サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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風は東から「2020.10.22 静岡新聞掲載」

「ウィズコロナ時代の地域づくりを考える」
県東部の地域振興について広く検討する「風は東から」の新シリーズ「ウィズコロナ時代の地域づくりを考える」。10月は「農業」をテーマに、コロナ禍で可視化された課題をどう解決していくかを先端農業研究の拠点「AOI-PARC」を管轄する県経済産業部の津久井剛先端農業推進担当参事、JAなんすんの岡田晃一代表理事組合長に展望してもらった。また、鉄鋼業から農業への参入を決めた近藤鋼材(沼津市)の近藤千秋社長に今後の取り組みを聞いた。

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ7

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新たな施策次々投入 品質向上、省力化が鍵
■IT化、高付加価値化で本県農業の発展を目指す  津久井剛 県経済産業部参事
■津久井剛県参事は「当所の成果を、スピード感を持って地域に導入したい」と語る
人工知能(AI)やロボット、モノのインターネット(IoT)などの技術革新が進展する中、これら新たな技術を活用した「スマート農業」の開発や実証が進められるなど、農業を取り巻く環境が大きく変わってきています。
このスマート農業は、担い手不足や高齢化への有効な対策として、既存の農業分野に少しづつ浸透してきていますが、そこに、コロナという社会・経済環境を大きく変化させる要素が入ってきたことで、生産者の関心や導入機運が高まっていると感じています。
生産者やJA等関係者と連携してスマート農業技術を普及促進することにより、省力化、高品質化、高付加価値化を実現し、生産性の飛躍的な向上、農家所得の増加を図っていく好機であると認識しています。
AOI-PARCでは設立から丸3年が過ぎ、研究成果が出てきております。
例えば、トマト。消費者は高糖度で食味の良いトマトを求めています。きめ細かく水やりを制限し一定の水分ストレス(水分不足)を与えながら栽培すると糖度が高まりますが、今までは水やりのコントロールが難しく生産者の勘や経験に頼っていました。
当所に常駐する県農林技術研究所が開発しAOIフォーラム会員が商品化した「うるおい力持ち」は、ポットに植えた一株のトマト重量を連続計測することで、全株へ適切な水やりを行え、誰もが安心して高糖度トマト栽培に取り組める自動システムです。本年度はこのシステムをJA三島函南の生産者に導入し、栽培技術や経済性などを検証してもらうモデル事業を展開しています。そこで得た課題や栽培データはフィードバックしてさらなる改善につなげていきます。
このトマトの研究栽培において成分分析を行ったところ、近年、血圧改善やストレスの緩和効果などがあることで注目されるアミノ酸の一種「GABA」が通常のトマトの3倍以上含まれることが明らかになったので、今後、実際の生産現場でも再現できるかを確かめ、機能性表示などさらなる付加価値向上を図っていきます。
■高糖度トマトで培った技術をイチゴ栽培に応用する研究を進めている農技研の大石直記研究統括官
また、本年度、当所に常駐する慶応義塾大、理化学研究所、農林技術研究所が開発した革新的な技術やノウハウを活用して、商品やサービスの開発を行う民間事業者を支援する事業を展開するなど、スマート農業技術を生産現場で広く使ってもらう取り組みも進めていきます。併せて、こうした新たな技術を活用して農業生産を行う人材の育成についても取り組み、普及促進につなげていきます。
このように、成果が出てきたことで地域と連携して取り組んでいく環境も整い、昨年度、県東部の6JAと連携協定を結びました。今後は、新技術の生産者への導入や生産性向上の取り組みを加速させ、新たな産地の形成や生産者の農業所得の向上など農業の発展を共に目指していきます。


