サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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風は東から「2024.2.23 静岡新聞掲載」

静岡県東部各地でスポーツツーリズムへの取り組みが加速している。裾野市は“準高地”トレーニングに適した地形を生かし、合宿誘致を活発化させている。また、時之栖富士(富士市)が運営する複合施設「エスプラットフジスパーク」は多様なスポーツを受け入れることでスポーツのすそ野拡大を図っている。2月の「風は東から」は、スポーツを切り口にした地域づくりについて、官民の事例や課題を関係者に聞いた。

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ11

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スポーツで地域経済活性化官民連携し柔軟な対応を
■“準高地”武器に合宿誘致

裾野市は、高い標高を利用して、陸上競技、特に長距離の合宿を積極的に誘致している。最大の特徴は“準高地”トレーニングができること。一般的に高地トレーニングは標高2000b以上を指すが、海外遠征などでは期間と費用がかかる。その点、同市には水ヶ塚公園遊歩道・クロスカントリーコース(標高約1450b)をはじめ、1000bを超える練習環境がある。同市産業観光スポーツ課の大友潤一係長は「移動に時間を取らず、高地ほど体に大きな負担を掛けず低酸素環境で練習ができる。個人差はあるが、日常の練習の延長でトレーニングできるのが魅力」と語る。
こうした資源を地域経済の活性化につなげようと2018年3月に同市は「裾野市スポーツツーリズム推進協議会」を立ち上げた。同協議会の鈴木啓久会長は「ファルマバレープロジェクトの始動を機に、裾野市のウエルネス産業振興を考えた。スポーツはウエルネス産業の一つであり、将来的にスポーツコミッションを作りたいという話をした」と経緯を語る。

同協議会は、市スポーツ協会、観光協会、旅館組合、商工会、地元企業、交通事業者、宿泊施設などから成る。また、実業団から2人の監督を顧問として招へい。トレーニング環境や誘致に向けたアドバイスをもらっている。
19年度から4年をかけ、県からの委託を受けて、静岡大、順天堂大と、準高地トレーニングでどのような効果が得られるかの効果検証を行った。また、日大短期大学部の食物栄養学科とも連携、カロリーや栄養素をアスリート向けに考えた「すその頂飯(いただきめし)」を作り、市内の宿泊施設や飲食店にレシピを提供するなど、合宿受け入れ態勢を整えている。
こうした取り組みが功を奏し、6年間で合宿数は6倍、経済効果は約5800万円(22年度)に。21年12月にはスポーツ庁長官表彰を受けている。

「スポーツツーリズムを進めることで、交流人口を増やし、定住人口にまでつなげたい」と抱負を語る裾野市スポーツツーリズム推進協議会の鈴木会長



■富士の麓に多彩なスポーツを拠点化

スポーツツーリズムをビジネスチャンスとして捉え、拠点整備を行っているのが富士市の「エスプラットフジスパーク」だ。富士常葉大学の跡地を活用し、全天候型アスレチックフィールド、野球グラウンド、ダンススタジオ、30台の卓球場、新体操競技対応可のアリーナなど各種競技場と、宿泊棟、会議室、コワーキングスペースなどを有する複合施設だ。20年8月に開設、昨年12月にはキャンパス棟、ホテル棟あわせて400人規模の宿泊施設になった。
施設の特徴は何といっても多様なスポーツを一カ所で楽しめる事。常に2種目程度は同時に、多いときには5〜6種目の合宿が並行して行われる。同施設を運営する時之栖富士の阿山恭弘社長は「御殿場市の時之栖はサッカーに特化した施設だが、ここはさまざまな競技が体験できる。子どもたちの可能性を広げる始まりの場所として、種目の枠を取り払った複合施設をつくった」と狙いを語る。
学校をリノベーションしているため、ゆとりのある空間が多い。広い客室は、荷物の多いスポーツ合宿でも、荷物を広げてその横でストレッチができるなどメリットも大きい。競技、宿泊、食事、お風呂、洗濯と、全てがワンストップででき、練習場と宿泊施設の移動に時間がかからない。主に、小学校から大学生などのスポーツ合宿が中心だが、企業研修なども積極的に受け入れている。
コロナ禍が明け、昨年から本格的なスタートを切った同施設。現在の実績は年間延べ2万泊程度だが、5万泊を目指している。



■見えてきた課題

裾野市、エスプラットフジスパーク以外にも、静岡県東部地域スポーツ産業振興協議会(E-Spo)、御殿場市の「SPORTS TOWN 御殿場」、伊豆市の「伊豆魅力(三力)プロジェクト」など、スポーツで交流人口を拡大し地域経済を活性化しようという動きは増えている。
そこで課題になるのが、施設の確保だ。グラウンドや体育館は公共施設が多く、地元の利用が優先になりがちだ。また、合宿は夏休みに集中するため、調整が難しい。
自社で数多くのスポーツ施設を持つエスプラットフジスパークも「施設確保は課題」(阿山社長)という。例えばラグビーとサッカーの合宿が重なると、周辺施設を借り受けなければならない。しかし、年末年始などは自治体の施設は利用できない場合が多く、必要数を手配することは難しい。
こうした課題に対し裾野市の大友係長は「合宿の分散化と、スポーツの幅を広げることにチャレンジしている」と語る。室内スポーツ競技やアウトドアスポーツなどに対象を広げる、といった対策を行っている。
施設の確保だけでなく、移動や宿泊、食事などのワンストップサービス機能をどこが担うか等の課題もある。地域への波及効果を考える上では、周辺観光施設との連携も欠かせない。
E-Spoの青山茂会長は「スポーツツーリズムという大きな潮流が見えてきた今、スポーツが投資価値のある資源だということを官民が共有し、スポーツに投資をするという選択をし、仕組みづくりを行わなければならない。そこまでいかないと、スポーツで地域を観光地化することで地域経済を回すまでの経済効果を発揮することは期待できない」と指摘する。
首都圏から近く、地域資源にも恵まれた県東部にスポーツツーリズムを根付かせるための官民挙げての取り組みが望まれる。

「スポーツツーリズムはビジネスという意識をもって周辺自治体とも柔軟に取り組む姿勢が試される」と語る時之栖富士の阿山社長


地域戦略軸としてのスポーツツーリズム
県東部地域スポーツ産業振興協議会 青山茂会長

これまで、スポーツと観光は関係性のない分野として扱われてきた。学校体育や社会体育において、スポーツの重要性は認められてきたが、スポーツイベントやスポーツ施設がお金を生み出す「観光資源」という考え方はなかったため、スポーツを観光ビジネスとして発展させる取り組みも遅れてきた。
スポーツに伴う人の移動を旅行・観光という視点でとらえ直すと、そこには地域への経済効果やシビックプライドの高まりなど、地域の活性化に向けた大きな可能性が広がっている。スポーツツーリズムを戦略の軸に据えて、中長期的にどのような地域を目指すのかといった理念や目的をもって取り組むことが重要だ。
スポーツツーリズムには、地域での受け入れの働きかけと体制の構築、情報発信、スポーツ大会や合宿などの誘致営業、運営の支援、再訪に向けたアフターフォローを行える体制づくりなど多岐な活動が求められる。
そのためには、人材、資金など強力な経営資源を持つスポーツコミッションが必須であり、創設・継続するための政策的な投資が必要である。



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