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特別講演会 平成19年6月14日(サンフロント)

「天下分け目の参院選〜各党の思惑は」
政治評論家 有馬晴海氏

略歴

政治評論家 有馬晴海氏
有馬 晴海(ありま・はるみ)

1980年立教大学経済学部卒業、同年リクルート入社。85年国会議員秘書となり、公設秘書を経て96年政治評論家として独立。現在、テレビ、雑誌、夕刊紙などで政治評論を行う。歯切れの良い語り口で講演実績も豊富。ポスト小泉「麻垣康三」の名付け親でもある。 著書は、「永田町Newパワーランキング100」「議員秘書の打ち明け話」など。

 6月14日、静岡新聞社・静岡放送東部総局サンフロント9F「ミーティングホール」で政治評論家有馬晴海氏を講師に特別講演会が開かれた。サンフロント21懇話会と静岡新聞社・静岡放送、静岡政経研究会の共催で、テーマは「天下分け目の参院選〜各党の思惑は」。参院選を前に年金問題が国民的関心を呼び、与党が会期延長へ動く中で行われた講演で、年金問題の影響を中心に参院選がなぜ天下分け目の攻防なのか、与野党の思惑などを交え、分かりやすく現状を解説したが、その後の参院選の結果は予想外の与党大敗。1カ月余の時間の流れは激しく、まさに参院選は天下分け目の戦いとなり、日本の政治は未知の世界に突入した。

宙に浮いた5000万件

 若い若いといわれながら政治評論の仕事も12年になりました。政治評論というのは難しい生業(なりわい)になってきたんだと思いますが、最近は知らない議員まで廊下ですれ違うと会釈してくれるようになりました。
 先だって片山さつきさんとテレビで一緒になりましたら、片山さんが先生、先生といって番組終わったら追いかけてきたんですね。「30分お茶しませんか」ということでした。彼女は今、党の広報局長をやっておりますので、30分が2時間半、2人でいろいろな話をしました。その時はまだ年金問題がここまで表面化しておりませんで、自民党も参院選はなんとかなるんじゃないかという話でした。私のその当時の読みも与党側が参議院の過半数はなんとか維持できるんじゃないかという話をしましたが、その後に年金問題が出てきて非常に厳しくなっています。
 参議院選挙の話をしますが、今、一番問題になっているのが年金問題だと思います。人ではなく件ですが、人口1億3000万人で5000万件が宙に浮き、それだけでなく消したものが20万件あったり、食い違っているものが1400万件あったり・・・。まだまだこれから出ると思います。
 今、民主党の議員の所にたくさんのはがきや投書が来ております。私も見せていただきました。この中にこういうものがあります。「あなたは未納期間があるから一括して払いませんか」というはがきがきたから5万円払いに行った。ところが年金をもらおうと思ったときに24年10カ月で、あと2カ月足りないという。私は払ったじゃないかと言いに行ったんだけれども、「証拠はありますか」と言われたというんです。
 30年前の領収書を持っていない人はどうするんですかと言ったら、安倍さんは「第三者委員会に任せてそこで本当に払ったということが証拠として認められるような証言などがあれば追加で認めることもある」と言いますが、第三者委員会というものを調べると、これは安倍さんの言い逃れのため、期間延ばしのために言っているとしか思えないような実態があるということで、是非皆さん方は一度自分の年金の確認をなさった方がいいと思います。基本的にいまのところ領収書がないと認めないという政府の方針は変わらないわけです。
 安倍さんは、社会保険庁はもう時代に合わないから、まず1年後には3万人を2万人に減らそう。そして3年後には社会保険庁を壊して違うところでやろうと今言われているわけですが、そういうことをやっている時に、宙に浮いた5000万件、民主党は消えた年金といっていますが、この問題が出てきました。そして5年の時効の撤廃を4時間で決めました。
 実は30年ほど前に社会保険庁は手書きでカードを作っていたものをコンピューター処理にしようということで、コンピューターに移管し始めたんですが、30年前のコンピューターというのはカタカナでしか入れられなかったんです。
 だから私の有馬晴海という文字を、「アリマ・セイカイ」という人もいるし、「ハルミ」という名前は女だと思う人もいる。「アリマ・セイカイ」だといってカタカナで入れていると、私とは違う人が1人出来るわけです。そして「ハルミ」を女性と思って打つとまた違う人ができる。1人20件あるかもしれない。そういうのが5000万件浮いている。皆さん方の中で大丈夫な人もいるし、間違われた人もいる。いろいろなパターンがあって何がどうなっているのか分からないということです。
 そして悪いことに10年前に、それまで市町村で事務をやっていた国民年金を国、社会保険庁が管理するようになった。そのときに、また、「アズマ」さんなのか、「ヒガシ」さんのなのか分からないというようなことで宙に浮いて、同じ名前で同じ生年月日だけれどカタカナで、「アズマ」と書いているものと「ヒガシ」と書いているものが切り離され、そういうケースがたくさん出てきたということです。そして基本的に照合できないものは放ったらかしとなっている。


