サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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風は東から「2023.5.26 静岡新聞掲載」

人と動物を取り巻く環境が変化している。一昨年6月に動物愛護法が改正され、飼育者に対する規制が強化された。また、ペットの看護師である愛玩動物看護師が国家資格になるなど、動物が暮らしやすい環境づくりが加速している。静岡県も、現在の県動物管理指導センターを富士市に移転、機能を拡大する。5月の「風は東から」は、こうした動きを踏まえ、サンフロント21懇話会の活動の一つ「人と動物の共生社会の実現」に向けた取り組みを関係者に聞いた。

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ2

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人と動物の共生社会目指し 進む意識改革と環境整備
■動物愛護に向けた社会の動きが加速

2021年6月、「動物の愛護及び管理に関する法律(以下:動物愛護法)」が改正された。動物愛護法は動物の飼い方などが明記されている法律で、これまで必要に応じて改正されてきた。
今回の改正の大きなポイントは「数値統制」だ。ブリーダーやペットショップが動物を扱うに当たり、動物1頭当たりの飼育スペースや、ブリーダー1人当たりの飼育上限匹数が決められた。また、罰則金額も高くなり動物愛護の運気が高まっていることがうかがえる。

今年4月には、ペットの看護師「愛玩動物看護師」が国家資格化された。それに伴い、採血やマイクロチップの挿入など、これまで獣医師にしかできなかった診療行為の一部が動物看護師にも実施できるようになる。
動物先端医療センターAdAM(長泉町)の小林正行院長は「生活環境が改善されペットが長生きするようになり、慢性疾患を患う高齢動物が多くなっている。獣医師は高度な獣医療だけでなく、“最良の別れ”を提供するために真摯な態度で対応することが求められている。獣医師の責任が大きくなる中、動物看護師が獣医師の仕事の一部を担えるようになったので、獣医師は本来するべき業務に集中できるようになる。動物看護師には自ら考え業務を果たすことを期待している」と語る。

動物先端医療センターAdAM
小林正行 院長



■「かわいい」の先の共生を目指す

新型コロナウイルスのまん延はペット需要の増加も生み出した。人と会う機会が減り、ライフスタイルの変化からペットと過ごせる時間が長くなり、家族化が進んでいる。一方、コロナ禍で収入が減り、多頭飼育が崩壊したり、飼い主の高齢化で引き取り手のいないペットが増えたりするなど、社会問題化する場合も多い。「社会の変化は動物を取り巻く環境の“弱点”をあぶり出した」と語るのは公益社団法人アニマル・ドネーション代表理事の西平衣里氏だ。
アニマル・ドネーションは、人と動物が良きパートナーとして、共に幸せに暮らせる社会を作るため、企業や個人からの寄付を動物福祉や保護団体に分配する「中間支援機関」だ。日本初の動物関連に限定したオンライン寄付サイト「アニドネ」を運営している。寄付の分配の他、保護団体に寄り添った活動支援や、全国にある動物愛護センターマップの作成、大小さまざまな動物福祉の問題について、解決したいゴールを定めたAWGs(Animal Welfare Goals)普及など、活動は多岐にわたる。 
「人と動物の真の共生は、人が動物を大事にすることだけでなく、お互いに支え合うこと。動物を飼っていない人も犬・猫がいることで私たち人間が救われているということを知り、動物を社会の一員として認識することが必要」と西平氏は言う。
近年、保護犬が社会の一員として人の役に立つ事例が増えている。例えば、少年院の少年が、飼い主のいない保護犬を訓練することで自分に自信をつける機会になっている。また、虐待被害にあった女性や子どもが受けた出来事を安心して話せるように手助けする『付き添い犬』も増えている。保護犬に限らず、介助犬や盲導犬、警察犬、小児病棟で子どもたちの注射や手術に付き添い、病に立ち向かう勇気を与えるファシリティドッグなど、身近なところで人間の役に立っている動物は多い。しかし、こうした活動の多くは知られていないのが現状だ。

