サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
トップ 最新情報 政策提言 活動内容 サンフロント21懇話会とは 飛躍 風は東から

風は東から「2023.3.23 静岡新聞掲載」

県東部地域の活性化に向け、官民一体で提言を行うサンフロント21懇話会は、活動の模様や地域の課題を毎月1回「風は東から」で取り上げている。年度最後の3月は、川勝平太知事、懇話会代表幹事の清野真司静岡中央銀行社長を迎え、ファルマバレープロジェクトが開く県東部地域の未来について聞いた。聞き手は懇話会アドバイザーでふじのくに医療城下町推進機構理事長の大坪檀氏(静岡産業大学総合研究所所長)。

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ12

バックナンバー


ファルマバレーが照らす未来 世界に選ばれる県東部を創造
■高度ながん研究拠点を整備

大坪 ファルマバレープロジェクトが始動して20年がたった県東部について伺います。
川勝 2002年に静岡がんセンターが開設し、20年が経ちました。この間、富士山麓の県東部は世界に選ばれる地域に成長しました。富士山が世界文化遺産になり、東京2020オリンピック・パラリンピックの会場になり、静岡がんセンターの山口建総長や、ファルマバレーセンターの大坪檀理事長の強いリーダーシップのもとで、ひとづくり、ものづくり、まちづくり、世界展開の4つの戦略が順調に進んだからです。本県の医療機器生産金額は13年連続日本一、医薬品を含めると1兆円を超えます(※1)。医薬品・医療機器は日本全体で毎年3兆円を超える輸入超過であり、国産化は日本の目標です。東部地域はその目標の先頭を走っています。
加えて、隣の山梨県の長崎幸太郎知事とがんセンターの山口総長が高校の先輩後輩の縁で、精密機器が得意な山梨県の「メディカル・デバイス・コリドー推進計画」と本県のファルマバレープロジェクトが一体として「ふじのくに先端医療総合特区」に指定され、県境をまたぐ医療健康産業の推進体制ができており「環富士山の一体化」は一層深まるでしょう。

清野 銀行員として長らく各地を見ている中で、地域プロジェクトが20年活発に続いたというのはあまり聞いたことがありません。それで今の“果実”があると思います。東部の中小企業約50社が医療健康産業分野に進出し、160件以上が製品化された、そういう目に見える果実もできています。また、ファルマ関連企業が約600社。600と簡単に言いますが、よくそこまで広がったと思います。
川勝 ひとづくりでは東工大、東京農工大、早稲田大、慶応大と連携が進み、特に慶応大との協定で、がんセンターの研究者を受け入れて、すでに20人程が博士号を取得。山口総長は、人材育成を加速させる「がん研究大学院大学(仮称)」構想を提起されています。大賛成です。がんの研究・治療を専門とする世界トップクラスの大学院大学を目指したい。
医療には工学的技術・知識が必要です。工学・理工系を含む医科大学院になるのが望ましい。東部には沼津高専があり、県立工科短期大学校も発足しており、そこからの人材も活用したい。医療分野の産業化は日本のフロンティアです。県東部に集まる内外の若者がスタートアップにチャレンジしやすい環境もぜひ作りたいですね。
清野 近年、地域密着、地方創生というキーワードで、銀行がスタートアップや企業の多角化、新規分野創出などを積極的に支援するという流れになっています。もっともっと地元の中小企業の皆さんがチャレンジすべきだと思いますし、それを受け止める側も、失敗のリスクも織り込んだ考え方に変わってきています。

