サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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風は東から「2023.12.22 静岡新聞掲載」

今年、市制100周年を迎えた沼津市。沼津駅周辺総合整備事業が進み、次の100年に向けたまちづくりが行われている。12月の「風は東から」は11月に行われたサンフロント21懇話会東部地区分科会のパネルディスカッションを取り上げる。パネリストに東京大学大学院の中島直人准教授、沼津市のョ重秀一市長、REFSの小松浩二代表取締役を迎え、沼津のこれからのまちづくりについて聞いた。コーディネーターは懇話会TESS研究員で、シード副社長の青山茂氏。

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ9

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沼津百年のまちづくり 遊びや余白を生む地域へ
■見えてきた中心市街地再生の動き

中山 まずはご自身の活動についてお話ください。
青山 沼津市における取り組みや現在抱える課題についてお話しください。
ョ重 鉄道開通以前の沼津市は、港を拠点とした海上交通と、沼津城外堀周辺を通る旧東海道が結節する狩野川右岸の下流域から発達していきました。明治22年に沼津停車場がつくられ、鉄道等の陸上交通と海上交通がさらに発達したことで、駅南側の市街地に商業や産業が集積しました。一方、駅北側は自動車交通の発達とともに幹線道路が誕生し、急激に市街地が広がりました。このような都市形成によって鉄道が市街地を分断する形となり、南北一体でのまちづくりが不可能になっています。
そこで市は課題解決に向けて、鉄道高架事業を核とする沼津駅周辺総合整備事業を推進しています。今年の3月には、新貨物ターミナルの工事着工を皮切りに、事業が本格的に進んでいます。
小松 食の背景にある物語を伝えたいと考えるようになり、生産者を回ったのち、沼津あげつち商店街で青果店「REFS」を起業しました。あわせて一般社団法人lanescapeを立ち上げ、河川敷整備をはじめとした沼津市のまちづくりに携わっています。公共と民間のはざまの空間には様々な可能性があると考え、沼津中央公園などの公共空間を活用したイベントの開催や、商店街の空きスペースを活用したリノベーションも行ってきました。
中島 まず人々が中心市街地に「住む」ことが求められています。また時間を過ごしたいと思える場所があることも大切です。時間を過ごせる場所で新しい体験や人と出会い、そのついでに買い物をしたり食事をしたりすることで、人々が集まってくる。結果として、そこにふさわしい商業が生まれるのが大きな流れです。
市街地の魅力は「物語」があること。その土地の歴史があり、様々な人がいて、市民一人ひとりが物語の一部になれます。そこでの物語が広く発信されれば、さらに特別な場所になっていくでしょう。

■ョ重 秀一 氏
沼津市長

沼津市出身。日本大理工学部建築学科卒業後、間組に入社。その後、衆議院議員公設秘書を経て、2003年に沼津市議会議員に初当選。以後4期連続当選し、17年には第83代沼津市議会議長に就任。18年より現職。モットーは「和をもって貴しとなす」



■次世代に向けた余白のあるまちづくりを

青山  今後の中心市街地のまちづくりについてお話しください。
ョ重 鉄道高架事業は、南北都市軸のボトルネックを解消するだけでなく、駅周辺の13の踏切やガードを解消します。そのため、一体的なまちづくりが可能となっていきます。あわせて駅内にある貨物用地と車両用地の移転を行っていきます。移転後、高架下に大きな空間が現れ、まちづくりを進める土台ができます。この空間を最大限活用するため、防災機能を持つ防災公園の設置も検討中です。
現在の駅周辺は無機質な印象ですが、車中心から人中心のまちづくりにシフトし、訪れて楽しい公共空間もつくろうと考えています。
青山 小松さんは、人々が公共空間に求めるものは何だと考えていますか。
小松 使う側のマナーが求められます。沼津市の公園は禁止事項の多さが気にかかります。おそらく行政が公園の近隣住民からクレームを受けて、増やしたのでしょう。
以前、まちに卓球台を配置したことがありますが、高校生が騒ぎすぎてしまい、近隣の方から注意を受けたことがありました。私は現地に飛んで行き、注意するのではなく、まず「使ってくれてありがとう」と言いました。規制やルールを作るだけでなく、使う側のマナーで成り立つローカルカルチャーをつくっていくことが大切だと考えます。
青山 中島先生、コンパクトなまちづくりに必要な事項を教えていただけますか。
中島 計画段階で「余白」を残しておくことが大切です。コンパクトと聞くといろいろと“詰める”イメージですが、余白があると新しい活動の場ができます。 土地利用の方法も現段階の考え方だけで埋めず余白を残すことで、次の若い世代が使い方を考える空間になります。遊びや余白が生まれまちの魅力につながり、次の世代を育てます。

