サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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風は東から「2024.10.31 静岡新聞掲載」

サンフロント21特別編 首長座談会PART1

サンフロント21懇話会の設立当初の大きなテーマが広域連携。設立以来30年が経ち、この間の環境、社会の変化は大きく、地域が生き生きと輝くためには、今こそ行政の境を越えた連携が欠かせない。「風は東から」特別編では、県東部20市町を東部、伊豆、伊豆南部、富士山の四つの地区に分け、これからの広域連携の在り方について語っていただく。
第一弾として、熱海市の斉藤栄市長、伊東市の小野達也市長、伊豆市の菊地豊市長、
伊豆の国市の山下正行市長に、伊豆の観光と防災、広域連携の可能性について聞いた。
(聞き手は編集部)

[サンフロント21懇話会企画]

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「伊豆はひとつ」の未来と広域連携への挑戦
■伊豆ブランドと地域間連携の重要性

― 今日は熱海、伊東、伊豆、伊豆の国の4市長にお集まりいただき、これからの伊豆の広域連携の在り方を語っていただきます。まずは基幹産業である観光についてお願いします。
菊地 伊豆の観光戦略を考える際に、他の観光地と比較して考えると分かりやすいと思います。例えば箱根。人口1万人にもかかわらず年間宿泊者は400万人を数えますが、人口減少が進み、明治時代に欧米人が作りあげた非日常の観光地に近づいています。また、軽井沢は高級ブティックやレストランが並び、まさに東京23区の避暑地バージョンです。
ところが、伊豆は集落や田畑など、人々の生活と観光が共生しています。そのため食材に関しては、畑の作物から、海・山の幸、お酒まで全てがそろいます。こうした地元の豊かな食材を前面に押し出し「ガストロノミーツーリズム(食文化を楽しむ旅行)」を推進することが、他の観光地との差別化の鍵。「伊豆はひとつ」で戦っていくことが我々のポテンシャルを最大限引き出す方法だと思います。

山下 韮山の「グリーンプラザ」という農協の直売所には、戸田漁協から週に1度魚が届きますが、このように伊豆全域から食材を集め「伊豆ブランド」として売り出したらどうでしょう。
さらに、東京のデパートなどで「北海道フェア」や「九州フェア」が成功しているように、「伊豆フェア」を開催し、全国的に伊豆のブランドを広めたらどうでしょうか。首都圏に伊豆のアンテナショップを設け、定期的なプロモーションを行うことも伊豆の魅力をより多くの人々に届けるための有効な手段になると思います。
小野 地域間連携がもっと進めば、伊東の旅館で稲取と下田の違いはあるにせよ、伊豆のキンメダイが食べられるようになるでしょう。伊東の魚も伊豆のワサビがあってこそ、その魅力がより引き立ちます。
実は、伊東の定置網漁では、100種類以上の魚が水揚げされますが、ほとんどが未利用魚のため流通していません。それぞれ名前があって漁師は美味しい食べ方も知っています。これは熱海も一緒です。漁師は減っていますが、海に囲まれた伊豆半島ですから、マグロやイクラを食べるのではなく、地物をなるべく使うことも伊豆のブランド化だと思います。
斉藤 現状、「伊豆はひとつ」は掛け声ばかりで、「総論賛成、各論反対」になりがちです。例えば、河津桜と熱海桜のどちらをメインにPRするの?どこの花火大会の写真を大きく載せるの?結局、どちらも、あるいはみんな載せようとなってしまう。でも、ブランド化とは「そぎ落としていく」ことです。その時々の一番よいものを載せていく必要があります。
以前JRのデスティネーションキャンペーンを行った時に、私は一貫して「伊豆は鉄道の終着駅である下田で売れ」と職員に言い続けました。結果、女優の吉永小百合さんが下田の龍宮窟で撮ったCMが採用され、伊豆全体の回遊に良い影響があったと思います。
菊地 まさに「そぎ落とすこと」。お手本は、香川の「うどん県」でしょう。香川県も海に面していますから、魚もあれば、野菜も、果物もある。けれど、うどんで徹底していますね。あれはマーケティングの手法としてとても成功していると思います。
山下 地域間連携には三つの形があると考えています。一つは、伊豆全体でやらないとできないもの。例えば防災や道路整備などですね。これが今、7市6町でやろうとしていることです。二つ目が、各自治体に任せておけばいいもの。方向性だけ確認して、その自治体のカラーを出していく。
そして、三つ目が、一つの自治体でもできるのだけれど、一緒に連携すればもっと良い結果が出るもの。まさにこれが「観光」だと思います。花火も、花もそうでしょう。スタンプラリーのような、伊豆を周遊すると旅行者にメリットが生まれるような仕組みを連携して作り出したいですね。また、「伊豆」のマークをつくると良いと思います。物産や加工品などに伊豆の統一のマークを付けることで連携がぐっと現実のものになるのではないでしょうか。

■山下 正行 伊豆の国市長
伊豆の国市出身。1980年農林水産省に入省し、在米国日本大使館、在ジュネーブ日本政府代表部などにも勤務。国際部長、農林水産大臣官房総括審議官(国際)、食料産業局長などを歴任し、2015年に退官。日本中央競馬会常務理事を務めた後、21年より現職



