サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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風は東から「2023.10.27 静岡新聞掲載」

サンフロント21懇話会伊豆地区分科会

伊豆の温泉と健康を掛け合わせた観光振興が進んでいる。10月の「風は東から」は9月に行われた伊豆地区分科会のパネルディスカッションを取り上げる。パネリストに造園家の涌井史郎氏、伊豆の国市の山下正行市長、竹屋旅館(静岡市清水区)の竹内佑騎氏、関係人口ライター兼ワーケーション施設運営スタッフの津留崎鎮生氏を迎え、伊豆の観光業の魅力と課題を聞いた。コーディネーターは懇話会TESS研究員で、一般財団法人企業経営研究所の中山勝氏。

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ7

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伊豆の地域力活かし 新たな「観行(かんこう)」市場創造
■移住地としての伊豆の魅力

中山 まずはご自身の活動についてお話ください。
津留ア 私は2017年に生まれ育った東京から下田に移住してきました。東京での「消費する暮らし」から、地方でしかできない「つくる暮らし」に移行したかったからです。きっかけは東日本大震災。東京でも停電が起こり、スーパーから食材が消えて何も買えず何もできない経験をしました。そしていかに社会の仕組みに依存して消費するだけの生活をしていたかを実感し、「つくる暮らし」にシフトするため地方への移住を決めました。
下田は移住地としての大きなポテンシャルを感じます。豊かな自然に加え、徒歩圏内にスーパーや病院があり生活に困りません。私たちは空き家だった古民家を借りて家族でリノベーションし、自然の資源を取り入れた暮らしを送っています。
竹内 私は竹屋旅館の四代目として、清水、三島、戸田でホテルを営業しながらヘルスケアと観光の取り組みを進めています。
さまざまな取り組みを行うに当たっての一番の問題は「人」です。人手不足を解消するため複業人材システムを活用し、知人に週に一度、旅館業を手伝ってもらっています。また複業制度を地域に広げていくため、人材と企業を結ぶコンソーシアムを立ち上げました。
アフターコロナのキーワードは「ウェルネス」と「ヘルス」です。お客様だけでなく働く人や関わるすべての人が幸せになるため、同業者同士で協働し、伊豆で健康増進を実現していければと思います。
山下 伊豆の国市は地域活性化に向けてバスターミナルの観光拠点の改修や、温泉街のビルの解体・改造を行っています。ビル解体後の跡地にはボックス型の宿泊施設が新しく誕生し、食事は外で取っていただくようにしたことで、街中の観光を促すようにしています。もう一つ”かわまちづくり”として、10月1日、狩野川右岸にデイキャンプやバーベキューが楽しめる都市公園が開業します。
さらに食を活かした地域活性化にも取り組んでいます。県内随一の生産量を誇るミニトマトの生産者のうち57人がニューファーマー(新たに農業に参入した人材)で、市内で研修した後定住しています。また全国の信用金庫のネットワークを活用し、規格外品ミニトマトを使ったクラフトビールの商品化に取り組んでいます。

■山下 正行 氏
伊豆の国市長

大学卒業後、農林水産省に入省。農林水産省国際部長、農林水産大臣官房統括審議官(国際)、農林水産省食料産業局長などを歴任。2012年にはフランス政府より農事功労章(シュヴァリエ)を受章。15年に農林水産省退官。日本中央競馬会常務理事を務めた後、21年4月より現職



■伊豆で人間性を取り戻す

中山  続いて温泉の魅力は何か、そしてその魅力をどうしていくべきかについてうかがいます。
津留ア 移住者なので、近場の温泉を積極的に利用しているほか、時には温泉宿に泊まって食事を楽しむこともあります。しかし、地元の人が宿に泊まったり、温泉の魅力を発信したりすることは、あまりありません。自分の住む地域には小さな共同浴場があり、地元の皆さんが農作業の後、汗を流しながらおしゃべりを楽しんでいます。こういう環境は豊かだと思うのですが。
竹内 開業当初の戸田のホテルの従業員共通のキーワードは、「温泉のある暮らし」でした。清水から派遣した従業員の健康診断の数値が非常に良くなり、性格も丸くなったように思います。温泉以外にも戸田の暮らしは、電車通勤から徒歩通勤になったり、職場以外の人との触れ合いが多くなったりするため、性格が優しくなったのではないでしょうか。
伊豆半島には人間性を取り戻せる環境があります。都会と連携したまちづくりを行い、首都圏の会社員が温泉に癒やされに来るようになればと思います。
山下 日本の温泉旅館やホテルは、温泉に入って美味しい料理を食べることが定着しているため、日本版のオーベルジュと言えます。オーベルジュとはヨーロッパで帰りを気にせず宿泊して美味しい料理を食べる習慣のことです。
日帰り温泉も美味しいランチと結びつけて疲れた体を癒やすことができます。伊豆の国市では子育てで忙しい母親の「産後ケア」の一環として提供しています。
涌井 世界の温泉ガイドを見ると、西洋医学と結びついた湯治のようなプログラムもあります。温泉効果を発揮するうえで必要なのは適度な緊張ともいわれ、ドイツでは温泉の近くにカジノがあります。カジノがなければ、町全体でスリルを楽しむ仕組みを作ったらどうでしょうか。伊豆の温泉地には様々な資源があるのに、何もしないのはもったいない。

