サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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風は東から「2022.5.26 静岡新聞掲載」

医療健康産業の集積を目指すファルマバレープロジェクトが始まって20年が経った。その間、同プロジェクトは「ものづくり、ひとづくり、まちづくり、世界展開」の4つの戦略を着々と進め、大きな成果を上げている。5月の「風は東から」は、これら成果の中から新たに生まれた静岡、山梨両県の連携にスポットを当てる。川勝平太静岡県知事、長崎幸太郎山梨県知事、両県の橋渡し役となった山口建静岡がんセンター総長に、連携の経緯や今後の展開について聞いた。

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ2

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ファルマバレー20年の飛躍 環富士山で静岡・山梨連携へ
■人の繋がりが生んだ連携協定

2019年12月、川勝平太静岡県知事と長崎幸太郎山梨県知事は、医療健康産業政策の連携に関する協定書に署名した。両知事の間には静岡がんセンターの山口建総長のにこやかな顔があった。
実は、山口総長と長崎知事は高校の同窓。「長崎知事は開成高校の後輩で、山梨県選出の代議士になり、その頃からこの地域の未来について話し合っていた。開成の創始者である佐野鼎先生は富士市の出身なのでその縁も感じていた」と山口総長は語る。
山梨県は、機械電子産業が付加価値額の6割を占める。長崎知事は就任前から、医療機器産業を主力産業にできないか模索していた。「静岡県は医療機器生産の日本の中心地。その原動力が静岡がんセンターとファルマバレーセンター(PVC)で、山口総長が医療城下町をつくる、とおっしゃった。ならばぜひ連携したいと考えた」と連携の理由を挙げた。
機械電子産業と医療機器は親和性が高い。これまでは半導体装置などが中心だったが、波がはげしく県内経済の安定、ひいては雇用の安定につながらない。他方、医療機器産業は2040年まで右肩上がりで、グローバルに見ても成長市場だ。「これを本県の機械電子産業に組み込めれば、本産業のみならず、本県経済に安定した成長をもたらすことができる」と長崎知事。
 そこで、県知事選の公約に医療機器産業振興策としてファルマバレーから繋がる山梨県メディカル・デバイス・コリドー構想を掲げ、19年1月に当選。当選の翌日には、山梨県庁の職員からPVCに連絡を入れている。
「開成の後輩の長崎知事が目指すメディカル・デバイス・コリドー構想への協力をお願いしたいという手紙を山口総長より頂いた。その後、正式に山梨県より話があって、即協定を結んだ」と川勝知事は連携の経緯を語った。

■川勝 平太 静岡県知事
早稲田大大学院経済学研究科修士、オックスフォード大D.Phil.。早稲田大政治経済学部教授、国際日本文化研究センター教授、学校法人静岡文化芸術大学長などを歴任。2009年より現職
■静岡県と山梨県との医療健康産業政策の連携に関する協定締結式


■ウィンウィンの関係目指す

過去には、山梨県の医療関連企業40社をファルマバレーに参加させたいという話もあったが、その時は立ち消えになっている。今回のスムーズな連携の背景には、人の繋がりに加え、山梨県の機械電子産業分野の高いポテンシャルがある。
長崎知事は「本県にはテルモやニプロなど大手医療機器メーカーがあり、山梨大学は医工連携の大学院を持っている。ファルマバレーとうまく連携協力することができれば、非常に大きな進歩が遂げられるのではないか」と自信をのぞかせる。
連携当初から静岡県はファルマバレーで培ったノウハウを積極的に山梨県に提供している。例えば、メディカル・デバイス・コリドー構想は、計画段階からPVCの植田勝智センター長が委員として参加した。また、ファルマバレープロジェクトの月1回の定期会議は両県連携会議としても位置づけられ、山梨県関係者が多数出席している。
山口総長は「山梨県にはロボット産業に強い企業集積があり、ファルマバレーの『ものづくり』を強化できる可能性がある。また、静岡県の企業への部材提供なども始まっている。静岡がんセンター、山梨大学医学部を核として『ものづくり』のアイデアも豊富になっている」と連携の効果を口にする。
山梨県は、2015年から山梨大学の協力で医療機器関連産業の人材育成を進めており、ファルマバレーとの連携も相まって、医療機器分野への参入企業は123社と倍増した。また、中核支援機関のメディカル・デバイス・コリドー推進センターには、設立2年足らずで1000件を超える相談が寄せられているという。
21年4月には、静岡県東部12市町の「ふじのくに先端医療総合特区(※1)」に、甲府や富士吉田など山梨県内7市町が加わった。
長崎知事は「今は、先行する静岡県の背中を見ている状況だが、それに甘えてばかりではいけない。県の規模は違ってもこの分野では真の意味での『二足歩行』をし、山梨県として特区に貢献をしていきたい」と意気込む。今後は、データ医療基盤を構築し、両県の共同事業に活用できる仕組みや、オープンイノベーションのプラットフォームも検討する予定だ。
「本県の東部(富士山麓・伊豆半島)と山梨県とは人口規模、経済力は概ねマッチしており、先端技術と山梨大学医学部を持つ山梨県と連携すれば必ずうまくいく。山口総長も長崎知事も、高校の同窓という関係に留まらず、可能性を見極めた上で進めている。県境を越えた総合特区の認定はPVCの見事な戦略のたまもの」。川勝知事は連携をこう評価する。