危うい法律の決め方

 私も最近ちょっと勉強しまして、議員に「これ、どうするつもりだったの」と。30年前に合わないやつ、つまり「アリマ・ハルミ」を「アリマ・セイカイ」とカタカナでやったものをどうしようと思ったのかと聞きましたら、恐らくそのときに働いていた人たちは「まあ、自分たちが辞めてから問題になるだろうからいいかと思っていたんじゃないか」と。いまさら安倍さんがそういうことだったと言うと大変混乱するから言えないということです。とりあえず選挙が間近に迫っているから、この選挙をしのぐためには5年の時効を撤廃するということをまず言って、検査をして見つかったらちゃんと認めましょうと言っているんです。認める機関が第三者委員会というところですが、これは皆さん方が申し立てしなければ当然見つかりません。
 社保庁が処理をやらなかったということであれば、それは向こうが事務処理としてきちんとやらなかったわけですから、時効というものは、本当は関係ないんです。ところが、もし皆さん方が払ったと言ってくるんだったら考えてもいいという時効だけを撤廃したんです。この5年という時効を撤廃すると言う法律を4時間で決めてしまいましたが、そういう法律の決め方というのは非常に危ういなと思っております。
 その批判が今、支持率に現れて安倍さんの支持がぐんと落ちてきている。このままだと選挙が出来ない。では、どうするか。
 今、法案は参議院に回りました。その参議院で審議するんですが、国会が来週終わってしまう。今週か来週、審議を10時間ぐらいしてまた強行採決しちゃうと、国民の皆さんがまた自民党はいんちきしているんじゃないかということで、選挙に負けるかもしれない。そこで出てきたのがダブル選挙という考え方。つまり衆議院と一緒に選挙をすれば参議院で負けがないんじゃないかという考えです。そしてもう一つは参議院でもうちょっと長く審議して、ちゃんと自民党は審議を尽くしましたというところを見せて、選挙に取り組もうということで、会期を延ばすことです。