公益社団法人アニマル・ドネーション
西平衣里 代表理事



■県東部で動物を受け入れるために
NPO法人「人と動物のハッピーライフ」主催で昨年11月に開催された「わんわんフェスティバル」(沼津市・門池公園)

サンフロント21懇話会は、活動の柱に「人と動物の共生社会の実現」を挙げる。その具体策としてNPO法人「人と動物のハッピーライフ」を2016年に立ち上げた。セミナーの定期開催やシンポジウムを通じて動物の生態やマナー講習、動物愛護の気持ちの醸成など啓発活動を行っている。
今年3月に西平氏を招き、三島市内で特別セミナーも行った。県東部で共生社会を実装していくために何に取り組むべきかとの問いに対し、西平氏はドッグツーリズムの先進地である軽井沢を例に挙げた。「動物に寛容な街と知られる軽井沢は、愛犬と同伴可能なお店がわかる軽井沢マップを作成してドッグツーリズムの利便性を向上させている。伊豆を抱える東部も動物同伴の宿泊施設やお店を増やし、人と動物が共生するまちのロールモデルをつくったらどうか」とアドバイスした。

同法人の西島昭男理事長は「動物の命をつなぐための拠点づくりを計画中だ。拠点は、空き家をリノベーションし飼育を可能にする。ドッグランなど別機能も併設したい。運営は法人関係者に加え、ホームページで飼育ボランティアを募集予定だ。地域の人たちと法人が連携し、県動物愛護センターの活動をバックアップしていきたい」と語る。
コロナ禍をきっかけに犬や猫、自然に関心を持つ人が増えたからこそ、人も動物も安心して暮らせることが、まちづくりにも大切な要素となってきている。

NPO法人「人と動物のハッピーライフ」
西島昭男 理事長



「管理」から「愛護」へ
県動物管理指導センターがリニューアル
2025年度に県動物愛護センターとして開所予定の建物(現県立富士見学園)

県は2021年、動物愛護精神の高まりに伴い、「人と動物の共生する社会」の実現を目指して、「静岡県動物愛護管理推進計画(2021)」を策定。殺処分ゼロを目標に取り組みを進めている。
動物愛護活動の拠点である動物管理指導センター(浜松市)は施設の老朽と愛護にかかる機能不足が課題となり、時代に即した動物愛護管理のシンボルとして、富士市に「(仮称)静岡県動 物愛護センター」として生まれ変わることが決まった。
新拠点は「動物の命をつなぐための拠点」、「普及啓発の拠点」、「ボランティアの支援、育成の拠点」、「災害時動物対策の拠点」の四つのコンセプトを掲げ、ハード面だけでなく活動内容などのソフト面も大きく変わる。「動物管理指導センター設立当初は、保護犬・猫を処分する施設としての役割が強かった。しかし時代の変化に伴い、保護した犬や猫の命を救うために、譲渡を推進しており、そのためには長く飼える施設が必要になることから、今回の移転では収容機能を拡充。名称も“管理”から“愛護”に変更した」と県健康福祉部衛生課の阿部冬樹技監は語る。 
地域の住民をはじめ広く県民に対して、子ども向けの動物愛護教育など、啓発活動に注力していくほか、人獣共通感染症情報も発信していく。また、動物を飼っている、飼っていないに関わらず、誰もがセンターに訪れやすいように一般の人に向けたイベントの開催も検討中だ。
力を入れるのは地域で活動するボランティアへの支援だ。イベントや譲渡会などへの会場提供をはじめ、団体同士の連携促進のための意見交換会を取り持つ。
さらに同センターは、災害時動物対策の拠点としての役割も果たす。災害により飼い主がいなくなった犬や猫を収容し、譲渡につなげていくほか、平時にはペットの防災訓練や研修を行い、災害に備えた情報発信の場として機能していく予定だ。



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