サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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風は東から「2021.3.25 静岡新聞掲載」

東部地域の活性化に向け、官民一体で提言を行うサンフロント21懇話会は、活動の模様や地域の課題を毎月1回「風は東から」で取り上げている。年度最後の3月は、川勝平太知事、懇話会副代表幹事の岩崎清悟静岡ガス特別顧問を迎え、コロナ禍での医療機器開発の取り組みや、次年度から第4次戦略計画が始まるファルマバレープロジェクトの取り組みについて聞いた。聞き手は懇話会アドバイザーでふじのくに医療城下町推進機構理事長の大坪檀氏(静岡産業大学総合研究所所長)。

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ12

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日本の医療産業をけん引 ファルマ第4次計画はじまる
■コロナ禍の医療 ファルマが下支え
大坪 昨年から今年にかけ、新型コロナウイルス感染症で大変な年でした。静岡県は爆発的な感染はなく、上手に押さえ込めていると思います。これは日頃から、医療体制の充実や医療健康産業の拡充に力を入れている証でしょう。
ファルマバレープロジェクトも19年が経過し、静岡がんセンター、ファルマバレーセンターを中核に大きく成長しました。また、新しい動きも出現しましたね。裾野市にトヨタが創る「ウーブン・シティ」です。県東部は、米国のシリコンバレーに匹敵するような地域になるチャンスが到来している気さえします。
川勝 コロナ禍の中、医療分野の重要性が再認識されています。防疫も防災も危機管理です。本県は1979年から大規模な総合防災訓練を続けており、防災能力は他県に比べると高いと思っています。今回のコロナ流行で、お隣の神奈川県は感染経路を追い切れない状況となり、首都圏の一都三県で感染者の累計は20数万人に上っていますが、本県はわずか6000人弱です。
■川勝平太 知事

国内でも感染者が出始めた昨春、足りないものが出ました。マスク、消毒液、防護服、人工呼吸器などです。これらはほとんどが輸入品です。まさに、日本の医療機器、衛生用資材が輸入に頼っていることが露呈しましたね。
一方、ファルマバレーでは医療健康産業への異業種参入を進めており、すでに47社、129件以上の製品が生まれています。こうした土壌が有効に働き、すぐにマスクやガウン、検査キットなどの医療機器等がどんどん生産されてきています。
そこにトヨタの未来都市「ウーブン・シティ」の発表で、世界中の注目が裾野市に集まりました。また、新東名の開通でアクセスが良くなった小山町に工業団地を整備したところ、2年で完売。しかも進出企業10社のうち、8社が県外からです。
このように東部の地力と勢いが出てきています。その中核が医療健康産業です。これはファルマバレーを推進する大坪先生、静岡がんセンターの山口建総長、民間企業の皆さん、地元の県民の皆さんの協力のおかげです。
岩崎 本県はものづくり県で、ものづくり企業がたくさんあります。平時には車の部品や紙製品などを作っていますが、今回のような緊急時には、マスクの製造装置を造ったり、不織布でガウンを造ったりして貢献しました。弊社でも、ガス管の丸い端材を半分にしてフェイスシールドに加工し、医療機関に寄付しました。大変喜ばれました。
こうした緊急時にこそ、政治の力が必要です。行政が、どこにどのような技術力やポテンシャルを持った会社があり、緊急時にどうつなげれば足りないものができるのか、という事を平常時から用意しておくことがとても大事だと思いました。
今後もパンデミックや大災害が起きることは避けがたい状況にあります。今回の事例をもとにこうした体制をつくることが大事ですし、東部で培われた医療機器を作るという場の力が大いに発揮されることが期待されます。