■農作物の安全安心と“顔の見える関係づくり”推進 岡田晃一 JAなんすん代表理事組合長
■「データの活用とアナログな人のつながりを大事にしたい」と語る岡田晃一JAなんすん代表理事組合長
JAなんすんの組合員は主に中小規模農家で、共同販売による市場出荷のほかJAの産直市に出荷している生産者が多い。コロナ禍の巣ごもり需要で、前年を上回る売り上げを記録しているが、7月の長雨の影響で、商品が産直市場に並ばない時期もあった。
コロナ禍で、地元の野菜を家庭で料理する機会が増えたことで、地場野菜のおいしさと、また安全安心を知っていただくきっかけになったと考えている。
当JAは沼津市、裾野市、長泉町、清水町の2市2町からなる。共通して作っているのが米だ。中でも「するがの極(厳選きぬむすめ)」のブランド化を精力的に進めている。17年に4人の生産者から始まったが、今では40人を超える。関連自治体も参画し、ブランド米推進協議会を設立した。また今回、試験的にドローンでの農薬散布を導入、1時間かかっていた農薬散布が5分に短縮されるなど、効果は絶大だ。 
今後もこうした取り組みは積極的に挑戦したい。少子高齢化で労働人口が減っていく中、人手の確保は最重要課題だ。農作業の中でも、夏の暑い中での消毒やミカンの摘果、収穫などは重労働。IT化、ロボット化などは導入していかないとならないと考えている。機械化で無理なくできるようになれば、お年寄りにも長くやっていただけるし、若い人の参入機会も増えるだろう。
AOI-PARCでは、篤農家の経験を可視化し、農業への参入ハードルを低くする取り組みをしているが、JAにも「ルーラル電子図書館」という、iPadなどを活用した仕組みがある。写真や病名などを現場で調べたり、対応方法を調べたりといったものだが、これらを活用しながら経験を積んでいる。
職員には、生産者とは密接にコミュニケーションを取り、どこに課題があるのかを拾い出し、それをAOI-PARCに投げかけ、一緒に解決していったらどうかと指示している。
■西浦みかん寿太郎は、おいしさと機能性を両立した特産品だ

今後はますます、おいしさは言うに及ばず、それ以外の差別化ポイントが必要と考えている。沼津市西浦地区が主な産地の「西浦みかん寿太郎」は骨の健康維持効果で機能性表示を取得。加えて「地理的表示(GI)」を農水省に申請し取得を目指している。これは、伝統的な生産方法や気候・風土・土壌など生産地の特性が、品質等の特性に結びついている産品の名称(地理的表示)を知的財産として登録し、保護する制度だ。
また、消費者の安全安心の担保の一環で、当JA独自の分析センターを持ち、定期的な農薬残量、土壌検査をしている。こうした情報を開示することで、消費者と生産者の「顔が見える関係性」を築いていきたい。


時代に合った農産物の安定供給目指す 近藤千秋 近藤鋼材社長
私どもは鉄鋼業だ。野菜工場の鉄骨を作る機会が何度かあり、良い技術があれば事業化する意向があった。
国内の鉄鋼需要は下降傾向だ。在庫を積んでおけば売れる時代は終わって、従来とは違った加工やノウハウが求められている。その投資の一つが設計技術者の確保。技術者が設計をし、そのデータを基にロボットが鉄骨を作る時代だ。今はミャンマーなどから優秀な人材をヘッドハンティングしている。
現業の見直しと並行し、新たな事業の柱として野菜工場を選択した。レタスなどの生産販売を手掛ける企業を合併・買収(M&A)し、今回縁があり、三島市内に二つ目の工場を建設する。
第2工場は高気密、高断熱の「メタルビル」と呼ばれる工法だ。光はLEDを使い、常に室温をレタスの生育に適した23〜24度に設定している。国際衛生基準JGAPも取得しており、第1工場と合わせ日産1万5000株を目指す。
第2工場を建てるにあたり、土地の取得から農業委員会の承認まで、行政をはじめ多くの方の支援をいただいた。休耕地を有効利用し、地域の雇用を生み出し、かつ首都圏などに販売することで地域PRの期待に応えたい。
ここ数年の天候不順で、安定的な野菜の供給が望まれている。コロナの影響で外国人労働力が見込めない。地物は価格こそ安いが、土から抜き、きれいに洗うという手間がかかる。「おひとり様」や高齢家庭が増加し、レタス1玉を消費しきれない。こうした社会の変化に、一年中安定供給ができ、洗わずに袋から出してすぐに食べられる葉物にはニーズがあると考えている。マーケットは地元に加え、首都圏だ。業務用マーケットも狙っていきたい。後発だが商機はあると考えている。



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