川勝平太 知事



■スタートアップがしやすい地域に

大坪 次の20年は本気になってグローバル化を目指してほしい。つまり、世界水準です。日本に収まっていてはだめで、自分たちが新しいものをつくるんだという意気込みがほしいですね。世界一のがん研究の大学院をつくると世界中から人材が集まり、産業がそれを追ってくる形になります。そこを財界が応援してほしいですね。
川勝 サンフロント21懇話会はいわば「目利き集団」です。スタートアップやベンチャーはリスクが伴います。清野さんのように金融機関の目利きをトップに据えた支援体制が整えば参入しやすい。軌道に乗ると内外から注目されると思います。
清野 ファルマバレーは様々な要素が相互に関連しているプロジェクトです。ある商品を生み出すにしても、ファルマバレーの縦軸、横軸の中で見ることで単発の商品ではなく全く違うものが生まれる可能性を秘めています。ベンチャーについても融資という発想でなく、ファルマバレーの全体像が分かった上で投資のリスクも一緒に負えるような機関をつくるのが良いと思います。
大坪 こんなに起業に適した場所はありません。私が若かったら東部で会社を興すでしょうね。
清野 私も沼津に住んで10数年が経ちますが、東部には産業、自然と、魅力があるものが揃っています。
ファルマバレーを除いた県東部の製造品出荷額等はおよそ4兆6千億円です。観光の地でもあるし、農林水産物も県全体で439品目と国内屈指の数を誇ります。今年で富士山が世界遺産になって10年、それに関わる観光も十二分にあります。まだインバウンドは完全には戻ってきていませんが、東京のホテルではすでに6割が海外からのお客さまだそうです。
この地域はファルマバレーを起点にもう一段、二段大きくなれるのではないでしょうか。ただ、そうしたポテンシャルが大変高い一方、住んでいる方が少しおとなしい印象を受けますね。

清野真司
静岡中央銀行社長

サンフロント21懇話会代表幹事


■生活文化水準高めるまちづくり

大坪 ファルマバレーによって新しい地域連携が始まり、産業界が投資を活発化して、外国から企業や研究者が入ってくることで、世界一の医療産業地帯としてこの地域をさらに大きくするためには何が必要ですか。
川勝 文化と教育の充実が必要です。
今年、静岡県は文化庁から「東アジア文化都市」に選定され、本県は日本の文化の顔、いわば「日本の文化首都」としての役割を担っています。富士山が世界文化遺産になって以後、静岡県は過去10年間で世界クラスの資源・人材群(※2)の認定が1ヵ月に1件以上のハイペースで増えています。
県東部をさらに活性化するために県のもつ広域行政機能を強めようと考えています。県東部には新幹線駅があって県職員に人気です。特に三島近辺は伊豆半島の玄関口であり、霊峰富士を望む地で、申し分ありません。
清野 富士山や伊豆半島ジオパーク、裾野市に建設が進むウーブン・シティ、そしてファルマバレープロジェクトと、世界中から注目されている県東部は、今後ますます国際的な競争力をもった未来創造型のエリアに発展する可能性を秘めています。しかし、ここには文化振興の拠点となるような公的な施設が少なく、上質な文化芸術に触れる機会が限られています。そこで、閉館の危機にある「ヴァンジ彫刻庭園美術館」を中心に、クレマチスの丘全体を広域文化活動拠点として活用する官民一体の協議会を立ち上げる提言をしました。
川勝 「クレマチスの丘」をどう活かすかは喫緊の重要な課題です。懇話会から官民一体の活性化協議会の御提案をいただいたのはまことに有りがたい。
ウーブン・シティを例にとれば、トヨタのモビリティだけでまちづくりは完結しません。高速道路、新幹線、美しい自然景観とあわせ、豊かな文化が求められます。まちづくりには医療、不自由のない食、スポーツ、文化・教育の充実が不可欠です。
コロナ禍で脱東京が始まり、本県は移住希望地ランキングで3年連続1位です(※3)。山梨県も常に上位に入っており、「環富士山の両県の一体化」を進めれば相乗効果をもたらします。
大坪 この20年で、まさに富士山に恥ずかしくない堂々たる姿となったファルマバレープロジェクトです。今後も世界の人が投資したくなる、訪れたくなる、世界の中心となるメディカルガーデンシティ(医療田園都市)として、高付加価値にして高い生活水準、文化水準のある地域にしたいですね。

※1 出典:令和3年厚生労働省薬事工業生産動態統計年報
※2 静岡県にゆかりのある、世界トップクラスと認められた農林水産物、工業製品、各種施設、人材など
※3 出典:2022年ふるさと回帰支援センター「窓口相談者が選んだ移住希望地」

大坪 檀
ふじのくに医療城下町推進機構理事長

サンフロント21懇話会アドバイザー



■企画・制作/静岡新聞社地域ビジネス推進局

▲ページトップ
入会案内お問い合わせ事務局案内リンク Copyright(c) SUNFRONT21.�ALL RIGHTS RESERVED.