■超高齢社会の在り方探るモデルルーム
■岩崎清悟 静岡ガス特別顧問
サンフロント21懇話会副代表幹事
大坪 先日の静岡がん会議ではモデルルーム「自立のための3歩の住まい」を発表しました。老化が進んでも可能な限り自立した生活を送るために必要な機能や機材を取り入れています。ぜひ企業の皆さんにここを見てもらい、新しいものを発想する刺激にしてもらいたいですね。
岩崎 世界が直面しようとしている超高齢社会での「まちの在り様」とは一体どういうものなのか。それをウーブン・シティの周辺で試行することで、ここ一帯が世界のモデル都市として注目を浴びると思います。特に人生100年時代を前提とした発想が出てきていますので、私はすごく期待しています。
ファルマバレーは、医療城下町、メディカルガーデンシティのさらなる発展を目指しています。かたやウーブン・シティは、未来のまちづくりだと思っています。輸送関連だけでなく、いろいろな意味で次世代に向けた「まちづくり」であり「実験場」です。実験場というのはこれから大事なキーワードです。ファルマバレーとウーブン・シティがうまく結びつくと面白いことができるでしょう。
川勝 人はどんなに個性が違っても、生老病死をまぬかれません。このモデルルームは最期まで自分らしく、人々に迷惑をかけないで老後を過ごすにはどうしたらよいか、ということにこまかく配慮したものです。
■大坪 檀 ふじのくに医療城下町推進機構理事長
サンフロント21懇話会アドバイザー
改めて、日本の医薬品・医療機器分野を見ると、年間4兆円の輸入超過。この巨大な赤字の4兆円分を国産化し、さらに輸出産業に育てることは日本の課題です。その際、どこがリードするのか。本県の2019年医薬品・医療機器合計生産金額は年間約1.2兆円で、10年連続日本一。つまり、本県は日本の医療健康産業をけん引する位置にあります。
ファルマバレーを中心とした「ふじのくに先端医療総合特区」は内閣府からも高い評価を受けてきました。さらに、山梨県の7市町を加えた新たな「ふじのくに先端医療総合特区」計画を内閣府に申請しました。県境をまたいだ大きな特区になります。富士山を取り巻く医療健康産業がこれからスタートします。
岩崎 2019年の静岡県の製造品出荷額等は17.5兆円。その約4分の1が自動車をはじめとする輸送用機械器具製造業で、関連事業所は1000を超えます。エンジン部品等を製造する企業が多く、脱炭素社会の進展で縮小が余儀なくされる分野です。この流れは加速化しており、今後10年で顕在化するでしょう。今、余裕のあるうちに新たな分野に挑戦する必要があると思います。
県内には特徴ある技術を持った企業が多く存在します。例えば、沼津市に1ミリの穴を40センチの長さに深孔する技術を持った企業があります。この技術を開示したところ、早速ドイツなど海外からの引き合いがあるそうです。こうした世界が注目する技術を医療分野に展開したら良いのではないでしょうか。 
ファルマバレーセンターのプラットフォーム機能で、医療現場と結びつけた新たな製品づくりを加速してほしいですね。


■医療と心の豊かさを場の力で両立

大坪 静岡がんセンターは世界が頼りにする存在になりつつあると思いますが、医療分野の人材育成についてはいかがですか。
川勝 ファルマバレーでは「ひとづくり」戦略として、早稲田大、東京農工大などとは共同研究を、さらに慶応大などとは博士号を取れる体制を整えています。また、静岡がんセンターに専門性の高い認定看護師制度も備えています。
さらに、日本でトップクラスのがんセンターとして大学院の設置が検討されています。もし実現すると、高度な医療人材の育成が一段と進むでしょう。
岩崎 終生にわたり健やかな人生を送る際、県東部で必要になるものとして、あえて私は文化を挙げたいと思います。文化のないところに心の豊かさは生まれません。いかに健康でも心の豊かさが育まれ、持続できる環境がないと、幸福とは言えないと思います。今後は医療、教育と共に音楽や絵画に日常的に触れられる環境を作っていかないとなりませんね。
大坪 間もなく首都圏と新東名がつながり、県東部が日本の中心になります。再び世界中から人が訪れるようになるでしょう。未来の人間の住まい方、あるいは幸福を実感できる場所として、富士山のふもとのこの地域がいよいよ輝きを増す時ですね。次年度から始まるファルマバレープロジェクト第4次戦略計画に期待しています。




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