サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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風は東から「2024.10.25 静岡新聞掲載」

超高齢化社会においても住民が安心して豊かな暮らしを享受できる県の「医療田園都市(メディカルガーデンシティ)」構想。構想の実現に向けて、各所で取り組みが進む。10月の「風は東から」は先月行われたサンフロント21懇話会伊豆地区分科会のパネルディスカッションを取り上げる。パネリストに救世軍清瀬病院院長の土居弘幸氏、伊豆市長の菊地豊氏、伊豆赤十字病院名誉院長の志賀清悟氏を迎え、「伊豆と医療田園都市構想〜健康と未来を支える持続可能なまちづくり〜」をテーマに話を聞いた。コーディネーターはサンフロント21懇話会TESS研究員の中山勝氏。

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ7

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伊豆の資源を生かし 健康と未来を支える地域へ
■マーケットは高齢者中心に 意思決定は若者に

中山 まずは、伊豆市の現状について伺います。
菊地 伊豆市の人口減少は大きな課題です。医療体制については、静岡がんセンターまで車で30分、順天堂大学静岡病院まで15分。市内には伊豆赤十字病院や中伊豆温泉病院が立地しています。これだけ充実しているのは東京23区でもまれでしょう。さらに、天城山や駿河湾など自然も豊かです。
今年は市制20年。修善寺駅前や学校、ゴミ焼却場など、まちの新しい形もできつつあります。医療田園都市構想が描く理想郷をつくるには、私たちがふるさとに自信とプライドを持つことが必要です。
土居 まちづくりのイニシアチブは、ぜひ現役世代やZ世代に担ってもらいたいですね。
いまや介護をする側もされる側も現役を引退した人たちです。昔は、現役世代にとって介護は大きな負担となっていましたが、今ではリタイア組が引き受けてくれていますので若者世代・現役世代中心のまちづくりが重要ではないでしょうか。若者同士で定期的な交流ができるサロンなどを開催し、自分たちのまちをどうしていくべきか議論する場が必要です。そのような場の確保について行政が支援してはいかがでしょうか。
志賀 若者をターゲットにしたい半面、市の経営を維持していくには高齢者を呼び込む必要があるのが、現在の伊豆市の現状だと感じます。
人口減少が進む一方で、ベーシックサービスである医療・介護は今後も必ず残ります。そこで都市部に住んでいる高齢者を伊豆市内に呼ぶのはどうでしょうか。例えば伊豆の施設を利用している家族に面会に来てもらい、ついでに温泉を楽しんでもらうといったことです。
菊地 確かに、高齢者が市民に占める割合は大きい。ただ、リタイア世代と現役世代では価値観が全く違うため、まちづくりの意思決定は現役世代にお願いするなどしなければいけないと思います。
今後の日本は、2100年には人口が5000万人、そのうち首都圏の人口が2500万人で、それ以外の地域に残りの2500万人が住むという、想像しがたい状況を迎えます。前例に縛られない若者の発想で町の方向性を決めてもらう一方、元気な高齢者には長く働いてもらう。今がその体制移行の期間と言えるでしょう。