何故、与党が過半数割れになると大変か

 参議院というのは3年に1回選挙があります。改選は6年に1回です。なぜかといえば、衆議院が解散して参議院の会期がないということになりますと国会議員が誰もいなくなりますので、参議院の半部が必ずいるようにということで、任期を互い違いの6年にしているのです。今年改選の方は6年前の選挙で当選した方たちです。
 今回、天下分け目の戦いと言われているのは、参議院は定数が242議席で、これを2で割ると過半数が122議席になります。今の参議院の勢力は3年前に選挙をやった人たちが公明党11議席、自民党は49議席しか取れませんでしたけれども、この後郵政選挙で追い出された人がいらっしゃいまして46議席になって、この前の補欠選挙で47議席という数字になっています。今度の改選では公明党が13議席あります。与党が過半数を取るには自民党が52議席取ればいいといわれていましたが、補欠選挙で1つ取れましたので51議席でいいということであります。
 6年前の選挙で自民党が64議席取りました。この数が補欠選挙を経て今、66議席あります。その66議席を51議席まで減らしても与党は過半数を維持できるということになるわけで、このくらいは何とかなるだろうということで自民党としては安泰と考えていたわけです。
 ところが、先ほどから私が申し上げているように年金問題で自民党は恐らく5議席くらい足りなくて参議院では野党に議席を奪われ、過半数を割ってしまうのではないかと見られるようになりました。
 何故、与党が過半数割れになると大変か。ご存知のように総理は衆議院から出ます。衆議院の過半数を持っていれば政権というのは取れることになっています。参議院で過半数を野党に取られた場合、何が大変かというと、法律というのは1年間に100本くらい、多いときには180本くらいある。それを1月20日頃から6月中頃までの150日間で議論します。3月まではほとんど予算案に時間をとられますから、4月から6月中旬の2カ月ちょっとくらいの間に100本くらいの法律を通していかなければいけないんです。
 法案は衆議院で過半数あれば可決します。それが参議院に行って参議院で過半数を取ると法律になる仕組みになっています。
 普通の法案は衆議院から参議院に行きますが、参議院でもし小沢さんを中心とする野党が過半数を取った場合には、小沢さんは全部を否決すると言っています。つまり衆議院で可決されたものが参議院に行きますと否決される。どうなるかというと衆議院に戻して3分の2以上で可決すると法律になるというのがルールです。衆議院は2年前の小泉チルドレンも含めて自民党だけでも7割近い議席を持っておりますので、公明党を合わせると3分の2というのは楽なんですね。だから法律として成立するから問題はないのですが、年に100本、こんなことをやっていると国会が混乱するということで、もし安倍さんが過半数を野党に取られることがあったら、つまり法律がすんなり通らない事態を安倍さんが作ってしまったときには、首が飛ぶぞというのが自民党の解釈であります。


事務所費問題などから年金の問題へ

 安倍さんはご承知のように就任のとき7割の支持がありました。訪中、訪韓をしてちょっとがんばって「安倍はなかなかやるじゃないか」とわれわれも評価しておりましたら、そこに出たのが本間さんという政府税調会長の問題で支持がポーンと落ちてきた。本間さんは辞めることはないんじゃないかということで1カ月ねばりました。その間にどんどん落ちていきました。やっと辞めさせたと思ったら次に出てきたのは佐田さんという行革大臣が事務所費7000万円をどうも付け替えているという話でした。これも12月26日に出てきました。支持率はずっと下がってきて安倍さんとしては、何とか年明けになったら政策、つまり憲法の改正、教育基本法の改正、公務員の天下り法案、そういうものを命がけでやって支持率を引き上げようと思っていた。何とか年内に解決しようということで佐田大臣は有無を言わせず2日で辞めさせたんです。
 そして年が明けたら、1月3日に永田町に議員会館を使っている人で、事務所費はタダのはずなのに年に4000万円も上げている人がいるということで、1番目と2番目が松岡さんと伊吹さんだったんです。赤旗にだっと10人ぐらい書かれた。その1番目と2番目が追い込まれていく。安倍さんは「内閣改造をしようか」と。つまり大臣を辞めさせれば何とか支持の回復が出来るんじゃないかと思って、いろいろ考えていたときに出てきたのが、今度は柳沢さんの「女性は子供を産む機械だ」発言です。
 大臣を切ればいいという話をしましたが、佐田さんを2日で辞めさせ、本間さんは1カ月かかって辞めさせた。そこに松岡さんだ、柳沢さんだと辞めさせていくと、どこまで悪い大臣がそろっているんだという話になって、どうしても任命権者の責任、総理の責任になるからなかなか辞めさせられないんだというような話であります。
 亡くなった人のことですから、あんまり言わない方がいいと思いますが、でもやはり、なんとか還元水で500万円使うというのはおかしい。水道の蛇口をひねればほぼタダで水が使える日本の中で500万円、しかも鹿児島に1本5000円の水を発注していたという話も出ていましたが、あれはウソで、自民党の人たちが、松岡さんが大変だから松岡さんの理論武装をしてあげようということで、インターネットで高い水を探したんです。そうしたら鹿児島に1本5000円の水があった。それを聞きつけたマスコミが鹿児島のこのお水業者に問い合わせをして取り寄せて、「松岡さんが飲んでいたのはこれですかね」と、ばんばん言ってしまったものだから、松岡さんも弁明のしようがなくなった。水とかいろいろとかの一言が効きました。政治家というのは本当に一言で命取りになるんだと思います。
 でも、お水で松岡さんが自ら命を絶ったとは思えませんが、いずれにしても松岡さんが命を絶つことによって、政治とお金という問題、いわゆる政治家のお金の問題というのがどこかにいってしまって、そこから前面に出てきたのが年金の問題です。


