サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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基調講演 平成19年10月9日

「魅力ある着地型旅行の充実を!」
高橋始氏 (株)JTB東日本国内商品事業部地域統括部長

略歴

高橋 始氏 (株)JTB東日本国内商品事業部地域統括部長
高橋 始(たかはし・はじめ)

1968年4月(株)日本交通公社(現JTB)入社。同6月八王子支店配属。1978年平塚支店勤務。1987年小田原支店勤務、営業課長。1992年熱海仕入販売センター所長。1996年新百合丘支店長。1997年厚木支店長。2001年2月熱海仕入販売センター所長。同4月中部国内仕入販売部地域担当部長。2004年4月中部国内商品事業部地域販売部長。同10月東日本国内商品事業部地域統括部長、現在に至る。57歳。


 私どもの会社では商品事業部が全国に6ヵ所あり、私ども東日本国内商品事業部は静岡から青森県までの東日本を担当しております。私はその中でご当地の静岡県、山梨県、神奈川県のこの3県の地域統括をしております。具体的にどういう業務かと申しますと、旅館、ホテルとかバス、ロープウェイ、船舶等の運輸機関、入場施設、食事施設等の旅行の素材を仕入れまして、それを商品化してパンフレットの作成までを担当しています。
 今回、お話をいただきましたテーマは、富士箱根伊豆地域の観光関係の皆さんと連携を取りながらJTBの商品の増倍による地域活性化を図るという私のミッションと全く重なるわけです。そういう意味では一旅行会社ですが、これから私がお話しすることが少しでも地域の活性化につながればと思います。


東伊豆地域は関東からが8、9割

 まず、簡単にマーケットの分析をしてみたいと思います。2004年度のJTBへの申し込みをグループ会社のツーリングマーケッティング研究所がまとめた宿泊白書からの抜粋です。
 都道府県別宿泊人数ですが、2004年度につきましてはJTB全体で2487万8千人泊を取り扱っており、全体で4%、約100万人泊減少しています。振り返ってみますと2001年9月に同時多発テロがあり、2001年9月以降と2002年もかなり国内旅行に振り替えがありました。2003年には東アジアにサーズが発生しまして、また国内旅行が増加したわけです。そういう影響を受け2004年度については海外旅行も戻り、国内は全国で約100万人泊、静岡全体で0.9%の減少となりました。
 静岡県内の観光地の宿泊人員の推移ですが、2004年は浜名湖花博があり、舘山寺温泉がJTBの扱いだけで2万8千人泊の増で前年比136%でした。この一方、修善寺、堂ヶ島以外はほとんどが前年割れをしている。県全体では0.9%の減少ですんだわけですが、県内でもお客様の流れが大きくシフトしています。
 次に県内の主要観光地にどの地域からお客様の入り込みがあったかですが、熱海・網代から下田・下賀茂の東伊豆地域は関東からが84%から90%、修善寺、堂ヶ島の中・西伊豆につきましては70%から77%で、若干地元の利用も含めて東海圏のお客様が多いということです。
 こういうふうに地域を絞り込んで具体的なお客様の流れ、あるいは営業のマーケット、この辺がはっきり見えてくるということです。


ショッキングな20代後半女性層の出国前年割れ

 次に旅行業界における今後の消費動向を考えてみたいと思います。自動車産業とか家電製品業界は世界においてマーケットを拡大し成果を収めてまいりました。日本の旅行産業は、その基軸を国内のマーケットにおいて進行してまいりました。
 日本の旅行産業は飽和状態でして、これ以上の伸びはあまり期待できないと思っております。やはり少子高齢化の問題、生活環境の大きな変化等々もあります。海外旅行に一番意欲的な年代が20代後半の女性層なんですが、今年初めてこの20代後半の女性層の海外旅行の出国者数が前年割れをしているというショッキングなニュースが報道されました。
 海外旅行の場合はジェット燃料の高騰により旅行代金以外に燃油サーチャージという特別料金がかかります。東南アジアでも6千円から7千円ぐらい、高い地域ですと1万円を超えるわけです。いま、3万9千8百円、4万9千8百円というかなり低廉な旅行が氾濫していますが、別途、燃油サーチャージがかかるということもありまして、一番意欲的な年代の女性層の旅行意欲がやや低下しているんじゃないか。これが国内旅行に影響しなければいいなと考えています。


