サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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風は東から「2022.7.28 静岡新聞掲載」

近年、単なる物見遊山の観光でなく、「探求」「学習」の要素が強い旅行が人気を集めている。7月の「風は東から」は「新たな観光価値の創造」を考える。地域資源にスポットを当て、体験や学びの要素を取り入れた観光コンテンツを生み出す方法について、駿河湾フェリーの事例を紹介しながら考える。また、最近の修学旅行の傾向について関係者に聞いた。

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ4

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地域資源に「学び」の視点 好奇心くすぐる旅行商品に
■駿河湾を多面的に学ぶ
■駿河湾の解説動画に熱心に見入る子どもたち。ここから未来の研究者が生まれるかもしれない
7月3日、「深海研究スーパーキッズ育成プロジェクト」の二回目が駿河湾を舞台に開催された。これは、日本財団「海と日本プロジェクト」の一環で、日本一深い海・駿河湾がある静岡県から、世界で活躍する海洋・深海のプロフェッショナル人材を輩出することが目的。公募で選ばれた、海や海の生物に興味を持つ15人の小学生が参加した。
駿河湾フェリーの船内では、沼津工業高等専門学校大津孝佳教授の監修による「深海基礎講座」が行われた。同校の部活動「知財のTKY」の学生らが講師となり、動画やワークシートを使って駿河湾について知る学びのプログラムだ。子どもたちは学生らが作成したVチューバ―「知寺りず」が出演する7分半の動画を視聴した。
動画では、海底の様子や、多様な生態系、また江戸時代の金を運んだ千石船の歴史など、さまざまな角度から駿河湾の魅力を紹介している。視聴後はクイズ形式で動画の内容を振り返った。帰りの船では粘土で駿河湾の模型作りに挑戦。高専生に助けられながら出来上がった海底模型にペンライトを当て、海底地形が緑色に浮かび上がる様子にあちこちから歓声が上がった。
ふじさん駿河湾フェリーの滝浪勇理事長は以前から駿河湾の魅力を船内で楽しんでもらう方法を模索していた。「富士山は見えるが、駿河湾の海の底がどうなっているのか船上からはわからない。海の流れはどうなっているの?魚はどうしているの?多くの恩恵を受けている駿河湾をもっと乗船客に楽しんでもらうにはどうしたらよいか」。そんな時、駿河湾をテーマに知財創造教育に力を入れている大津教授の活動を知り連絡した。
■駿河湾の模型にライトを当て、浮かび上がる地形を観察する
「船下に広がる日本一の深海には、栄養豊富な湾が広がり、多様な生物の営みがあり、1年に4センチずつ伊豆半島が海底に沈みこんでいる。そうした事に意識を向けると、同じ景色も全く違う見え方になってくる」と大津教授。4時間に及ぶ初顔合わせを経て、試行錯誤を繰り返し、紹介動画の作成や操舵室の見学、船長との会話などを取り入れた教育コンテンツを作り上げた。


■観光×探求 観光の新しい形
■「地域資源を題材に自発的な学びのプログラムをつくりたい」と語る大津教授
静岡県が今年3月に策定した「県観光基本計画」(22〜25年度)によると、重点施策に、多彩な観光資源を活用した「しずおかサスティナブルツーリズム」の推進が記載されている。中でも、テーマ性を持ったツーリズムの推進がうたわれており、「ガストロノミー(食文化)」や「ジオ」「歴史・文化」などが並ぶ。
県観光協会の望月宏明専務理事は「例えば、お茶。飲んで楽しむだけでなく、入れ方、飲み方のお作法を学ぶ。さらに、飲む場所にこだわったり、花や掛け軸を見立ててみたり、お茶の歴史や文化が体感できるツーリズムをつくりたい。ジオなら、海から見た岸壁や、大地の成り立ちを楽しみながら学べるガイドツアーなど、防災、保全の視点も交えて観光につなげたい」と語る。
共通するのは「知の探求」。「これは何だろう?」「もっと知りたい」などの欲求をくすぐる企画を、従来の観光にどう“かけ算”して入れ込むかが大きなポイントだ。そのコツを大津教授は「本物に触れること」と語る。しかし通常、本物は専門家の専売特許。一般人には難解だ。その専門性を様々な要素に分解し、翻訳し直すことで、誰にでも分かりやすく、自発的に学べるツールを開発していくという。
■「優良なコンテンツをつくり情報発信を強化したい」と意気込む滝浪理事長
滝浪理事長と大津教授は「家康と金」をテーマに次のプログラムの検討を始めている。現在のフェリーの航路は、江戸時代、金を運んだ海の道だった。大河ドラマ「どうする家康」の放送開始を来年に控え、土肥金山から同じく江戸時代に開発された佐渡金山までの「黄金の道」を学ぶ企画だ。片や駿河湾フェリー、片や佐渡汽船と、海を題材にしたストーリーにも展開できる。 駿河湾フェリーは、今後もこうした「探求」の視点を入れた『教育の船』を目指す。滝浪理事長は「専門家の知恵を借りながら、子どもたちがワクワクするようなプログラムを開発して集客につなげたい」と語る。


