サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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風は東から「2024.4.26 静岡新聞掲載」

コロナ禍を経て、ますます身近になったペットたち。近年、愛玩動物から伴侶動物へと国民の意識も変化している。4月の「風は東から」は2月に行われた「サンフロント21懇話会」富士山地区分科会のパネルディスカッションを取り上げる。パネリストに音楽家で国際セラピードッグ協会創始者の大木トオル氏、県健康福祉部の阿部冬樹技監、サッカーJ1・FC町田ゼルビアの鈴木準弥氏、企業経営研究所の中山勝常務理事に、動物と幸せに暮らせるまちづくりについて聞いた。コーディネーターは静岡経済研究所の阪口瀬理奈特任研究員。

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ1

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動物との共生社会の実現 小さな命を守れるまちに
■飼い主の意識変化と環境整備

阪口 動物がいることが当たり前の社会に向けた取り組みについて伺います。
鈴木 地元で会社を設立し、サッカーを通じたスポーツの普及活動を中心に、犬の殺処分ゼロを目指す活動や流産の理解を深める活動にも取り組んでいます。
小さい頃から犬と暮らしていて、テレビで犬や猫の悲惨なニュースを見ることが多い中、サッカー選手としての拡散力を活用し、SNSで犬に関することを発信しました。その反響が大きかったことから、発信力を生かし犬と社会との懸け橋になれればと思っています。
中山 戌(いぬ)年生まれで、今は8歳のシェルティーを飼っています。私にとっては大事な家族の一員です。
懇話会は動物愛護もテーマにしています。2014年に、プラサヴェルデ(沼津市)で動物の愛護を考えるシンポジウムを開催しました。女優・タレントの浅田美代子さんを招き、保護犬のレスキュー活動や、最期まで飼い続けることの大切さ、命の大切さを学ぶ教室についてお話しいただきました。
印象的だったのが、川崎市の動物愛護センターが13年に殺処分ゼロを達成したことです。また当時環境大臣政務官だった牧原秀樹先生に、人と動物の共生センターを県東部につくってはどうか、という話をしてもらいました。その活動の中からNPO法人「人と動物のハッピーライフ」が生まれました。わんちゃんのしつけや病気の勉強会など、獣医師の先生を招いて話を聞いたり、保護犬、保護猫が登場するカレンダーなどを作ったりして普及活動をしています。
阿部 子どもの頃から動物が身近にいる環境で育ちました。仕事で携わるようになって、かわいがるだけでなく、しつけや室内飼い、去勢手術など飼い主ができることをきちんとしなければいけない、ということを強く思います。
昨今は野犬がほとんどいなくなりましたが、今は迷い犬が大半です。飼い主から連絡がなくやむを得ず処分した例もあります。いなくなった時は保健所、市役所、警察などに情報をすぐに入れてほしいですね。そうすると戻る確率が高くなります。また首輪に鑑札や名札を付ける、マイクロチップを入れるなど、所有者の情報をしっかりつけることが大切です。
以前は病気や引っ越しなど、飼いきれなくなったので引き取ってほしいという理由が多かったです。半面新しい犬を飼うので要らない、という無責任な飼い主もいました。今、保健所は安易な引き取りはしていません。困る人もいるとは思いますが、最期まで飼うという意識が浸透してきたと思います。

■鈴木 準弥 氏
J1・FC町田ゼルビア所属

早稲田大卒業後、ドイツ・VFRアーレン、藤枝MYFC、ブラウブリッツ秋田、FC東京を経て、2023年からFC町田ゼルビア。22年、サッカー関連事業のほか犬の殺処分ゼロ、流産経験者の家族支援など社会貢献のため「株式会社 準弥」を設立
■阿部 冬樹 氏
県健康福祉部

山口大農学部獣医学科卒(獣医師)。1992年静岡県庁入庁後、動物愛護業務をはじめ食品衛生、感染症研究等の公衆衛生業務に従事。2025年度開設予定の(仮称)静岡県動物愛護センターの開設準備を進める



