サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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伊豆地区分科会 パネル討論  10月29日開催
「伊豆の観光はウェルネス」
伊豆地区分科会 パネル討論

◆コーディネーター
中山  勝氏 (企業経営研究所常務理事)

◆パネリスト
出野 勉氏 (静岡県産業部観光局長)
楠原正俊氏 (静岡がんセンター研究所地域資源研究部長)
李 衛東氏 ((株)アジアックス代表取締役)
鈴木基文氏 ((有)船原館代表取締役)


伊豆の観光の状況

出野 勉氏

出野 勉氏
中山 今回はウェルネスに焦点を絞って、伊豆地区をウェルネスでどう活性化させていくか、議論していきたいと思います。はじめに出野さん、国内の観光や伊豆観光の現状についてお話しいただけますか。

出野 宿泊数と観光交流客数を合算した観光入り込み客数ですと、伊豆地区は昭和63年が7340万人、平成20年度は4000万人を切って3900万人余ということで5割ちょっとまで落ち込んでいます。宿泊者数ですと平成3年がピークで、伊豆地域でいうと平成3年に1900万人あったのが平成20年度は1100万人ということで、やはり59%まで落ち込んでいる状況です。まだまだ1100万人のお客さんが来ているということは、全国的にみると非常に多くのお客さんが来ているということですが、伊豆地区では6割弱になってしまったということで厳しい状況です。
 どこからお客さんは来ているのか。県内1億3800万人の入り込み客数のうち、県内からと首都圏からがほぼ同数で4割ずつ、名古屋を中心とした中京圏から15%。ということは95%がこの近隣のお客さんということです。北海道、九州がそれぞれ0.1%、20万人弱という状況です。今年の6月、静岡空港が開港して北海道、九州、北陸、沖縄の航路が開設されたわけですが、これは九州1000万人、北海道600万人の人口を持っている地域がまるまるターゲットに入ってきたと考えてもいいと思います。
 そしていま、定期便が飛んでいる韓国、上海、チャーター便が飛んでいる香港、台湾。県の政策としても海外については東アジアを中心とした地域を狙い、国内では北海道、北陸、九州、沖縄を含めて新しい市場を開拓していくということが1つです。
 最近の観光を取り巻く状況は、団体から個人へ、あるいは目的志向型へということで、個人のお客さんがかなり増えています。個人のお客さんは目的を持って来ます。まさにウェルネスならウェルネスというような目的を持って伊豆に来る状況です。当然、そういう中ではウェルネス・ツーリズムを含めたエコであるとか、グリーンであるとか、そういうことも重要になっていくということで、県の施策としてはそういった部分を中心に昨年、観光局ができまして、今年、来年以降、大きくわけて3つの柱で頑張っております。1つは、首都圏、中京圏を中心とした観光客をもう一度取り戻そう。空港開港に伴い就航先のまったく新しいターゲットからの誘客を図る。そして非常に大きな要素を持っているのはコンベンションです。最近はマイス「MICE」<Meeting(会議・研修・セミナー)、Incentive tour(報奨・招待旅行)、Convention またはConference(大会・学会・国際会議)、Exhibition(展示会)の頭文字をとった造語>というような言い方をしております。単に学会等ではなくていろいろな集まりを持ってこようと、この3本を柱にいま進めています。

バラの香りなどを研究

中山 楠原さんはがんセンターの研究所でいろいろなお仕事をされています。日ごろどのような研究をされているのか、地域産業との結び付きがあるのか、お伺いしたいと思います。

楠原 静岡県は薬の生産高が日本一で、多くの製薬会社の工場が東部に集まるということでファルマバレーということになりました。ファルマバレーの中心機関として2002年につくられたのが静岡がんセンターで、2005年に研究所ができました。山口総長の方針のもとにまったくの基礎研究ではなくて、患者さんに近い研究をめざしています。研究所の運営にあたっては、3つの方針を重視しています。第1は、病院や疾病管理センターと協働し、“患者さんの視点を重視した研究”を実践します。第2は、“プロジェクト志向型の研究”です。第3は、センター、大学、企業の研究者が、対等の立場で研究を進めるという姿勢、“イコール・パートナーシップ”です。この3本でやっています。
 研究所としては、県の出先機関としてファルマバレーセンターという部署があり、そこが地元の企業の方々との間に入っていろいろなことをやっています。わたしは地域支援研究部に属していますので、高砂香料という会社と香りということを中心に研究を進めています。2つポイントがあって、1つは病気に伴う臭い、病臭ということを中心にやっています。もう1つはがんセンターにバラ園がありまして130種類のバラがあり、ガーデンホスピタルということで、患者さんの癒しの場を提供しているのですが、そのバラの香りを研究していて、本年度は53種類のバラの匂いの分析を終わって、今後はそれを使っていろいろな商品を開発していこうと考えています。
 商品開発的には、まだこれからのところが多いんですが、いまのところ地元の方々と一緒に分析しているものとしては熱海のダイダイ、戸田のシキミ、沼津のお茶などの香りの成分を分析して、今、病棟で患者さんの体を毎日タオルで拭くんですが、そのタオルに匂いを付けて爽快さを感じて頂こうとしています。

