サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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風は東から「2023.9.22 静岡新聞掲載」

先端農業を推進する県のAOI(アグリ・オープン・イノベーション)プロジェクト。環境負荷の軽減や資源循環型農業への転換など、農業を取り巻く環境が大きく変化する中、オープンイノベーションによる新たな価値創造を目的に、さまざまな取り組みを行っている。9月の「風は東から」は、同プロジェクトが組織する会員制のプラットフォーム「AOIフォーラム」のマッチングイベントを中心に、新しい農業の潮流や、中核支援機関AOI機構の支援メニューなどを紹介する。

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ6

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資源循環型農業へ
課題解決で収益性向上
■マッチングイベント「AOIミートアップ」

AOI機構は、産学官金が連携したオープンイノベーションにより、農業やその関連分野に先端技術を実装させ、農業の生産性を高め、稼げる農業にしていくことを目指している。
現在、AOIフォーラムの会員は、農業法人、IT企業、資材メーカー、流通販売などあらゆる分野にまたがり、300社を超える。年2回開催する「ミートアップ」は、フォーラムのメーンイベントで、5分間のショートプレゼンテーションを通じて会員相互のビジネスマッチングや課題解決を目指している。
8月末に浜松市で開かれたミートアップには、県西部の会員を中心に23社がエントリー(一覧参照)。会員は企業概要と、自社が保有する技術や資産、そして現在抱えている課題や、それを解決するために求める技術や資産を発表した。
今回は、堆肥や下水汚泥などを取り扱う企業や、バイオマス資源を活用する企業などの資源循環や環境負荷軽減につながる取り組みが目立った。
たとえば、富士見工業(静岡市)は、養鶏業や牧場からのふん尿由来堆肥を、製品化して販売している。鶏ふん、豚ぷん、牛ふん、バークなどの種類があり、バランスのとれた“地力”増進には欠かせない。今後、環境負荷軽減や化学肥料の削減など変化する農業分野で、いかに有機堆肥の利用促進を図るかを模索している。

また、不織布の製造技術が専門の王子キノクロス(富士市)は、「パルプエアレイド」と呼ばれる、空隙が大きく、保水性、通気性が高い不織布で家庭用クッキングペーパーや、食品トレー用水分吸収シートなどを作っている。現在、環境負荷の少ない製品の開発に力を入れており、農業分野では、プラスチック製品の代替として水耕栽培や土壌栽培の育苗用資材としての利用を検討中だ。
プロジェクトの拠点、AOI―PARC(沼津市)に入居する県の農林技術研究所は「高糖度トマト栽培システムの開発と実用化」、慶応大学SFC研究所は「高気温での不稔(花が咲かなかったり、実ができなかったりすること)を対象とした研究」、また、理化学研究所は「ゲノム解析技術を応用した包括的な土壌微生物の機能解析」をそれぞれ発表し、最先端の知見を学ぶ機会にもなった。



会員コメント
バイオマス資源開発
代表社員 相川順一氏
一度に20社の話が聞け、静岡県での課題や現状が理解できた。また、我々の会社に必要な原料の調達について商談したり、農林産物の未利用部分を活用することで一緒に商品を開発したりできるイノベーティブな農家を探すことができると感じた。
アグリビジネス投資育成
執行役 堀部恭二氏
参加企業は、一層成長するために越えなければならないハードルを包み隠さずプレゼンし、それを参加者皆が共有するルールやスタイルに共感した。
特に、プラスチックを紙に、つまり環境に優しい資材に置き換えるという社会の流れにいち早く目をつけた王子キノクロスの取り組みは素晴らしいと感じた。
イノチオプラントケア
事業企画部長 阿部亮氏
思っていた以上に活発な提案を聞くことができた。弊社も未利用資源を使って循環型の農業社会をつくろうと様々な戦略を練っているが、同じような価値観の会社が集まって話をしたことは刺激になった。
土壌と作物のメカニズムは解明できていない部分も多く、理化学研究所が進める土壌微生物の研究などは大変興味深かった。