膿を出すしかない

 私がテレビに出ると司会者がこう言うんです。「有馬さん、それにしても民主党も年金について騒いでいるけれど、もっと前に騒げばよかったのに。やっぱりこれは選挙用ですか」と。「自民党の安倍さんが第三者委員会を作るとか、5年の時効を撤廃するとか、そういうのはやはり選挙用ですよね。国民を見ないでなんか自分たちのことばっかり考えていますよね」と言われるので、「そうかもしれませんが、選挙があるから政治家は命がけで、国民から投票してもらうためにがんばるんです」とお話しました。もしかして自民党が過半数を割ると法律の成立に大変な作業が必要になるから、そんなことは出来ない。そのためには国民に理解を求めなければいけないから国民が安心するようなことを一生懸命やるしかないということで、安倍さんが急に180度豹変したわけです。
 皆さん方が夏の参議院選挙でどちらに入れるか。それによって安倍さんの首が飛ぶのか、小沢さんの首が飛ぶのか。どちらかの首が飛ぶと思ったら、皆命がけで、総力戦でやって、国民迎合かもしれないけれどもそれによって年金を何とかしなければいけない。
 皆さん、選挙がなかったら、また2、3年ボーとしている間に忘れてしまって、まあ40年後ぐらいには発覚するかもしれない。そのままになってしまったかもしれないということを考えると、年金問題がこの時期に出てきたのは、ある意味ラッキーといえるかもしれません。私が政治家を見てもそういうような要素というものはあるんじゃないかと思います。
 安倍さんが社会保険庁に電話をして、「おい。相談に24時間対応しろ」と言ったら、社会保険庁の幹部は「いや、できません」と。「何でだ」と聞くと、ご存知のように継続して45分以上仕事をしないという取り決めをしているというのが一つ、そして5時以降の残業をしないというのと1日に5000タッチ以上はしないということを労使で決めているというような話が出ております。それをもって自民党は組合が悪い。組合を応援する民主党が悪いからだという風に差し向けようとしております。民主党はその上の社保庁の体質そのもの、それを管理している厚生労働省が悪いんだというようなことで対決しているんですが、まあ、膿を出すしかないと私は思っております。
 この参議院選挙のテーマは、今回は「年金」かもしれません。前回の選挙は「郵政」でした。本当はもっともっと大事なことがあるのですが、でも皆さん方、お年を召して誰もが通過をする老後の1万円、5万円が毎月減るか、減らないかを考えると、やはりここで膿を出してもらうしかないんではないかと思うわけです。ある意味、40年間のつけがパッと出たということのようです。


「年金」で勝負の民主党の戦略

 3年前も実は年金問題で民主党が50議席、自民党が49議席で民主党が1議席上回る選挙があって、民主党の中では「夢よ、もう一度」というようなことで、われわれから見れば、そういうことよりもとにかく年金をちゃんとしてよと思うわけですが、政党は政党でわれわれがやれば国民の皆さんにちゃんとしたことが出来ると両方が思ってやっていることは事実です。
 今、民主党の戦略としていろいろなチラシを作っていますが、ほとんどのチラシを止めてしまい、「年金はがき」を作ろうと。つまり社会保険庁に問い合わせをしましたかという様なはがきを皆さんに配って、皆さんが「そうだ。俺もやらなければいけない」という気持ちを喚起することによって、民主党は有利に持っていこうというような話をしております。民主党はその前までは17の政策ということで、A4判のチラシを作っていました。2年前の衆院選挙のとき、自民党は郵政1本にかけたんです。今度は民主党が年金1本で勝負しようということを考えているようです。