■コロナ禍で変わる修学旅行
■望月専務理事は「持続可能な観光を進めるには、地元の協力が欠かせない」と語る
新型コロナウイルス禍で修学旅行の行き先が見直されている。安全安心な受け入れ先、距離が近い、少人数での体験メニューが豊富―などが選定の基準だ。
日本修学旅行協会(東京)の調査では、20年度の中学校の修学旅行訪問先で、県内は全国8位。19年度の17位から大きく順位を上げている。県観光協会は20年から静岡・山梨・長野・新潟の4県を対象に、修学旅行生への支援金を拠出している。20年度は県内の割合が圧倒的だったが、年を追うごとに山梨、長野県の割合が上昇。また、神奈川、愛知県からも増えているという。
こうした動きから、修学旅行誘致を積極的に行う県内自治体も多い。静岡・掛川市、河津・西伊豆町はそれぞれ支援金を用意。また、浜松市はSDGsプログラム体験の手配や、学校への記念品(家康くんぬいぐるみ)の贈呈などを行っている。
しかし、コロナがひと段落した後もこの状況が続くかは不透明。引き続き選ばれる旅行先になるためには、安全性の確保はもちろん、京都や奈良、沖縄に負けない魅力が求められる。
望月専務理事は「まずは観光を生業としている人が率先して魅力づくりをしていかなければならない。 そこに、交通事業者や、農協、漁協、飲食店、小売業など、地域のプレイヤーが一緒になって知恵を出し合い、磨き上げていくことが必要だ」という。加えて「それによって地域の経済が回る仕組みまでにしないと難しい」と課題を挙げた。


学習型商品開発に欠かせぬ地域連携
JTB静岡支店川島誠司営業推進部長(サンフロント21懇話会会員)
コロナ禍での県内中学校の修学旅行の動向は、21年度までは期間短縮や中止となる学校が多かったが、22年度は計画通り京都方面で殆どの学校が5、6月に実施済である。
公立高校においては、21年度までは方面変更による実施、一部の学校で延期や中止もあったが、22年度は予定通り11、12月に実施する方向で進んでいる。少人数に分かれ、入れ替わりで見学をしたり、屋外での体験を増やしたりするなど、ウィズコロナを意識した内容にシフトしている。また、行き先を貸し切りバスで移動できる方面へ変更し、安全上の対策を取る学校もある。
修学旅行は生徒の自立や成長を促すものだ。そのため、京都、奈良の歴史学習や、広島、長崎、沖縄の平和学習などの人気が高い。
こうした変化を踏まえ、当社ならではの学習コンテンツの開発に力を入れている。例えば広島支店では、修学旅行で訪れた学生に、地元のNPOや同世代の社会人、学生が語り部として参加、より深い理解促進を行っている。また、地元の留学生が英語で地域を案内する語学研修も好評だ。
今後、SDGsや探求学習といったキーワードは欠かせない。それらをベースに、地元を良く知る団体とタッグを組み、地域で活動する専門家、NPO、学生、自治体など幅広い人々と連携する必要があるだろう。
こうして生み出されたコンテンツは、学生のみならず一般客をも引き付ける力となろう。県内だけでなく、首都圏、中京圏から幅広い誘客が図れる“強い旅行商品”を県東部から発信していきたい。




■企画・制作/静岡新聞社地域ビジネス推進局

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