のんびり、ゆったりがキーワードの団塊の世代

 次にプラス要素についてお話ししたいと思います。一番目は団塊の世代です。私どももこの世代向けのグレードの高い商品を販売しております。2007年から団塊の世代の大量退職が始まります。700万人とも言われている大変魅力的な市場ですが、旅行業界だけでなくて、すべての産業がこのマーケットを狙っています。恐らく定年を迎えて金融商品とか住宅のリフォームとかにこだわり、やや趣味的なもの、高級車とかゴルフ会員券とか、そういうものがわれわれ旅行業界にとっては非常に手ごわい相手だと認識しています。
 一方で、この団塊の世代に退職後一番やってみたいことの調査結果を見ますと、一番が退職記念旅行です。したがってこの市場獲得競争がまさにスタートしたわけです。
 弊社で全国の団塊の世代1万人の調査を行いました。そのうち有効回答者数が3400人、そのうち定年のある方が2400人おり、定年のある方ですでに退職記念旅行を済ませた方、現在計画中の方、具体的には決定していないけれど将来旅行したいという方が2400人のうち半数以上を占めております。あるいはまだ予定がない、分からないというのがそのうちの半分と。こうしてみますと非常にわれわれにとっては魅力的な市場であると言えると思います。
 旅行費用は31万円から50万円が一番多く、それから21万円から30万円。これはご夫婦お二人の旅行代金ですが、21万円から50万円の幅が全体の半数以上を占めている。通常の旅行代金に比べますと、かなり高い旅行代金です。記念の旅行ですからここはちょっぴりぜいたくに計画するということだろうと思います。
 旅行のスタイルは、のんびり、ゆったりがキーワードです。現在のシニア層の主流は効率的に多くの観光地を回る旅行、あるいは低価格で募集型のバス旅行が主流です。団塊の世代においては、キーワードはやはりのんびり、ゆったり。それと費用はややぜいたくに、自分で体験し自由気ままに旅行してみたいと。こういうところがキーワードだろうと思います。
 われわれもそういうアンケート結果をもとにお客様の志向にマッチすべく旅行商品を開発しておりますし、伊豆の皆様はその受け地として受け入れ態勢が今後必要かなと思っています。


新たな需要喚起につながる富士山静岡空港の開港

 静岡県内においてのプラス要素は2009年3月の富士山静岡空港の開港です。静岡への入り込みが関東から75%を超えて、北海道、九州からの入り込みは1%強しかないんです。これはなぜかといいますと航空路線がないために旅行会社としては商品づくりができないという一点に尽きると思います。
 資料を見ますと、北海道から首都圏への入り込みが5.1%、九州、沖縄から首都圏への入り込みも5%あります。これはディズニーシーとかディズニーランドというテーマパークプラス都市観光が主力です。やはり地域の魅力があって、航空路線が開設されれば、そこに新たな旅行商品もつくれますし、新たな需要喚起にもつながると確信しております。
 地方空港の活性化の成功事例ですが、一つは東北の仙台空港です。東北新幹線が開業して久しいわけですが、仙台空港から地方路線のいわゆる搭乗率がかなり低く、海外の路線も仙台―香港間の定期路線がありましたが、2003年のサーズ発生以降、搭乗率が急激に低下したわけです。自治体としましても国のビジットジャパンキャンペーンに連動して何とか香港線を復活したいと。こういうことを受けまして実は数年前からJTBの東北の各支店で仙台―香港間のチャーター便を計画しました。
 通常のチャーター便ですと、往路にお客さんを乗せて香港から一旦回送しなくてはいけないんです。この回送区間には当然お客様は乗りません。最近はツーウェイチャーターといいまして、相互にお客様を乗せる。今回の場合ですと仙台空港から東北区全域のお客様を募集して往路に日本のお客様に乗っていただく。本来、回送区間であります復路に、今度は香港の旅行会社に募集をお願いして香港のお客様に乗っていただく。こんなことで昨年12月から今年3月まで21本のチャーター便を運航しました。結果、搭乗率が92.1%ということで、非常に自治体にも評価をいただきました。まもなくこの香港線に定期路線が再開できるというニュースも聞いております。
 地方路線の増加があれば、旅行会社としては新しい商品づくりと販売が出来ます。当然、その地域の活性化にも貢献できるわけです。


