サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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風は東から「2023.7.27 静岡新聞掲載」

世界的なスポーツの祭典を機に自転車活用が進む静岡県。県東部では、自転車のプロチームが拠点を構え、国際的な大会も開かれるようになった。道路にしるされた「矢羽根」と呼ばれるブルーの自転車ナビラインをサイクリストが颯爽と走る姿が日常の風景になりつつある。「風は東から」7月はサイクルツーリズムを取り上げる。県内の走行環境の整備やインバウンドを見越したナショナルサイクルルート(NCR)について国土交通省自転車活用推進本部事務局次長の金籠史彦参事官(注:7月から内閣官房新しい資本主義実現本部事務局参事官)と静岡県交通基盤部の望月靖之道路局長に聞いた。

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ4

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NCR整備を官民で 海外から選ばれる地域へ
■自転車の走行環境整備と5つのモデルルート
富士山と海が一望できる太平洋岸自転車道
(「出典:SHIZUOKA CYCLING」)

自転車が走行しやすい環境の整備を進める静岡県。矢羽根型路面表示の設置に加え、案内標識の設置や、古くなった防護柵、傷んだ路面の整備などに力を入れている。
例えば伊豆半島では、トンネルが多く、自転車が車から見えにくいこともあるため、注意喚起とともに照明をLEDに替え、視認性の向上を図っている。また、沿道は伸びた草が走行の支障になるため、防草シートやコンクリートで覆うなど、道路環境の改善に努めている。特徴的なのは、矢羽根型路面表示が通常の規格より小さいことだ。これは伊豆半島が、富士箱根伊豆国立公園の一部であることから、景観を損なわないようローカルルールとして採用した。

この取り組みにあたり、静岡県交通基盤部の望月靖之道路局長は「警察やサイクリスト、景観の有識者にも意見を聞きながら、安全性と快適な走行を両立する工夫をしている」と語る。
こうしたサイクリング環境整備は県だけでなく、周辺自治体や民間企業などで構成する「サイクルスポーツの聖地創造会議」(議長:川勝平太知事)で進めている。
県は5つのモデルルートを定めた。「太平洋岸自転車道」「伊豆半島1周ルート(イズイチ)」「浜名湖1周ルート(ハマイチ)」「富士山1周ルート(フジイチ)」「東京2020オリンピック・パラリンピックコース」だ。富士山やオリ・パラで使用されたコースなど、選りすぐりのルートとなっている。
中でも、太平洋岸自転車道は国からNCRに指定され、海外からの利用も見込む。

「サイクリストをおもてなしするための道路整備を官民で進めたい」と語る望月局長



■NCRで『日本×サイクル』イメージを醸成

NCRは国土交通省(自転車活用推進本部)が指定する。日本を代表し、世界に誇りうるサイクリングルートとして、全国で6コースが指定されている。北海道の「トカプチ400」や瀬戸内の「しまなみ海道」など、インバウンドに結び付けることを強く意識したルートだ。
NCRに指定されるためには厳しい審査基準がある。ルート案内などの路面表示や案内看板が設置されていること、ゲートウェイポイントとなる鉄道駅などにレンタサイクルや着替え場所があること、ルート直近にサイクリスト向けの宿泊施設があること、誰もが容易に情報が得られることなどだ。
「一番大事なのは官民でPDCAを回しながらしっかり受入環境整備・プロモーションができる体制が整っていること」と語るのは国土交通省自転車活用推進本部事務局次長の金籠史彦参事官。これらの条件を踏まえ、本部事務局が選定した候補ルートを第三者委員会が審査し、本部長から指定を受ける。
NCRに指定されると、国、JNTO(政府観光局)などが海外各国向けにプロモーションを掛けていく。
しかし、「実は、海外での『日本×サイクル』の認知度は、まだ低い。特に欧州には浸透していない」と金籠参事官。そのため、世界最大級の自転車展示会「台北サイクルショー」などでのPRや、JNTO海外事務所が主催する海外の観光事業者向けのモニターツアーなどとの連携を進めている。
また、NCRを含む日本の自転車関連施策などについて、5月には、ドイツで行われた自転車国際会議「Velo‐City 2023」に参加し、情報発信だけでなく、情報交換や海外とのネットワークづくりを始めた。6月にはドイツで行われた、約7万人が集まる世界最大級の自転車展示会「EUROBIKE 2023」に参加、NCRのPRに向けた仕掛けづくりなどを行った。