中国で関心の高い健康診断ツアー

中山 勝氏

中山 勝氏
中山 李さんは中国の上海、北京から中国の方々をこちらに送り込むというようなお仕事をされています。その中で伊豆の国市でも健康に関したモニターツアーをされていますが、いま、中国の観光の需要はどうか。そしてモニターツアーについてお聞かせください。

 今までは日本のお客さんを中国に連れて行って中国観光し、その間に中国のお客さんも来ていて日本の市場視察とかやってだんだん観光の方が増えてきたんです。私たち、インバウンドのツアーをやる時にどんな観光内容を提供するか悩んでいたんですが、ちょうどその時、こちらにはファルマバレーとかゴルフ場とかあって、これをどうですかと。で、モニターツアーとして、まず健康診断のツアーをやったんですが、結構いい結果で、中国で宣伝したら福建省の人たちが、かなり興味があります。
 今、中国では改革開放30年で沿岸部の人たちがかなり豊かになって、自分自身の健康管理の意識が高まって健康診断とかよくやるんですが、中国では健康診断の設備と人間ドックのようなシステムがまだ出来ていないので、どこかいい設備があるところに行きたいと。2、3年前からスイスなどに行っていますが、行くのにかなり時間がかかり時差があって診断の結果は多分正確に反映していないのではないかと思っています。日本は一番近いので、いまかなり反応あります。

中山
 李さん、健康診断だと1泊2日で終わってしまうんですが。

 私たちが今、企画しているのは成田に入って東京に1泊して翌日静岡に来て温泉に入って翌日検診を受ける。大体2泊か3泊ぐらい充てるんです。なぜかというと、日本の旅館は1泊では味わえないです。旅館の良さが。夕方に入って翌日10時ぐらい出ると、旅館がどんなものか分からない。もう1泊して旅館の良さを分かってもらって、また他のツアーも同じことを考えているんで、温泉地の周辺を回っていくとかいうふうに考えています。大体2泊、3泊ぐらいのパターンを考えています。

温泉の気持ちよさの体験が原点

中山 船原館の鈴木さんのところでは天城流の湯治法などいろいろなことをされております。また、伊豆市のTOJI博につきましても積極的にかかわっているということですので、具体的にどのような形で展開しておられるのか、お話しをお願いします。

鈴木 鶴田社長のお話しをうなずきながらお聞きしました。同じようなところで悩んで、同じようなところで希望を持ってやって来ているなと痛切に感じます。始めた時期も10年ぐらい前で同じです。きっかけは伊豆新世紀創造祭。2000年にありましたが、前年の99年からいろいろな研究会が立ち上がり、その中の一つに温泉文化研究会がありました。そのときに別府と同じ「温泉道」などをやっていました。2000年のイベントのときに、天城ドームで温泉博覧会をやりました。たまたま温泉文化研究会の斜め前にブースを構えていたドイツのホテルの社長と知り合い、伊豆の温泉地めぐりに誘い昔ながらの日本の湯治のやり方を体験させました。そうしたらびっくりして、「お前、ドイツに来い」という話になって、しばらくしてからそのホテルの招待で1カ月近くドイツに行って温泉療法とか、ホテルに対するアドバイスをしてきました。帰って来て「ドイツの人たちも温泉療法は日本だと思っている。そんなすごい文化が日本にあるのに何で日本の人たちは気がつかないんだ」と。
 鶴田社長がおっしゃっていた地元ほど気がつかないというのを、私も絵に描いたような人間でして、温泉文化研究会が始まるまで、多分気持ちよく温泉に入っていなかった。そこで温泉の気持ちの良い入り方や療法を体験して「なんだ、この気持ちのよさは」って、そう感じたのが10年間、これが続いている一番の原点ではないかと思っています。
 県や市の支援をいただいて、今まで続いているわけですが、「かかりつけ湯」の事業にかかわらせてもらったり、市でやっているTOJI博覧会にかかわらせてもらったりして、やって来ているわけです。TOJIってわざわざローマ字にしたのは世界に発信するんだと。伊豆を世界の温泉療法のメッカにするぞという目的をもってやっています。10年やってきて同じような課題を感じていますし、これからどうすればいいのかというところです。本当は10年でお客さんが困るほど来るはずだったんですが、まだそこまでいっていません。手応えは感じています。