伸びる中国からの旅行者。個人ビザ解禁に向けて受け地としての条件整備も急務

 三点目はインバウンド(訪日外国人旅行)の増加ということです。政府が2010年にインバウンド1000万人を目指し、今年6月に観光立国推進基本計画が閣議決定されました。恐らく2008年10月にはこれが基本法として施行されます。その暁には観光庁が創設されます。国を挙げて法律を制定して観光立国日本を世界にアピールする。こういうことですので、私ども業界としましても、これは大きなビジネスのチャンスだととらえています。
 インバウンドの入り込み状況はどうかといいますと、国際観光推進機構の統計ですと、1月から7月までの7ヵ月間のインバウンドの入り込みが約470万人でした。これは前年比で12.6%増え、1000万人達成に向けて非常に順調に推移をしていると言えるかと思います。その中でも欧米はもちろんですが東アジアからのインバウンドがかなり好調です。
 ここ1、2年で一番伸びているのが中国です。中国の1月−7月のインバウンドが約47万人。恐らく今年1年間で中国からのインバウンドが80万人ぐらいに達するのではないかとみられています。
 韓国とか台湾、香港の場合は、以前からインバウンドがありましたので、それほど急激に伸びる要素は考えられませんが、中国は間違いなく伸びるマーケットだと考えています。今は中国人のアウトバウンドは、団体の観光ビザしか発給されておりません。個人の観光は実は許可されてないわけです。にもかかわらずほぼ韓国、台湾、香港並みのインバウンドが入っていますので、近い将来の個人ビザ解禁に向けて、やはり受け地としての条件整備も急務だと考えています。


中国の海外旅行者は日本の倍

 JTBグループとしては、グローバル戦略の一環として韓国と台湾に集中的に事業推進をしています。韓国はロッテグループと提携してソウルにロッテJTBを設立しました。従来は日本のアウトバウンドを現地で手配する業務しかしていなかったわけですが、今は韓国のロッテグループのいわゆる会員のお客さまを韓国から送り出す日本へのアウトバウンド、日本から見ればインバウンドになるわけですが、これを推進し始めたところです。
 中国につきまして、中国に11社グループ会社がありまして、JTBチャイナという11社を統括する機能の会社を立ち上げました。2008年、来年にはオリンピックが開催され、その後上海で万博も開催されます。そういうことを考えますと海外マーケットの中で一番期待できる市場がやはり中国、これはアウトバウンドでもインバウンドでも中国が非常に期待できるということで今推進しているところです。
 日本人の海外旅行者が今、年間1750万人程度です。中国の海外旅行者は2006年度の実績でおおよそ3300万人です。日本人が海外へ出るよりも中国の方が海外に出る方が、もう倍近く増えているわけです。人口12億、13億人の世界ですから、まだまだ少ないといえばそれまでですが、非常に海外旅行が伸びている。2010年にはこれが4750万人と予測されています。改めて巨大なマーケットと認識しております。


大連における第一の静岡のイメージは富士山の眺望

 JTBの中部圏誘致協議会という組織があります。JTBと契約のある旅館、ホテル、あるいは運輸機関、食事施設、入場施設の組織ですが、この大きな目的は中部8県に国内外を問わず誘致誘客をする事業、これが大きな目的です。先般、日中国交正常化35周年の記念事業として160人で団を結成して、私も実は同行させていただき、大連を訪問してきました。
 現地で海外旅行を扱っている大手7社のトップのマネージャークラス17人に出席いただいて観光討論会を行いました。その中で何点か指摘されました。ご報告しますと、中部8県の中で静岡のイメージといいますのはやはり富士山の眺望、これが第一の静岡のイメージであるということです。旅行を企画する旅行会社の静岡に対する認識は非常に高いものがあります。
 ただ現実は4泊とか5泊とか、かなりハードなスケジュールを組んでいますので、なかなか静岡県内への宿泊が行程上難しくて、富士山を眺望しながら通過をするコースが実は多いんです。箱根なり河口湖に抜けるコース、あるいはその逆コースということで、スポット的には熱海あたりにもかなりインバウンドが入っておりますが、大連の団体については静岡県内の宿泊はまだまだ少ないということです。
 お客さまの視点でいうと山梨県とか神奈川県と伊豆とか静岡県とか、そういう見方は全くしておりません。これは環富士山の一つの地域である、あるいは富士山を囲む一大観光地であるという認識です。
 それと通訳、標識、旅館における中国語の案内、そういうハード、ソフトの部分がまだまだ不十分であるという指摘もありました。いずれにしましてももう中国の個人観光の自由化も目の前に迫っています。そういう意味で中国のみならず、インバウンドの条件整備については大至急取り組む必要があると思っています。


