サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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風は東から「2023.1.26 静岡新聞掲載」

富士山に代表される多彩な観光資源と、全国トップクラスの農林水産物品目数で「食材の王国」とも言われる本県。古くから東海道の往来が盛んで、食だけでなく、もてなしの文化も根付いている。1月の「風は東から」は食と観光を結び付け、新たな誘客を図る「ガストロノミーツーリズム」を取り上げる。地域の食をフックに、自然、歴史、人の営みを磨き上げ、訪れたくなる地域をどのようにつくるか、関係者に聞いた。

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ10

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訪れて良し、食べて良し しずおか型「食の旅」創造
■新たな観光需要の創出
■食と文化を楽しむガストロノミーツーリズム。静岡は多くの資源に恵まれている
ガストロノミーツーリズムは、その土地の気候風土が生んだ食材、習慣、伝統、歴史などに育まれた食を楽しみ、その土地の食文化に触れることを目的とした旅のこと。日本では観光庁が旗振り役となり、昨年12月、「第7回ガストロノミーツーリズム世界フォーラム」が奈良県で行われた。ほかにも、北海道や新潟県をはじめ全国各地で盛り上がりを見せる。
理由の一つは産業の裾野の広さにある。地域の食と観光をつなぐため、農業、漁業などの生産者はいうに及ばず、土産物や乳製品、地酒などの加工会社、レストランや宿泊施設などのサービス業、小売、流通、情報産業までもが含まれる。
また、今ある資源を活用し低予算で始められること、地域ごとに多様なスタイルを打ち出せること、国内だけでなくインバウンドのコンテンツにもなることなど、取り組む理由に事欠かない。地産地消を基本に、持続可能なツーリズムとして世界的潮流になっている。
静岡県は今年度、戦略的にガストロノミーツーリズムに取り組むための有識者委員会(委員長・ふじのくに地球環境史ミュージアム佐藤洋一郎館長)を立ち上げた。温暖な気候と自然に恵まれ、多彩な食材が生産される本県だが、意外にも食の魅力は旅の主たる目的とはならず、自然景観が上位を占める。
一方で、県はかねてより、地元の食材を積極的に活用する料理人を「ふじのくに食の都づくり仕事人」として表彰、その数は535人に上る。また県独自の基準により農林水産物を認定する「しずおか食セレクション」も行っている。県の土泉一見ガストロノミーツーリズム担当参事は「食と観光がもっと密に結びついた地域づくりができれば、新たな観光需要が生まれるのではないか」と狙いを語る。


■地域がもうかる仕組みづくりを
事業を中心となって進める県観光政策課は、次の三つに取り組んでいる。
一つ目が「ガストロノミーツーリズム研究会」。ガストロノミーツーリズムに対する考え方を生産者、料理人、観光事業者、自治体などの関係者で共有し、知識を深めるための講演会だ。講師には、歴史や地質の研究者をはじめ料理人、食材の目利き人など多彩な顔ぶれが並ぶ。
二つ目は「コーディネーター」の設置。食、観光、PRの分野の専門家が、各地のDMOなどを訪問し、観光コンテンツの磨き上げをしたり、情報発信を行ったりしている。
三つ目がモデルツアーだ。本年度は2社が採択され、地域ならではの食の背景を知り、食を楽しむツアーが行われた。
課題の一つに挙げられるのが「生産者と料理人の連携促進」。食と観光を結びつけるには料理人がキーパーソンとなるが、地元の食材や食文化を知ってもらうには生産者との結び付きが欠かせない。土泉参事は「生産者を訪問して生産の現場を見たいという料理人は多い。料理作りの原点である土・水・光や生産者の想いを知ることで地域ならではの食が生かされるのではないか」と語る。
また、いくら県が旗振りをしても、ビジネスとして成立しないと継続が難しい。単に研究会やコーディネーターの設置だけでなく、参画する事業者がもうかる仕組み(バリューチェーン)の構築が求められる。
県は本年度中に「しずおか型ガストロノミーツーリズム」の定義や推進方針を決め、次年度以降、@「食」に対する観光客のニーズやマーケット調査の分析A食や食文化に係る情報の整理、集約B県内飲食施設における地産地消の実態把握C食や食文化を活かした観光サービスの創出―などを順次進める予定だ。県観光政策課は「事業者同士のマッチングやネットワークの構築などを通じて、機運醸成や場づくりに注力していく」と結んだ。

