サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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風は東から「2021.5.27 静岡新聞掲載」

3月5日、ファルマバレーセンター1階に、「自立のための3歩の住まい」モデルルームがオープンした。ファルマバレープロジェクトで進む健康長寿・自立支援プロジェクトの重点施策で、「人生100年時代における高齢者のための住まいの在り方を考える」がコンセプトだ。健康寿命が尽きた後でも、高齢者が最後まで自立し尊厳を保てる住居の在り方を具体化した。5月の「風は東から」は、このモデルルームを取り上げる。同モデルルームの機能や狙いを関係者に聞いた。

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ2

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自立のための3歩の住まい モデルルームを共同研究室に
■ベッドを中心に必要な機能配置
■ベッドを中心に必要な機能が効率的に配置されたショールーム
このモデルルームは、約20年にわたり、がん患者とその家族に寄り添ってきた静岡がんセンターの経験が随所に盛り込まれている。間取りや機能は今までの住宅の概念とは大きく違う。キーワードは<1>3歩から考える<2>医療介護部屋(感染症対策)<3>ロボット化・AI化<4>家族・社会との絆―の四つだ。
居室の広さは約28平方メートル。最も長く過ごすであろうベッドを中心に、トイレや浴室など、生活の基本となる場所に「3歩(数歩)」で行ける配置にした。コンセプトに合致した最新機器類も導入した。また、床や壁などは抗ウイルス、抗菌素材を多用し、安心感を実現している。背景が透けるディスプレイは窓とテレビ画面を兼ね、インターネットと接続すればオンラインで家族とのコミュニケーションや遠隔診療も可能になる。
同センターの植田勝智センター長は、「“3歩”とは、まさに自立の象徴であり、なるべく人の手を借りずに最後まで自分で身の回りのことができる距離感を表している」と説明する。


■企業コンソーシアムのアイデア随所に

自立のための3歩の住まい

ファルマモデルルーム
■介護される側にとって最も抵抗があるのはトイレだろう。体が動く間はできる限り自力でできるよう、トイレへの移乗や着 脱をサポートするテーブル型手すりを付けている ■シャワーは通常のノズルと違い、高機能アームとノズルが広範囲に温水を噴霧することで座位のまま十分な温浴効果が得られる
■歩行支援ロボットは利用者個人個人に適したハンドルの高さや距離などが設定できる。一日も長く自立していられる期間 を延ばすためだ ■透明ディスプレイは通常は窓の一部として外が見える構造で、家族との対話、遠隔医療、さらにはインターネットを介して 外の世界との交流もできる
本モデルルームは対象を健康寿命が尽きたが自身で動ける人としている。20年後を見据え、現時点で設置が可能な最新の機器や素材を幅広く集めた。
モデルルームの整備に関わったのは、総合家電メーカー、住宅・建材メーカー、設計会社、インテリアデザイン会社、医療健康に関する一般社団法人などの企業や団体だ。超高齢社会に向け、人生100年時代の暮らしや医療健康産業振興に取り組むファルマバレープロジェクトの主旨に賛同した。
中でもメラミン化粧板のトップメーカー・アイカ工業(本社・名古屋市)はこのプロジェクトで新製品の試作品を納入。従来の抗ウイルス、抗菌機能に消臭と抗アレルギー機能を加えた。また、スイッチなどに触れずに水や明かりを調整できるパナソニック製洗面台のカウンター素材も同製品を使用しており、薬剤がこぼれても跡が残らず簡単にふき取れるようにした。
今後も企業コンソーシアムとして、県内も含め様々な分野から企業や団体を募りながら、人生100年時代に向けた製品開発を進めていく。


■医療健康産業のすそ野を拡大
オープン後2カ月あまりで見学者は200人を超えた。地域の製造業を中心に、ハウスメーカー、看護・介護施設の職員、保険業、金融機関、議員など様々だ。テーマに沿った多方面の製品、素材が一つの空間に集められることで10年後、20年後のイメージが具体性をもって喚起される。視察に訪れた富士市議会会派、新政富士の荻田丈仁会長は「医療・福祉・住宅の垣根を超えた連携が大切と感じた。自宅で快適に暮らすという目的に向け、産学官が力を合わせると素晴らしいものができることを目の当たりにした」と感想を語る。
見学に訪れた企業のアイデアから、電源コードなどに足を引っ掛けて転倒するリスクを回避するためのマグネット式のコンセントを採用した。また、ベッド横に置く小物入れも将来的にはIoT化し、呼べば自動で来る仕様を想定している。天井に設置した生活補助レールは、バイタルデータを収集する装置を入れたり、移動リフトに活用したり、さまざまな利用方法が考えられる。植田センター長は「このモデルルームは共同研究室。実際に見て、説明を聞き、20年後に向けてどんどんいいアイデアを出してほしい」と期待を込める。
■高機能ベッドの説明を受ける富士市議団
既存の技術を生かしたり、ちょっとしたアイデアの転換で新製品を生み出したりできるノウハウが中小企業には数多く眠っている。こうしたものづくりを支援する仕組みも同センターは用意した。介護福祉機器の助成事業の中に「モデルルーム枠」を特別に設定した(今期の募集は終了)。
また、今後はハウスメーカーも巻き込み、将来を見据えた住宅設計の在り方やリフォーム時の新たなニーズ喚起を視野に入れる。同センターの稲葉大典事業推進部長は「このモデルルームを通じ、医薬品や医療機器以外にも、企業の活躍の場があることを多くの方々に知ってほしい」と語る。ファルマバレー第4次戦略計画が始まり、「医療健康産業」のすそ野を拡大するアイコンとしてこのモデルルームに期待したい。

モデルルーム発の新製品を商品化 アイカ工業
■士反慶介名古屋R&Dセンター長
■蟹江良雅開発営業グループリーダー
アイカ工業(本社・名古屋市)は、メラミン化粧板のトップメーカー。メラミン化粧板は汚れ、傷、水に強いことから壁や床、洗面化粧台に多く使われている。特に、消毒液などの薬剤、車いすのタイヤ痕、杖やキャスターによる汚れや傷が付きやすい病院や介護施設でも多用されている。
同社はこうした特長に加え、抗ウイルス、抗菌、消臭、抗アレルギー機能を加えた試作品をファルマバレーモデルルームに納入した。一昨年、抗ウイルス建材「ウイルテクト」を発売、さらなる機能の追加を検討していたところ、静岡がんセンターの山口建総長から「消臭機能も必要」との助言があったことが、開発を後押しした。
同社の士反慶介名古屋R&Dセンター長は「メラミン化粧板は常に美観と耐久性が求められる。機能を追加することで、機能同士が相殺されたり、狙った効果が出なかったり、美観が損なわれたりする。四つの機能がうまく働くようなあんばいが難しかった」と振り返る。プロジェクトの成果を生かし、「ウイルテクト」に消臭機能を付けた新製品を今期中にも発売予定だ。
営業統括本部の蟹江良雅開発営業グループリーダーは「新型コロナウイルスのまん延で、病院だけでなく住まいにもウイルス・細菌対策のニーズが出始めている。このモデルルームの取り組みが広まることで、医療・介護施設だけでなく住宅市場への参入が開けるのではないか」と期待を込めた。


■企画・制作/静岡新聞社地域ビジネス推進局

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