中山 どのようなことが課題だとお考えですか。

鈴木 10年もやっているとかなり明確に分かってくると思います。鶴田さんもおっしゃっていましたが、ウェルネス、健康で大量のお客さんの集客は無理だと。私どものところでいろいろな療法をやっています。本当にそれを目的として来ていただけるコアのお客さんはまだ全体の3%とか5%という数です。普通、それ位のパーセントだと経営的に合わないんです。そうするとやめてしまうというところがほとんどです。
 では体力があるからできるのかというと、決してそうではないところがあると思います。本当にコアのお客さん、3%とか5%のお客さんが満足できるだけのものを持っているぞと、そういうこちらの体制が、その他の大部分のお客様に対して、良かったなという感じを持っていただけるモトになるのではないかと思いたいです。

求めたいのは地のもので歴史とか物語のあるもの

中山 楠原さん、戸田の橘、熱海のミカンなどを例えば、新たな伊豆地域の資源に利用できる方法というのは、これからなんでしょうか。

楠原 商品についてはいまのところ匂いの分析が終わった段階で、病棟など医療の現場で使うものを考えています。しかし香りの製品は医療だけではなくてもう少し広い範囲で使えると思います。例えば、病院で使っている患者さんの感想は、ほとんど一般の方の感想に似てくると思うんです。バラの匂いはいいんですが、男性には全く受けない。男にお茶は受けるかと思ったら受けないんです。むしろ女の方に受ける。圧倒的に受けるのは柑橘です。今のところ使っているのはダイダイですが、成分的にみるとダイダイと夏ミカンは非常に近いんですが、成分的には違う点があったりとか、そういうのを組み合わせたりしています。あと地域の方に求めたいのは地のもので歴史とか物語のあるものです。静岡はワサビ、ミカン、お茶ですが、それはもうかなりやりつくされているんで、僕らが研究していきたいのは地のもので、地元の人は知っているけど、見逃されているもの。そういうものがあったら研究していきたいです。もしそういうものがあったら教えていただきたいと思います。

中山 鈴木さん、伊豆の方々でなければ分からないものですとか、地元に住まわれて昔から言い伝えられているもので、何かこれはというものはございませんか。

鈴木 温泉が日本人全部に合っているのかというと、決してそうではないと感じます。それぞれに合ったいろいろな療法があるんではないか。香りもそうかもしれない。天城の山には「くろもじ」が自生していまして、「くろもじ」をミストにしてやるとすごくいい香りがします。そのミストも自分のところで作れるんです。そんなものを作ったり、そんなことも体験としてできる。本当に自然の中にある、地域に自生している独自のものを探し出せばまだまだあるかもしれません。

PRの方法を徹底して研究していく必要がある

中山 出野さんは観光の前はファルマバレーの担当でした。今の話からいろいろなものが伊豆地域にはありますが、「そうだ。伊豆に行こう」という形にはまだまだなっていない。そのあたりは課題としてどのようなものがあると思っていらっしゃいますか。

