皆さんに質問をさせていただきたい。第一番目、今朝美味しく朝ご飯を食べれた方。2つ目、日常的に体を動かすことが好きだという方。3番目、自分は趣味を持っているという方。4番目、何でも相談できる友人、仲間を持っているという方。ボランティア活動をやっているという方は? 大体ここで手の挙がり方が落ちます。自分は健康であると思われている方は? 最後、自分は年齢より若く見えるという方は? 今私が質問したことは、1999年の6月にヨーロッパで行われたヘルスプロモーション学会という世界の健康問題を考える会議で出された「生きがいのある老後の条件」の、5つのキーワードを基にしている。その1つは自分自身のライフワークを持って生涯現役を目指そうということ。2つ目は趣味を持つこと。3番目は豊かな人間関係、ネットワークを持つこと。4番目は社会における自分の役割を持つこと。5番目は経済的、時間的なゆとりを持つことである。一方、いま日本の社会が抱えている問題のキーワードも同じように5つある。平均寿命、疾病構造の変化、高齢化、出生率、社会保障給付だ。
私は7つの質問をしたが、実は1番最後の2つの質問が21世紀の健康づくりにとっては大変大事な視点だった。年齢より若く見えるか、あなたは健康かという質問は、平成12年に当時の厚生省が向こう10年間の国民の健康づくりの在り方を示した「健康日本21」のベースになった、アメリカの「ヘルシーピープル2000」という考え方に基づく。アメリカの疫学学会が40−50代を対象に自分のことを健康だと思う人、まあまあ健康だと思う人、あまり健康じゃないと思う人の3つに分け10年間追跡調査をし、自分は健康と前向きに考えている人ほど生き生きと人生をエンジョイしていること、つまり疾病や障害の有無、老化ということでは健康は決定付けられないという医学的なデータを発表した。アメリカの健康づくりの在り方はこれをベースに大きく変わっている。
改めてもう1つ皆さん方に質問をさせていただきたい。『五体不満足』という本を書いた乙武洋匡さんという青年がいる。彼は健康か、不健康か。健康だと思う方? 私もそう思う。私ども日本ウエルネス協会は厚生労働省の健康局生活習慣病対策室の所管の財団である。こういう言い方をしていいかどうか迷う部分もあるが言わば20世紀型の健康づくりと、21世紀型の新しい健康観、新しい健康づくりがあるということを、まず皆さんにご理解いただきたい。従来型の健康づくりとは、無病息災という言葉があるように病気に相対した言葉としての健康であり、病気の予防として健康を捉えていた。それを客観的健康観と言う。つまり数値で見えて基準より上か下か、病気であるかないか、これが従来型の健康観である。一方、21世紀型の健康観は、これは主観的健康観を高める運動だ。病気や障害があるとかないとかで判断する時代ではない。健康が人生の目的ではなく、健康は前向きに生きがいを持って自分の人生の目的を達成するための、あくまでも手段なのだ。
少子高齢化というが、昭和10年当時は定年後せいぜい生きても3−5年で、昭和25年では10年から12、3年。それが平成4年のデータでは定年後20−30年となった。この20−30年間にどういう生き方をしていくかを考えなければいけない時代であり、定年後のライフスタイルを自分なりにどう構築していくかがこれからの高齢化社会の大きなポイントだ。ちょうどことしはアメリカの黒船が日本に来て150年経つそうだが、同じようにこの少子高齢社会というのも経験のしたことのない内なる襲来である。少子高齢化社会で考えなければいけないことは、世代間、地域間、価値観のアンバランスが生じるということ。また今、お母さんが赤ちゃんを産むのは平均で1人1.32人と言われるが、一昨年、日本医師会が発表したデータによると生まれてくる赤ちゃんの4人に1人はアレルギー体質だそう。日本のお母さんは1.32人しか産まないから、4人に1人いるアレルギー体質の女の子、男の子同士が成長して結婚する確率は高い。ということはその体質が余計増幅されるということで、医療費が下がることはない。つまり適正の医療費は覚悟していくべきで、その中で大切なのは主観的健康観をいかに高めるかである。
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