家資格とした。3年後に第1号の看護師が誕生する予定だ。
長泉町にある先端動物医療センターAdAM(アダム)の伊藤博院長は「愛玩動物看護師の国家資格化で、安全性も含めた病気への対応がきちんと確立された」と語る。資格を得ることで、獣医師の指示の下に採血、投薬、マイクロチップ挿入、カテーテルによる採尿などができるようになる。獣医師の負担も軽くなるので、獣医療業界では待ち望まれていた。
現在、さまざまな企業が高度獣医療病院の建設を進めている。伊藤院長は「今後は企業のバックアップで、単一診療科目でない総合病院が増えるだろう」と予測する。



■ウィズコロナで変わる接し方
■愛犬との散歩で健康増進
社会的な変化に加え、新型コロナウイルスのまん延で、在宅勤務となり、家で過ごす時間が増える中、飼っている動物への感じ方、接し方も以前とは違ってきている。長泉町に住む40代の夫婦は「在宅勤務は家にこもりがちになるが、犬の散歩がいい気分転換になった」と語る。一人で仕事をする孤独感を紛らわしたり、近所の犬好きの人との立ち話が増えたり、といった効果もあった。
大手ペット用品卸企業の調査では、コロナ禍で、犬、猫をはじめ鳥や小動物などの生体販売が伸びていることが分かった。
もともと、子育てが一段落した世代が動物を飼う傾向はあったが、コロナ禍で持て余した時間の行き先として、動物を飼う選択をする人が増えた。しかも10万円の特別定額給付金が追い風になっている。また、以前飼っていた人が再び飼う場合もあるが、初めて飼う人も増えているという。
家にいる時間が多くなったためペット用品の売れ筋にも変化が。消毒液などの衛生用品や、ペットシート、猫砂などの買いだめ需要が増えている。また、買い物も少人数で計画を立てて済ませることから、目的買いが増えた。品ぞろえを強化し、もう1品多く買ってもらうよりは、売れ筋のブランドに対応している。フードなどを指名買いする場合は、単品より大きなパックやバラエティーパックを求める客が増えたのも特徴だ。


■引き取り手のない動物の保護施設を

さまざまな関連サービスも次々と生まれている。ペット保険は一般的になったが、ほかにも葬祭サービスやフォトスタジオ、犬と一緒に入居できる特別養護老人ホーム、さらには老犬が入居する老犬ホームまで登場している。これは、犬を飼いたくても最期まで面倒を見られないという、高齢の飼い主をサポートするサービスだ。
全国でも珍しい取り組みを始めるのが三島市。健やかで幸せなまちづくりを標ぼうする「スマートウェルネスみしま」の一環で、ペット保険最大手のアニコム損保と、愛犬の健康管理を通じて飼い主の健康意識を醸成しようと、体重、体脂肪測定会や健康相談会のイベントなどを検討している。これにより、愛犬の散歩を家族で楽しめる健康的な体づくりをサポートする。
一方で、警察犬、麻薬犬、聴導犬、盲導犬、介助犬、災害救助犬など、人の役に立つ「使役犬」は大いに増えたが、リタイアした犬が安心して余生を過ごせる仕組みはなく、ボランティアに頼っているのが現状だ。
伊藤院長は「特に犬は人の社会に相当入り込んで活躍しているが、彼らは“市民権”を与えられていない。人のために働いた犬がリタイアしたら、一生公費で面倒を見てあげるべき」と言う。
また、各自治体が「殺処分ゼロ」を目指しているが、引き取り手が見つからない動物はどこで誰が面倒を見るのか、といった問題が残る。動物愛護先進国の米国やドイツは、引き取り手のない愛玩動物の受け皿として立派な施設を作っている。
ウィズコロナの新しい生活様式が愛玩動物と飼い主にも求められている。家族が感染した場合、どこに預けたら安心なのか。「災害時と同様、地域に受け皿をしっかり作っておかないと、不幸な動物が増えてしまう」とNPO法人「人と動物のハッピーライフ」の西島明信事務局長は懸念する。サンフロント21懇話会活動から生まれた同NPOも設立から4年目を迎え、動物愛護の啓発セミナーや、シンポジウム、飼い主と愛犬の絆を深めるイベントの開催などを精力的に行っている。本年度内に伴侶動物の一時預かり拠点施設の候補地を決める予定だ。
県は、浜松市にある県立動物管理指導センターの在り方検討会を本年度立ち上げる。従来の殺処分施設から命をつなぐ施設への転換を図る方針だ。
人と動物が幸せに暮らせる地域をつくるには、行政の役割が大きい。また、ボランティアやNPO、獣医師会など関係する団体が一丸となり、愛玩動物の待遇向上について声を上げていく必要がある。


■AdAMの伊藤博院長とふじこ。現在、ふじこは無事手術を終え、病院で元気に過ごしている
AdAMには以前、交通事故に遭い、大手術を乗り越えた「ふじこ」という犬がいる。警察からの連絡で病院に運ばれてきたが、動物は法的には拾得物=B所有者を特定するための2週間は手術ができなかった。伊藤院長は「負傷した動物の治療や費用補助などがでる法律や条例の整備が急務だ」と力を込めた。



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