NCR紹介チラシ



■インバウンドが加速 高まるNCRの注目度

4月、田子の浦港に米国の自転車メーカーが仕立てたクルーズ船が入港した。サイクリスト300人が、それぞれ自転車を持ち込み、ガイドアプリを見ながら富士山周辺や太平洋岸自転車道を楽しんだ。参加者のうち半数は2人乗りのタンデム自転車だったという。「インバウンドサイクルツーリズムはもう始まっている。今回は先駆的な人たちだったが、これからもっと多くのサイクリストが日本を訪れる」と金籠参事官は予測する。
例えば、先日訪れたドイツは、自転車で海と山の両方を楽しむ人が多く、かつクルーズの人気も高いという。「海越しの富士山を見ながらアップダウンのあるコースが走れて、クルーズも楽しめる静岡県は、ドイツ人向けのインバウンドツアーをするのにぴったり」とアドバイスする。
また、県が山梨県と整備を進める「富士山1周ルート(フジイチ)」も、次のNCR候補のひとつだ。「富士山は日本が誇る資産なので、それをしっかり味わってもらえるルートはぜひ海外にアピールしたい」と金籠参事官は期待する。
県が管理する道路は延べ2700`b。サイクリストが安全に走行できるようパトロール車で定期点検を行っている。しかし「車での細かなチェックは限界がある」と望月局長。地域企業や住民による「アダプトロードプログラム(道路の一定区間を美化する活動)」のような形で定期的にチェックできる体制を整えられればと語る。「自転車走行環境の整備は20年、30年後を見据えた活動。文化として地域に根付かせる地道な努力が必要だ」と望月局長は表情を引き締めた。



自転車という「窓」から社会課題の解決を

国土交通省金籠史彦参事官
サイクルツーリズムによる観光振興の先には、地域の人々の生活の向上があると考えている。実は、台湾やオランダなど諸外国では当たり前に電車などの公共交通機関に自転車を載せられる。
地域の公共交通機関の維持が難しいといった課題に対し、サイクルトレイン・バス(電車やバスに自転車を分解せずそのまま載せること)の取り組みを進めることで、今まで自家用車で移動していた人も公共交通機関を利用する機会が増えたりする。自転車と公共交通機関がパイを奪い合うのではなく、むしろ補完していく。それがひいては健康増進にもつながる。
サイクルツーリズムは海外で認められた価値が日本に逆輸入されていると言い換えることもできる。欧米で盛んに言われている環境保全やサスティナビリティ、それをレジャーに落とし込んだものが「サイクルツーリズム」だ。そして、今後こうした考え方が社会で重視されていくというのを占う一つの動きになる。
「自転車」という小さな窓を通してみると、新しい価値観や社会のつくり方のヒントがたくさんあるように思う。

2市1町でサイクルツーリズムの振興を
御殿場市、小山町、裾野市
御殿場市、小山町、裾野市の2市1町は昨年「東京2020開催市町レガシー推進協議会」を立ち上げた。
地域住民のサイクリングへの興味関心が高まる中、自転車競技を「見る」「支える」「文化を生み出す」一環として、住民向けに、本場ツール・ド・フランスの名前を冠するサイクルイベント「ツール・ド・フランスさいたまクリテリウム」の観戦ツアーを造成した。
また、2市1町のコースの強みである富士山の景色を活かしたサイクルツーリズム事業も行っている。今年の3月、専用アプリを利用し実際のオリンピックコースやショートコースが楽しめる「ツール・ド×富士山」を開催。ゴールすると記念品をもらえることもあり、2か月間で1000人を超えるサイクリストが参加した。
今後も同協議会は一丸となり、サイクルツーリズムのプロモーションを強化していく予定だ。


■企画・制作/静岡新聞社地域ビジネス推進局

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