■静岡ならではの条例制定を

阪口  飼い主の責任感をどう育んでいけばよいのでしょうか。
大木 殺処分寸前の犬たちを救い、セラピードッグとして育成する活動を40年以上続けています。最初の1頭を助けるのは「かわいそう」の気持ちからです。ところが実際は助けられなかった命が、助けた数の何十倍にもなってしまう。助けられなかった犬たちの命の重みを非常に感じます。犬を助けた次の日に25頭がガス室に入ったことなどを知るとメンタルがおかしくなります。供養塔を作って手を合わせればいいというものではありません。
今は、愛犬家、愛猫家が大変多くなりました。出遅れたのが動物愛護法です。アメリカやヨーロッパで長く暮らしていた経験から、日本はこんなに遅れているのかと感じました。韓国も中国も日本も諸外国からは50年遅れていると見られていました。
1973年の法律制定から4回の改正がありましたが、その間、ガスで多くの犬や猫たちを殺してきたのは事実です。私は日本国籍を持っていますが、外へ出て初めて命の尊厳を日本人はどうやって考えていたのかがよくわかりました。
ドイツやアメリカなどの諸外国の法律を取り入れることはもっと大事でしたね。日本人は素晴らしいと思っていますが、動物の扱いに関してはどうしてこうなのか、といつも思いました。行政が法律を真摯に作り込んでいかないと、いくら助ける人が増えても解決しない。今は条例を作りやすくなりましたので、静岡独自の条例を作ったらどうでしょう。国ではなく、まずは市から、県から作り込んでいく。他のところとは違うというのが非常に大事です。
阪口 新たにできる県の動物愛護センターには殺処分施設がないということです。
大木 県の施設がいっぱいになった時にどうするのか、という問題があります。その時民間の方の力をお借りする。民間が施設を作り、たくさんの皆さんが犬や猫を見られる、来ることができる施設にする。青森県はそうしました。そこで実際に見て譲渡を受けられるようにしています。非常に良い方法ですね。
犬たちの愛護の歴史の中で、静岡の皆さんにこういう場を設けていただけるのは時代が進んだなと思うと同時に、ありがたく思います。

■大木 トオル 氏
音楽家・国際セラピードッグ協会創始者

ブルースシンガーとして世界的に活躍し、音楽活動は55周年を迎える。殺処分寸前の捨て犬たちの救助と共にセラピードッグ育成のパイオニアとして動物愛護の普及を行い、動物愛護法の改正に大きく貢献。多くの症例と成果を出している。セラピードッグ訓練カリキュラムの考案者



■仕組みづくりはハード・ソフト両面で

阪口 犬と一緒に暮らしていたところから行動に移行するきっかけは何でしょう。
鈴木 少子化高齢化が進み、夫婦の形が変わる中で、子どもを持たずに犬や猫を飼おうか、という人もいるかもしれません。自分が飼えなければお隣に頼んだり、おじいちゃんが亡くなった時にお子さんが引き取ったりなど、支えてくれる人がいれば飼いやすくなりますね。年を取ってからも犬と一緒に暮らしたいのに飼えなくなった時のフォローがないから飼えないというのは悲しいです。
また、犬と一緒に暮らせる物件がない、あっても犬1匹に月5000円掛かるなどといった話も聞きます。もっと飼いやすい地域になったら良いと思います。
阪口 高齢化社会とペットとの関係はどうでしょう。
中山 私は65歳、次に犬や猫を飼うには年齢や健康を考えると難しいと一般的には言われています。愛犬や愛猫が亡くなると「ペットロス」になり、ややもすると普通の生活が立ち行かなくなります。人間の心の健康を考えると、何らかの形で高齢になっても飼える仕組みも考えていかなければならない時代になっていると思います。
ある老人病院は犬や猫と一緒のお見舞いもOKでした。ペットと引き離されるので入院が嫌だ、という方もいるため、患者の満足度を考えてペットと毎日会える環境を作ったということでした。今も評判が良い病院です。
行政も民間も、企業も個人もペットのことを一緒に考えるコミュニティをどんどん増やしていく。海外では散歩時の排泄場所を用意しているところもあります。ハード、ソフト両面の整備が必要ですね。今日のテーマであるまちづくりにつながる取り組みになるのではないでしょうか。
阪口 日本は人間優先、動物は後まわしという印象があまりに強いですね。「小さな命を守れない社会」とは一体どうなのでしょう。その解決を市町から始めることは今後検証していくべきだと思いました。

■中山 勝 氏
企業経営研究所 常務理事

専門分社はマーケティング、経営戦略、地域経営。サンフロント21懇話会シンクタンクTESS研究員。静岡県、県内市町の審議会、静岡産業大経営学部客員教授、日本大国際関係学部非常勤講師などを務める
■コーディネーター
阪口 瀬理奈 氏
静岡経済研究所

サンフロント21懇話会のシンクタンクTESS研究員、静岡経済研究所特任研究員、静岡県産業復興財団ふじのくにICT人材育成プロデューサー。京都大大学院卒業後、三菱総研を経て、2018年に静岡県に移住。ICT人材育成をテーマに県内企業を支援中




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