出野 まずは伊豆というのは資源の宝庫です。私がファルマバレープロジェクトをやっている時に「かかりつけ湯」が始まりました。ファルマバレーセンターで商標登録まで取りましてほかでは使えないコピーになっています。要は健康、癒しを求めるときに何を求めるのか。香りを求めるのか、温泉を求めるのか、食を求めるのか、あるいは周辺の自然環境を求めるのか。いろいろな方がいらっしゃるわけです。そういう中でファルマバレープロジェクトの関係でがんにかかった患者さんが一番精神的にも肉体的にも疲れている。手術が終わっていきなり社会生活というのは難しい。そういうときに3日でも1週間でもゆっくり温泉に入って養生してもらおうじゃないかと。そのために各旅館、ホテルのいろいろな特性を癒しに通じるものでやろうよというのが「かかりつけ湯」の始まりでした。なかなかメジャーになっていかない。なぜかというと鶴田さんの話にもありましたが、ただ「かかりつけ湯」になったと看板を掲げるだけでは絶対にお客さんは来ないんです。
 どちらかというと、伊豆地域全体がそうでしたが、観光客は黙っていても来るというような意識があり、積極的に打って出るという体質があまりなかった。それでも飯を食っていけるという状況でした。まだ1200万人来ているじゃないかという話ですが、体質改善はしていかなくてはいけないだろうと。こちらから打って出ていく。伊豆っていうのは何だと。
 楠原さんは、伊豆は温泉ではなく海だといいます。東京の若い人たちは伊豆というとダイビングであるとかサーフィンであるとか、そういう海のイメージがあるというんです。そうするともともと、売り込み方が間違っていると。温泉だといくら売っても「フーン」ということになってしまう。
 「そうだ。京都に行こう」というと今の時期だとお寺と紅葉だと。季節によっても売り物を変えていくとか、そういったPRの方法を徹底して研究していかないと、「そうだ。伊豆へ行こう」とならない。夏場の若い女性には、伊豆に行こうといったときには「そうだ。海だ」と。中高年の人たちには「温泉だ」と。「癒しのまさにかかりつけ湯だ」と。「そうだ。伊豆に行こう」でもターゲットによって、あるいは市場によって、いろいろな売り方を分けていくことが、大事かなと思います。

中国で有名な「伊豆の踊り子」

中山 李さん、中国の方は伊豆というイメージはあるんですか。

 伊豆は結構有名です。どこにあるかは分からない。中国で有名な「伊豆の踊り子」、この本は中国の文化大革命の時にも読めたんです。外国の小説とか、ほとんど禁止されていた時です。みんな知っています。伊豆という地名は分かっていました。どこにあるのか、富士山と近いとか知らない人が多いんです。最近はちょっと変わったんですが。

中山 なにか不思議ですね。「伊豆の踊り子」が中国で読まれているというのは。

伊豆のイメージは「海」か「温泉」か

中山 楠原先生、首都圏の方々は、伊豆は海なんですか。われわれには温泉とか山とかのイメージがあるわけですが。

楠原 山だったら箱根。伊豆というと海です。

中山 鈴木さんはどう感じますか。

鈴木 今、国民文化祭をやっていまして、天城というのは文学のメッカのようなところで大正から昭和の初めにかけては、伊豆に来るというと山の中で、伊豆の旅というと山の中を中心とした物語を書いていたんです。どこでどう間違って海になったのかなと感じているんですが。

総合学習で子どもたちが手作りの資料でPR

鈴木 基文氏

鈴木 基文氏
中山 子供さんたちは伊豆をどういうような形で思っているんですか。伊豆に対して自慢をされているのかも聞きたいんですが。

鈴木 実は10年前、当時、天城湯ヶ島町時代ですが、これをどういう風にして事業展開を進めていくかという時に、行政と協力してやらなければいけない。行政に持っていくと縦割りで、観光というと観光課だけだったんです。これはもったいないぞと。観光でお客さんを呼ぶことと同じことをやっても、地元の住民たちの健康増進にも寄与できるし、もう一つ子供の教育もできると。温泉に入らせるということで情操教育だとかいろいろな意味での教育になっている。
 その時、町の3つの課の担当者を呼んで、一緒に会議をしました。そうしたら皆「そうだよ。一緒にやろう」という話になりまして、面白い形で進んできました。県も観光だけではなくて健康増進室も一緒になってやってくれたりして、それがずっと続いているんですが、子供たちの入浴体験であるとか、あるいは井上靖先生が育ったところですから井上先生のことをいろいろ調べて、小学校の5年生が一昨年、自分でパンフレットを作り、上野の駅でお客さんに配るという授業をやりました。こんなことをやっていいのかと思いましたが、手伝いに行きまして、自分で手作りの資料を持って、田舎の子ですから最初はもじもじしていましたが、1人やると慣れてきまして、「次はあのおじさんだ」といって、「井上靖さんがこれこれしたところですからぜひ来てください」とやってくれました。すごいいいことだなと思いました。
 今、実際に直面していることですが、息子たちが教育にお金をかければかけるほど地方に帰ってこないです。これはすごい問題で、それをなんとかしなきゃあというのは多分、その辺りからの地道な働きかけが必要であって、地域の再生って外からの人もそうですが、地元の人間がどうかかわれるかということが大切だと。本当に教育は大事だと思います。