自民党のタレント候補作戦

 自民党本部で世論調査をすると静岡は間違いなく自民党が勝つことになっているんですが、佐賀も駄目、長崎、大分、宮崎も駄目、鹿児島は何とかなるかなという状況で、四国は4県とも駄目かぎりぎりに行くかなという話をしていたときに年金問題が来てしまったから、どうしようもない。「じゃあ、どうするんだ自民党は」といったら自民党は何としても参議院で勝ちたいために、じゃあ候補者をもっと違うところで選ぼうと。全国比例のタレント候補を使って、つまり例えば新庄が出れば、皆さん方は新庄が好きなんでいいじゃないかと「新庄」と書けば、それは自民党にカウントされる。新庄を入れたついでに地方区の人に入れてくれれば何とかしのげるじゃないかと言って、新庄が、郷ひろみが、藤原紀香が、という話もありました。
 今年の参院選は1人が取れるかどうかで与党になるか野党になるかの大変な選挙だ。それを持って天下分け目の戦いというタイトルになっているわけですが、そういう状況になると困るから、取れるところで取ろうと。
 ヤワラちゃん、横峯パパも自民党が期待していたんですね。しかし、ヤワラちゃんは柔道協会が8月の世界柔道の代表に、優勝した選手じゃなくて経験からヤワラちゃんを選んでしまったんで、なくなった。そして横峯パパは、あんなにいい教育者はいないと、自民党は口説いていたんです。1カ月半ほど前、私はサクラちゃんのパパと一緒に番組に出て、「なんか最近、民主党からも来たでしょう」というと、「イヤイヤ」というような話をしていました。横で聞いていたアナウンサーが「次の参院選に出る横峯さんです」と紹介すると「1000%ない」と言っていました。その後、民主党から出ることにしたと。なぜ民主党かというと民主党の方が自由があると。
 小泉さんが総理をやって、格差が広がったといわれております。小泉さんだけのせいではありませんが、小泉さんの政策が、格差が広がる政策だったということもあると思います。例えば、この6年間で公共事業を本予算で10兆円あったものを7兆円にしました。そして向こう5年間で3%ずつまた減らしていくということになれば、向こう5年間で6兆円になってしまう。10兆円が6兆円ということになりますとほぼ半分ですから建設業界の従事者が日本にはかつて659万人いたんですが、今は450万人。でも公共事業だけ考えると、それも多くて、あと200万人くらいが外れていただかないとなかなか上手く回らない。でも、しがみついていると結果的には取り合いになって上手くいかない。これも一つの格差かも知れません。
 そこで安倍さんは小泉さんが格差を広げたので、小泉内閣を継承するんだけれども、小泉さんと違うのは、小泉さんがやらなかった、小泉さんがやったことによって広がった格差を解消しますということで、再チャレンジ大臣というものを設けました。私は再チャレンジ大臣をつくるなら厚労大臣をもう1人くらい作った方がいいんじゃないかと思うんですが、でも安倍さんにとっては、つまりニートやフリーターを含めて再チャレンジできる国を作ることで、小泉さん以上の総理になれるかもしれないということを標榜していきたいわけですが、なかなかそうもいかなくて、もう選挙用に候補者を変えたり、タレントを立てると。こんなことぐらいしかないのというような話で、われわれも織り込んでおりました。