ガストロノミーツーリズム研究会 ラインナップ
  • 第1回 9月20日
    講師:静岡大学名誉教授 小和田哲男氏
    テーマ「戦国・安土桃山時代の食文化」
  • 第2回 12月12日
    講師:アル・ケッチァーノオーナーシェフ 奥田政行氏
    テーマ「庄内のテロワールとガストロノミーツーリズム」
  • 第3回 1月17日
    講師:サスエ前田魚店店主 前田尚毅氏
    テーマ「現場から見たガストロノミーツーリズム」
  • 第4回 2月14日
    講師:静岡県立大学学長 尾池和夫氏
    テーマ「静岡と大地と水」


今年度、県東部を舞台に日帰りのモニターツアーが行われた。
その手ごたえを関係者に聞いた。
士の恵みあふれる御殿場で
名産品と「桜鏡」で優雅なランチ

・行程
静岡駅 → 三島駅 → 小沢農園(見学) → 桜鏡(昼食) → ファーマーズ御殿場(見学) → 天野醤油(見学) → 御殿場高原ビール(見学) → 三島駅 → 静岡駅

魅力のブラッシュアップと価格設定に課題
しずてつジャストライン 吉林史仁地域交通課長

今回のツアーは「富士山麓のきれいなお水を使った食・酒・名物を味わう」がテーマで、参加者からは「想像以上」と高い評価をいただいた。
味覚だけでなく学びの要素があったことに加え、普段行けないような場所を案内した結果と考える。特に日帰りコースに組み込んだ「桜鏡」はゆっくりとコース料理を楽しんだこともあり評判が良かった。  課題は料金。モデルツアーのため、割安な価格設定だったが、定価での参加に関しては、躊躇する意見も寄せられており、ターゲットを明確にするなどさらなる検討が必要だ。

生産者・料理人・消費者の三位一体で食を盛り上げたい
リストランテ桜鏡 黒羽徹総料理長

これまでも「桜鏡」は四季を通じて年3〜4回、生産者とお客様の交流を図るイベントを開催してきた。この取り組みをさらに発展させ、月に1、2回に頻度を増やしたイベントを計画中だ。
一方で、静岡には何百種類も野菜があるのに、スーパーに地の野菜が少ない。この課題を打開するため、レストランで地物の野菜を使いつつ、消費者につなげる活動を行っていく。そして生産者・料理人・消費者の三位一体で静岡県の食を盛り上げていきたい。



“おいしい記憶”をつくる旅を
ふじのくに地球環境史ミュージアム佐藤洋一郎館長
ガストロノミーツーリズムは、食を通じて外から人を誘致して食文化を楽しみ、観光振興に資すること。静岡県は豊かな食材をはじめ、水や緑、文化施設や富士山のような聖地など、ガストロノミーツーリズムに必要なものがそろう恵まれた土地だ。
静岡県は高い価値を持つ食材を「農芸品」と呼び、その数は439品目を誇る。水にも恵まれ、富士山、南アルプスなどを水源に、天竜川や大井川、東部では富士川、狩野川、黄瀬川などが豊かな水を提供する。
また、信州まで続く「塩の道」も、静岡県の魅力の一つだ。塩の道は海のない信州に塩を運ぶための道として、古くから人々の往来があった。縄文時代からある秋葉街道をはじめとした静岡県有数の交易路は、食料の運搬路としても利用されていた。さらに信仰も盛んだ。中世終わり頃、今川家が京都の文化を静岡に持ち込んだことで、武家と公家の“ハイブリッド文化”が生まれた。今も武家独特の食文化が残っている。
食材や歴史、文化施設など恵まれた静岡のポテンシャルを土台に、さらにガストロノミーツーリズムを推進していきたい。ただ食べるのではなく食の文化を理解し、訪れる人々においしい記憶を残す。そしてまた訪れてもらう。そのためには、今ある資源の有効活用を考えていく必要がある。
県東部の土地柄を考えると、柿田川周辺にはかつて泉頭城という山城があった。深良用水は水不足を解消しようとトンネルを掘って芦ノ湖の水を引いている。また、東部・伊豆は桜の名勝地も多く、これをテーマにしたツアーなども喜ばれるだろう。食の魅力とともに、ぜひそうした背景も旅の行程に盛り込み、提案してほしい。


■企画・制作/静岡新聞社地域ビジネス推進局

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