観光という切り口ですべての地域を、産業を見ることができる

中山 今の話を聞いていますと、出野さんは観光局ということですが、観光の部署は生活文化から産業に戻ってきていますね。

出野 もともと県の組織では、観光は商工部にあったんですが、交流人口を拡大していかなければいけないし、県民生活である文化との絡みが多いということで、生活文化部に移って何年かやって、やはりこれだけ地域経済が疲弊して地域に元気がなくなってきたという時に何が産業としての切り札になるんだろうということで、国にも去年10月、観光庁ができたわけですが、やはり観光というのが一次産業から三次産業まで全てを観光という切り口で切ると農業も林業も、あるいは製造業、もちろんサービス業も全ての産業が観光という切り口なら一つの産業になるんだろうということです。
 観光立国基本法などもできましたが、観光は21世紀のリーディング産業になれるというような言い方もしております。観光という切り口ですべての地域を、産業を見ることができるということは非常に重要なことだと思います。
 実は今年5月に観光立国教育全国大会の第1回を三島市で開催しました。これは小学校の教科の中で総合教育というのがある。地域を見直そうという授業ですが、それを観光という切り口で見たらどうなのかという、総合学習の中で地域を見直す。子どもたちが自分の地域に、お客さんに来てもらうような地域にする。あるいは自分の地域をPRするということが、大きい教育ではないかと。自分の地域を愛して、地域を誇りに思って外に向かって言えるような教育は子どものころから地域を愛するという教育がされていけば自然に出てくるんだろうと。
 地元を愛するという心が本当に地域の経済を活性化していくでしょうし、お客さん目線でお客を迎えることができるみたいな、そういう教育も必要ですし、それにプラスアルファで皆さんが携わっている観光関係の方だけではなくて、農業をやっている方、林業をやっている方、製造業で働いている方、皆さんが一緒にならないと、鶴田さんがおっしゃっていましたが、地域は活性化していかないと。そのために去年、観光局をつくったのは県の縦割り行政にヨコ糸を通そうということで、今観光でいろいろな事業をやっていますが、すべて各関係部局長と協議をしながらやるシステムにしました。全産業、全部局が観光という切り口でものを考えていただきたいという状況です。

中山 21世紀は観光ビッグバンだと言っている人がいましたが、まさにそれをやられているのかなという感じがしましたが、女性のかかわり具合はどうなんでしょう。

出野 職員のなかでも女性の目線が非常に重要でして、県の職員の中に女性の職員がどれだけいるかと言われるとまだ足りないと思いますが、うちのスタッフには積極的に女性を入れまして、僕らがこう思うというのを、女性の目から見たらどうなんだろうというのを必ず反映させるようにはしています。

安全な温泉の入り方

楠原 正俊氏

楠原 正俊氏
中山  楠原さんは温泉が好きだと伺っていますが、この地域だからこそのような温泉の入り方がありますか。

楠原 一つは温泉に入る段階において安全な温泉の入り方というのがあります。入浴中に亡くなる方が多いのですが、いわゆる熱中症になって事故になるということをよく知っておくことが必要だと思います。お風呂に入ると気持ちが良くなってなかなか出られなくなるらしいんです。温泉に入ると気持ちいいのは確かですが、気持ち良くなって出られなくなって意識がボーとなって、そのまま体温が上がって熱中症状態になって、意識がなくなって前のめりに倒れて溺れ死んでしまう。
 思ったより心臓病で倒れるとか、入っている最中に脳卒中になるのは少ない。ということはかならず予防ができるんです。そういうことを徹底してやることが大事ではないかなと思います。安全な入浴ということでは。そういう状態を知っておきながら入浴の仕方をすすめることが安全な入浴をする上では大事だと思います。