われわれの意見を聞いてもらえるチャンス

 とにかく年金問題で大変になったから、それを何とかするという法律を選挙のために、参議院で審議する暇がないからと4時間で通してしまった。その4時間で通した安倍さんというのは一体何なのかと。4時間で通した安倍さんに、今度は批判があった。それまでは国民のためにやらない安倍さんに皆さんは文句を言っていたんですが、安倍さんがまずいと思って「分かりました」と急に方向転換し、4時間で通した。そうすると、今度は「そんなんでいいの。もっと話し合いなさい」というようなことで、今度は衆議院は4時間だったけれど参議院では話しましたよというために会期延長を打ち出してきた。でもそれは、あなたたちの都合で選挙を勝手に延ばしているだけで、その前に年金をちゃんと解決してよ、というのが私の考えで、多分皆さんも同じような考え方をもっていると思っております。
 自民党は、郵政選挙で野田聖子さんや亀井さん、綿貫さん、平沼さんらを追い出した。結果的に野田聖子さんは戻って来たんですが、亀井さんや綿貫さんたちは出ていってしまった。その人たちが民主党を応援するとやはり参議院はきつい。
 そして地方の合併がありました。平成の合併をしなければいけないということで99年から合併が始まり、今年の4月をもって平成の大合併は終わったんですが、3200あった自治体が1800ぐらいになってしまった。地方議員が5万6000人いたのが1万7000人減って、3万9000人になった。その1万7000人の8割ぐらいは自民党系の人たちだということで、参院選で手足になる人たちもいなくなったというようなことで、自民党は非常に厳しい状況を迎えていたのです。そして改選の66議席が55議席取れるかどうかというのが最初にあったのですが、この年金問題が来て、恐らくあと5議席から6議席ぐらいは失うんじゃないかと。取り戻せるかどうかというのが焦点になります。
 今、自民党の議員は弱っておりますから、皆さん方が「あなたは年金問題をどうするのか」と聞けば、それはきちんと答えなかったら票が減ると思いますから、今は、政治にわれわれの意見を聞いてもらえるチャンスだと思います。いろいろなことを言っていただいた方がいいんじゃないかと思います。


本当にこの国は大丈夫か

 次に憲法改正の問題ですが、自民党の若手の方々は、憲法の9条2項を変えなければいけないというんですね。なぜ変えなければいけないんだと聞くと、「それは自主憲法にしなければいけない」と。1955年に自民党ができた時に自主憲法の制定を掲げました。あれはGHQから押し付けられた憲法だからと。それで自民党は1955年の結党以来の夢として憲法の改正を掲げ、そして9条2項の集団的自衛権を何とか認められるようにするというんです。
 若い議員に憲法改正をやるのかと聞いたら「やる」というんですね。「どこをやるの」「9条の2項をやる」「どうして」「有馬さん、北朝鮮が攻撃した時に・・・」というんですが、北朝鮮の攻撃は憲法9条と関係なくて1対1の話ですからどうにでもなる話です。
 そうではなくて第3国で戦争をやっている時に日本が米国を応援するのか、応援しないのかという話なんです。ご承知のようにイラクで戦争が起こって、アメリカが皆行ってという。最初はフランスなどもちょっと行ったけれど、こんな戦争なんかやれないと帰ってしまった。ところが日本だけはアメリカが言う以上はついていかなければ駄目だとついていっているんですが、ご承知のように自衛隊が行っても武器は持てないんです。では何をやっているかというと、スコップを持って道路工事をやっていたんですね。
 そうするとブッシュが「もうちょっとちゃんと、やってよ」というもんだから、防衛庁を防衛省に格上げし、自衛隊を自衛軍にし、9条2項を集団的自衛権、つまり第3国で紛争があった場合には武器を持って行けるぞという法律にしようという話になっているんです。
 「憲法の改正、何で」といったら「自主憲法だ」というけれど、9条の2項ってアメリカから言われて変えようとしているじゃないかと言ったら、「そうですね」って初めて気づくような若い議員が多くて、憲法の改正というのは今、流行なんです。中身を分かってないんです。それである人はこういうんです。プライバシー権が出た。環境権もあるからと。そんなのは環境法か何か作ればいいという話でありまして、憲法をいじらなくても済むんです。
 私は基本的に49年生きて、戦争もなかったし、憲法によって何か被害を与えられたという被害者の意識はまったくありませんから、個人的な意見としては、とりあえず変えなくてもいいと。でもどうしても国民の皆さんの中でこれは不都合だということがあれば、それはそれで議論を尽くしてやればいいと思うんです。
 その中身も今言われているのは3分の2が賛成すれば変わるというので、この文章で3分の2が賛成しますかと各論でやっているんです。憲法というのは整合性もあるから、私はやはり一括して、こういう憲法でいいかという話をして欲しいんですが、この辺をこう変え、あの辺はこう変える。これを出すと3分の2の賛成を得られないからこれはやめようとか、そんな話で憲法を変えようとしているんです。本当にこの国は大丈夫か、危ういなあと感じさせるものがあります。