交流会の中締めでは、AOI機構の藤井明代表理事があいさつし「今日の参加が何らかの参考になったと感じる方は挙手をお願いします」と問いかけると、会場から多くの手が挙がった。
続けて、「資源循環型、持続可能の考え方を軸にして、研究開発や商品開発を成就させようという意気込みを、各社のプレゼンテーションから感じた」と振り返った。さらに、それぞれの企業が持つ類似した課題―例えば原料となる廃棄物の量をどのように確保するか、また販路をどうするかなど―について、それらをうまくまとめ県としての「総合力」を創出するのも同機構の役割と語った。
会場には、パンフレットやサンプルの配布、商品展示もあり、自由交流ではシーズやニーズに合う会員と熱心に会話をする姿が多くみられた。

あいさつする藤井明代表理事


発表企業一覧(発表順)

・焼津水産化学工業
・サイネットカンパニー
・豊田油気
・アグリビジネス投資育成
・イノチオプラントケア
・カルテック
・富士山朝霧Biomass
・ホクレア・システムズ
・王子キノクロス
・流通サービス
・東海テクノ
・静岡県農林技術研究所加工技術科
・平出章商店
・アサギリ
・理化学研究所
・富士見工業
・イノベーティブ・デザイン&テクノロジー
・光産業創成大学院大学
・丸文製作所
・慶応義塾大学SFC研究所
・静岡県農業協同組合中央会
・バイオマス資源開発
・静岡県農林技術研究所次世代栽培システム科


環境負荷軽減と収益性の両立に取り組む
企業の共創の場づくり

ミートアップからどのような成果を生み出すか、AOI機構の細谷勝彦専務理事に聞いた。

海外に原材料を依存している化学肥料や飼料の高騰が農業経営を圧迫し大変厳しい状況が続いている。こうした中で注目されているのが、堆肥や下水汚泥などの国内肥料資源の利用拡大だ。これらを上手に使うことは、資源循環や環境負荷軽減にもつながる。これまでは、農業分野ではSDGsやカーボンニュートラルの取り組みよりもまずコストを下げることが優先されて、二律背反となっていたのが、ここにきて同じベクトルで語られるようになってきた。
今回の会員交流会での各会員のプレゼンではこうした動きを実感した。具体的にはイノチオプラントケアの有機質肥料やバイオ炭、富士山朝霧バイオマスのバイオマス発電の残渣や消化液のアップサイクル、アサギリの牛ふん堆肥ペレット、富士見工業の堆肥、バイオマス資源開発の木質系バイオマスの飼料化など、地域の未利用資源を肥料や飼料に循環させていく取り組みが多く発表された。
こうした取り組みをサポートする側としてJA静岡中央会から地域資源の肥料化の取り組みが紹介された。理化学研究所が発表した土壌微生物の解析技術が、こうした企業の取り組みを後押しできると期待している。
今回のミートアップを契機に、農業の環境負荷軽減と収益性の両立に取り組む企業の共創の場づくりに注力していきたい。



コーディネーターが伴走支援
AOIフォーラムの活動を支えるのは、高度な専門知識や豊富な経験を持つコーディネーターだ。現在10人が在籍している。理化学研究所や企業の研究者、食品メーカー出身者、植物工場の管理経験者、金融機関からの出向と、バックグラウンドは様々だ。今回のようなマッチングイベントだけでなく、日頃から様々な企業に足を運び、シーズ、ニーズを発掘。それらを会員や県内外の企業、研究機関、大学などとつなぎ、効果を上げている。
同機構の羽根田和幸コーディネーターは「会員企業の様々なニーズに対応できる態勢を取っている。機能性表示の取得や、実験圃場の確保、補助金申請など、課題や目的、ニーズが明確な企業ほど積極的に活用してほしい」と語る。

詳しくはHPをご覧ください。
https://aoi-i.jp



■企画・制作/静岡新聞社地域ビジネス推進局

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