重岡 私がヴァンジを知ったのは50年前、イタリアに留学していた頃です。戦後、第二のルネサンスと言われ、ジャコモ・マンズー、エミリオ・グレコに代表される作家がたくさん出てきました。その中で一番若かったのがヴァンジです。日本に初めて紹介されたのは41歳の時。その後、世界中の彫刻家、画家からたった一人が選ばれる高松宮殿下記念世界文化賞も受賞しています。
ヴァンジの作品は、分かり易さの中にも考えさせられる部分があります。最近はアニメ作品やデジタル絵画が数多く取引されていますが、そうした中で具象彫刻を作り続けているヴァンジはすごい。今作ろうと思っても不可能に近いでしょう。私も彫刻をしていますが、ヴァンジのように自分の美術館があればと、うらやましい限りです。ヴァンジもすごく喜んでいると思いますので、ぜひ存続をしていただきたいですね。
池田 ヴァンジ美術館、ベルナール・ビュフェ美術館、井上靖文学館からなるクレマチスの丘は、本町だけでなく県東部の財産だと思います。
近隣の首長さんたちとも協力し、ヴァンジ美術館の存続を望む地元の声を川勝平太県知事に伝えました。
もちろん、地域で何とかしなさいというご意見も耳にします。当町もただお願いをしているわけではなく、井上文学館を町営にしました。あえてお伝えすると、管理運営に年間1500万円かかります。2022年度はスロープや浄化槽の改修も含めて4400万円の予算措置をしました。お預かりする以上責任をもって維持していきたいと思っています。
ただ、これ以上の予算の確保は厳しいため、ぜひ県にも考えていただきたい。ビュフェ美術館は静岡新聞社さんが作品の分散を防ぐために買い取って運営をされています。ヴァンジ美術館はぜひ県に運営していただき、それぞれが力を出し合ってこのエリアの文化を守っていきたいと考えています。
岩崎 美術館というと、フランスのルーブルやオルセーなど大きなものを想像されるでしょうが、パリには小さな個人美術館がたくさんあります。街はずれの美術館を周囲の風景と共に楽しみながら訪ね歩く。そういう旅人も実に多い。ヴァンジもビュフェも個人の作品をじっくり見られる。さらに、ヴァンジは彫刻と庭園の調和がすばらしい。
私は経済界で生きてきましたが、お金を稼ぐというのはとても疲れます。そうしたときに、ふっと「非日常」の世界に入っていける場所があると助かります。音楽も同じです。オーケストラ公演という非日常に身を置くことで、明日への活力が蘇る。これはすごく大事なポイントで、そうした場を地域が持っているか否かが地域の魅力を大きく左右すると思います。
懇話会としてもこうした非日常を体験できる場は大切にしていきたいと思います。 |