小沢さんの思惑

 小沢さんが1991年に心臓を患って、代表になる時も私の知っている民主党の議員が「有馬ちゃん、小沢は代表になったら死ぬぞ」というような話を聞いていました。そのあとの大会で小沢さんが脂汗をかいて、そのまま病院にいって、風邪だと言ったんですが、鳩山さんというお金持ちの正直な方がいらっしゃるので、「小沢さんは心臓がちょっとおかしくなって検査に行った」と言ってしまったんで、それ見ろという話になりました。
 小沢さんも65歳になって、もう後がない。民主党の中でも小沢さんがいいと思っていない人が結構おりまして、小沢とは文化が違うというようなことで、なかなか民主党も一枚岩ではない。だからどうしても過半数を取って、権力で何とかそれを維持しなくちゃあいけないというような話になっていまして、小沢さんももし過半数を取らなかったら失脚するだろうというふうに思いますし、仮にダブル選挙をやったり、1年後に選挙をやって民主党を中心とする野党が過半数を取っても小沢さんは代表にはならないと思います。菅さんを代表にするつもりで代表代行に置いている。
 とにかく自民党を破るということで、自民党の元幹事長ですから、その自民党を壊すことが目的で命がけで最後の賭けをされているのが、今の小沢さんじゃないかと。
 ですから小沢さんはダブル選挙をやるために参議院で過半数を取ったら法案は全部否決するという話をしたんです。そうなれば自民党が焦って、安倍ちゃんが衆議院も解散してダブルにしてくれれば、今年の7月に決着がつくんだと。そして自分は心おきなくやめていけるんだというようなことを考えられていたんですが、去年ごろは、まだ自民党は余裕があって、「いや、有馬さんねえ。ダブル選挙を小沢がやりたいというなら、こちらも乗ってもいいよ」と。贅肉をそぎ落として元の自民党に戻った方が、自民党としてもやりやすいから、ダブル選挙で小泉チルドレンが50人ぐらい落ちても自民党は衆議院で単独でも過半数を持てるからというような話も出ていたんですが、今、私が自民党の人に「ダブルどうします。参議院を守るためにやるしかないでしょう」といったら、「有馬さん、いまやったら衆議院も負けるよ」ってビビッています。


