サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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風は東から「2022.6.23 静岡新聞掲載」

ファルマバレープロジェクトが進めている「ふじのくに先端医療総合特区」。がん医療の飛躍的発展と、地域企業の活性化と雇用創出を目標に、2011年度に内閣府から指定を受けている。20年度にはライフイノベーション分野で全国2位と、国の評価も高い。21年度からは区域を県内東部12市町に加え、山梨県の7市町に拡大(図1)。環富士山エリアで一体的な活動が始まっている。
6月の「風は東から」は、先月に続けて医療健康産業における静岡・山梨両県の連携について取材した。

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ3

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県境またぎ産業の裾野拡大 “二足歩行”で技術革新
■総合特区に共同評価指標
■「お互いの強みを生かしながら取り組みたい」と語る小笠原課長
2019年12月、川勝平太静岡県知事と長崎幸太郎山梨県知事は、医療健康産業政策の連携に関する協定書に署名した。両知事の間には静岡がんセンターの山口建総長のにこやかな顔があった。
実は、山口総長と長崎知事は高校の同窓。「長崎知事は開成高校の後輩で、山梨県選出の代議士になり、その頃からこの地域の未来について話し合っていた。開成の創始者である佐野鼎先生は富士市の出身なのでその縁も感じていた」と山口総長は語る。
山梨県は、機械電子産業が付加価値額の6割を占める。長崎知事は就任前から、医療機器産業を主力産業にできないか模索していた。「静岡県は医療機器生産の日本の中心地。その原動力が静岡がんセンターとファルマバレーセンター(PVC)で、山口総長が医療城下町をつくる、とおっしゃった。ならばぜひ連携したいと考えた」と連携の理由を挙げた。
機械電子産業と医療機器は親和性が高い。これまでは半導体装置などが中心だったが、波がはげしく県内経済の安定、ひいては雇用の安定につながらない。他方、医療機器産業は2040年まで右肩上がりで、グローバルに見ても成長市場だ。「これを本県の機械電子産業に組み込めれば、本産業のみならず、本県経済に安定した成長をもたらすことができる」と長崎知事。
そこで、県知事選の公約に医療機器産業振興策としてファルマバレーから繋がる山梨県メディカル・デバイス・コリドー構想を掲げ、19年1月に当選。当選の翌日には、山梨県庁の職員からPVCに連絡を入れている。
「開成の後輩の長崎知事が目指すメディカル・デバイス・コリドー構想への協力をお願いしたいという手紙を山口総長より頂いた。その後、正式に山梨県より話があって、即協定を結んだ」と川勝知事は連携の経緯を語った。


■メディカル・デバイス・コリドー構想
■手塚センター長は「医療分野でのロボット化に期待したい」と語る
甲府盆地から静岡県東部を結ぶ一帯に、医療機器産業を集積させるのが山梨県の「メディカル・デバイス・コリドー構想」だ。
構想を実現するため、2020年にメディカル・デバイス・コリドー推進計画が策定された。計画の柱は(1)支援体制の確立(2)企業支援策の充実・強化(3)連携の促進(4)人材の確保・育成、情報発信―だ。同年6月に始動した「メディカル・デバイス・コリドー推進センター」を中心に、専任のコーディネーターが参入意欲のある企業に伴走支援をしている。
「山梨県の機械電子産業の強みは、半導体製造装置や検査装置だ。装置の製造には、それぞれの工程に様々な技術を用いている。これらの技術は非常に高度で海外に流出しにくく、医療機器産業と親和性が高い。精密加工や真空技術、光技術などが転用できる」と同推進センターの手塚伸センター長は語る。
コリドー計画は「部品材料の供給」に力を入れている。というのも、医療機器産業は薬機法などの参入障壁が高く、一朝一夕には参入できない。ファルマバレーは、医療機器製造販売の資格取得に向けた様々な支援メニューを用意しているが、山梨県は高い技術力を背景に、医療機器製造販売メーカーへの部品材料の供給を推し進めている。
山梨県成長産業推進課の行村真生課長は「山梨県にあるロボット製造や半導体製造の技術は、“技術の結晶”と言える。それらを活かした部材供給を軸に産業を拡大するという手法は正解だった。今後は発注通りに製品を作るところから、自ら技術を提案し製品を設計・開発するレベルにまで成長できるよう支援していきたい」と期待を込める。
■「新規性や市場性も鑑みながら構想を推進したい」と語る行村課長
コリドー計画の策定には、ファルマバレーセンター(PVC)の植田勝智センター長が検討会議委員として参画している。「ファルマバレーの実行部隊としてやってきた強みと弱みを全てお伝えした。特に、コーディネーターの重要性は事ある毎にお伝えしている。
山梨県は部材供給を中心に進めるという明確な目標を立てていて、活動を1本に絞りやすい。また、最初から医師会、医療関連業界などが委員会に入ったことで、スムーズなスタートが切れている」と経緯を語った。
現在は、毎月、両県担当課と両センター、静岡がんセンターによる「両県連携会議」を開催し、両県プロジェクトの情報共有や、特区数値目標及び連携事業の進捗確認などを行っている。静岡県庁と山梨県庁相互の人事交流も行われている。