■土居 弘幸氏
救世軍清瀬病院 院長

岡山大医学部卒業後、WHO本部医務官、厚生省医系技官、静岡県理事、2007年より岡山大大学院医歯薬学総合研究科教授などを歴任。23年より、救世軍清瀬病院院長



■医療人材不足の解消にAIの規制緩和を

土居 AIの発達には目を見張るものがあります。事業の効率化やサービスの向上に関心が集まっていますが、AIが普及した社会とはどのようなものなのか、心豊かな社会なのか?どの情報サイトを見ても、利用者の「心」の部分を育むAIについて触れてはいません。そこを伊豆で作れないでしょうか。
昔から、日本の文豪の心をとらえて離さないのが伊豆地域です。文豪の疲れた心を支えた伊豆の心情を分析して、AIに組み込むことができないか、といった妄想をしています。
中山 それはAIによる新しい産業を伊豆に興すイメージでしょうか。
土居 そうです。豊かな心を育むAIの開発によって新たな産業が生まれます。伊豆に蓄積されている「寄り添う」機能を具備したAIは、様々な分野で必要なのですが、そのような機能の重要性は理解されていません。だからこそ今、そのようなAIの開発拠点を伊豆にと提案するのです。開発に必要な材料が伊豆にあるからです。
志賀 この地域は二次医療圏(※)でいうと駿東・田方地区になります。順天堂大学静岡病院から北側の地域は医療体制が充実していますが、残念ながら南側の地域はいつ医療が崩壊してもおかしくありません。
そこで看護師の存在が今後大事になってきます。医師の技術はAIで対応できる部分も出てきますが、看護師はそうはいきません。にもかかわらず、医療・介護人材は減る一方なので、現在の医療・介護の施設を継続していくことも難しい。そのため南側の地域は、医療・介護を集約させ、最小限・最低限のサービスを提供していく必要性があります。様々な知恵を出し合いながら看護師を含め医療の人材を確保しなければなりません。
土居 全国的に医師不足の中、医師を地域に呼び戻すのは非常に難しい状況です。開業医の先生のお子さんが医師になっているのに、親が経営する診療所を継がないのは日常茶飯事です。
このような医師不足を解決するためには規制緩和を行い、看護師がAIを自由に使い、必要な意思決定は医師に任せる。AIを活用し看護師の力をもっと生かせるシステムを作れば、地域の医療需要を満たすことが出来るように思います。看護師を中心に訪問診療や問診も支援することができるようになるでしょう。これからの地域医療を考える上で、医療DXの推進を加速すべきでしょう。
菊地 伊豆全体をふかんすると、修善寺、戸田、東伊豆から南の半島振興地域と、東海道新幹線、新東名、東名を持つ三島・長泉周辺とでは環境が全く違います。両者が連携していかなければならないと感じています。
さらに半島振興地域が生き残っていくために必要なのは「文化」です。医療や産業の発達にAIは必要ですが、人間の心を育む教育も決して外してはいけません。今まで数々の文豪の心を癒してきた半島振興地域の良さを失わないために、最先端技術を導入するだけでなく、伊豆の自然を守る、人の心を育むことをやっていけば、伊豆の将来を描くことができます。

■菊地 豊氏
伊豆市長

防衛大卒業後、陸上自衛隊入隊。国際モザンビーク平和維持活動、在ドイツ日本国大使館防衛駐在官、第5普通科連隊長、内閣衛生情報センター主任分析官などを歴任。2007年一等陸佐で退職。08年4月伊豆市長に就任し、現在5期目



■伊豆一体で医療ツーリズムを提供

中山 基調講演では、土居先生から無痛MRI乳がん検診を組み入れた「医療ツーリズム」の提案がありました。伊豆での実現性や方法などについてはいかがでしょうか。
志賀 病院を経営している側からすると、医療ツーリズムはかなり魅力的です。ただ、実施するには高額な医療機材を導入しなければいけません。
実施するのであれば、外国人だけを対象にした検診事業ではなく、伊豆の住民や観光客を対象に、旅館のチェックアウト後に検診を受けてもらうとよいと思います。お金の問題もありすぐに実現することは難しいですが、非常に魅力的な話だとは思います。
菊地 世界各国に魅力ある温泉地がある中で、伊豆はどういう温泉地かというと、まず美味しい食材があります。海も山も、川も、田んぼや畑もあるので、協力しあえば、理想的な健康長寿食と呼ばれる和食の食材を地元で得ることができます。そこが箱根や軽井沢と違う部分でしょう。
伊豆でそろう健康的な食材、日本独特の温泉の入り方、そして豊かな自然。心も体も癒されて、あわせて健康診断もいかがでしょうという、「医療ツーリズム」のストーリーをつくれば、世界中から多くの観光客が訪れると思います。
また実現には1泊では足りません。3、4泊してもらい健康診断の時間をとっていただく必要があります。
土居 その際にはぜひ旅館のチェックアウト時に、大型荷物の静岡空港のチェックインができるような仕組みを実現させたいですね。
菊地 新幹線のぞみを5分おきに走らせることができるのは、日本人の勤勉性だと思います。ゴミ箱にゴミを捨てたり、降りる時に座席を元通りにしたりする日本だからこそ、諸外国に後れをとっているICT技術を導入していけば、空港のチェックインなども簡単でしょう。
中山 地域医療体制の課題から、AIによる新たな産業創造まで、今日は多岐にわたるお話が聞けたと思います。今後もぜひ伊豆の地域資源を生かし、健康寿命延伸の取り組みをしていこう、それにはAIやICTなどのDX化が不可欠で、目指すは伊豆が古くから育んできた「人間関係のうるおいある社会」―。そんな将来像が見えてきました。

※二次医療圏…健康増進や疾病予防、入院治療など、地域住民の幅広い保健医療ニーズに対応する地域医療単位

■志賀 清悟氏
伊豆赤十字病院 名誉院長

自治医科大医学部卒業後、紀南総合病院小児科、順天堂大静岡病院新生児センター長、2015年より伊豆赤十字病院院長などを歴任。22年より、伊豆赤十字病院名誉院長

■コーディネーター
中山 勝氏
サンフロント21懇話会TESS研究員

静岡産業大経営学部特任教授、総合研究所所長。企業経営研究所理事。
慶応義塾大大学院経営管理研究科修了(MBA)。スルガ銀行入行後、企業経営研究所にて常務理事、理事長を歴任。2021年4月より静岡産業大経営学部客員教授、24年4月より現職



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