どこに行ったらいいのか分からない日本

 ちょっとだけ経済の話もさせてください。
 今年で戦後50年から12年になりました。戦後62年ですが、焼け野原の日本から行け行けどんどんで、皆さんや皆さんの親御さんたちが一生懸命やって、もう栄養失調というものがない世の中になった。そして、言葉は悪いんですが、浮浪者でも糖尿病になるような時代になった。日本は欧米に追いつけ、追い越せということでやってきたんですが、追いついた結果、どこに行ったらいいのか分からない。それがどうも戦後50年からこの12年間、そういう状況が続いているのかなと思います。
 戦後50年、12年ほど前ですが細川内閣が出来て、北海道拓殖銀行がつぶれ、山一證券がつぶれ、そしていまや皆さん方が株式の欄を見るとほとんどカタカナの文字の企業になっており、銀行だって都市銀行だけで21行あったのに、今は3つになった。そしてその前は何の銀行だったか分からない状態です。皆さんがテレビをご覧になって、生命保険会社で出てくるのはみんな外資の生命保険ばかりです。景気はいいです。皆さんがテレビを見るとコマーシャルの長いこと。これでもかこれでもかとコマーシャルが流れる。そのほとんどはカタカナだったり、外資だったりするような状況になりました。
 それは日本がこの国だけではもうもたないということで、金融ビッグバンを入れてきました。戦後50年、行け行けどんどんでやってきた日本が飽和状態になった。人口も増えちゃったしというような話から、今度は人口は減りますと。お金は国にはありません。人件費は中国が3分の1だから製造業は全部、中国に持っていかれますという話になって、じゃあどうすればいいのか。実はよく分からない時代になっている。そこに国と自治体合わせて800兆円の借金がある。赤ちゃんがオギャアと生まれると、生まれた瞬間に700万円ぐらいの借金を背負っているというふうにいわれ、そして年金もこの有様でして、この国を一体どうするんだろうかというふうになって参りました。
 公共事業一つとってみても、今、アメリカはダムを壊すのが公共事業です。そしてコンクリートをはがして、そこに木を植えるのが公共事業というふうにアメリカでも気づき始めた。温暖化もそうだし、そのダムがあるから玉砂利が出来ない。建築用の砂が出来ないというような話になる。自然が何よりもよかったのに、無理やり自然を金で壊してダムを作り、今度は公共事業でダムを壊して自然に戻すというような話になる。
 三洋電機やブルドックソースが今、投資ファンドにやられていますが、そのハゲタカが丸裸にするから郵政を民営化してはいけないというのが、平沼さんや野田聖子さんたちの意見だったんです。国民の皆さんはもう改革しないといけないというんですが、やはり社会保険庁も介護事業も民営化するということは金儲けするということです。国がやるということは利益を出さないで掛かるお金を国民の皆さんから預かって使うことです。そこに無駄があったことは確かですが、民営化にしてしまったら利益を上げるんです。
 国民から高いといわれるとめんどくさいから、じゃあ民営化という話になってきてしまった。この国、それでいいのですか。教育だって塾の先生まで送り込もうという話になっている。


勇気とアイデアが勝負の時代に

 この国は一体なんだろうかと私は、今、憤慨しておりまして、皆さん方にも、是非こういう勉強会をやられたり、新聞を読んだりして、興味を持っていかないと、お百姓さんが一生懸命、毎日汗水たらしていれば、飯が食えた、年金がついたという時代ではなくて、畑を一生懸命耕して、腰が曲がった。ああもう働けないと思った時には、年金も保険もない。しかもその時にオレオレ詐欺みたいなのに引っかかる。真面目な人ほど引っかかるような、この国は一体どうなっているんだろう。法律もいっぱいできる。そして民営化されて外資もどんどん入ってくる。日本の株価が悪いから外資をどんどん入れたと。そんなことでこの国が変わっていっている。
 私は今、日本は潮目の時期に来ていると思います。その潮目の時期に皆さん方も、考え方を少し変えていかなかったら、昔は良かったといってもついていけないような状況です。ドッグイヤーといわれるように犬は人間より7倍早く歳を取る。1年が7年みたいなものだといわれますが、今、人間社会も同じように7年が1年で進んでいるような猛スピードで来ている。そういう中に皆さん方もついていかなければいけないだろうと私は思っています。
 カネボウだって紡績会社がいつの間にか化粧品会社になっているということで、大手企業だって業態変更で皆さん方に合わせた仕事やっているのが今の日本です。すごく変質してきたと思います。その変質した潮目のところに皆さん方が指をくわえて見ているだけか、それとも網を投げる勇気があるのか。その網は小さな小魚まで獲るためにちっちゃい網を一生懸命編むのか、大きな網で大きい魚だけでいいと思うか―という勇気とアイデアが勝負の時代になってきたんだろうと思います。



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