■中島 直人 氏
東京大大学院工学系研究科都市工学専攻・准教授

1976年東京都生まれ。東京大工学部都市工学科卒、同大学院修士課程修了。博士(工学)。東京大大学院助手、同助教、イェール大客員研究員、慶応大専任講師、同准教授を経て現職。専門は都市計画。一般社団法人アーバニスト代表理事



■まちの将来を共有して新しい風景をつくる

青山 小松さんはご自身の取り組みで重視していることはありますか。
小松 これから見たい素敵な風景を思い浮かべて、一つひとつ作っています。公共空間を使うにあたり、行政の方にはどういう使い方ができるか、そこを使いたい人たちをどのように応援できるかを考えるクリエーティブさを持ってほしいです。
イベントはまさしく公共空間の使い方を考える訓練の場です。イベント当日だけ盛り上がるのではなく、そのプロセスにおいて、公共空間の使い方を民間と一緒に考えていってほしいです。現場の声を聞き、行政と民間が協働すれば、素敵な風景が生まれるまちになっていくと思っています。
青山 中島先生、富山市のまちづくりについてお話しください。
中島 富山市はコンパクトなまちづくりをしています。最初から長期計画だったのではなく、短期的な成果を積み上げてきました。まず初めにLRT(次世代型路面電車システム)を導入しましたが、導入するだけでコンパクト・シティ(※)になるのではなく、市民がLRTに乗り、コンパクト・シティはこういうことを実現するのだと実感することで理解が深まり、まちとしての連携が進みます。
また、市職員や市民がコンパクトなまちづくりを語れることがすごいです。まちの目指す方針が共有され、コンパクト・シティがみんなのものになっています。まちづくりは市長、市役所だけでなく皆で進めていくものだと実感しました。
小松 働いた後の楽しみ方や地域資源の使い方で新しい風景が生まれます。
コロナが明けて商売の仕方も変わり、ただ売り上げをつくるのではなく、私たち自身がまちのライフスタイルを楽しみ、お客様に提案するやり方になると思います。各市町が地域資源やライフスタイルの強みを持って市民が「次は○○に住んでみよう」と選べるようになると良いですね。
中島 富山のコンパクト・シティの一番の成果は、ひとを育てる場所があることです。富山大学には地域デザイン学部があり、富山のまちづくりを、住みながら学ぶことができます。まちが人を育て、育てた人がまちをつくっていく、そうした循環が生まれています。
静岡県東部も、市町をまたぎ高校が連携して、皆で県東部地域を学ぶのも良いかもしれません。自分のまちの個性は自分のまちだけ見てもわかりません。少し隣の地域を学ぶとわかるようになります。世代やテーマを決めてまちを学ぶ仕組みづくりを行い、各市町の連携を進めていくのはいかがですか。
ョ重 県東部地域は、首都100`b圏に位置しています。他の100`b圏エリアはどこも圏域がはっきりしており、県庁所在地です。東部の市町が全国に負けないようにしていくためには、市町が連携しお互いのポテンシャルを活用しながら発展していかなくてはなりません。次の100年に向けた取り組みを行えるかどうかが将来像につながっていきます。
青山 お三方に共通して出てきた言葉は「ライフスタイル」です。今後求められるのは、ハードウェアを変えるだけのまちづくりではなく、そこでの暮らし方などのソフト面も含めた総合的なまちづくりです。そのためにまず市民が実験に参加してエリア価値が向上していることを実感する。そして風景を変える。また市民一人ひとりが主役感をもってまちづくりに参加する。そうすれば目指すところを見失わず、新しい沼津のまちづくり、ひいては、東部全体の相互連携を進められるのではないでしょうか。

※コンパクト・シティ…住まい・交通・公共サービス・商業施設などの生活機能をコンパクトに集約し、効率化した都市のこと。または、その政策のことをいう。

■小松 浩二 氏
REFS代表取締役、一般社団法人lanescape代表理事、沼津あげつち商店街振興組合理事長

学生時代、一年間休学し29か国を旅した際、食の持つ人を幸せにする力と食の素晴らしさを知る。帰国後、食品会社に5年間勤め、バイヤー業等に携わった後、1年間カナディアンロッキーでアウトドアを学び、帰国。半年間、生産者を回り話を聞いたり農作業をしたりした後、REFSを起業

■コーディネーター
青山 茂 氏
サンフロント21懇話会TESS研究員シード副社長、スポーツ・ウエルネス総合企画研究所社長

静岡県内外の企業および自治体のプロジェクトのコンサルティングから事業プロデュースまで幅広く手がける。静岡県東部地域スポーツ産業振興協議会会長。サンフロント21懇話会のシンクタンクTESS研究員



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