今年は午(うま)年。年後半、あるいは秋口には景気は回復するとの楽観的な観測が多い。サラブレッドのように日本経済は力強く走ることができるのだろうか。
体力が落ちている
馬力、つまり日本の経済成長力が落ちている。国民が働いてどれだけの富(付加価値)を増やしたかを示す国内総生産(GDP)は本年度実質マイナス0.9%と落ち込む。2002年度も政府の経済見通しでは0.0%、つまりゼロ成長を予想している。民間経済研究所の予測ではゼロでも高いくらいで、平均マイナス0.5%に低下するという。
国内総生産の6割を占める個人消費が盛り上がらず、企業は設備投資を控えている。消費が伸び悩む背景には、将来への不安がある。小泉純一郎首相が進める「構造改革」で国民に「痛み」が現実化する。医療制度改革でも「三方一両損」の形で国民の負担増加の方針が合意された。年金制度の減額といった議論もあり、年金や医療を中心にコロコロ制度は変わる。生活設計はどうなるのか、高齢者だけでなく将来の不安は一層深まっている。
日本はお金がないわけではない。個人金融資産は昨年370兆円となった。一人当たり00万円の資産がある計算になる。このうち預金は53.8%、株や債券は5%を占める。米国は逆に預金9.6%と低く、株や債券57.6%と過半を占める。日本では、貯金の理由として老後の資金が56%と圧倒的で、病気災害への備え、子供の教育費が続く。
国の制度だけでなく、企業のリストラが強まり、解雇されたり、給料が半分になるといった雇用不安も挙げられる。失業率は5%後半から6%へ上昇する恐れすら考えられる。消費を控えるのは残念ながら自然の流れかもしれない。
民間設備投資は、情報技術(IT)革命が一段落し、景気をけん引する力は急速に落ちた。むしろ電機や鉄鋼などを中心に一部生産の撤退や設備の再編が続いている。特に昨年9月日の米同時多発テロとそれに続くアフガニスタンへの報復攻撃以降、米国だけでなく、アジアや欧州も景気が減速し、輸出の減退がみられた。自動車などの主力企業も業績を下方修正するところが多い。
お金が動かない
第2は、日本経済が貧血状態に陥っていること。身体で言えば、血液に当たるお金が動かない。将来が不安だからお金を使わずに貯蓄に励む。一方でお金を借りたいという企業が少ない上に、金融機関は選別融資を強めている。これは、不良債権の処理が金融システム、あるいは日本経済再生にとってはまさに急務の課題という背景がある。
金融庁によると、全国銀行(第2地銀以上)の不良債権残高は約30兆円、信用金庫・信用組合を含めると40兆円を超える。ともに2年連続で膨らみ、公表を始めた993年以来最大の規模になっている。
全国銀行の不良債権うち、大手4行は昨年9月中間期末の不良債権残高が20兆6000億円になり、半年で0%以上増加した。4行は、今年3月期までに不良債権処理を加速し、本年度は総額が6兆4470億円に達する見込みである。不良債権処理の加速は、問題企業の破たん整理につながる。4月のペイオフ解禁を控え、新たな金融再編の引き金にもなりそうだ。
進むデフレ
日本経済の第3問題は、デフレの進行。卸売物価はすでに98年から3年連続の下落。消費者物価も99年から2年連続の下落で、ことしも物価下落傾向は続きそうだ。物価下落と景気後退が同時に進むことをデフレ・スパイラルと呼ぶ。エコノミストの中には、既に日本経済はこのデフレ・スパイラルに突入しているとの見方もある。
実は、英国は873年から96年の23年間、ビクトリア王朝時代にこのデフレを経験した。国内物価が下がり続け、卸売物価は4割も下落した。原因は、後発国だった米国、ドイツが工業化して新興工業国として安くて良い製品を輸出したからで、スエズ運河の開通という流通革命も寄与した。
今は中国や台湾、東南アジアの台頭がそれに当たる。とりわけ、中国は「世界の工場」として衣料のユニクロブームにみられるように「安くて良い製品」を生産し、世界に輸出している。物価は、景気循環で需要が弱い場合や流通の合理化を通じて下落するが、それ以外の構造的な価格低下要因として中国製品の流入は、今年も大きな存在といえる。
物価が下がることは一見良いようにみえるが、それは個人にとって自分の給料、所得が下がらないという前提がある。しかし、住宅ローンなど過去の負債はそのままだから、収入が少なくなれば借金はなかなか返せなくなる。
国の財政も同じ。過去の借金、つまり財政赤字を解消するには国の収入を増やすしかない。構造改革も結構だが、景気回復が重要という意見はそうした今の日本を反映した意見だ。
幸い同時多発テロの影響も限定的で、米国経済は薄日が差してきたという見方が出てきた。小泉首相は、「構造改革なくして景気回復なし」というが、景気にも十分配慮して、後半からの力強い回復に期待したい。
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