■共同開発第一号が誕生
■「ファルマバレーの経験を生かしてもらいたい」と植田センター長
展示会や学会へ共同で出展もしている。昨年は、日本消化器関連学会への共同出展や、PVC主催のふじのくに医療・介護福祉機器展への山梨県企業の参加などを精力的に行った。「共同出展では、テーマの立て方や現場対応について、両県の実務担当者が一緒に企画している。それらを通じて担当者のスキルが上がり、ノウハウや問題意識の共有もできている」と手塚センター長。展示会ブースでは、両組織の風通しの良さを感じるという。
連携が始まって今年で2年目。すでに、静岡がんセンターと浜口ウレタン(浜松市)が開発した「手術用頭部固定具」に使う不織布カバーを、光織物(山梨県富士吉田市)が製作し、両県共同開発第一号が誕生している。また、サンスターの山梨県への工場進出では、同社が静岡がんセンターとがん患者向けの口腔ケア製品の共同研究をしている縁で山口総長が仲介役を務めた。
昨年度、静岡側から山梨側への相談件数が目標の100件を超えた。行村課長は「マッチングとはある意味、多様な需要と多様な供給を“神の見えざる手”が繋げるもの。参画企業が多いに越したことはない。
日本全体がパイの奪い合いから最適配置に向かっていかなければならない時代。その中で、山梨県内でマッチングできないものが静岡県の企業となら上手くいくこと、またその逆のパターンもあるだろう。長崎知事からも、この分野でしっかりと“二足歩行”がしたいとの発言があったが、両県が車の両輪となれるよう、スピード感を持って進めていきたい」と語る。
■稲葉部長は「相互の企業情報を共有し成果につなげたい」と語る
PVCの稲葉大典事業推進部長も「実は両県の企業は技術的に重複している領域も多い。ただ、かなりの部分が重複していても、独自の“得意技”があったり、発注ロット数や加工可能なサイズなどで“強み”を打ち出したりする企業も見られる。こうした企業同士の連携により、1社では受けられない仕事も共同で受注できる可能性があるのではないか」と連携の重要性を語る。 両県連携は始まったばかり。「特区の数値目標は着実に達成した上で、さらに両県が実のある連携を進めることで、環富士山地域が日本をリードする医療健康産業の一大集積地となるよう取り組んでいく」と小笠原課長は結んだ。
以下のサイトから、両県で医療機器関連製品の製造や部材供給を行っている企業が検索できる

ファルマバレープロジェクト参画企業データベース「Made in Mt.Fuji 〜ふじのくにの宝物〜」

メディカル・デバイス・コリドー構想 参画企業データベース


連携から生まれた成果

■サンスターの工場進出
山梨県南アルプス市のサンスターグループ山梨工場の敷地内に、洗口液などを生産する新工場棟を建設した。

■展示会等の相互出展
ふじのくに医療・介護福祉機器展には、山梨県側から数多くの企業が出展した。





■企画・制作/静岡新聞社地域ビジネス推進局

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