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風は東から「2023.8.25 静岡新聞掲載」

超高齢社会の理想郷を目指してファルマバレープロジェクトで推進している「自立のための3歩の住まい」。同プロジェクト20年の叡智を生かし、健康寿命が尽きた後も最後まで自分らしく過ごせる住まい環境の提案だ。8月の「風は東から」は、先月25日に秋篠宮家の次女佳子さまがファルマバレーセンターをご視察された様子を中心に、3歩の住まいの概要と、今後の展開を考える。 風は東から 「自立のための3歩の住まい」マニュアル

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ5

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超高齢社会の理想郷づくり 佳子さまがPVCをご視察
■ファルマバレーの全体像を紹介
3歩の住まいモデルルームで、植田センター長より説明をお受けになる佳子さま(左)

先月25日、佳子さまが長泉町のファルマバレーセンターをご視察された。淡いグリーンのワンピースに白のジャケット姿で、同センターの玄関に降り立たれた佳子さまは、出迎えた関係者らに笑顔であいさつされた。当日は、御殿場で行われた馬術競技のご視察の後で、川勝平太県知事や中沢公彦県議会議長が同行した。
同センターでは、ファルマバレープロジェクトの取り組みや、センター内で開催されている「認定看護師教育課程」、同センターに入居する医療機器製造のテルモなどを視察された。ふじのくに医療城下町推進機構の大坪檀理事長が先導役を担い、同センターがある長泉町の立地や当日の富士山の様子について、佳子さまに説明をした。
プロジェクトの概要は、同機構の大須賀淑郎副理事長から。地域企業が開発したプロジェクトの成果として、穿刺支援装置「月兎」と、放射線治療補助具用「3Dボーラス」を説明した。
佳子さまは、実際に3Dボーラスに手を触れられ、素材や、がん患部の部位の位置に応じて厚みを変えるかなどを質問されていた。

続いて、同センターで行われていた「認定看護師教育課程」の研修場へ。同課程は、特定の看護分野でより高度な看護技術や知識を学ぶもので、静岡がんセンターが、がん看護に関わる皮膚・排泄ケア・緩和ケア・がん薬物療法看護・がん放射線療法看護・乳がん看護の5分野を開講している。説明は静岡がんセンターの山口建名誉総長と、谷口貴子課程長が担当した。
佳子さまは一つ一つのテーブルを回られ、直接研修生と会話を交わされたり、腹部診察に必要な打診の練習用風船に触られたりされた。
テルモでは、新型コロナウイルス等で重症呼吸不全を起こした患者を治療するための「エクモ(体外式膜型人工肺)」の説明があった。エクモは心臓や肺の機能を一時的に代替し、身体機能の回復を助けるもので、同社が7割のシェアを持つ。ほとんどがセンター内工場での生産だ。
同社の佐藤慎次郎社長、エクモ開発者らが佳子さまのご質問に答えた。佳子さまは、コロナ禍でエクモを増産する際、どのような苦労があったか、どのように対応したかなど、踏み込んだ質問をされた。また、医療への貢献に対する感謝の言葉を述べられるなど、お優しい一面も垣間見られた。

エクモ(体外式膜型人工肺)


「月兎(げっと)」は、血管を浮き上がらせ採血しやすくするためのもの。腕帯を空気で加圧することで、腕の血管が確認できることから、血管が出にくい人や、何度も採血をする必要のある人の負担を抑えることができる。
「放射線治療用ボーラス」は、人体表面にある病巣を治療する際に皮膚にかぶせるシート素材のこと。透明で柔軟性があり、長期保管が可能なポリウレタン系樹脂の新素材を開発した。オーダーメードで作製でき、より精度の高い治療が可能となる。


■3歩の住まいにご質問を次々と

最後に視察されたのは、最新の介護器具を集めたモデルルーム「自立のための3歩の住まい」。植田勝智センター長が、ベッドを部屋の中心に置き、数歩歩けば自力でトイレなどに行くことができることを説明すると、佳子さまは納得された様子だった。
続いて、植田センター長が起き上がりを補助する可動式ベッドや、AI(人工知能)スピーカーで開け閉めできるカーテンなどを実際に動かしながら紹介した。家族・社会との絆をつなぐための、通信ネットワークを活用した家族との会話や遠隔医療について説明すると、佳子さまは会話する事の意義や健康状態のチェックの大切さについて言及された。
モデルルームに設置された各種の機器についても、数多くの質問を寄せられた。例えば、歩行トレーニングロボットはすでに実現化したモデルなのか、転倒時の衝撃吸収床材の有用性はどの程度か、といった内容だ。床材については、ご自身の足で感触をお確かめになる一幕もあった。
佳子さまはモデルルームに大変興味を持たれた様子で、最後には当日の説明資料を要望され、お持ち帰りになった。
ご視察後、川勝知事、中沢県議会議長、山口名誉総長、大坪理事長、佐藤テルモ社長に加え、長泉町の池田修町長、井出春彦議長がお見送りし、短いが内容の濃いご視察は幕を閉じた。



■普及と発展に情報発信強化

佳子さまが注目された「自立のための3歩の住まい」は、ファルマバレープロジェクトが見据える「超高齢社会の理想郷」を目指す取り組みの一つだ。
健康寿命が終わった高齢者が最後まで自分らしく過ごせることがコンセプト。身体に障害があると、たとえ広い家に住んでいたとしても、その中の一室での生活が中心となる。そこで、3歩の住まいは暮らしの機能を一室に集中した。特に、一番長い時間を過ごすベッドを中心に、トイレや風呂、洗面台などへの移動距離が最小となるよう配置をしている。
2021年にセンター内に開設されたモデルルームは、四つ特徴がある。一つ目は、居室中央に配置したベッドから最短距離でトイレ等にアプローチできること、二つ目は、医療・介護に適した居室で、床、壁には感染対策をし、転倒時にけがをしないよう衝撃の少ない素材を用いたこと、三つ目はロボット化、AI化により、生活環境を整備し、日用品等の入手を容易にしたこと、四つ目は情報ツールを用いて家族や社会との絆を保つようにしたことだ。
整備には、県、同センター、静岡がんセンターに加え、パナソニックやTOTOなど全国の企業15社によるコンソーシアムが取り組んでいる。また、世界的な建築家ル・コルビュジェの「カップ・マルタンの休暇小屋」(1951年)、95年に呼吸不全の医師が設計した自立可能な「終の棲家」、2002年開業の静岡がんセンターの病室などをベースにしている。
モデルルームは、未来の高齢者住宅・居室を研究するための実験室として位置づけられていて、山口名誉総長は「今後、コンソーシアムのメンバーや視察に訪れた1000名あまりの専門職の方々と対話を進めながら、20年後に向けて、新たな住宅・居室設計やロボットベッド、ロボットトイレなどの開発などを目指していく」と語る。
今年3月には設計マニュアルが作成され、10月からはSBSマイホームセンターのリフォームプラザ(静岡市駿河区)に常設展示が予定されている。マイホームセンターに出展しているハウスメーカーや来場者に広く関心を持ってもらうことが狙いだ。今後は、首都圏での展示会や高齢者住宅関連の研究会などにも積極的に参加し、県内外へ情報発信を進めていく。



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