遠回りだけれど地域力を高めることが大事

中山 最後に一言ずついただきたいと思いますが、鈴木さん、お願いできますか。

鈴木 ブランド化を僕らも実はすごくやりたい。それで観光だけでなくほかの産業にも影響できるような内容をつくりたいとやっているわけですが、なかなか結果を出せない。そこで結果を出すためには何が必要かという戦略ですが、最初に始めた健康増進、あるいは教育というのがあるじゃないかと。地域力を高めることが大事で、ちょっと遠回りだけれどもやっていかなければいけないと思っています。
 もともと人間の体には自己治癒力がありますが、いま、ちょっと悪くなるとすぐに病院に行き、薬をもらう。自分が持っている自己治癒力は使わなければ使わないほど、筋肉と一緒で退化していくんではないかと思います。私どもがやっているのは、自分でこうやって治しなさいと方法を教えることを基本にしていますので、自分で治ろう、治そうという気持ちが一番大事だとお話しをしますと、皆すごく納得してくれるんです。そうしますとすぐ病院にいっていた人が自分でやってみようかと。そうすれば必ず改善しますから、その積み重ねが多分医療費も下げることになるんじゃないか。いくら行政が宣伝してもダメじゃないかと。市民の立場でこうやるぞという気持ちが皆に少しずつでも芽生えるということが多分地域を、極端なことを言うと、日本を救える元になるかなと。そんなことを地域で去年あたりから始めています。それが少しずつでも種まきで実らせてくれて、この地域で何か皆さん元気になって、医療費も下がっているみたいだぞということになれば、黙っていてもお客さんは来てくれるのではないかと思っています。

メーンは温泉旅館

李 衛東氏

李 衛東氏
中山 李さん、今後、この地域にお客さんを連れてこられるようになる、方法とか、そのようなものはいかがでしょう。

 私たちがいまやっているツアーで日本に来る中国の人たちのメーンは温泉旅館。伊豆はちょうどいいところです。宿泊は全部旅館で、メディカルツアー、またゴルフツアー、後は日本の飲食体験とか植物体験とか、いろいろなことができます。中国のお客さんにもいろいろ好き嫌いがあって、例えば温泉に入りたいと、でも一緒に入るのが恥ずかしい人もいるので、この前、体験したのは部屋の中の露天風呂がかなり評判がよかったです。
 いろいろな対応ができるという情報を是非教えてください。私たちがやっているツアーは、観光だけでなく、ビジネスの視察とか、例えば不動産を買うとか、この前は大仁の農場を見に行きましたが、中国の一部にかなり豊かになった農村があって海外を見に行くんですね。とくに日本でどういうふうに農業をやっているのか見にきたいのです。これも温泉旅館に泊まって周りを見ると。基本は温泉旅館です。金持ちたちはほとんど企業を経営しているとか、投資家達が多いのでビジネスチャンスがあると、何かあったらやりたいとか。

地元の人たちが長生きを示して欲しい
 
中山 ありがとうございます。では楠原先生、この地域を活性化させるといいますか、より良くしていくためにはどのようなことが考えられますか。

楠原 病院は基本的には宣伝できませんが、地道な努力とあとは口コミです。旅館とは違うと思いましたが、結局は旅館も観光地も口コミだというので、結構共通点も多いのかなと思います。病院は今、医療の進歩に伴って単に治療だけでなくて、そのプラスアルファを利用されています。うちの病院を見ますとそういうことで看護師さんたちが頑張っていますので、そういうところで香りなどを取り込んでいきたいと思っています。そういうのが旅館の方々とサービスとしては一緒にいけるところがあるのかなと思いました。
 あと、東洋医学、漢方、代替医療に関しては、だんだんと大きくなっています。慶應大学でも漢方外来というのがありますので、だんだんそういうところが広がってきています。今後少しずつそういうところに科学が入ってきつつあるのではないかと思います。
 もう一つ、もしウェルネスとして売りにする時は、いろいろ難しいと思いますが、温泉がいいというのなら、地元の人たちが示して欲しいというのがあります。自分たちで根性を決めて町として、ワサビがいいのなら町中でワサビを食べるとか、自分たちで参加して、自分たちで温泉に入り、長生きを示していただければ、きっと皆も来る。もっと市民参加型で、温泉がいいとか、いろいろなトライアルをどんどん起こしていっていただけるといいんじゃないかなと思います。