■涌井 史郎 氏
造園家
ランドスケープアーキテクト

神奈川県生まれ。造園家・ランドスケープアーキテクト、ONSEN・ガストロノミーツーリズム推進機構会長。横浜国際園芸博覧会「GREEN×EXPO2027」チェアパーソン(総合監修)。環境省国立公園満喫プロジェクト座長

■竹内 佑騎 氏
竹屋旅館 代表取締役社長

大学卒業後、東京三菱銀行(現三菱東京UFJ銀行)を経て、家業である竹屋旅館に入社。2015年に事業継承し、竹屋旅館の4代目に就任。17年に(一社)日本医食促進協会を、18年には地域複業モデルでOtonoを設立。22年より西伊豆戸田で温泉宿「AWA西伊豆」、三島市で「ホテルジーハイブ三島」を運営



■市場の創造と情報発信が鍵

中山 地域の課題についてお話しください。
津留ア 若い人にお薦めの温泉を教えると、みな揃ってスマホでレビューをチェックします。そして気に入るとSNSで紹介するため、施設側が一方的に情報を流すだけでなく、双方向に情報が構築されています。
若者の間で評価されるのは、表面的な豪華さを持つ施設ではなく、施設が古くても接客が良かったり、そこでしかできない体験があったりする施設です。ある意味では、マスコミが流す戦略的な情報よりも、本質的な情報になっているとも言えます。
竹内 伊豆の面白い人が集まる場所が必要ではないかと考えています。面白い人を発掘して、社長や社員などが100人集まるようになれば、伊豆の未来を築いていけるのではないでしょうか。
あと、残念なのは、自らの町の魅力を語る人がいないことです。地域愛をもって、言葉で発信していこうといった空気感が醸成されていくと良いと思います。
山下 観光客を増やす要素は美しい景観、食、体験、知的好奇心を満たすもの、衛生の五つです。これらの要素があればあるほどお客様が来るようになります。
伊豆は温泉に加え、地元の豊かな食材を使った食があります。伊豆の国市単体でなく伊豆全体で隣町でとれた食材を幅広く取り入れていけば、さらに魅力ある食を提供できます。また、全国にペットと泊まれる旅館はなかなかないので、市内でペットと泊まれる施設をPRできればペットを連れた観光客を誘客できます。
涌井 観光業は入り込み数ではなく、一人当たりの消費単価で考えるべきです。業者は各社がお客様を囲い込みがちです。しかし、囲い込みすぎると、一般市民が観光業者に対して背中を向けてしまい、公共が観光業をサポートすると市民が反発する現象が起こります。
そうならないためには、どのようにマーケットを作り上げるかという観点で取り組まなくてはなりません。シーズ(資源)が十分あってもニーズを作り切れていない。同業者同士いかに連携し協業して、どれだけサービスの質を上げられるか。地域全体で取り組むことが重要です。
中山 日常で疲れた体を温泉で癒やす流れは、まさに「ハレ」と「ケ」の世界です。首都圏で働く人が、疲れを癒やしに伊豆地域の温泉地に来るようにすれば、大きなハレとケの流れが生まれるのではないでしょうか。
観光そのものを、来る人も住んでいる人もみな喜ぶ「歓行」にすることで、伊豆地域はより魅力的になるのではないかと思います。

■津留崎 鎮生 氏
人口ライター兼ワーケーション施設運営スタッフ

2017年に生まれ育った東京から下田に移住。ワーケーション施設の運営に携わる傍ら、ライターとして、移住やその暮らしについて、また下田の魅力について発信している。Webマガジン「コロカル」(マガジンハウス)にて「暮らしを考える旅」連載中

■コーディネーター
中山 勝 氏
一般財団法人企業経営研究所
常務理事

慶応大大学院経営管理研究科修了。スルガ銀行入行後、財団法人企業経営研究所研究員、部長、常務理事、理事長を経て2023年5月より再び常務理事。専門分野は、マーケティング、経営戦略、地域経営。サンフロント21懇話会シンクタンクTESS研究員



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