■長崎 幸太郎 山梨県知事
1991年東京大法学部卒業。同年、大蔵省入省(現財務省)。2002年7月山梨県企画部総合政策室政策参事に就任。衆議院議員、自由民主党幹事長政策補佐を歴任し、19年から山梨県知事に就任


■環富士山で連携促進

協定締結から2年半。昨年4月に新東名高速道路と東富士五湖道路がつながり、8月に中部横断自動車道の静岡―山梨間が全線開通した。富士山をぐるりと囲む道路網は、両県の新たな連携を促している。
川勝知事は静岡と山梨を、ふじのくに(富士の国)の表玄関と奥座敷の関係に例える。両県の特産品を相互購入する『バイ・ふじのくに』の活動は、経済活動に留まらず、行政はもとより、民間にも広がり、今は子どもたちの交流も始まっている。長崎知事は「両県の繋がりが深化している。この関係を大切にしていきたい」と期待する。
岸田内閣がデジタル田園都市国家構想を打ち出した。川勝知事は「静岡・山梨のふじのくに連携はそのモデルになる」という。山梨側にはデジタルデバイスの集積があり、山梨大学医学部がある。ワインもあれば、モモも、ブドウもある。八ヶ岳もある。静岡側には南アルプス、富士山、伊豆半島、駿河湾の美しい景色が広がる。
コロナ禍もあって山梨県は移住者の対前年増加率日本一、静岡県は2年連続で移住希望地ランキングの第1位(※2)となった。川勝知事は「食材数は日本一、景色は絶景、健康長寿は世界トップクラス、医療産業の集積は安心感をもたらす。両県の県境は今やほとんど無くなった」と続けた。
「静岡がんセンターに来て、毎日、富士山を眺めながら、静岡県と山梨県が組めば富士山を両県で独占できると思っていた。道路や空港の整備に加えて、医療健康産業をきっかけに、流通、観光、特産品販売、環境保全などの協働が進んでおり喜ばしい限りだ」と山口総長。今回の静岡・山梨連携が順調に進んだ理由を「人の繋がりに負うところが大きい」という。
川勝知事と山口総長には、上田政和医師という共通の友人がいた。「慶應外科の准教授で、いつも、『せこいことはするな』と助言してくれた。10年ほど前に亡くなったが、今回の計画でもその言葉を思い出していた」。山口総長と長崎知事は前述の通り開成高校の先輩後輩だ。
人の繋がりで始まった「ふじのくに」連携に長野・新潟県が加わり「山の洲(くに)」ができた。川勝知事は「山の洲は日本の絶景空間。なにより国土のシンボル富士山をもつ山の洲には魅力的なガーデンシティ(田園都市)が連なる。話題のトヨタの未来都市も富士山麓で建設が始まった。『ふじのくに』はポスト東京時代を拓き、新しい日本のゴールデン・ハートになると確信している」と締めくくった。

※1 革新的ながん診断装置の開発などを促すため国から指定を受けているエリア
※2 特定非営利活動法人100万人のふるさと回帰・循環運動推進・支援センター「地方移住に関するアンケート(窓口相談者ランキング)」

■山口 建
静岡がんセンター総長

慶應義塾大医学部卒業。1999年国立がんセンター(当時)副所長。2002年に静岡がんセンター初代総長に就任。公職として宮内庁御用掛を併任。現在、厚生労働省がん対策推進協議会会長、内閣府ゲノム医療協議会構成員を務める


■静岡県・山梨県連携の歩み

2002年4月

静岡がんセンター開設・ファルマバレープロジェクト開始
2009年7月 川勝平太静岡県知事就任
2011年12月 静岡県東部12市町をふじのくに先端医療総合特区として指定(内閣府)
2019年2月 長崎幸太郎山梨県知事就任
2020年6月 メディカル・デバイス・コリドー推進センター設置
2021年 4月 山梨県7市町を追加した総合特区計画開始


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