地道な努力しかない
 
中山 出野さん、よろしくお願いします。

出野 多分、即効性の施策というのはないと思います。沖縄の長寿村ではないですが、ずっとそういう食生活をやってきた結果、長生きの村になって、それが全国発信できるブランドになっていくということで、地域全体がお客さんを迎える態勢、あるいは自分の地域を自慢できる方策を考え、地道な努力を重ねていくしかないと思います。
 でも伊豆というところには温泉をはじめいろいろな観光資源がある。まさに伊豆観光はウェルネスということで考えますと、ウェルネスというのはすごく重要で、やはり温泉を使ったいろいろな商品をつくっていく。1泊2日というのは、李さんの話にもありましたが伊豆の良さは分かってもらえない。そうしますと2泊3日、3泊4日をどうするかというと、温泉や温泉療法のプラスアルファとして、実はここには井上靖の何かがありますとか、環境に良いビオトープをやっていますとか、それが伊豆にはあると思うんです。それで2泊になったり、3泊になったり、あるいはこの前に体験できなかった部分があるからもう1回行ってみようというリピーターになる。
 これだけ定住人口が減少していくなかではリピーターを考えないと観光というものは成り立たないんです。そのためにはどうするかというと、地域が一緒になって受け入れの態勢をつくるということが、ものすごく重要だと思うんです。
 ホテルの従業員の方たちがものすごく親切だった。おみやげ屋さんも良かった。でもタクシーの運転手があれだったら2度と行かないよということがあります。本当に電車に乗るまで、乗ってスタートするまでが観光なんです。ホテルだけだとか、おみやげ屋さんだけではないんです。その時にやはり地域の住民の方々が、ここの町は観光で一生懸命頑張っているのだから外から来たお客さには親切にしよう、満足して帰ってもらおうという意識を、それこそ子どもたちから持ってもらわなければ観光地というのは絶対リピーターは来てくれません。ちょっとでも嫌なことがあるとうちにもすぐにクレームがくるわけです。もうあんな所には2度と行かないと。それは何かというと、本当にちょっとした事なんです。地域が一体となってお客さんを迎え、地域を自慢できる。そういう地域に、地道ですがやっていくしかないのかなということです。

中山 ありがとうございます。おもてなしの心というものを生活者、住民の方々がお持ちになるのが一番だと思っています。やはり観光ですと、地域の方々も生活者、消費者がどういうことを考えているのかなということを愚直に考え続けることも重要なのかなということを最後に言わせていただき、終了とさせていただきます。
 
< 略 歴 >

中山 勝(なかやま まさる)
慶応義塾大学大学院経営管理研究科修了。スルガ銀行入行後、財団法人企業経営研究所出向。研究員、主席研究員を経て平成12年より部長、平成20年5月より常務理事となり現在に至る。静岡県、沼津市、三島市などの委員や日本大学国際関係学部非常勤講師などを務める。サンフロント21懇話会TESS研究員。静岡県生まれ。

出野 勉(いでの つとむ)
新潟大学人文学部卒業後、昭和50年に静岡県入庁。平成14年企画部知事公室秘書室長、平成15年企画部知事公室秘書長兼秘書室長、平成16年企画部知事公室長、平成18年健康福祉部参事(富士山麓先端健康産業集積構想担当)、平成19年厚生部理事(富士山麓先端健康産業集積構想担当)を務め、平成20年産業部観光局長就任、現在に至る。

楠原 正俊(くすはら まさとし)
慶応義塾大学医学部卒業後、昭和57年慶応義塾大学病院内科勤務。昭和59年伊勢慶応義塾大学病院内科、昭和61年慶応義塾大学医学部呼吸循環器内科、平成2年足利赤十字病院循環器科、平成6年ワシントン州立大学心血管研究所リサーチフェロー(Berk教授)、平成8年東京電力病院内科、平成10年久我山病院内科、平成11年横浜市立脳血管医療センター内科、平成12年防衛医科大学校内科循環器科准教授、平成20年静岡がんセンター研究所地域資源研究部研究部長。

李 衛東(り えいとう)
上海復旦大学英米文学専門卒業後、昭和55年中国民航上海管理局(中国東方航空前身)に入社。昭和61年から平成2年まで中国民航大阪支店と福岡支店に駐在、その後中国東方航空上海本社勤務。平成4年に来日、株式会社アジアックスを設立し代表取締役を務める。平成12年から旅行業第三種取得。海外の手配旅行を始める。

鈴木 基文(すずき もとふみ)
立教大学社会学部卒業後、昭和51年(有)船原館入社。昭和55年代表取締役就任。平成12年県の事業「伊豆新世紀創造祭」に参加。新しい温泉療法を活用した地域興しを始める。平成15年県東部振興センターと「新しい湯治場作り事業」を実施。「かかりつけ湯」立ち上げの下地作りにかかわる。平成18年「かかりつけ湯協議会」代表幹事就任、現在に至る。



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