サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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風は東から「2021.1.28 静岡新聞掲載」

「ウィズコロナ時代の地域づくりを考える」
新型コロナにより、医療用資材の不足が顕在化したことから、県は、緊急時に不織布を使った医療用ガウンを医療現場に供給するための体制構築を進めている。1月の「風は東から」・「ウィズコロナ時代の地域づくりを考える」は、ファルマバレーを展開する県東部地域で進む「感染症対策」のものづくりを取り上げる。県新産業集積課、ファルマバレーセンター(PVC)に制度を作った背景や、地域の医工連携を活用した取り組みについて聞いた。併せて、同プロジェクトのネットワークから生み出された感染症対策の製品を紹介する。

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ10

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医療用ガウン地産化へ 行政、民間一体で推進
■緊急時の生産体制構築
■細かなオーダーに対応する天間特殊製紙の小型の試作用機械
新型コロナウイルス感染が広まった昨年4月。医療用マスクやガウンが手に入りにくい時期があった。静岡がんセンターも同様で、PVCなどのルートで調達し、県内医療機関にも配布した経緯がある。
特に医療用ガウンは、価格競争力のある中国への依存度が高く、今回のような状況下ではいったん供給が止まると慢性的な品不足に陥りやすい。
このため県は、同月の補正予算で、ガウンやマスク、消毒液などを作る企業への助成制度を創設。しかし、医療用ガウンだけは申請がなかったという。
県新産業集積課がファルマバレー関連企業にヒアリングをしたところ、ガウンの国内生産は人件費などが割高となり、中国産には価格的に太刀打ちできないため、ビジネスとして成立しない。また、材料となる不織布は、輸入依存度が高く、緊急時には入手困難となったことが判明した。
そこで、同課は、(1)緊急時に(2)県内で不織布を作り(3)医療用ガウンを縫う体制を整えようと、9月補正で1000万円の予算を確保した。
同課とPVCが広く呼び掛けたところ、コーヒーフィルターや畳、果物を包む高級紙などの特殊紙を作っている富士市の天間特殊製紙が、不織布の生産実証を担うこととなった。
同社の技術は、「湿式(しっしき)」と呼ばれ、水と繊維を混ぜ合わせて網状のネット上に漉(す)き上げ、圧縮や熱などで脱水する方法。不織布の場合は、使用する繊維がパルプではなくポリエステルなどの化学繊維となる。医療用ガウンは、AAMI(エイミー)PB70と呼ばれる国際基準があり、1〜4のうち、3以上が医療用ガウンへの利用を推奨されている。この基準も、同社はクリアしていた。
PVCの神谷千寿技術コーディネータは「本来、ガウンに使われる不織布は、化学繊維メーカーが作るのが一般的だが、同社が持つ製紙の技術を応用し、実現にこぎつけた」と成功のポイントを語った。
■医療用ガウンのサンプルを着用する天間特殊製紙の金子武正社長
また同社は細かなオーダーに基づいて生産ラインの切り替えができるのも強み。日頃、さまざまな特殊紙を生産している同社ならではの体制が生きた形だ。同社の金子武正社長は「10年ほど前から化繊紙の分野での研究を進めてきたところ、今回、不織布生産の実証委託の話があった。コスト的に海外製品にはかなわないが、今回のような緊急時に当社の技術力が生かせるのは喜ばしい」と語る。
縫製を担当するのは、山本被服(清水町)と八木繊維(富士市)。入院患者向け着衣の開発やクリーンルームでの無塵(じん)服などを作る経験が買われた。
年度内に、着心地も含めた性能試験を静岡がんセンター、富士市立中央病院で行う予定だ。それらを経て、改良を行い、不織布の最終的な完成を目指す。
同課の露木満参事は「現在は県も備蓄などを進めているが、不織布が入手できなくなる緊急時に備えて、メイドイン静岡の体制を作り、医療現場を救いたい」と狙いを語った。