地元で着地型旅行の商品化を

 次に地域の課題について考えてみたいと思います。伊豆については、やはり首都圏からの交通のアクセスが非常に至近距離ということで、リピーターの多い地域です。お客様の目的として伊豆のどこどこの旅館に泊まることを目的とするお客さんが非常に多いということです。伊豆は観光資源が非常に豊富だと言われております。しかしながら購買意欲の動機付けとなるような新しい観光素材の発掘、あるいはその商品化、これが今は必要かなと考えております。
 話はちょっとそれますが、今年、実は上期、4月−9月にJTBで全国の企画旅行商品、私どものブランドはエースといいますが、そのキャンペーンを実施しました。先月をもって終了したわけですが、キャンペーンの目的はいろいろな受け入れの条件を整備して、他の地域との差別化を図って全国からの宿泊客を増やす目的で実施をしてきました。昨年の夏ごろ、この企画について真剣な議論を行って、30幾つかの施策を富士、箱根、伊豆で展開したわけです。
 伊豆の一つの成功事例を挙げますと、伊東温泉の取り組みがあります。4月、5月、6月の花の時期に大室山、城ヶ崎などツバキから始まってサクラなどといろいろな花の人気スポットの周遊を企画しました。足の便がよくないということもあり、実行委員会の中で花の見所をコンパクトに周遊できるような商品の開発は出来ないかと何回か議論をした結果、リンガーベルという観光用のバスを4月から6月まで毎週土曜、日曜日に貸切にして伊東温泉発着でボランティアガイドに見所をご案内していただきながら、何とお花見弁当とお茶をつけました。販売価格は500円です。お弁当だけでも実は7百数十円するわけですが、全国キャンペーンということで私どもの原資をかなり投じて、いかに伊東温泉にお泊まりいただけるかということで、お客様に対する特典として設定したわけですが、ほぼ完売しました。
 これは成功例ですが、キャンペーン原資があったので500円で設定できたわけです。これを一旅行会社で設定しますと大きなリスクがあります。今後の取り組みとしましては、今、旅行業登録第3種があれば、この地域の新しい素材を発掘して商品化が出来るわけです。これがいわゆる着地型旅行なんですが、地元でそういう商品を開発して商品化することによって、各旅行会社がこの地元で造成した商品を販売すると、お互いにリスクが軽減できるわけです。この辺は是非、インターネットなり紙媒体での情報の発信にとどまらず、具体的な商品を作り、旅行会社なり、あるいはインターネットで販売すると。こんなふうに取り組んでいただければありがたいと思います。


静岡空港開港は東アジアの新しいマーケット開拓のビッグチャンス

 最後になりましたが、連携する組織なり団体の必要性ですが、先ほど国内旅行マーケットがやや縮小する方向だと申し上げました。受け地として、マーケットを拡大するには、新しい需要の創出が必要です。富士山静岡空港の開港については、九州、北海道のみならず東アジアの新しいマーケットを開拓するビッグチャンスだと思っております。
 他から見ますとこの3県、富士、箱根、伊豆は一つの地域であります。従いまして当然、伊豆、神奈川、山梨の、今ほとんど行政単位で動いているわけですが、横断的、広域的な観光戦略を策定し、実行するような団体が必要かなと私は思っています。
 旅行会社も大変厳しい時代を乗り越えて、生き抜いていくためには新しいマーケットの開拓が不可欠です。韓国、あるいは中国の事業推進にしましてもグローバル戦略につきましても、そういうことなんです。新しいマーケットの開拓に向けて、われわれ旅行業界も皆さんと連携をしながら一緒に推進してまいりたいと考えておりますので、今後ともよろしくお願いしたいと思います。







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