■DXと観光業の未来

― 観光を支える新しいテクノロジーの役割としてのDX化について伺います。お客様により快適な旅をしてもらうために、どのようなことを進めると良いと思われますか。
小野 情報という面でいうと、伊豆に一歩足を踏み入れたら共通のWi-Fiが半島中で使えるようになると便利でしょう。またQRなどの二次元コードも積極的に活用し、さまざまな情報を提供したいと思います。QRコードは多言語対応が容易なので、特に海外の方には喜ばれるでしょう。 それから、何といってもキャッシュレス化です。私も遅ればせながらスマートフォンでの決済をするようになり、便利さを享受しているところです。インバウンドが今後ますます活発化する中、日本だけ後れをとるわけにはいきませんね。
斉藤 バスの自動運転はぜひ実現したいですね。熱海には「湯〜遊〜バス」という市内を回遊するバスがあります。観光客に人気のバスでしたが、運転手さんの確保が難しく、現在は運休しています。また、熱海は坂が多いまちです。高齢化が進む中で、今まで個人のお達者度に頼っていましたが、今後は一人から二人乗りの移動システムが必要になる時代が来ると思います。
山下 坂のまち、米国サンフランシスコでは、すでにタクシーの自動運転が始まっています。運転席に誰もいない車が走っている様には驚きました。
小野 先日出席したあるオープニングセレモニーでは、テープカット用の鋏をドローンが運んできました。着地の誤差もほとんどありません。近い将来、人間や荷物を運ぶドローンが一般的になる予感を抱かせるものでしたね。
菊地 人口減少問題に対する一つの対応策がICT革命です。米国ゴア副大統領が情報ハイウェイを提唱したのは30年も前です。ところが日本はわかっていても対応しない国になってしまった。世界から大きく後れを取っているDXや規制改革を進めていかないと、経済にさらなる悪影響を及ぼすと思っています。

■小野 達也 伊東市長
伊東市出身。1982年静岡県立焼津水産高校水産製造科卒業後、民間企業を経て。87年株式会社丸達水産を開業、代表取締役就任。2005年に静岡県議会議員に初当選し3期務め、17年に伊東市長に初当選し現在2期目



■防災対応の統一と観光プロモーション

― 「伊豆はひとつ」や「DX化」など、いくつかキーワードが出てきました。防災面での連携についてはいかがですか?
菊地 年明けの能登半島地震、そして先日の南海トラフ地震臨時情報の危機感からでしょう。コロナ禍を乗り越えて、やはり観光振興と防災は個々の自治体では限界があるというのが、各市長の共通認識だと思います。
小野 伊東市は特に混乱はしませんでした。臨時情報が出た8月8日、私はイベント会場にいました。Jアラートが大音量で鳴り響いたため「今日はイベントを中止します。ゆっくりお帰り下さい」とのアナウンスをしました。しかし、翌日のイベントは予定通り開催しましたね。
斉藤 熱海市も8日はちょうど花火大会でした。担当者は伊東市さんに「開催しますか」といった問い合わせをしたと聞いています。ただ、あの時はあくまで巨大地震「注意」であり、「警戒」ではなかったので予定通り行いました。
 問題は、あの時「警戒」だったらどうなっていたのかという事です。伊豆半島7市6町首長会議では、「警戒」の際の対応を速やかに議論することにしています。
菊地 「警戒」になれば伊豆を訪れているお客様は一斉に帰り始めます。しかし、その時、伊豆箱根鉄道や伊豆急行は動くのか、路線バスは止まるのか、高速道路は低速運行で通すのか、たぶん誰も知らないと思います。
「警戒」になると、松崎や南伊豆の観光客の皆さんは我々の市を通って帰るわけです。その時にどういう体制にするかを共通で作っておかなかったら大混乱するわけです。逆に、きちんと準備をしておけばお客様に正しい情報をお伝えできる。混乱して聞く先々で全部違う答えが返ってきたら、もうそのお客様は伊豆には来てくれません。結果として、お客様が安全に帰宅できる仕組みを整えることが観光プロモーションにも役立つのです。
山下 観光業と防災の両面から伊豆の魅力を高めるために、行政の連携は欠かせません。連携を生み出す装置として、7市6町首長会議があります。また美しい伊豆創造センターをはじめとするさまざまな協議会があります。防災は7市6町首長会議、伊豆全体での統一プロモーション計画は美しい伊豆創造センターなど、装置の特徴を生かした連携をぜひ実現していきたいですね。

■斉藤 栄 熱海市長
東京都出身。1988年東京工業大学大学院修了後、国土庁(現国土交通省)に入庁、土地局国土調査課専門調査官等を歴任し99年に退官。学校法人勤務、国会議員政策担当秘書を経て、2006年熱海市長に就任し、現在5期目

菊地 豊 伊豆市長
伊豆市出身。1981年防衛大学校卒業後、陸上自衛隊入隊。国際モザンビーク平和維持活動、在ドイツ日本国大使館防衛駐在官、第5普通科連隊長、内閣衛星清報センター主任分析官などを歴任、2007年ー等陸佐で退職。08年4月伊豆市長に就任し、現在5期目



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