■命を守る産業の育成図る

材料となる不織布の製造や縫製など、一連の工程を県内で完結させる体制構築に取り組むのは全国でも例がない。PVCの植田勝智センター長は「今回のようなビジネスに乗らない仕組みは、行政主導でつくっていかないと難しい」と言う。災害や新たな感染症など、医療用資材が足りなくなる場面は想像に難くない。いわば「命を守る産業」だ。
県は6月の補正予算で、医療機器を開発する企業の助成制度を予算規模2億円で創設。コロナ禍で顕在化した課題解決に結び付く医療機器開発を支援する。22社が手を挙げ、高精度なウイルス抗原検査技術や、空間中に浮遊するウイルスの回収除去装置の開発など、17社が採択された。露木参事は「課題解決に寄与する医療機器開発の取り組みを支援し、こうした産業の基盤強化を図りたい」と意気込む。
県は、医薬品・医療機器の国産化を着実に進め、将来的な輸出産業化を目指し、医薬品・医療機器産業を「命を守る産業」のリーディング産業として育成していくとしている。ファルマバレーには、その中核的な役割を担うことが期待されている。



PVネットワークを生かした製品開発
※飛沫感染対策シールドやマスク呼吸補助具は、試作費用の一部をPVCが補助している
■「現場の声を聞き、カスタマイズすることで製品の価値を高めたい」と語る日商産業の小島隆行社長
医療従事者守る「飛沫感染対策シールド」を製品化―日商産業
日商産業(長泉町)は、医療機器メーカーなどを顧客に持ち、樹脂加工を得意とする。その技術を生かし、採血や気管挿入など、医療現場で飛沫(ひまつ)から医療従事者を守るシールドを新たに製品化した。「コロナがはやり始めた頃、台湾の医師が、患者に気管挿管する際の飛沫から術者を守るためのボックスを作った。これを見た静岡がんセンターの先生から、同じものが作れないかという相談があった」と、PVCの植田センター長は振り返る。PVCは早速、同社に連絡。その日のうちに試作品が出来上がった。これをきっかけに、病院の受付用シールドや採血用シールドなどを次々と製品化している。
■医療現場のニーズを的確に捉えた採血用シールド
製品化の過程では、医療現場の声を聞きながら短期間で試作を繰り返した。例えば採血用シールドは、採血者が前かがみになるため、シールドが垂直だと頭をぶつけてしまう。そこでぶつからないよう傾斜を付けた。また、アクリルはアルコール消毒の際に白濁して見にくくなってしまうため、素材を硬質塩化ビニールにするなど、同社の知見を生かしている。小島隆行社長は「現場の声を、スピード感をもって具現化している。病院とも近く、相談しやすい環境はファルマバレーならでは」と言う。すでに県内外の10病院に販売するなど、販路を広げつつある。
■「常にチャレンジを忘れず、新たな市場を開拓したい」と語る東海部品工業の盛田勇気取締役
成果生かしマスク呼吸補助具を開発―東海部品工業
ファルマバレーの成果品で、東海大開発工学部と東海部品工業(沼津市)が共同開発した誰でも簡単に使用できる人工呼吸器。今回、その部材を応用し、マスク装着時に呼吸を楽にする「Fit Air(フィットエアー)」を開発した。
当時、開発を担当した同大工学部医用生体工学科の大島浩教授が、トレーニング時にマスクの鼻への貼り付きを軽減し楽に呼吸ができる部材を探していたところ、以前開発した人工呼吸器に着目。同社に連絡し、鼻と口に当てるマスク部分を改良した。
同社は新たに3Dプリンターで試作品を成型、硬さも数種類作製した。同大は、「Fit Air」使用時の学生の脈拍、呼吸、体温などのデータを収集、使用の有無による違いを比較した。結果は、「Fit Air」を使用した場合、運動時の呼吸のしやすさがマスクなしの場合と同程度となることが分かった。
■「Fit Air」は5色展開。コンパクトで持ち運びにも便利。運動時だけでなく、普段使いにも適している。
軟らかい樹脂のため、顔の形状にフィットし、運動中もずれにくい。さまざまな素材のマスクの下にも装着でき、洗えば繰り返し使える。パッケージにもこだわり、静岡らしさを出したいとお茶缶をセレクト。色も多色展開で、目を引くデザインとなった
「コロナ禍で運動もままならない中、この製品を使うことで少しでも安全に運動できれば」と同社の盛田勇気取締役。現在はインターネット販売にとどまるが、引き合いは多いという。



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